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第後日談 余文蛇足

エピローグです。

今回だけ趣向が少し違いますのでお気をつけ下さい。

それと、後書きがやばいことなってますのでお気をつけ下さい。

それでは本当の最終話、『この最悪なる世界と・余文蛇足』をどうぞ。

星が綺麗だ。

ああ、今日はこんなにもいい天気だったのか・・・。



なーーんて、現実逃避。

いや、だってさ、だっていきなり室内から夜空の真下に飛ばされたんだ、少しくらい脳が麻痺してもしょうがない。

うん、しょうがない。

だって今いる場所が場所なんだもん・・・・。

そう場所がな・・・つーかなんだよ!なんで

「森の中なんだよ・・・」

見渡しても、木、木、木。見上げれば夜空。見下げれば土と草。人工物の香り無し、人工物の明かり無し。これじゃあここが日本なのか、というか本当に元の世界の地球なのか判断出来ない。というか今が何時なのかも謎。

「浦島太郎的なオチは嫌だぞ・・・」

自然と呟いた言葉にちょっと恐怖。なまじ異世界に行ってきただけあってあり得そうで恐い。というか、この、気づいたら森の中ってパターンはヤバいんじゃないだろうか?

なんかこう、ゴールというより、スタート的な、プロローグ的な匂いがする・・・・・・。


「まあ、いいか」


一人呟く。

なんとかなるだろうと、

なるようにしかならないのが世の中だと、

あっちの世界でも、あの最悪な世界でもなんとかなったんだからと、

金色に輝く髪をたなびかせて綺麗に笑う素敵な女性を思い浮かべて、

愛すべき馬鹿を思い出して、

「それじゃあ、いっちょう」

と、

かるーく、ゆるーく、ふざけて、くだけた気持ちになって、

一歩。

また一歩。

歩き出してみた。





■■■





コツ、コツ、コツ

と、静謐な足音を奏でながら廊下を歩く。

歩き慣れたとはいえココは城の中、常に汚れや異物なないかと自然な動作で確認しながら歩く。それが私の仕事であり日課。といっても私の主はそこまで細かなことは気にしないのだけれど。

服にお茶の染みが出来ても気にしないからなーエーリカ様は。

と、物思いにふけりながら廊下を歩いていると、角から見知った姿が現れたのを見てすぐさま思考を中止し、隅に見苦しくないよう移動して頭を下げる。この動きにも随分なれたと思う今日この頃。近頃お城に勤めだした子達はまだ動きにぎこちなかったり、失礼をかけてしまったりと危なっかしい姿をよく見かけるので、その度に注意して教えてあげているのだけれど、私にもあんな頃があったと思うとちょっとだけ微笑ましくなるのはエーリカ様にも秘密だ。

と、

「あら、ミケちゃんじゃない」

目の前まで歩いてきていた先ほどの姿の人物に声を掛けられた。

しかもかなり親しげに。仕方ないから顔を上げて挨拶をする。

「はい、なんでございましょうか?」

言葉の伝わる先にいたのは、真っ赤な髪の毛をした女性の吸血鬼。この国の中でも五指に入るほど偉い公爵、ドーラ様が立っていた。普通であれば私のような身分に声をかけるべき方ではない。けれど

「あら、またいつもみたく堅いのねー。うふふふ、まあそれがミケちゃんのいいところなんでしょうけど」

何故か気にいられてしまったのだ。しかもしかも、あの人間でさえ『さん』であったというのに『ちゃん』なのだから呆れてしまう。だから私は言うのだ

「シュレディンガーでございます公爵様」

「わかってるわよシュレちゃん」

うふふふと妖艶に笑うドーラ公爵様に呆れて溜息が出そうになるのを我慢する。

まったくこの公爵様は魅惑的な大人の女性の姿をしておられながら、結構子供のように悪戯をされるのが好きで困る。もう少し品格と慎ましさを持って頂けたら結婚もできるだろうと思うが、私も命は惜しいので黙っておく。

「それにしても今日は城の中が随分と静かねぇ。まるで城内からみんないなくなったみたいだわ」

ドーラ様の言葉に、たしかに今日はいつもに比べて静かだなと思う。静かというか、緊張した空気が張り詰めている感じだ。でもそれは仕方ないだろう。なんたって今日は

「まあ、人間が来るっていうのだから仕方ないわね」

そう、人間が、人間の国の代表達がこの城に来るというのだ。

「うふふふ、歴史的日よねー。今日の会談が上手くいって再び人間達と交流が始まったら凄いことよ? それもこれも閣下の努力の賜物ね」

ドーラ様の言葉にあの日を思い出す。

ある日現れた男が閣下の付き人となり、突然人間だとわかり、そして唐突に居なくなったあの日を。

私は結局あの日、あのチェシーの、今では妹様の真実を知った後のことを知らない。食事を運んで来た時には既にあの男は消えていて、妹様の横で泣いている閣下しか知らない。そう知らないのだ。私が居ない間に何があったのか・・・。でも確かにあの日以降あの人間はいなくなり。エーリカ様は憑き物が落ちたように魔帝として働くようになられた。そのエーリカ様がおこなったことの一つに、人間達との再交流がある。

互いに長い間断絶していたのを、かつて憎しみ殺しあった存在を、エーリカ様は再び手を取り合おうと、今度は仲良く付き合おうと言って行動なされた。勿論順調にはいかず、時には無視され、時にはイザコザが起き、戦争になりかけたりもしたけれど、それでもどうにか今日までこぎ着けた。いくつかの人間達の国の代表が今日この城にやってきてエーリカ様と会談するとこまできたのだ。

でも、私にとって大事なのはそのようなことじゃなくて、

「ところで、ミケちゃんの持ってるソレはお茶なのかしら? 随分変わってるみたいだけど」

「シュレディンガーでございます。はい、エーリカ様の緊張が少しでも柔げばと特別なお茶をご用意しました」

「でも・・・ソレって凄く苦くなかったかしら?」

苦笑いをしながら押してきたワゴンを指差すドーラ様。それに私はただ笑顔をだけで答えを返す。

「・・・ふっ、うふふふ、そういうことねぇ。閣下もいい部下を持ったものだわーうふふふ」

私の意図を読み取ったのか笑い出すドーラ公爵様。と、

「おーい!ドーラぁぁ!何をしておるか、人間共の出迎え役は御主であろうがー!」

廊下の向こうから叫ぶ声が聞こえてきた。

見れば奥の方からグナイゼナウ大公様が走ってきている。

「あら、まだ来る時間ではないのにグナイゼナウのせっかちだこと」

その声に若干の呆れを浮かべながら、それではねと、ドーラ様は私の前から去っていった。

その後ろ姿に頭を下げた後、私も目的の部屋を目指して歩きだす。

時がいくら経とうが、身分がいくら違おうが、世界がいくら変わろうが、決して間違うことのない私の親友の元へと、

このお茶を飲んで苦いと叫ぶ姿を想像しながら、そして笑う姿を想像しながら、私はエーリカ様の元へと歩きだした。





■■■




「第一関門突破・・・ってやつかな・・・」

安堵の気持ちと一緒に思わず呟く。

目の前に伸びる舗装道路、アスファルト製の無機質な道を見て心から安心した。

森の中を彷徨い歩くこと多分30分。ようやく木と土草以外の風景が現れたことにより少なくとも遭難する可能性が最小値まで減ったと思う。いや、まあ、迷子なのは確かなんだけどね。

でも舗装道路ってことはある程度の文化というか、工業力がある世界なのは解った。それに道路ってことはどこか町とか人里に繋がってるはず。

「でもまあ、実は平行世界でしたとか、世界は移動せずに人間の国に飛んだだけとかもありそうだなー」

やっぱりどこか後ろ向きの自分にちょっと嫌になる。けど、常に最悪を想定しておけば大抵の事には驚かないし、上手くいった時の喜びも増えるだろうと、誰に対してでもなく言い訳して。ゆっくりと、でも森の中よりかは遥かに速いペースで、街頭も無い真っ暗な道を、標識も無い見知らぬ道を、たった一人で歩くことにした。

せめて星座の知識があれば、星空から季節とか本当に元の世界なのか解ったのにと後悔しながらね。





■■■





「きひ、きひひひひ、ま、待て、話し合おう。話せばわかっーーギャン!!」

衝撃打撃浮遊感!!

内臓が潰れる程の右拳による一撃を受けて俺は今、空を飛んでいるーーつーか、マジかよぐふぅ!!

・・


・・・・

・・・・・・・

・・・・・・・・・


「あぐぎ、ぎ、き、きひひひひ、ひひ、ひ、痛! あー痛ってぇー。こいつぁー肋骨の二・三本逝ったんじゃねーのか? あだだだ、あーーーちくしょー。ちったぁー大家の奴も手加減してくれたっていいじゃねーか。たかが着替えを覗いちまったくれーで殴るこたねーだろーがって、いててて」

痛みに耐えながら立ち上がってみりゃー道の向こう側に穴の開いた貸家つーか我が家が見えやがる。オイオイ、どんだけ吹っ飛ばされたんだよ・・・しかも壁まで壊れてやがるし。ぜってー直すの俺じゃねーか。

はぁ、俺だって千の部下を持つまで出世したっつーのによー・・・結局、大家には勝てねーのか。

「きひ、きひひひ・・・・・・・はぁ」

溜息しか出やがらねーーーって、ん?


「ふむ。何やら飛んできたと思えば情報保安隊長殿ではないか」

あん? この白髭のオッサンはたしか・・・

「あー、お見苦しいところをお見せして申し訳ございませんえーっと、カイテル伯爵様」

「よいよい。わたしは既に隠居した身だ。そう堅苦しくせずとも気にはせん」

ああ、そういやそうだっけか? 閣下の行政再編やらの時に持病の腰がどうのこうのとか言って引退したんだったか。

ん?

でもなんでこんな城下町の、しかも下町にいるんだこの白髭爺さんは?

「ふむ。ところで情報保安隊長殿。この辺でわたしの孫娘を見かけなかったであろうか? 連れてきたは良いが迷子になってしまっての」

迷子探しかよ・・・・・・なんだか、あの頃に比べて丸くなったというか、随分と好好爺になったもんだ。そんなに年は経ってないはずなんだけどなー。

「背はわたしの腰ぐらいで、白い花柄の服を着ておる。まだ魔法の練習中にて耳と尻尾を隠せておらんのだが・・・聞いておるか情報保安隊長殿?」

「え? ああ、聞いてますぜ。それに情報保安隊長なんかじゃなく、シュルツで結構です。なんだかそう呼ばれるのに慣れてねーんで」

「ふむ。肩書に違和感を覚えるようではまだまだ若いの。・・・そんなことよりだ。わたしの孫娘を見なかったであろうか?」

そんなことって、きひひ、堅物のカイテル伯爵も変わるもんだなーきひひひ。

まいっか、今日はどうせ非番だ。戻っても大家にどやされるだけだしな。

「んじゃー俺も探しますぜ。下町なら俺の庭みてーなもんだ、かくれんぼしてたって見つけてやりますぜっと」

「ふむ、すまないな。恩にきよう」

んな、堅苦しくしねーでいいのに、やっぱ根本は変わんねーんだな。

きひひひ、カイテル伯爵らしいちゃっらしいけどよ。

んじゃ、

ルフトバッフェ魔帝国独立公安部情報保安隊隊長シュバルツ・カリウス、これより状況を開始する。

なんつって!


「きひひひひ」





■■■






「それで、身分を証明出来る物は何もないんだね?」

「あ、はい」

「うーん、なら名前と住所をここに書いてちょうだい」

「はい・・・・・・っと、あの、実家の住所とかも書いた方がいいですかね?」

「そうしてくれる?下に書いてくれればいいから」

「・・・・・・はい、これでいいですか」

「どうも・・・おーい宮永君。これ、無線で照会してくれる?」

「了解です」

「ええっと、それじゃあー保護って形で一回署まで来てもらうことになるけど、いいかい?」

「はい、お願いします」

「それじゃあ後ろに乗って」

「はい、すいませんお願いしまーす」

そう言って、白黒ツートンカラーで、天井に赤色の長細い回転灯が装備されている、いわゆるパトカーに乗り込んだ。


てなわけで、警察の御厄介になってます

保護です保護。検挙や補導じゃなくてよかった。迷子になったらお巡りさんですね。

いやー、車の走る音が聞こえた時のドキドキ感といったら、パトカーに県警の文字を見た時の感動といったら、日本語で声を掛けられた時の嬉しさといったら、『あれ?こいつ幽霊じゃないよな・・・』というちょっとびびった顔といったら。

いや、まあ、改めて自分の姿を確認してればさ、左腕に包帯を巻いて、ついでに顔面の左半分も包帯で、あげくには死んだ魚のような目付きだ。そんな奴が街頭も無い夜の山道を一人歩いていたらそりゃーいくら警官だって怖いだろう。それでも職務質問してきた彼等の業務根性に感謝。

しかし、元の世界に戻ってきていきなり警察のお世話になるとは・・・なんともはあ、世の中は世知辛い。

まあ、自分らしいというか、現実ってこんなもんだろって感じかね。

それに、向こうの世界でだって、空を飛ぶことも、剣を握ることも、ドラゴンと戦うことも無かったしなー。結局、ファンタジーだろうが異世界だろうが、魔法万能だろうが科学万歳だろうが、人間だろうが魔族だろうが、社会があって、生活があって、規則がある限り、やっぱ世の中は世知辛い。

うん、世知辛い。


「歩き疲れただろう、コーヒーでも飲むかい?」

「いただきます」


いや、少しは甘さもあるみたいだ。

では、この世知甘辛い世界に乾杯。





■■■





 長   ぎ


 議ちょ  ぎちょ

シー 議長   



「チェルシー議長っ!」

「んにゃぁぁ!?」


ドシン

バダン

ガタン

ガッシャン!




「目を覚まされましたかチェルシー議長」

「・・・変ね、アインスちゃんが私を見下ろす程大きくなってるー」

「るー、ではありません。いつまでも床に寝そべっておられずに、早く起き上がって下さい。もう議会の開始まで時間がありませんよ」

「あれー、もうそんな時間?しょーがない話ねーっと、よいしょっ・・・なんだから机で寝ていたら椅子から転げ落ちたみたいに全身がいたいわねー」

「ねー、ではなくその通りです。まったく、それでもエーリカ様の妹君かつ魔帝国議会初代議長ですか」

「ですよー」

「よー・・・って、はぁ。もういいですから早く準備して下さい。議長がいないと議会が始まらないんですからね」

「はーーい。ふぅ。あれだけ可愛かったアインスちゃんがなんだか近頃アタイに対して冷たい気がするわね。ツンツンしちゃってミケみたいー。小さいからミケ二号ねー」

「誰が二号ですかっ!陰口はせめて聞こえないようにして下さいチェルシー議長」

「アインスちゃんの耳と尻尾が触りたいっ!」

「心の声はしまってて下さい変態!」

「ところでツヴァイ君はどうしたのー?」

「また話しをそらすし・・・ツヴァイならさっきから後ろに居ますよ」

「ほえ?」

「あっ、どうも」

「ぎょえあっ! あーびっくりしたなーもう。居たなら居たって言ってよ」

「「居た」」

「そ、そろって言わなくてもー」

「そんなことよりも早くして下さいチェルシー議長。本当に時間が無いんです」

「急かさないでもいいじゃないアインスちゃーん」

「これが本日の資料と予定になります」

「準備がいいわねーツヴァイ君、流石はシュルツ3号だわー」

「2号は誰ですか・・・もう冗談はいいですから行きますよ」

「ツヴァイ君も冷たいー・・・でもそんなツヴァイ君の耳と尻尾が触りたいー」

「「黙って下さい変態!!」」

「怒られた・・・・・・ところで、議長って呼ばれてるのにミーキャット族の子供を秘書にしてるアチキってどうなのかしら?」



「「どうでもいいですから行きますよチェルシー議長ー!」」


「はいはーい。はぁ、のんびりメイドをしてたころが懐かしいわーー。それもこれもあの人間の所為ねー、お姉ちゃんに議会なんてものを入れ知恵したのもあの人間みたいだし、はぁ・・・。


でもまあ、楽しいからいっかー」


「「チェルシー議長ー」」


「はいはいはぁーーい」






■■■




「で、何やってんだよお前は?」


え?

何やってると聞かれましても。

「見ての通り、カツ丼を食べてます」

まっ、警察署に来たらコレだよね。

まっ、こんな時間(23時)に店屋物なんか頼めないからレトルトですが・・・・・・やべぇ、ご飯超うめぇー。やっぱ日本人は米だって。

「んなこたぁー聞いてねーよっ! 俺が言いたいのは勝手に行方不明になって散々心配かけておきながら何のんびりと警察署で飯食ってんだってことだよ!」

「腹が減ったのでつい・・・」

「食い逃げか!」

「むしろ拉致監禁?」

「・・・は?」

意味が解らないと目を点にする殺人鬼のような目付きの男。パトカーにて連れてきた警察署にて恵みのカツ丼を食べてる最中にやってきて、いきなり騒ぐその男に同伴した警察の方もちょっとひいてる・・・・・・けどまあ、そんなことは置いといて、こう言っておこうか

「とりあえず・・・久しぶり兄鬼」

「おう、元気そうで何よりだよ愚弟」

久方ぶりの、異世界から帰ってきて初めての家族との邂逅は、なんか、ロマンもセンチメンタルも涙も無い、ちょいと微妙な雰囲気になった。

しかし、行方不明の弟が見つかったというのにうちの両親はなんで来ないんだ?

いや、別に兄貴が嫌いなわけじゃーないけど、その、なんか、なんだかなー。




まあ、いいや。


「よしっと、んじゃご馳走様でしたお巡りさん」

お礼を言ってから立ち上がる。別に逮捕されたわけじゃないから普通の休憩室を使わせてもらっていたし、手続き関係はすでにやっておいたから後はもう帰るだけだ。

「・・・ったくお前はよーー、ああ、すいません、うちの愚弟がご迷惑をおかけしました」

自分に悪態をつきながら、警察の方に頭を下げるという荒業をやっている兄。

その姿を見て改めて思う。


嗚呼、帰ってきたんだなー。





■■■





「ようこそおいで下されました。私がルフトバッフエ魔帝国国主、エーリカ・フォン・バルトです」

そう言って私は軽く頭を下げる。

バルケン城の中でも最上級の来賓室。その豪華な部屋の扉を開けたところで私は挨拶をする。

部屋の中には既に十名の『人間』が座って待っていて・・・・ああ~~緊張する~~~、落ち着いて、落ち着くのよ私~~~。

「妹のチェルシー・フォン・バルトでございます」

ああ~何で隣のチェシーは落ち着いているのかしら? その冷静成分を私に少しでもわけて~。

「こ、これはこれはお初にお目にかかります、それがし、ケルト王国が宰相、ベン・ジャミンと申します」

「同じく、ケルト王国が騎士団長、オリハァ・ダルトと申します」

「チグリス都市国家同盟代表、リリス・オーペンマイヤーでございます。こちらは補佐官のメイ・ルクレツィアンクです」

「桜花神国親善使節団代表及び全権委任大使、陸奥大納言政吉にて候」

「同じく・・」

ああ~~そんなに一辺に喋られても覚えきれないわよ~~。というかそのオウカシンコクの人、どれが名前よ!肩書きに『及び』って何よ!結局どっち? あれ? 最初に名乗ったおじさんの名前何だったかしら?早くも忘れたわ~。

「・・・ゴルゴダ教皇国、公認勇者の」えっ!

何か間違った方がいなかったかしら?勇者?いえその前に公認って何よ?

非公認の勇者もいるの?

「よろしく」

あらら! 名前を聞き逃したのだけれど・・・どうしましょ?

でも勇者ね~。あの時チェシーの召喚魔法が成功していればこの人が来たのかなー?うーーん。勇者なんて言うだけあって魔力もすごいしなんか神々しいわね。私よりも綺麗な金髪だし顔だって整っているし、目は力でみなぎってるし背も高いし、うん、普通にカッコイイわね。

ん? 

どうしたのよチェシー、指でつついたりして、こんな時に悪戯しなくても・・・

「・・・・・」

あっ、もう自己紹介が終わってるじゃない! は、早く席につかないと

「あっ!」

「ほえ?」


バダンッ!


「「「「・・・」」」」


こ、こけちゃった・・・。

「「「「・・・」」」」


はっ、恥ずかしいし痛いしもう~~~。と、とりあえず立ってと・・・き、気まずいわ。

「「「「・・・」」」」


うう~~、なんか視線が痛いですー。おでこはもっと痛いですーーって、そんあ場合じゃないわね。この会談で『人間』の国と仲良くできるかどうかが決まるのよね。ちょっとした失敗でくじけてらんないわ。

「そっ、それでは、遠路はるばるようこそ我がルフトバッフエ魔帝国へおいで下さりました。国民を代表して歓迎いたします」

こけたことなんか気にしないでまずは挨拶。

私の一挙一動にこの国の、人間と魔族の将来がかかわってくると思うと小さなことなんて次の次。

「さて、この度、皆様方をお招きした理由はもうご存じかとは思いますが、念のため会談を始める前に宣言させて頂きます」

今の私は魔帝。この国で一番偉い存在。こけたがなんだ、勇者がなんだ。私はエーリカだ!

「人魔共存。これだけでございます」

あの時に比べて少しは成長したのか、少しは立派になったのか、そんなことは解らないけど

「長い間争い、そして長い間鎖国して触れ合うことのなかった両種族の関係を」

未だに私だけじゃ何も出来ないし、頭だって良くないけど

「今一度触れ合うように、手を取り合って仲良く交流できるようにするのが目的です」

私はココにいます。

大丈夫!

世界が違った彼とだって仲良くできたんだもん。この世界の人間達とだって仲良くできる。

きっと私なら出来る。

左耳に付けた魔法のイヤリングからはもう彼の声は聞こえないけど、

大丈夫

もう私は一人ぼっちじゃない。チェシーもいるしミケもいる。シュルツもツヴァイ君もアインスちゃんもドーラ公爵もグナイゼナウ大公だってみんないる。

恐いし緊張もするけど、負けてらんない!

いつか、明日だろうが、百年後だろうが、来世だろうが、終末の後だろうが、二度と無かろうが、もし、もしも再び彼と出会った時に自慢できるように。

胸を張って『ありがとう』って言えるように。

さぁ、頑張っていきましょう!


「では、皆様・・・堅苦しい挨拶はこれぐらいにして、まずは握手しませんか?


大丈夫、私の手はちゃんと暖かいです、ふふ」



馬鹿みたいなやり方かもしれないけど、ちゃんと私は笑ってます。

だから、

貴方も笑ってて下さい。


私だけど『私』じゃない


  イッヒ







■■■








「あーーー変わんないなーーー」

深夜も深夜。もう日付すらかわっている時間にようやく着いた懐かしの我が家。というか実家。

いやー良かった良かった。なんだかんだであの森が実家の隣町の隣町の斜め北の町で良かった。だからこそ兄鬼がすぐ迎えにこれたんだろうけどさ。

「アパートの方は色々あってまだ帰れないからとりあえず今晩は泊ってけ。んで明日には会社に・・・って、その前に病院か、ったく、なんでんな大怪我してるんだよ。マジでどこ行ってたんだよお前は」

「だから異世界に拉致られてたんだって」

「嘘ばっか言ってるんじゃやねー。まだ北の某国工作員に拉致られたって方がマシな言い訳だ」

「いや本当だって兄鬼」

「はいはい。んじゃなんだ、その怪我はドラゴンとの戦いで付いた傷かよ愚弟。あと『き』の発音がなんか違わないか?」

「いや、ドラゴンなんかと戦ってたら普通に死んでるって兄鬼」

「だろーな。はぁー、まあ、言いたくないなら言わないでいいさ。けど母さんと父さんにはちゃんと謝れよ。あと、やっぱ兄貴のキが変だ」

「解ってるって兄鬼」

とか、適当に会話しながら兄鬼の車から降りる。

車内で散々説明したけど信じてくれなかった兄鬼。まあーそりゃそうだろう。異世界に行ってきましたなんてことを信じたら、逆に自分が兄鬼を病院に連れていく。

というか仕事とかどうなってるんだろうか? アパートの契約どうなってるんだろう? 左目治るかな?

うん、心配事は沢山だ。流石は日本。リアルすぎて涙がでそうだ。

「つーか、お前が帰ってきたってことはまた濡恵の奴が、結婚結婚て騒ぐのか・・・人生の墓場かよ、はぁ」

こっちはこっちで泣きそうだな。

まあ、いいや。

兄貴が信じようが信じまいが、家族が認めようが認めまいが、誰かが気にしようが気にしまいが、

そんなことはどうでもいい。

あの世界のことは思い出に

あの時間は記憶の思い出に

あの出会いは大切な宝物に

整理して

整頓して

さあ、行こうか。

気お取り直して歩く

気持ちを切り替えて玄関を開ける。

雑念を置いておいて家の中に入る。

中には、

こんな深夜だというのに明かりが点いていて

こんな自分が帰宅しただけなのに家族がいて


「「「「おかえり」」」」


なんだか嬉しくて

なんだか楽しくて

思いっきり笑って

とびきりの笑顔で


いつものように言った。




「ただいま」








 この最悪なる世界と 完













最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。

この、エピローグ・余文蛇足を持って「この最悪なる世界と」を終了とさせて頂きます。もう一度、感謝の言葉を言わせて下さい。本当にありがとうございました。

最後である余文蛇足は、他の話と違い、主人公以外の視点からも書いております。順番としては、主人公ーミケさんー主人公ーシュルツー主人公ーチェルシーー主人公ーエーリカー主人公です。ちなみに時間軸はバラバラです。如何でしたでしょうか?

さて、毎回あとがきにて小話を書いていましたが、今回は最後なので各キャラについて書きたいと思います。無いとは思いますが、ネタバレも含みますのでお気をつけ下さい。では


シュルツのにーちゃん

・本名シュバルツ・カリウス。個性の為に言わせた「きひひ」が思いのほか定着した準レギュラー。本来は『主人公が居ない場合の主人公』という裏設定があったのにカットされた影の不幸人。それ以外にも結構出番が他のキャラに喰われていたりしました。でも、なんだかんだで人気があったようなので良しとします。キャラ説明も一番手にしたしエピローグだと出世してるしね、きひひひひ。

ミケさん。

・本名ミケ・シュレディンガー。吉田眼鏡さんより名前を頂いた、多分この物語のマスコット。ネコミミメイドは神様。主人公との掛け合いは書いていて本当に楽しかったです。そして一番感想に書かれていたキャラだと思います。おそらく主人公より多かったのではないかと。ミケさんが登場すると主人公が壊れるのも楽しかったです。なんだかんだで作中一番役得だった準レギュラーです。ということで、シュレディンガーです。

ドーラ公爵&グナイゼナウ大公

・ドーラ公爵の元ネタは前にも書きましたが世界最大級の列車砲からきています。ちなみに大公の方はドイツ(プロイセン)の有名な軍人かた頂きました。しかし最初に間違って書いていて後で必死に訂正したという曰くつきです。まだどっかに間違って記載してるかもしれません(笑)。この二人はなんだか静と動といったコンビに考えていたのですが、気がつけばドーラさんばかり書いてました。哀れ筋肉大公。所詮胸だよ胸!

カイテル伯爵&カーン男爵

序盤は結構活躍したのに後半空気となった人狼伯爵と、作者にすら名前を忘れられた男爵。上司が駄目だと部下が優秀になる典型だったのだけれど、如何せんむさ苦しくなるので活躍できなかったダンディー達、ゴホゴホ。

ネコミミチルドレン

アインスちゃんとツヴァイ君。萌えが欲しくて登場させたネコミミっ子。会話が面倒になるので登場回数が減った薄幸属性。結局ミケさんの子供になったのか姉弟になったのかは皆様のご想像にお任せします。ちなみに、アインスはドイツ語で1で、ツヴァイが2という意味ですので、アインスが姉の双子です。

ネロガイウル男爵&ロッソ伯爵

噛ませ犬役。多分この物語中一番報われない方達

レイモンド伯爵

所謂ラスボス役。色々暗躍したのに、主人公とエーリカの斜め上をいく活躍でことごとく失敗した不幸な奴。なんだかんだで最も主人公を追い詰めているあたり実力はあったんだけど、いかんせん相手が悪かった。ちなみに、さりげなく行方不明になってるとチラホラフラグが出てたりします。決まり手は、馬鹿は見る〜。

チェルシー

所謂裏ボス。黒幕。初登場は結構早いのに活躍したのは後半のみ。名字を逆から読むとエーリカと同じになるというのは最初から決めていたので、恐らく、髪型以外は初期設定と変わってないキャラ。小ネタですが、チェルシーの回想シーンに登場した若い公爵というのはドーラ公爵のこと。どうどもいいことですが、何故ツインテールに変更したのかは謎。後付け理由がハマったからいいかなーお姉ちゃん。

大家さん

物語の中で一番強い。

一回も登場しないのにインパクトだけはあったキャラ。シュルツに幸あれ。

その他

門番とか水筒の兵士とか暗殺者とか、色々いたサブキャラ達。特に無し。

エーリカ

エーリカ・フォン・バルト

愛すべき馬鹿

本作のヒロイン。なのに人気をミケさんに持ってかれた可哀相なキャラ。主人公との絡みは一番多いのに作者の意図を外しまくった恐ろしい奴。主人公に電波や馬鹿と呼ばれている泣き虫。一応、主人公が成長しない代わりに成長するキャラという立ち位置。でも泣き虫。ヒロインなのにオチ担当だったり発狂したりとろくな扱いを受けてないのはなんでだろう?多分ここまで馬鹿呼ばわりされてるヒロインも珍しいんじゃないだろうか。

小ネタですが、主人公がモノローグで『さん』付けせずに呼んでいるのは親愛の表れ。

なんだかんだで名ばかりヒロインっぽかったですが、エーリカあっての主人公だったのは確かです。

「イ、イッヒ!」


イッヒ

主人公。本名不明

コイツについては語るのが多過ぎて何から語ればいいのか・・・。とりあえず、掴み所の無い人間というよりかは、掴み所が有りすぎて逆に掴みきれない人間を目指した結果がコイツです。

初期設定ではもっと暗い陰険なキャラだったのですが、ミケさんが登場した所からおかしくなり始めてますね、げに恐ろしきはネコミミなり。

受動的で悲観的な癖に変なところで前向き。なげやり、戦場に耐えれない、弱い、殺せない、つーか戦えない、むしろ戦わない。死んだ魚のような目付き。身長にコンプレックスがある・・・ろくな設定が無いな。

基本的に丁寧な口調で喋っていますが、心の中では結構乱暴に思っていたりと、人間らしいキャラを目指しました。

うーん、これ以上色々書いても意味がなさそうなのでこれぐらいにしときます。

「まあ、いいや」


冒頭シーンについて。

話事の最初に書いてあるのが冒頭シーンです。元々は主人公の感情や、その話のキーワード的なことを書いていたのですが、その内に元の世界での状況を書くようになり、その中で書いた兄貴と濡恵のコンビが楽しく、なんだかカオスになった部分です。基本的にその時の気分で書いているので実はキャラが矛盾してたりしてます。今更訂正できない、どーしよ。

この冒頭シーンを書いた思惑は、主人公が異世界に来ていることを再確認する為と、元の世界に未練があることを表す為だったりします。どうでしたでしょうか。

後書きについて。

毎回毎回書いてますね。何故か謝るようになってました。なんでだろ?

タイトルについて。

最後を『と』にするか『を』にするか『に』にするか悩みました。後は適当です。

サブタイトルについて。

最初は楽しかった。後半大変だった。

小話

よくよく考えてみれば髪の毛を隠しても眉毛は隠せませんよね。髭もありますし。

年齢について。

主人公は20歳と明言してますが、他のキャラは何も触れてません。ですのでエーリカが実は200歳とかもありえます。まあ、その辺の真実は皆様の脳内補正にお任せします。

努力・友情・根性について

ありません。

トンガリ帽子兜について

作者の好みです。

魔法について

主人公が理解できてない設定をいいことに適当です。

誤字脱字について

大漁、じゃなかった大量にあります。すいません。ごめんなさい。もう、この小説の味の一つとしてお楽しみ下さい。

作者について

低燃費低馬力


本当の最後に

ここまで読んで下さいました皆様に感謝を。コメントを書いて下さいました皆様に感謝を。

ありがとうございました。

すいませんでした。

もいっちょ、ありがとうございました。

それでは皆様に幸せが訪れることを願って。

さよなら。

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