カメコ、アイドルより策士(後編)
カメコの後編。
なんか長くなりました。これも歴史か。
ここで、カメコの今までを振り返るとしよう。
VS『ウサギ』時代。
ウサギと亀……なんて言われて、友達がよくウサギを見に来ていた時期。
この頃、カメコはあまり動かなかった。飼い始めて何年も経つのに、大きさもあまり変わらないので父親が疑問を持ち始めた。
どうやら原因はエサ。メジャーなメーカーの亀のエサだったが、あまり栄養価が無いということを、父親の亀仲間(←いるのかい!)から情報があったという。
エサを変えたところ、食い付きが良くなった。
VS『セキセイインコ』時代。
ウサギと重複することもあり、ますます影が薄くなりつつあった。しかし、エサを変えてから数年、甲羅の艶が良くなってきた。(大きさはあまり変わらない)
動きもだんだん活発に。(ただし、春~初秋まで)
この頃は娘は、受験やらなんやらでピリピリしているので、父親はカメコに愚痴るようになった。
ウサギが退場してから、インコもそんなに長くなく、ここからカメコ一匹だけの【アイドル】時代が到来。
そう、ここから『猫』の襲来までにかなりの時間がある。
エサを変えたことで体力を付けたカメコは、ついに“自己アピール”を始めたのだ。
まず、カメコが取った行動は『見つめる』であった。
エサをよく食べるようになったことにより、体の機能が向上しさらにエサを求める。
―――“エサをくれ!!”
水の中で水槽の壁に顔を押し付け、じぃっと家族を見てくる。
意外にこの方法は効果的で、家族の誰かがその視線に気付いてエサを与えるのだ。
「こっち見てたから、カメコにエサあげたよ」
「あれ? お父さんも昼間にあげたぞ?」
多い時には家族みんながあげて、かなりの量を食べるようになったカメコ。
しかも、今まではあげてもいつ食べたか分からないくらいに、人の目の前では食べなかった子が、自分のあげたエサに即食い付く姿はとても可愛い。
なぜ、こんなにも目の前で食べたことが人気になったかというと、カメコは動物にはあるまじき行動……“エサを食うのが絶望的に下手くそ”だったためだ。
基本、エサはドライフードで水に浮かべておくのだが、カメコは浮いているエサに食い付こうとすると、波を立ててしまってエサが逃げていってしまう。
何度も逃がしているうちに、ドライフードはふやけて沈んでしまっていく。
前に食べていたエサはそこまで形が崩れなかったが、今食べさせているものはすぐに沈む。
カメコには迅速に食べてもらうため、水槽の壁際に浮かべておくことになった。それでも、なかなか上手く食い付けない時があるのだ。
……なんて下手な食べ方か。くっそ可愛い。どじっ子萌え!!
“この子は自然界では生きていけない!”
そう思った家族はより、カメコに気を配るようになった。
カメコに家族全員が、庇護欲をかきたてられた瞬間である。
「今までエサに栄養なかったんだなぁ……」
父親はカメコの栄養状態をさらに整えようと、いつもの亀仲間(←結局謎の人物)に、亀に必要なエサを聞いた。
“もう少し、動物性のエサを”
ということだったので、父親は亀用の『乾燥小エビ』を買ってきて、水槽の中に入れておいた。
しかし…………
「…………全然食べない」
それどころか、水にも入らなくなり、水面をじっと見つめるカメコ。
どうやら、浮かんでいるエビが怖いらしく、食べ物の認識が無かったようだ。
「他に動物性のエサは……」
父親はふと、自分の夕飯のおかずに目が止まる。
今晩は『カツオの刺身』。
カメコの口に合わせて小さく切り、刺身は浮かばないので、そっと岩の上に乗せておく。すると……
「あ!! 食べた! 食べたぞ!!」
ものすごい食い付きで、あっという間に刺身を食べ終わるカメコに父親は大歓喜。
こうなれば、父親の晩酌の相手はカメコである。
ちょうど社会人になり反抗的な娘よりも、じっと見てくる大人しい亀の方が、父親にとっては心休まる存在だ。
カツオ、マグロ、サーモン、ホタテ……と色々試した結果、最初に食べたカツオが一番好きらしい。
夕飯が刺身の時は、カメコにも少しお裾分けをするのが習慣になった。
よく考えてみれば、池や沼に住むはずのカメコが海の魚を食べている。ますます自然では暮らせない、都会っ子のできあがりだ。
そして、この頃になると、人の姿を水槽の中から追い掛けたり、頭や手を触っても引っ込めず「もっと撫でれ」と首を伸ばしてくる姿に、家族のみならず遊びにきた友人もハートを鷲掴みにされた。
そして、ついに『猫』がやってくる。
最初に知人から譲られて飼った猫は、カメコにはあまり興味がなく、病弱だったため半年ほどで虹の橋を渡ってしまう。
その半年後、家にやってきたアメリカンショートヘアの子猫は、自分とそんなに大きさの変わらないカメコに興味津々。
いつも水槽を覗き見、甲羅を猫パンチする様子に、父親と自分は大いに萌えまくったが、母親は冷静であり“いつかカメコが獲られる”と感じて水槽の上に金網で蓋をした。
しかしこれはカメコにとっては、かなりのストレスになったらしく、ここから二年ほどは自分の腕に噛み付くという、自傷行為が見られる可哀想な期間になった。
そして、東日本大震災を乗り越え、自分も結婚して家を出た翌年の夏。
実家の両親が数日、父親の農家の手伝いで家を空けることになったので、動物病院に預けられないカメコを家で預かることになった。(過去に車に乗せたら車酔い?をしたらしい)
初めて我が家に来たカメコに、何故か旦那さんの方が緊張する。
初日は自分が水槽を洗ったのだが、朝ごはんを用意する時に洗った方が良いということで旦那さんにお願いすることに。
水槽の洗い方に慣れるまではしばらく掛かったが、旦那さんはだんだん上手くなっていき、カメコが刺身を食べているところを楽しそうに見ているようになった。
両親が帰って来たので、カメコを戻した時、ちょっと寂しそうな様子まで見せた旦那さん。彼はすでにカメコの虜になっていた。
そして再び、カメコを預かった時、「このまま、うちで飼わない?」と旦那さんからお願いをされた。
この頃の実家には猫が二匹いたので、カメコを引き取るのはオッケーだと母親に言われた。(父親はちょっと寂しそうだったが、猫に懐かれているのでいいじゃないか。チキショー!)
こうして、カメコは我が家の一員になったのである。
今でもカメコの水槽は旦那さんが洗っていて、カツオの刺身も大好物だ。
今日もカメコは元気だ。(夏だからね)
今日も人間を観察しているのだろう。
我々が亀の水槽を覗く時、
亀もまたこちらを覗いているのだ。