第三十八幕 慢身創異
省略
■■■
「・・・・・・」
知らない天井
「・・・おはようございます」
に、なんとなく挨拶して起床してみた。
はて?
なんで自分は年季の入った木目調の天井板の下で寝てるんだ?
なんで自分はいつもと違う感触のベットの上で寝ていたんだ?
えーーーっと、あーーーっと、いーーーっと、うーーーっと、あれ?
本当になんでだ?
寝た瞬間の記憶が無いんだけど・・・・・・?
寝ぼけてるのか? 夢か? ? はれ? あれ?
「!!」
「?」
ん、見上げた視界に写るあの特徴的なツインテールは、ビックリ顔で自分を見ているツインテールは・・・
「おっ、おっ」
「・・・オーイェーイ」
「おーいぇーーいゃぁぁー起きたぁーっ! 目を覚ましましたぁぁ!!」
自分と目が合った瞬間にドタドタバタバタと若干錯乱しながら視界から消えていったチェルシーさん(仮)
寝転がった状態だから呆然と見送るしかない自分。
ん? あれれ? なんでチェルシーさんが部屋に居たんだ? てゆーかここどこよ? 自分の部屋ではないよな。 はい? ? なんでこんなところで寝てるんだ? ? ?? ?
まあ、いいや。
とりあえずは現状把握
よいしょと、仰向けの格好から上半身だけ起き上がらせる、と
「痛っ!!」
よく響くトンカチでぶった叩かれたような激痛が左腕から襲ってきた。
「あが?」
思わず痛みのした左腕を直視してみると、白いシーツの上に所々赤くにじんでいる包帯に巻かれて普段の二倍近くもある太さの左腕が、
「あれ? あ」
一瞬何かを思い出しそうになって
「・・・」
無意識に右手で左目付近を触って
「痛っ!」
瞬間、焼かれたような痛みが襲ってきて
「あ・・・」
全部思い出した。
■■■
バダンッ
と、鉄と木で出来た重厚な扉が勢いよく開かれる。
ビグンッ
と、ちょっとビビる自分。
「起きましたか・・・気分はどう?」
で、入ってきたのは妖艶な雰囲気と豊満な胸部を持つ吸血鬼さん・・・つーかドーラ公爵。
と
「失礼いたします」
絶対清楚! 超絶猫耳! 神器の尻尾! 神秘の冥土!
栄華極めし天上の楽園を統べた女神が丹精込めて育て上げた花のように可憐で
神話の時代から変わることなく夜を照らし続けた月光のように美しい
ミケさん。
珍しい組み合わせだなぁ・・・と、ちょっと現実逃避
いや、だって、その、ねえ?
ここ、といいますかこの部屋を見たらねえ? 現実逃避したくなるって、
窓に鉄格子がついてたら。
まるで監獄のような鉄格子がついてたら、ね。
もしかして・・・バレました?
囚われました?
「ふふふ、気分はどう? イッヒ君」
こっちの動揺なんてお構いなしに、相変わらずの微笑を浮かべたままそう言ってくる赤髪吸血鬼。
「ええ、まあ・・・それなりですね」
適当に返事しつつ、辺りを見渡してみる。
十畳ほどのこの部屋、自分が寝ていたベットを北だとすると西側の壁に先程の鉄格子付き窓があり、南側にドーラ公爵達が入ってきた重厚な扉が鎮座して、東側には学校の教室にあるような大きさの机が一個、寂しく置かれているだけ。壁は壊せるもんなら壊してみろと言わんばかりにゴツい煉瓦で、床にはちょっと豪華な絨毯、そして天井にはシャンデリア。
ふむ、牢屋じゃないだけ良しとしようか。
ギィー、バタン、ガチャン
ふむ、扉が閉まると同時に施錠ですか・・・って、牢屋じゃん!
「さて・・・何からお話しましょうか?」
あっ、やっぱりこっちの精神状況なんて無視ですかドーラさん。
「うーーん、そうね・・・まずはわらわの素直な気持ちを言わせてもらおうかしら」
ゾクッとなる程妖艶な笑みを浮かべるドーラ公爵に、どうしてだか背中から嫌な汗が出る、と
「よくも騙してくれたわね・・・人間」
バッと言葉に反射して触った頭には、この自分の右手には、ゴツゴツしたトンガってた帽子兜の感触も、最終防衛線であるバンダナな肌触りもなく、ただ産まれてからずっと一緒だった黒髪の感覚だけが絶望的にあった。
「あっ・・・え・・・あーーーその」
「何かしらイッヒ・・・いえ、人間君?」
「命乞いをさせて下さい」
全力で!
「嫌よ!」
そんなさわやかな笑顔で・・・
「冗談よ」
そんな、その顔が見たかったと言わんばかりの笑顔で・・・って、冗談?
「うふふふ、そんな緊張しなくていいわよ。今のところイッヒ君が人間だからってどうこうするつもりはないわ」
そう、色んなタイプの笑顔になりながら言うドーラ公爵。まあ、んなこと言われたって安心できるはずが無く。というか自分が今置かれている状況がわからない以上どうしていいか混乱中だったり。
「じっ、自分を食べても美味しくないですから」
ちょっと混乱が口から出ちゃったりして。
「あら? 味見ぐらいさせてくれてもいいじゃない」
この発言に冷や汗どころか全身が恐怖で震えたりして、自分が半ば恐慌状態に陥っていると
「公爵様・・・そろそろ」
ふいに放たれる救世主のごときミケさんのお言葉。
やっぱ流石ですミケさん、心の底から大好きです・・・って、何がそろそろ?
「あらそうね。起きて下さいませ閣下」
は?
閣下? エーリカ?
疑問に思いつつドーラ公爵とミケさんの視線の先を追ってみる。
自分が寝ているベットの上・・・の足元付近
白いシーツの上に金色の絹糸の束が広がっていた。
「ZZzz・・・ZZzz・・・」
訂正
うつむけの態勢で頭と腕をベットの上にのせて爆睡中のエーリカがいた。
気がつかなかった。
居たんだ・・・エーリカ
と、軽く驚いていると
「失礼いたしますエーリカ様」
と、ミケさんが金髪お化けじゃなかったエーリカに静かに近づき、すぅーっと自然な動作でしゃがみ込み、優しく流れるような動きで肩と両足に腕をまわし
「せいっ!」
気合い一閃、まるでどこぞの勇者よろしくエーリカをお姫様抱っこしてスクッと立ち上がった。
いや、普通に起こしてやれよ。
「では公爵様。エーリカ様を寝室までお連れしてまいります」
「え!? ええ・・そうしてくれるかし、ら?」
ほら、流石の吸血鬼もちょっと引いてるって
「ZZzz・・・ZZzz・・・」
んで、いい加減起きやがれエーリカ。起きて自分を弁護してくれ、お願いします。
「それではイッヒ様」
「あっ、はい、なんですかミケさん?」
「シュレディンガーです・・・・・・」
「・・・・・?」
「・・・・・・」
「?・・?・?」
「・・・・・・」
「??????」
えっ!? 何? なんでエーリカをお姫様抱っこしたミケさんに見つめられなきゃないんですか? 何か言って下さい!
「あの、ミケさん?」
「シュレディンガーです。では失礼いたしました」
何が!? 一体なんだったの!?
あっ! 行かないで! 自分に背を向けて出ていかないで!
ガチャリ
開かないで扉!
スタスタスタスタ
行かないでミケさん!
ギィーー・・・バタン!
ミケさーん! ミケさぁぁぁぁーーーん! カァァムバァァァァァァック!!
ガッチャン
・・・
・・・・・
・・・・・・・・
「さて・・・イッヒ君・・・少し、オッハッナッシ、しましょうか」
「は、ハハハ・・・命乞いをさせて下さい」
吸血鬼と二人きりって・・・ハハハハハハハハ
死んだかも自分
■■■
生きてるって素晴らしい。
そんな感想はひとまず置いておいて。ドーラ公爵のオハナシによると、まず自分が居るこの部屋は敵方の将軍やら身分の高い人質やらを監禁しておくための部屋らしい。そのためなのかシャンデリアや絨毯なんて牢屋に相応しくない物があるし、立地だって地下ではなく城の三階にあり風通しも悪くはない。
まあ、つっても牢屋、牢獄、監獄であることに変わりは無く、囚人的扱いを受けている事実は確かだったりする。人間でこの部屋に収容されたのはイッヒ君が初めてよ、なんて言われても嬉しくはない。
まあ、いいや。
いや、良くはない!
でもどうしようもないから、
やっぱりまあ、いいや。
んじゃ次
あの晩のこと、あの金髪イケメン伯爵レイモンドが自分を襲撃した夜のこと、自分が意識を失った後の出来事
その事をドーラ公爵曰く
「生まれてから一番驚いたわ」
とのことらしい。
まあ、夜中に突然叩き起こされたと思ったら目の前に血まみれの人間を背負ったエーリカがいたら驚くだろう(吸血鬼なのに夜は寝るんだというツッコミは無しで)。とりあえずドーラ公爵の衝撃や、その後にあった阿鼻叫喚の大混乱は割愛して、騒ぎを聞きつけてやってきたグナイゼナウ大公が自分を刺客だと勘違いして捻り殺そうになったのは聞かなかったことにして、結局はエーリカが信頼出来る者を選び、騒ぎが大きくなる前にこの部屋に自分を隔離することにしたと、
そして、
「そして一晩中、イッヒ君を守るように付き添っていたのよ。わらわやグナイゼナウ達でさえ遠ざけて、医師でさえ触れることのないよう自ら包帯を巻いてあげ、それこそ力尽きて眠るまでイッヒ君に治癒の魔法を掛けつづけていたのよ」
と、妖艶過剰な女吸血鬼はオハナシを締めくくった。
なんと言うか・・・自分が気絶してる間にそんなドタバタ劇があったというのは不思議な気分。しかも何気に殺されかけてるし。てゆーか
すげー感動的なシーンだったんじゃん。
普通に映画であるような怪我をした主人公とそれを健気に看病するヒロインの図だったたんじゃんか
・・・・・
あれ?
でもあんま感動しないな・・・ずっと寝てたから自覚が無いし、目覚めたら今度はエーリカが寝てたし、最後はミケさんに攫われたし。まあ・・・自分とエーリカじゃあこんなもんかね。
まあ、いいや。
後でお礼を言っとこう。
とにもかくにも今は、
「それで、一体全体自分は今後どうなるんですかね?」
この問題が最重要。
この一点に尽きる。
この質問が本題だ。
さぁ、どうなる?
さぁ、どうします?
ねぇ、ドーラ公爵様?
真っ白なシーツが敷かれたベットの上、上半身だけ起き上がらせた状態で赤髪の吸血鬼を無事な右目だけで見る。隠す必要のなくなった両耳で聞き逃すまいと集中する。
返答は
「知らないわ」
だって、て、え?
「まだ決まってないもの」
「は、はぁ」
ちょっと拍子抜け。
「いくらイッヒ君が人間だったからって、閣下の付き人である以上、わらわ達が勝手に処刑できるわけがないわよ。それに、まだイッヒ君からも閣下からも詳しい事情を聞いてないのに弾劾するほどわらわは短気ではないわ」
なんて、豊満な胸の前で腕を組みながら言うドーラ公爵。とりあえずはいきなりギロチン火あぶり絞首台にはならないらしい。
様子見、というよりかは事情を聞いてから判断しようということみたいだ。
よかったよかった。
「それじゃぁ当分はこの部屋に監禁されるってことですかね?」
「ええ、そうなるわ。昨晩にレイモンドが襲ってきたおかげで城の中はまだ混乱しているから、閣下の側に君がいなくても周囲は気にする余裕はないでしょうしね。うふふふ、でも監視はさせてもらうわよ、なんたって今の今までわらわ達を騙してきたんですもの、目を離した隙に城から脱出しても君ならおかしくはないわ」
「脱出なんてしませんって、第一できませんし、この怪我ですよ? せいぜい休ませてもらいます」
「あら? 逃げてくれたら問答無用に殺せるのに」
「ハ、ハハハ・・・」
「うふふふ」
恐い、恐いです、マジ恐いです。
「ねぇ? イッヒ君」
「はっ、ハイ!」
思わず上擦った声がでた
だって、ドーラ公爵の笑顔が今まで見てきた中で一番妖艶で最も綺麗で、だというのに本能的な恐怖心を抱かせる、そんな笑顔だってたんだもん。
「ちょっとだけいいかしら?」
「ハッ、ハイ、ナンデショウカ?」
ああ、この笑顔が恐い
「ちょっとだけ、ちょっとだけ、血を吸わせてくれない?」
「!」
一瞬、一瞬で目の前にドーラ公爵がいた、瞬きすらしていないのに見失って現れた。しかもベットの上に、自分に覆いかぶさるように四つん這いの態勢で、愉快に嗜虐的な色を湛えた眼光が自分を見つめ、三日月のように歪んだ口元から真っ赤な舌がヌラリと光り、吐息が肌に触れるような距離で、鼻と鼻がぶつかってしまうくらいの近さにやってきた。
「・・・ひぃ!」
悲鳴が出る。いくら妖艶だろうが綺麗だろうがそんなものが掠れてしまうくらいに恐怖心が・・・恐怖心がぁ、恐い、恐い、怖い、怖い、怖い、恐い、恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖怖怖怖怖恐恐恐恐恐恐恐恐ぃぃぃぃぃぃ!
「あら、悲鳴なんて失礼ね。大丈夫よ、わらわに任せなさぁい」
後ろに下がろうとしたのに身体が動かない、見れば自分の右手と包帯が巻かれた左手が、鋭く真っ赤な爪の左手と右手によって縫いとめられるように、ベットの上にメキメキと音だ出そうなくらいの力で押さえつけられてる。
「ぃ!!」
右手から伝わる痛み、でもそんなことが些細に感じる程の恐怖恐怖恐怖。
抵抗なんてできない、逃れることはできない、網膜に映るあの牙が首筋ににににににいいいやぁぁぁ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だだだだだだだだだ、ひぃ、牙が、牙がぁ、グサリとくるのか! 殺されるのかぁ? 嫌だ嫌だ嫌だ恐い恐い恐い恐い怖い怖い怖い怖い怖い怖いああああぁぁぁぁ!
「うふふふ、いただきまぁー」バダーン!!
「「!?」」
勢いよく開かれた扉の音に驚きビクリと固まる自分とドーラ公爵。ゆっくり視線を移したその先には
「うむ・・・邪魔であったか?」
筋肉に筋肉を着せた大男、グナイゼナウ大公が仁王立ちしながら困ったように首を傾げていた。
そのダンベルとアメフトが似合いそうな背中に、天使の羽が見えた気がした。
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生きてるってこんなにも素晴らしい。
もう何度目になるのかわからない命の危機の後、ズカズカドカドカ入ってきたグナイゼナウ大公に興が冷めたのか、「ちぇ」と可愛らしく呟いてベットから降りていったドーラ公爵(もっとも、可愛らしいのは声だけで顔は嗜虐的な笑顔のままだったけど)。
ともかく、ここで選手交代、次は俺が相手だというようにオッサンがそのデカイ体を奮い立たせて自分の前に立つ。
ああ、熱苦しい。
ああ、暑苦しい。
「うむ、改めて見てもやはり人間なのだな。こんな包帯だらけでなんと弱弱しいことか」
「・・・はあ」
「ともかく、ワシの素直な感想を言わせて頂こう!」
また?
なんて自分が思っていると、ハァァッとおもいきり息を吸い込んだグナイゼナウ大公が、
「だから鍛えておけと言ったではないかっ!」
叫んだ。
えっ! そっちなの?
心で叫んでみた。
「論点はそこではないと思いますぞグナイゼナウ殿!」
別の誰かがダンディーな声で叫んでくれた。ってこの声は
「我々が考えなければならない懸案は付き人殿が人間であったという事実です。身体を鍛える鍛えてないということはこの場において関係ございませぬ!」
ぬっと、少し語気を荒げて喋りながらオッサンの背中から現れたのは、白いお髭が渋みを醸し出す人狼のオジサマ。魔帝国の理性、ダンディーカイテル伯爵その魔(人)。
つーことはあれか、今この部屋(牢屋)には帝国の重鎮が三魔(人)もそろっているのか! どんだけ暇なんだよ。
「あら? カイテル伯爵、場内の騒ぎは収まりましたの?」
「一応はですが沈静化いたしまた。ですが警備の強化、情報の封鎖等の問題はまだ解決しておらぬ状態ですな」
「うむ。閣下の様子はいかがであった?」
「寝室にてぐっすりお休みになられておられるそうだ。周囲も近衛兵を全招集して警護にあたらせておる。」
「うふふ、それは重畳ね。流石はカイテル伯爵、仕事が早いですこと」
「褒め言葉はよろしいですのでドーラ殿も手伝って下され。昨晩の襲撃であらぬ噂が蔓延しておるのだ。このまま放っておい城下まで混乱が波及するという事態になりかねん」
「わかったわ。では市場と城下町の様子を見に行くことにするわ。多少の噂ならばわらわが自ら説明することによって収まりましょう」
「それがよろしいでしょう」
「うむ、ではワシは軍部に行ってくるとしよう。なにやらこちらにもレイモンドがちょっかいをかけていたようなのでな」
「なんと軍にまで謀略を!・・・やはり油断できん男でしたなレイモンド殿は、ですが最早ことが終わった後。落ち着いて対応すればすぐに混乱は収まりましょう」
「ええ」
「うむ」
あの~~~、大事な話合いをするのはいいんですけど、別のとこでやってくれません?
非常に自分、空気と化して悲しいんですけど。
「ところで・・・」
あっ、はいなんですかカイテルさん?
「本当に人間なのだな付き人・・・イッヒ殿は」
なんて表現すればいいのか、苦虫を噛んだ顔って言うのかな? そんな微妙な表情で自分を見つめる白髭のダンディーさん。 とりあえず自分も見つめ返してみた、と
「素直に言わせてもらえば、案外しょぼいのだな」
しょぼい!?
まさかカイテルさんからしょぼいと言われるなんて・・・。
「ふはははははっ、しょぼい! しょぼいかっ! ふはははは」
笑うなオッサン!
「そうね、たしかに味はしょっぱそうね」
笑えないよ吸血鬼! んでしょぼいだから! しょっぱいじゃないから! つーか自分ってしょっぱそうなの!?
ん? どうしたのカイテルさん? なんだか申し訳なさそうな表情だけど。
「失言であったか、気分を悪くしたのならば謝ろう」
「い、いや別にあやまんなくてもいいですけど」
むしろ後ろの二魔(馬鹿)が謝れ! でも恐いから言えません。
は、おいといて。なんでしょぼい?
「ふむ、ドーラ殿から話を聞いた時はどれほどの傑物な人間なのかと思っておったのだが、身体は小さくやはり魔力が感じんからな。想像していた人間像とあまり違っていたので思わずしょぼいと言ってしまったのだ。考えてみれば何度かイッヒ殿を見ているのに、兜が無く、実は人間だったという情報のみで誇大妄想してしまった私が悪いのだな。失礼なことを言ってすまなかった」
頭は流石に下げてないけど、申し訳ないという気持ちが伝わってくるカイテル伯爵の言葉。ここまで真面目にされると
「いえいえ、気にしないで下さい」
としか言えません。
というか、なんだか三魔(人)共、随分自分に友好的(?)だな。もっとこう、死にさらせ人間!火あぶりじゃーとかなるとか思ってたんだけど。
「あら、なんだか疑問がある表情ねイッヒ君」
「えっ?」
相変わらず妖艶な微笑みを浮かべるドーラ公爵の言葉に驚く
「どうして人間だって解ったのに普通に接してくるのか疑問に思っている顔だわ」
心を読まれた!?
「もしくはお手洗いを我慢している顔かしら?」
空気を読め!
「あの、前者です」
でも吸血鬼は恐いから強く言えません。
「うふふ、やっぱりそうなのね。イッヒ君って読めなさそうな瞳なのにわかりやすい目をしてるからおもしろいわ」
「そうか?」
「そうですか?」
「そうとは思えんが?」
グナイゼナウ、自分、カイテルさんが声をそろえてドーラ公爵を見る。ついでに三人(一部魔)の間になんともいえない気まずい空気が漂った。
置いといて。
「ええっと、ゴホン。では聞きますが何故自分が人間でも普通に接することが出来るんですか?」
聞く。回答は。
「だって、それほど違わないだもん」
だもんって、じゃなくて違わない?
「そうよ。髪が黒くて、耳が短くて、目が死んでて・・・それぐらいじゃない。それにねイッヒ君。わらわ達全員が人間を見たのが初めてなのよ。いくら何百、何千年前から人間と敵対してきたとはいえ、随分前から鎖国状態で交流がまったく無かったからねぇ、人間だって言われてもピンとこないのよ。憎悪とか嫌悪感よりも珍しいってのが大部分かしら」
つまり
「珍動物ね」
そりゃねーよ。
でもまあ
「殺されないだけありがたく思っておきます」
「うふふ、そうしておきなさい。でもイッヒ君の正体がわかるまでは監禁させてもらうわよ」
まあそれは仕方がない。
「ドーラ殿そろそろ」
「あら、わかったわカイテル伯爵。じゃーねイッヒ君」
「ではな」
話はこれでお終いといようにゾロゾロと出ていく三魔。扉が閉まる直前に振り返ったドーラさんがチロっと舌をだして笑っていたけど、可愛いいより恐かったです。で
バダン
閉まる扉
ガチャリ
閉じられる鍵
一人になる部屋
「さって・・・と」
バタリとベットに倒れこむ。
なんかこう疲れた。特に吸血されそうになったあたりが疲れた。しっかしなんだか不思議な事になっちゃたなー。異世界に来てアレコレやって仕舞にゃ監禁されてとか、笑えないよなー。いや、笑うしかないのか
「ハッハッハ・・・はぁ」
なーーーにやってんだろ自分。帰りたい、帰りたいなー本当。
と、いつものように軽く鬱になって片目で見上げた天井には
「きひひひ」
自分を見下ろす赤く紅く赤い目が
つーかシュルツのにーちゃんか
はぁ、まだまだ休めそうにないや。
ごめんください。
じゃなくてごめんなさい。
特になにかあるわけでもなく、ただ会話をしてるだけという話でした。
さて、本来であれば感動できるシーンを普通にすっ飛ばしました。なんだかこっちのほうが「この最悪なる世界と」っぽかったので。そしてヒロインは空気
ちなみに冒頭の部分はやりたかったからやりました。お兄さん、濡恵さんファンの方は申し訳ありません(いるのか?)。
次あたりで物語を動かす予定です。あくまで予定です。
ではまた