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嵐の海
嵐に見舞われた夜の海。
雷鳴が鳴り響く海を征く巨大な木造船は、その船体に激しい豪雨を受ける。
船上の老若男女の誰もが肩を寄せ合い、震えてこの嵐が去るのを待ち望んでいた。
しかし、そんな願いとは裏腹に風は無情にその強さを増していき、操作を失った船はいつ沈没してもおかしくない状況だ。近くに陸地など一切見えない。船が傾けば最後、乗員の命が助かる可能性は皆無と言っていいだろう。
そんな絶体絶命のさなか、海中へと一人の少女が引きずり込まれた。
蜘蛛の糸のように繊細な白髪が、海水に溶け込むかのように広がっていく。青いドレスを身にまとい、陶器のように透き通った素肌に蒼い目をした彼女はその状況を飲み込むことなく色のない表情のまま、海面を見つめるように沈んでいく。
誰に気づかれる間もなく、声を上げる暇さえなかった。この嵐の中、助けなんて期待できない。
少女は一人、暗く静かな海の底へと誘いこまれるのだった。