エレベーター、エスカレーター?
今回は子供の言葉。
宇宙人の言葉かと悩んだよ。
※専門的な話ではありません。うちの子供のケースです。
皆様、こんにちは。
作者はとても元気です。
時々、貧血だったり、風邪引いたり、偏頭痛に悩まされたりしながらも、イラスト書いたり、小説書いたりと基本元気です。
しかし、真の元気印はうちの息子。
現在、小学一年生。
外が楽しすぎるのか、色白だった子が五月あたりから日焼けをし始め、今ではかなりのガングロになっている。ガングロって現代の子は分かるかね?
そんな息子、赤ちゃんの頃からほとんど病気もせずに元気に育ったが、言葉を話すのはかなり遅かった。
今回は息子の発語のことについて、思い出せるところを書こう。
子育てしている方なら分かると思うが、子供というのはだいたい一歳半くらいには何かしら言う。だいたいは『ママ』とか『わんわん』とか、母音がアのものが多い。
最初は『ママ』『わんわん』などの一単語。
次が『わんわん、きた!』など、行動のある言葉がつく。
そして、『ママ、ごはん、ちょうだい』などの文章になっていく。
三才くらいになると、だいぶおしゃべりをしているのが、一般的なのだが…………
「えべれーた」
……………………エレベーターだろうか?
これが、息子が三才二ヶ月ぐらいに初めて話した単語であった。
ここからすぐに『えべれーた』は『エレベーター』に直るのだが、ここからが彼の真骨頂である。
「エレベーター! エレベーター!」
「……息子さん、ごはん食べようか?」
「エレベーター!」
「息子さん、ゼリーさん食べる?」
「エレベーター!」
「……………………」
何故、エレベーターなのだろう?
確かに買い物とかに行った時に、エレベーターの方を見てベビーカーからぎゃあぎゃあと騒いで、乗りたがるような素振りを見せるのでエレベーターで移動するのは好きなのだろう。
ただし、見掛けた時に一度乗れば満足するようなので、何度も往復しろと泣かれたことはない。だから、まさか第一声にこれが来るとは思わなんだ。
それから一ヶ月すると、息子は第二の単語を覚えた。
「エスカレーター」
あああああああっ!!!!
ちくしょうぅぅぅっ!!!!
同類……同類の言葉じゃないのか、これぇぇぇ!?
「エレベーター、エスカレーター」
「…………うん」
「エレベーター、エスカレーター」
「…………うん」
「エレベーター、エレベーター!」
「……あ、エレベーターの方が好きなのね」
ほのかに、エレベーターの方が言う回数が多い。
「エレベーター! エスカレーター!」
息子さんはこの言葉を言い続ける。
そして、よくよく聞くと…………
「エレベーター(↗) エスカレーター(↘)」
……イントネーションが違うのかな?
「息子さん?」
「エレベーター(↗)」
「おかし食べようか?」
「エレベーター!(↘)」
(↗):なぁに?
(↘):いいよ!
…………なのかな?
何語? ねぇ息子さん、これ何語なの!?
何か受け答えが『エレベーター』で完成されてないかい!?
意思の疎通が『エレベーター』なのか!?
不安が過る中、さらに旦那が『ある動画』を見つけた。
「せひろさんよ。これ、息子さんのマイブームの動画」
「ほう? どれどれ……」
それは、投稿者の手元が映っている。
投稿者がエレベーターのボタンを押す。
↓
エレベーター到着。乗る。
↓
移動。階数の表示が動く。
↓
目的の階数に到着。
↓
外へ降りる。
………………。
「………………で?」
「以上。これは、とある地下鉄のエレベーター」
他にも、デパート、アミューズメント、オフィスビル……等々あるみたいなのだが、全てエレベーターの『乗る→移動→降りる』で構成された動画である。
「これは……誰得?」
「いや、得はありそうだよ。ほら……」
見ると、その辺の下手なユーチューバーよりも再生回数が多い。つまり、けっこういろんな人が視聴しているのだ。
世の中というのは“需要”があって“供給”がある。
「ファンは多そうだ……」
「うん。息子さんは確実にファンだよね」
「エレベーター! エレベーター!」
旦那の動画に食らいつく息子。
子供番組にはウンともスンとも言わなかったのに、エレベーター動画には大興奮。
これはヘビーローテーションもありだ。
「うちの小説にも、これだけコアなファンが付かないかなぁ……」
思わず本音が出た夏の日。
息子は半年ほど『エレベーター語』を繰り返した。
そして、息子が三才半を過ぎた頃。
ある日の夜更け。
「ねぇ、旦那さんよ……」
「何?」
「息子さん……このまま、エレベーターとエスカレーターしか言わない人間になったらどうするよ? 来年、幼稚園の年中なのに……」
「いや、それはないだろ?」
当時、自分は本気で悩み始めていた。
この時すでに、息子は『発達障害』の判定を受けていたからだ。
このまま『エレベーター語』を続けたら……
考え込んだその時、となりの部屋で寝ていた息子が
起きて泣き始めたのだ。
「あ、俺行ってくる」
「お願いします」
先ずは第一の刺客。
旦那が息子を泣き止ませに行く。
しかし、息子は泣き止まず。
フッ……やれやれ、この私の出番のようだな。
黒幕感を出しつつ、立ち上がった瞬間だった。
「おかあさん、いっしょ、ねて~~~っ!!」
「っっっっっ!!!!!?」
いきなりの『三単語』である。
次の日から、息子は普通にしゃべり始めた。
結論。
――――物事には必ず終わりがくる。
これが『エレベーター語』の終焉であった。
後日。園にて。
他のママ談。
「うちもエレベーター好きで、一階から屋上までの往復の動画とか!」
「あ、うちもうちも。動画も大好きで二時間くらい繰り返し観てた!」
コアなファンは多い。