第三十九幕 御割過気
おわりかけ
犯人は
犯人は
犯人は誰だ?
■■■
「よぉーーう、イッヒの旦那ぁー」
さも当然であるかのように、さも自宅であるかのように、さも普段通りであるかのように、さも自分を同じ魔族であるかのように、彼は、シュルツのにーちゃん、本名シュバルツ・カリウスは、歴史を感じさせる木目調の天井から逆さまに顔を出し、そのまま一回転しながらシュタリと颯爽に降り立って来た。
ついでに
「「ふにゃぁぁぁーーー!!」」
同じく天井から、ある種無様に、ある種滑稽に、逆さまというかもつれあって、もうなんと言うかめちゃんこすっげーテラこの世のものとは思えない程可愛らしく、二セットのネコミミがドシンドシンとベットの脇に降ってきたつーか落ちてきた。
「おぉう!」
ビックリ!
仰天!
ベットに座りながら身を乗り出して見てみれば、白黒オセロな配色の二匹(?)が、ベットの脇に座り込みながら痛そうにちょっと涙目になりながら「「う~」」とか言ってお尻を、訂正、尻尾の付け根付近をさすっている光景が
これは神様からのプレゼントか?
イヤッホー
ニャンコー
「きひひ・・・目がやべぇぜ旦那ぁ」
・・・よし、尊厳とか捨て去る前に冷静になろう。
自分はただ今監禁中、自分は普通に軟禁中、ここは所謂牢屋、下手したら極刑。
・・・よし、落ち着いた。
確認したくもない事実で落ち着きましたっと。
んじゃ、
「ようこそ。シュルツさんに、アインスちゃんツヴァイ君。何もないところですがゆっくりして下さい」
まずは挨拶
「おう。わりぃな、んじゃお言葉に甘えてくつろがせてもらうぜって、違うっ!」
そしてノリツッコミ
って違う。
「なんでこの部屋に入ってきたんですかシュルツさん?」
「なんでこんな部屋にいるんだよイッヒの旦那ぁ?」
「「・・・」」
セリフが被った。なんだか気まずい空気が流れた。
「・・・お先にどうぞ」
「・・・お、おう」
とりあえず右手を差し出して促した。
「じゃ、言うぜ」
では聞きましょう。
「いやよぉ、普段の朝みたく普通に城に来てみりゃなにやら上に下にの大騒ぎでよ。衛兵やら女中やらが走り回ってすげーのなんのって。なんなのか聞いてみてもさっぱりわからねー。しかも閣下が襲われたやら、公爵達が死んだやら、侵入者が現れたやら、衛兵がやられたやら、反乱が再発したやら、旦那が消えたやら、大家が暴れてるやら突拍子もない噂が流れてるじゃねーか。こいつはなんかあったなと思って閣下と旦那を探してみたけど見つからねー。そしたらこいつら(ネコミミチルドレン)を発見して、聞けばシュレディンガーを探してるっていうからよ。一緒に探してたんだ。したらチェルシーだったか? そのメイドが奇声を上げながら走り抜けていってよ。んで、そいつが来た方に行ってみりゃなんだか牢屋みたいな部屋から閣下を抱っこしたシュレディンガーが出てきたのを見つけて、ここだと思いこいつら(ネコミミチルドレン)を連れて屋根裏を通ってやってきたってわけさ!」
きひひと最後に笑ってから、そう話し終えたシュルツのにーちゃん。
成る程よく解った。けどわざわざ屋根裏、天井から入ってきた意味がわからない。あれかな、門番がいたせいで入れなかったのかな? でもネコミミチルドレンを連れてきた意味が本当にわからない。ミケさん見つけてるじゃん。二匹(魔)ただの道連れじゃん。
「んーまぁ、俺の方はそんな感じよ」
あーそんな感じなの?
ではなく。
とりあえず理解不能なとこがあったけれど、置いといて。
んじゃ今度は旦那の番だぜ、という感じに自分の前に立つシュルツのにーちゃんを眺めてみる。
この人は、訂正。この魔人は、自分が人間だと気づいているんだろうか? 気づいていると、気づいていないだと言い方が変わるんだが、
「ん? どうしたイッヒの旦那ぁ。相変わらず死んだ目をして考え込みやがって、なんでもいいから早く旦那がこの部屋にいる理由を教えてくれって」
・・・どうでもいっか。
最終的には変わんないだろ。
「では言いますね。昨晩、自分を殺そうとレイモンド伯爵が城に侵入しました。そして始まった真夜中の追いかけっこ。衛兵の死体という障害物を乗り越えながら走っり切ったらエーリ・・・魔帝閣下がレイモンド伯爵を抹殺、瞬殺、超必殺。
結果
自分はこの部屋にいます」
「意味わかんねーよ!」
やっぱり?
「「!!」」
あっ、シュルツのにーちゃんが大きな声をだしたからネコミミチルドレンが驚いちゃってる。
「あっ、わりぃわりぃ驚かせたか。ほら飴玉あげっから落ち着けよ、な?」
「「あ、ありがととう」」
うん。ほのぼのする光景だ。流石は銀髪赤目のロリコン隠密隊長。
なんて思ったら赤い目にギロリと睨まれた。
「あー、あー、話しを戻していいか旦那ぁ?」
「どうぞ」
ゴホンと咳ばらいをして姿勢を正して再び会話の態勢になったのを見て、自分も真面目に聞いてみることにする。
「えーっと、つまりは旦那ぁ。城ん中で噂になってたレイモンド伯爵が侵入したってやつは本当なんだな?」
「ええ」
「んで、旦那を殺そうとしたけど、逆に閣下に返り討ちにあったと」
「はい、だいたいは」
「んじゃなんで旦那がこの部屋に監禁されてんだよ? 襲われたあんたがなんで監禁されてんだよ!」
「見て解りませんか?」
と、ベットに座りながら両腕を広げてみる。無事な右目でシュルツのにーちゃんを真っ直ぐ見つめる。
「見てって、左腕が冗談みてーに包帯まみれになって、左目が使い物にならなくなってるだけじゃねーか。別に旦那が捕まる理由なんてないだろ。強いて言やーその黒髪が珍しいぐらいで・・・・・・ん?・・・黒髪?」
やっと気づいた?
「ちょっ、ちょっちょっ、ちょっちょっちょっ、ちょっい待てイッヒの旦那ぁ! なんだその黒色は!? つーかその耳の形はなんだよ! えっ? あん? おお! 」
すげぇ、リアクション芸人になれるってレベルに困惑するんだねにーちゃん。
「だ、だだだだ旦那ぁ。それじゃあてめぇ、
まるで人間じゃねーか!
」
自分を指差し。
両目を見開き。
驚きを隠さず。
声を荒げて叫んだシュルツのにーちゃん。それに対して自分は、
「ええ、そうです」
と、そっけなく答えてみた。
それがどうかしましたか言わんばかりの表情で対応してみた。
一般的には開き直りという。
「はぁ? はあ? はーーー!? そうです・・・じゃねーよっ! んえ? んじゃ何か? 俺は人間に雇われていたのか!?」
「正確にはエーリ・・閣下ですけど、まあ、きっかけは自分ですね」
「きひ・・・きひひひ・・・きひひひひひひひ・じゃ、じゃーよー、俺は人間に頼まれて反乱討伐に参加して、人間と一緒に仕事してたのか?」
「ええ、まあ」
「きひ、きヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ言い言い言いヒヒひひっひひひひひひひひひひひひひひいひいひひひひひひひひひいひひひひっひいひひひひひひひひいひいひひひひいひひひっひひひひっひひいひいひひっひひひひひいひひひいひひっひひいひひひひh」
あっ、とうとうシュルツのにーちゃんが壊れた。
ああ、この人(魔人)なら大丈夫だと思ってたのに。もう天(天井)を仰いで、右手を顔にあてて、豪快に、肺活量を無視して、ネコミミチルドレンが恐がるくらいに爆笑するだなんて・・・なんかどっかでみたことあるような・・・・エーリカみたいに狂わないでくれよ。
と、ちょっとビビりながら銀髪赤目のにーちゃんを見ていたら、突然バッと自分に向き直り、カッと表情を一変させて
「俺ってすげーー!!」
叫んだ。
「はい?」
唖然とした。つーかなにすげーって。何がスゴイの? 理解が追いつかないんですけど。
「きひひひ。わかってねーなーイッヒの旦那は。ここ数百年誰も一切交流が無かった人間と一緒に仕事してたんだぜ! ぜってー歴史に残るって。人魔共存の第一歩を刻んだシュルバルツとか呼ばれるんだぜ!」
いや。この世界の人間とは自分関係ないからそれは無いと思う。じゃなくて
「あの・・・自分が人間だったんですよ? もっとこう、騙されたぁーとか、ぶっ殺してやる! とかならないんですか?」
「あん? なんでだってイッヒの旦那に殺意を持たなくちゃいけねーんだよ」
「いや、だって人間と魔族は仲が悪いんでしょう?」
「いや。確かに数百年前までは戦争するほど憎みあってたみたいだけどよ。俺が生まれてから一回も戦争なんて無かったから完全に昔の話だな。仇敵発見つーよりかは、珍獣発見!って感じだな」
「・・・・・」
断言していい。自分は今ぽかーーーーーんとしたまぬけ顔をしているはずだ。
予想の斜め上というか、なんか自分だけ過剰に意識していた気分になった。もしかしたら予想以上にもてなされた旅人の心境ってのはこんな感じなのかも。こう、あんたらもっと余所者を警戒したらと忠告したくなるような、毒気を抜かれて逆に疲れるみたいな。
「きひひひ、しっかしイッヒの旦那が人間だったとはなー。大家が作った手料理を食べた時に次いで驚いたぜ」
それでも大家の手料理ほ方が衝撃が上なんだ・・・ではなく。
予想以上に軽い反応にぽかーーーんとしていたら、ふと、シュルツのにーちゃんの脇に立っていた白黒オセロのネコミミチルドレンが視界に入った。
自分を見つめる四つの縦長の瞳孔。
好奇心と恐怖心が入り混じった視線に、自分の方向を全力で向いているネコミミ。尻尾はピンと垂直に立っている。でも、恐がりで臆病なこの二匹(?)はビビって震えることなく立っている。それを見て
ああ、自分って珍獣なんだな。
っと、しみじみ思った。
「「あっ、あの」」
「ん? なんだい」
「あん、どうした?」
「「ニンゲンって、何ですか?」」
・・・・・
そこからかっ!
ずっこけそうにまったけど、ベットの上にいるので無理だった。とりあえずは
「後でシュルツさんに説明してもらってね」
「「はい」」
「俺かよ!」
つーことで話を最初に戻して。
「まあつまりは、自分が人間だとドーラ公爵方に今のように露見しまして。とりあえずは療養も兼ねてこの部屋に監禁されてるってわけです。流石に閣下の傍に人間がいあたっていうのは色々まずっかたみたいですからね」
「きひひ、のわりにゃー随分と余裕じゃねーか。殺されるかもって思ってたんだろ」
不思議そうの自分を見るシュルツのんーちゃん。不思議そうに自分の髪の毛と耳を見るネコミミチルドレン。その目を一通り見た後、
「まっ、エーリカさんがなんとかしてくれるでしょう」
っと、軽く言ってみた。
■■■
ぽつん
と、部屋に一人
シュルツのにーちゃんと、ネコミミチルドレンはもう帰っていった。やっぱり天井から・・・もうこのことについては考えない方がいいかもしれない。
そんなことは置いといて。
とりあえずはシュルツのにーちゃんにエーリカを呼んでくるようにお願いしておいた。流石にエーリカが寝ている間に処刑が決定しましたとかは笑えないからね。予防線ってやつかな、もしくは最終防衛線。
まあ、そんなこんなで。
現在は部屋に一人だけ。別に抜け出そうとかは考えない。脱出する必要はないし、根本的に無理。というか思い出したんだけれど、自分が人間だとバレないようにしていた理由って、一番最初にエーリカに言われたからなんだよね。エーリカに人間と魔族は仲が悪いと言われたから偽装していたわけだ。
ちょい回想
「んじゃ次ですけど、たしか人間と魔族は仲が悪いって言ってましたよね?それってどれくらい険悪なんですか?」
「う〜〜〜ん、戦争するくらいですかね?もしこのルフトバッフェ魔帝国内に人間がいたら多分捕まって牢に入れられると思います・・・」
もうちょい回想
「・・・もしかしたら殺されるかも」
終了
実際この程度の会話で自分は想像して、適当に判断して、勝手に変装していた。
自分が一人で殺されるって思い込んでただけっだったわけだ。自意識過剰で強迫観念になっていただけ。よくよく考えてみれば、
『外国人じゃー鬼畜米英ぶち殺せぇぇぇー』
みたいになるわけがない。
ましてや戦中じゃないし。戦後だ。いや、数百年も経っているから、もはや戦後ではないだ。日本人は六十年で平和ボケした。数百年もあれば魔人、魔族だって平和ボケするだろうさ。だからドーラ公爵達やシュルツのにーちゃんみたいな反応になると。ネコミミチルドレンなんてそのハイエンドだろ。
でも、
やっぱり楽観は出来ないよなー。処刑はなくても、追放ぐらいなあるかも。少なくても今まで通りとは、いかないだろうなー。
まあでも、
エーリカがいればなんとかなるだろ・・・多分。
なーーんて考えながらぼーーっとしてみる。シュルツのにーちゃん達が帰ってから大分経つけど、ドーラ公爵どころか誰も来ないからぼーーっとするしかない。
気がつけば、鉄格子付きの窓から差し込む日の光りが部屋の隅からベットの中央まで移動している。なんとなーくお昼じゃないかなーと直感した。具体的には腹が減った。
よくよく思い返すと起きてから何も食べてないんだよね。そりゃ腹だって減るさ。
「ミケさ〜〜ん、ご飯〜〜〜ん」
意味無く、力無く叫んでみた。
もちろん、部屋にある唯一の出口が開くはずもなく。重厚な扉は依然として鎮座して
ドガンッ!!
開いた。
「コンコン。失礼いたします」
で、ノック声が聞こえた。いや、ノックって口で言うもんじゃないからね。つーかこんなわけわからん事をする存在は一魔(人)しか知らない。
そう。
「ヘイヘイヘイ! このチェルシーが餌を持ってきてやったぜ人間。ほれほれーひざまづいて踊りな」
ツインテールメイドのチェルシー・トルバンフォさん・・・こんなキャラだっけか?
「どうしたどうしたぁーシケタ面と死んだ目をしやがって、眼帯なんか似合わねーよーうえっへっへっへ。まあ、これでも喰って元気になれよ!あっへっへー」
・・・酔ってる? それとも狂ってる?
なんか電波が入ってるというか、春というか、アルコール充填済みというか、ラリってるというか、良く言って妙なテンションになっていているチェルシーさん。
ガラガラとカーゴを押しながら入室してきた(精神的に)危険なメイドをビビりつつ見ていると、なんかもう人間とか魔族とか悩むのが馬鹿らしく思えてきた。
「うぇっへっへっへー、人間の世話なんか貴重体験ですよ。しーかーもーぅ、狭い密室に二人っきりですぜい。きゃー襲われるぅ」
・・・殴りてぇ。
何がムカつくって、危ない言動してる癖にちゃんと仕事をこなしてるのがイラつく。手際よくベットの上に簡易テーブルを設置して、ホイホイと迷いなく料理を並べていく姿に違和感を感じさせるんだよ。
「うぇっへっへっへー、あちきの手作りなの」
嘘つけ。ついでにお前の一人称はあちきじゃないだろ。
まあ、いいや。
つーか、もういいや。
食べよ。
「・・・いただきます」
「アタイを食べ「黙れ」」
■■■
完食
やっぱり薄味な異世界料理。
やっぱり材料不明なランチ。
何故か一緒に食事をしていたチェルシーさん。
なんつーフリーダム。
「ごちそうさまでしたっと」
「ちっ、食い足りねーなー」
黙れチェルシー。お前は悔いが足りねーんだよ。
「それでは片付けさせて頂きます」
いや、突然真面目にならないで。
とか思ってる間にカチャカチャと洗練された動きで食器を片付けし始めるチェルシーさん。茶髪のツインテールを振り回しながら、それでいて周囲に一切髪の毛をぶつけないという無駄に高等テクを使い、食器がぶつかる音を最小減に抑えつつ、スピードはそこなわない片づけスキル。その、どことなく優雅な動作を眺めながら思考を切り替える。
ズキリと左目が痛む。
ズキリと左手が傷む。
ズキリと何かが悼む。
ズキズキズキズキ
ガチガチガチガチ
ギリギリギリギリ
カチャリ。
さぁ、おしゃべりの時間はお終い。
さぁ、おふざけはこれにて終了だ。
ここからは真面目に行こうか。
「ねぇ、チェルシーさん」
全ての食器を仕舞終えたチェルシーさんを呼びとめる。
「なんじゃらほいっ?」
茶色の髪の毛が窓からの陽に輝く。
「一つ聞いていいですか?」
右目だけの世界には不可思議なメイドだけ、
「いいともさ人間君。この美少女チェルシーがなんなりとお答えしよう、うぇっへっへっへ!」
手をワキワキさせながらポーズを取るチェルシーさんをベットに座りながら真っ直ぐ見つめる。
その碧眼を下から見上げるように真っ直ぐ見つめる。
青い蒼い碧い眼が、死んだようで淀んでくすんで沈んで光を忘れたと言われている自分の瞳に映る。
誰も邪魔しない、誰も邪魔を挟まない。これ以上ないシュチュエーション。これ以上待てないモチベーション。
ヒロイン不在だけどここでクライマックス。
さあ始めよう。
さあ終わろう。
それじゃあいっちょう。
「どうして、自分をこの世界に呼んだんですか?」
かるーく、ふざけず。
ゆるーく、くだけず。
行こうか。
ごめんなさい。
というわけで三十九話でした。
前半のお馬鹿な会話と最後のシリアスのギャップを楽しんで頂けたら幸いです。
さて、まあ、チェルシーです。それだけです。
ようやく終わりに近づきました。もうここまで来たら後はお楽しみ下さいです。
それでは、すいませんでした。
次回お楽しみに。
楽しめているのかなー?