目覚め
パクチ村、木組みの平屋の一軒家の一室。
ガラス張りの出窓。出窓には植木鉢が設置されていて、紫色の花を咲かせている。
家具は小物入れに衣装タンス、ベットと必要最低限なもののみであり、どこか殺風景な印象を受ける。
そんな部屋の中、一人の少女が目覚めた。
見慣れない天井に、柔らかな感触を全身で受けているのを感じる。
そして、自分が今ベッドの上に仰向けになっていることを理解した。
右手には出窓があり、そこには植木鉢があり紫色の花を咲かせている。
少女は現状を理解しようと体を起こそうとするも全身に力が入らず身体を捻ることすらままならない。
起き上がろうと悪戦苦闘していると不意に扉が軋む音を立てながら開け放たれる。
そして、咄嗟に振り返った少女は彼女の部屋に入ってきた人物、ジンジャーと目が合ってしまう。
少女の中に驚きと気まずさが走る。しかし、そんな少女とは裏腹にジンジャーは喜びと安堵の表情を浮かべて扉から少女のもとへと駆け寄る。
「良かった! 目が覚めたんだな!!」
突然、現れた彼女に対して少女は状況が呑み込めずたじたじになってしまう。
「ええっと……私……」
しかし、このまま寝たままでは失礼と感じ、少女は上半身を起こそうとするものの、やはり体中から力が抜けきり悶えてしまう。
「体、起こせるか?」
そう言って、ジンジャーは「ちょっと失礼するぜ」というと彼女の背中に手を回して
「病み上がりなんだから無理すんなよ」
「ええっと、あなたは?」
「あたしか? あたしはジンジャー、この村の住人さ」
「ジンジャーさんですか……ありがとうございます……。あの、ところで、すみません、ここは一体どこなのでしょう……。私は……」
表情に少し陰りを見せる彼女に対してジンジャーはいつもの調子で答える。
「ああ。ここはパクチ村だ。ザガ島の東端に位置してる村って言えばなんとなくわかるか?」
「ザガ島……」
少女の困惑した表情を見てジンジャーは少し悪びれた様子を見せる。
「ああ、わりぃ、ザガ島なんて無名すぎて知らないのも無理ないよな……。あんたは浜辺に倒れてたんだ。何があったか覚えてるか?」
「すみません……」
「そうだよな……混乱しちまうのもわかる」
「……」
まだ、思考の整理がついていないのか、少女は押し黙ってしまう。
「そうそう、ベッドの寝心地悪くなかったか?」
沈黙の中、ジンジャーが話を切り出す。
「は、はい……」
「よかったはぁ。急いで準備したから心配だったんだ」
「そうだったのですね……私からはなんと感謝すればよいのか……」
戸惑う彼女に対して、ジンジャーは無邪気に笑みを浮かべながら答える。
「それに目を覚ましたばっかなんだから無理すんなって。しばらくここは使ってていいぜ」
「いえ! ずっとこうして寝たきりというわけにもまいりません!」
そう言うと少女は足を床へと下ろしてベッドから立ち上がろうとする。
「立つんなら手伝うぜ」
「いえ、大丈夫で……きゃぁ!!」
そう言って立ち上がった瞬間に、彼女はよろめき派手にこけてしまう。
「あちゃぁ……。こりゃ、リハビリが必要そうだな……」
ジンジャーは苦笑気味に少女を肩に組み抱えると、そのまま二人は部屋を後にするのだった。