第三十五幕 親父礼時
―なぁ***。
―なんだい兄貴?
―お前って、誰かを好きになったことあるか?
―いきなりに唐突に突然な質問にビックリだけど・・・そうだなー・・・・・・・・・あっ、無い!
―無いのかよ!?
―無い無い。恋やら愛やらLOVEなんて関係無い人生だって。
―はぁ、お前らしいっちゃ、らしいが・・・寂しい人生だな。
―ハハハ、かもね。まあ自分の場合は、好きになったことが無いつーよりも、好きになろうとしたことが無いって感じかね。
―寂しい人生じゃなくて最悪な人生だなオイ。
―たかが恋愛論で最悪もなにもないって。つーかなに?んなこと聞いてくるなんて、恋でもしたのかよ兄貴?
―ん、ああ、そうだな。恋っつーか、好きな人が出来た。
―・・・そりゃー、なんつーか、なんて祝福すべきか・・・・・・とりあえずはこう言っとこうか、
大丈夫!次があるさ!
―それこそ最悪なコメントだなオイッ!?
■■■
コンコン
「・・・・・・・・・・・・・・・おはようございます。」
誰にでもなく言ってみる。
気分は良くもなく悪くもない感じ、つまりは普通。
なにやら懐かしい夢を見た気がするけど、はて?あれはいつの会話だったっけか?
いつでもいいか。
どうせ夢だし。
それより身体中が軋むように痛い。特に首がってあれ?
ああ、トンガってた帽子兜を装着したまんま寝てたのか自分。コートとかも着たままだし、そりゃー痛くなるわな。演説の時の、といっても数時間前なんだけど、その時の痛みは大分引けてきたのに今度は別の場所が痛いし。
まあ、いいや。
また寝たら治るだろ。
とりあえずは
コンコン
このノックに対応しようか、
コンコン
コンコンコンコン
コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダンダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
大至急応対しよう!!
てなわけで
「開いてますからどうぞー!!」
と、打撃音に負けないくらいに叫ぶ。
と、
ズダガンー!!
と、
あり得ない勢いで扉が開いた。
「おぉぅ!!」
そしてビックリする自分
そりゃビビるって、半ば寝ぼけてる状態だと心臓に悪いって。
だって開いた入り口から筋肉ボディのデカイ存在が入ってきたら、ねぇ?
まあ、
「お休み中失礼しますぞ付き人殿!!」
グナイゼナウ大公なんだけどねっ・・・て
「あの・・・その・・・その手に持ってるのは・・・何ですか?」
思わず聞いてしまう。
何故か入り口に仁王立ちしている猪大公ことオッサン・・・じゃなくてグナイゼナウ大公・・の、丸太のように太い腕の、自分の倍はあるだろう大きさの左手に、握られている存在。
というかガッシリ掴まれている物体×2
を、震える右手で指さして聞いてしまう。
「んっ?、オオ、何、ちょうどこ奴らも付き人殿の部屋に行くと言っておったのでな。ついでに連れてきたのだ。」
そう言って左手を物体×2ごとヒョイと持ち上げるグナイゼナウ大公のオッサン。
連れて来たというか持ってきたじゃん。
「!?!〜〜」
「?!?〜〜」
そして声にならない悲鳴を上げる物体×2
つーかアインスちゃんとツヴァイ君
子猫のように(あながち間違ってない)襟首を掴まれて(片手でどうやって二人も掴んでんだ?)ぶら下がっている二人(二匹?)。相変わらずオセロのような白黒の服に身を包みながら、アワアワと慌てふためいている。ピコピコと忙しく動く四つのネコミミが可愛らしい。
癒されるね。
ではなく、
「はわわわ!」
「あわわわ!」
助けなきゃ。
「と、とりあえずその子達を降ろしてあげて下さい。」
ベットから出つつグナイゼナウ大公にそう言うと、
「オオ!、すまんすまん。」
これまたヒョイと床に二人を降ろすオッサン。
トタ・タトと足を床につけると同時にダッシュで部屋の隅まで移動する白黒オセロのネコミミチルドレン
で、部屋の隅に身を寄せ合ってプルプルふるえてる。
成る程、これが萌えか。
「で、少しよろしくかな付き人殿?」
ズドンと効果音の幻聴が聞こえてきそうな仁王立ち姿のオッサンが自分の視線を遮る。
成る程、これが漢か。
まあ、いいや。
本題に入ろう。
嗚呼でも、その前に
今何時?
■■■
はてさて、部屋の隅で小動物のように(あながち間違ってない)震えていたネコミミチルドレンに聞いたところ、現在の時間はチェルシーさんがこの部屋で食事をしてから三時間程経った頃らしい。だいたい夕暮れまで後二時間ぐらいといったところかね。
まあその辺はいいとして、
「さてはて、いったいどのようなご用件でしょうかグナイゼナウ大公さん・・・じゃなくて、様?」
危ない危ない・・・てかアウトか。
「うむ。いくつか聞きたいことがあってな。」
気にしてないのか。
「なんでしょうか?」
立ち上がり向かい合って尋ねる。離れても身長差で見上げなければいけない自分が悲しい。それよりなによりムサイ。
とかは置いといて。
「うむ。まずは先の襲撃についてなのだが、あの時襲ってきた奴が何か言っておらんかったか?ダレソレの仇ーや、ほにゃらら様の為にーなどと主犯の名前を言っておらんかったか?」
仁王立ちで自分を見下ろしながら聞いてくるグナイゼナウ大公。
う~~ん、あの時ねー。
「え〜〜っと・・・・・・・・・“死ねやー”ぐらいしか言ってませんでしたね、たしか。」
「ふむ、そうか。ではあの男に見覚えはなかったか?反乱の時やラクトアの町で見たりしとらんか?」
見覚えとか言われても逆光で良く見えなかったし、そもそも顔なんか見てる余裕無かったからね。
「申し訳ないですけど分からないです。おそらくは初対面だったと思いますよ。」
「ふ〜む、そうか。手がかりは無しか・・・。」
手がかり、手がかりねぇ。成る程、そういや襲撃してきた奴の黒幕を探すとか言ってたっけかこのオッサン。
「う〜〜む。付き人殿も駄目となると八方塞がりですなぁ。カイテル殿の方も収穫は無しと言っておったし、反乱に加担しておった者どもも知らぬ存ぜぬと言っておるしな。う〜〜〜む。」
う〜む、う〜むと唸る大柄なオッサン
どうでもいいが用件が済んだならさっさと出ていって欲しい。部屋の隅でビクビクしているネコミミチルドレンが可愛そうだ。
「うむ。分からないのであれば仕方あるまい。邪魔したの付き人殿。」
ん?、ああもいいいの?なら早く出てって欲しい。何気にプレッシャーが凄くて恐いんだから。ネコミミチルドレンじゃないけど震えてしまいそうだよ。
「お役に立てず申し訳ありませんね。」
だから話は終わりです的に言う。
「ご用件はそれで終わりですか?」
言う。
「もう一つあるぞ。」
あんのかよ。
「・・・なんですか?」
聞く。尋ねる。問う。
思わず後ずさるってしまいながら言う。
だって、もう一つあるぞって言った瞬間にグナイゼナウ大公の顔付きが変わったんだもん。
具体的に言えば目が据わった感じ。
恐いって。
「なにゆえ付き人殿は台の中なんぞに隠れておったのだ?。襲撃されるのを把握しておったのか?」
上から見下ろすように、頭上から探るように、二つの相貌が自分を睨む。
圧倒されるっていうのはこういうことを言うんだろうね。願わくばなりふり構わず逃げ出したい気分になる。簡単に言えばカツアゲに出会った気分。
「ええっと・・・あれはですね・・その・・把握と言いますか・・・襲撃対策では無くて・・いえ・・一応は防御的な・・・その・・」
だからか回答に困る。恐怖心から頭が回らない。
つーか正直にカンニングする為に潜んでいましたなんて言えないってのが辛い。
いっそバラそうか?
まあ、折角誤魔化せているんだから誤魔化し続けるけどね。
「あれです、あれ、エーリ・・魔帝閣下の指示です。」
まあ、責任転嫁はするけど。あながち嘘ではないし。
「ほう・・・閣下の指示であったか。」
「そうです。まあ、と言いましても確固たる証拠が有るわけではなかったので、衛兵に警護を頼む必要もないかと思い自分が潜んでいたわけですが。」
「ほほう。しかし、わざわざあのような台の中に潜まずとも普通に後ろに立っておれば良かったのではないのか?」
「その通りと言えばその通りなのですか、自分だけが後ろに立っているのも不自然ですし、かと言ってやはり護衛を立たせるのも無駄にものものしくなるじゃないですか。せっかくのめでたい宣言を物騒な警備の中やるのはあまりに無粋ですからね。目立たず、かつ一番閣下の近くに居れる存在と位置。それが自分と、あの演説台の中だっただけですよ。」
嘘有り、本当有り、偽り有り、欺瞞有り、真実有り。
言いわけ、その場しのぎは得意だ。
「ふむ。なるほどの、流石は閣下だのー、勘であろうと対策は怠らず、尚且つワシらに悟られずに処置するとはのー。」
うむうむとしきりに頷くグナイゼナウ大公。気が付けばその身体から発散されていた威圧感みたいなのが消えているね。良かった良かった。
しかしなんでこんなこと聞くのかねって、普通に考えてみりゃー魔帝閣下の演説台の中から付き人が出てくれば不振に思うよな。少なくとも“あいつ何してんだ?”と思うだろ。自分だって演説台の中からミケさんが出てきたら驚く。
もしくは和む。
まあ、いいや。
さて、納得したのか自己完結したのか定かじゃないけど、うむうむうんうんと頷いていた状態から顔を上げて(でもやっぱ見下ろして)自分を見ると
「うむ!よく分かったわい。ではワシは襲撃してきた奴の黒幕を探すのに戻るといたそう。」
そう言ってからグルリと方向転換してズンズンと扉に歩いて行くグナイゼナウ大公。
そのデカイ後ろ姿を眺めていたら
「そうだ付き人殿。あの場で何もできんかったワシが言える立場ではないが・・・・これだけは言わせてくれんか?」
と、振り返りもせずに言ってきた。
あの場って多分、奴隷解放演説のことだろうけど
「どうぞお構いない。」
なんだろうね?
「お主・・・もう少し鍛えてはどうだ?せっかく閣下の近くにおるというのにアレでは宝の持ち腐れであろうが。」
ああ、たしかに逃げ回ってただけだもんな。つーか護衛というより肉の壁って感じになってたし。
「魔力が無いのであれば剣を持ってみたらどうだ?なんならワシが直接鍛えてもいいが、どうだ?」
いや、どうだ?とか言われても、あんたに鍛えられたら訓練中に事故死するって。というより人間だとバレちゃうから
「ありがたいお言葉ですが、遠慮させてもらいます。」
却下です。
「ふむ・・・強くなりたくはないのか?」
「強くなる必要がどこにあるというのですか?」
「閣下を守る為には強さも必要であろう?」
「自分はあくまで閣下の付き人です。護衛ではありません。」
「だが演説中に襲われたではないか。」
「あれは運が悪かっただけです。あのように自分が閣下の盾になる事態はそうそうありません。」
「弱いままの己を変えたいとは思わんのか?」
「身分相応。自分は今の状態が自然体なんです。背伸びなんかしても疲れるだけですから。」
自分は背中に、グナイゼナウ大公は扉に向かって言う不思議な会話
薄暗い室内に噛み合わない意見だけが響く。
「身分相応か・・・だがそれは逃避であろう。心が脆弱だから逃避を選ぶ。時として弱さは罪となるぞ。」
「弱くて結構。過ぎた力よりはマシです。」
「それは欺瞞であろう。弱さを認めるのは信念ではなくただの卑屈だ。」
「卑屈のどこが悪いのですか?傲慢よりはマシです。」
平行線を地で行く会話
鍛えようかという提案から、何故こんな内容に錬金されたのかはなはだ疑問だね。
と、
「ふはは、ふははは・・・弱くて結構、卑屈のどこが悪い・・・か。なるほどの〜ドーラの奴が気に入るわけだ。ふははは、最強たる閣下の隣にはお主のような存在がふさわしいのかもしれんの。」
突然豪快に笑いだしたオッサン。どこぞの悪役の笑い声っぽい
つーか、エーリカが最強って、あれはただの馬鹿だろ。
なんて現実逃避してると
「ふははは、弱者は弱者らしくか・・・なるほど、なるほどのぉー。ではワシもワシらしく愚直に強さを求めるとしようかの。その為にもとっとと黒幕を捕まえねば。ふははは、強さを認め弱さを認め、矛盾しつつ明朗で、混沌としつつ簡潔か・・・ふはは面白い。ふはははは・・・ゴホン!・・・・・・では、邪魔したの付き人殿、今後の閣下の為にしかりと養生せい。」
笑いながら自己完結して、部屋から出るために会話を自己完結して歩きだすグナイゼナウ大公。
自分はその背中と焦げ茶色の髪をただ目で追うことしかできない。てかしない。
結局。再び話し掛けることもなく
ガチャリ
と扉を開け
ズンズン!
と部屋を出て
バッタァーーンッ!!
無駄に豪快に閉めていった。
部屋に残るのは恐怖の残骸
けれどこれで一安心。
というか疲れた。
嵐みたいな存在だなあのオッサン。荒らすだけ荒らして自己完結して帰りやがった。
「あ、あの〜。」
「あ、あの〜。」
しかし強さ・・・強さねー。やっぱり剣を持った方がいいのかな。いや、でも普通に使えないだろ。それに訓練する暇があったら日本に帰る方法を探した方がいい。
「イ、イッヒ様〜。」
「イ、イッヒ様〜。」
第一、いくら鍛えても本職に勝てるわけがねーじゃん。夢を見るより現実を見なきゃ。あーあ、どっかに転がってねーかなー・・・ピストル。
「イッヒ様〜〜。」
「イッヒ様〜〜。」
AK47とかS&Wとかさあ。三八式歩兵銃でもいいや。飛び道具なら安心だ。
まあ、実際は生き物になんか撃てないと思うけどね。
だからスタンガンあたりが「「イッヒ様!!」」
うわぁぁぁ!
こっ、鼓膜が・・・しかも両側からステレオで・・・破れてないよねっ・・・て
何事?
「「き、気付いてくくれれましたかイッヒ様?」」
いや、気を失うところだったよネコミミチルドレン。なんで自分の鼓膜を両側から超音波攻撃するんだよって・・・
そういや居たねお前等、ゴメン普通に忘れてた。
で、
「どうしたの?」
紳士に対応
怒りませんネコミミだから。
「「え、え〜〜っと、その、え〜っと」」
アセアセと、自分の前に並んでツヴァイ君が両手を挙げればアインスちゃんが両手を下げ、アインスちゃんが挙げればツヴァイ君が下げるを繰り返しすオセロネコミミ。
お前等それわざとやってないかというコンビネーションだ。
だからどうしたって感じだけど。
で、
「だからどうしたの?」
ピタッと同時に動きを止めるネコミミオセロ。そして相変わらずオロオロしながら声をそろえて
「「エ、エーリカ閣下がお呼びになられておられてまます。」」
と言った。
んじゃ、エーリカのとこに、なられておられに行きますか。
■■■
てなわけで、ネコミミチルドレンの案内のもと、部屋を出て右、つきあたりを左、階段を下りて右、また階段を下りて左、真っ直ぐ行き三つ目の扉を開けてたどり着いたのは、城の中にある医務室(偉いさん用)
安静できないだろ言いたくなる程装飾が施された部屋で、安静ってどういう意味だっけかと思ってしまう程に豪華なベットに、安静させたいのかと疑問に感じてしまう程、ミケさんにアレコレ御世話されてるミイラ女がそこに居た。
訂正
これでもかと包帯にグルグル巻きにされ、かろうじて金髪と碧眼と輪郭からエーリカだと判別できるミイラ女がそこに居た。
「お呼びでしょうかエーリ・・・魔帝閣下様?」
一応礼儀正しく挨拶する。
と、
「ヴー!ヴーー!ヴゥゥーウゥゥ!」
いや、せめて口の包帯は取れよ。
仕方ない、こういう時の念話だ。
『あー、あー、聞こえますかエーリカさん?』
目と髪だけ出したミイラ女に問い掛ける。
と、
『い、息が!、呼吸をさせてくださいぃぃ!』
・・・・・・
窒息しかけてんじゃん!
■■■
そげなわけで、
急ぎ顔面の包帯を排除して九死に一生を得たエーリカさん。
その時のすったもんだは割愛して。
エーリカさんを助けようとした自分と、エーリカさんを守ろうとしたミケさんとのくんずほぐれつ(誤植有り)のバトル・・・を目撃したあげく壮大に桃色な勘違いをしたチェルシーさん達との珍騒動は忘れて。
『それで、自分を呼んだ理由はなんですかねエーリカさん?』
ある種の癖となった念話で会話する。
ちなみに、ミケさんと気が付いたら(もしくは最初から)いたきひひことシュルツのにーちゃんにネコミミチルドレンは医務室(偉いさん用)の前でお見舞い客を追い返している。
反乱に同調していた連中が印象を回復しようと大量に押し寄せてうるさかったからね。
面倒だから、
“閣下はもう医務室(偉いさん用)には居ません。寝室に戻られてお休みになられております”
って言ってるみたい。しかも寝室に行けばチェルシーさんが
“只今閣下は就寝中です。お帰り下さい、つーか淑女の寝室に来るんじゃねーよ変態!”
と、待ち構えている(後半は想像です)。
まあ、それは置いといて。
なんの用?
『えっと・・・一言お礼を言いたくて。』
上半身だけ布団から起き上がらせて自分を見つめるエーリカ
首から下がミイラ状態なのはご愛嬌。そんな黒色寝間着ミイラ女を立ったまま眺める自分。トンガってた帽子兜と眠たそうな目付きは普段通りだね。
つーか、
「なんで念話で会話してるんだろ自分ら?」
「そ、それはイッヒが念話で始めたからです。」
そういやそうでした。
今は自分とエーリカさんしかいないんでしたねこの部屋、つい癖で。
本題に戻して
「お礼とは・・・なんのお礼ですか?」
今度はちゃんと声帯を震わして聞いてみる。
「私を助けてくれたお礼ですよ。」
と、微笑みながらきちんと空気を振動させてエーリカはそう言った。
「成る程、つまりエーリカさんはお礼を言う相手をわざわざ呼び出せる程偉いわけだ。自分から出向くことなんかしないわけですね。」
「なっ!ち、違いますイッヒ!それだとまるで私が嫌な性格をしてるみたいじゃないですか。イッヒを呼んだのはミケが私をここから出してくれないから仕方なくです。それに一応私は偉いです!」
偉くても一応なのか
いやまあ、エーリカが嫌な性格をしてないのは理解してるけど、なんとなーく言ってしまったんだよね。
なんでだろ?
まあ、いいや。
ともかく
「お礼なんていらないです。アレはただの偶然です偶然。正直に言いますけど、あの時エーリカさんを助けようなんてほとんど思ってませんでしたからね。よく分からないけど逃げようとしたらたまたま襲撃者とエーリカさんの間にはいっちゃっただけです。それに襲撃者を倒したのは結局エーリカさんじゃないですか。だから自分にお礼を言う必要なんてありませんよ。」
まごうことなき本音で話す。
顔に自嘲の笑みを貼りつけて本意を囀ってみた。
すると、
「うふふふふふ。」
楽しそうに
まるで子供のように笑いだすエーリカ
爆笑でもなく
嘲笑でもなく
楽しそうに
優しそうに
笑いだすエーリカ
思わずキョトンとする自分。いったい何がそんなに面白かったんだろうか?
「な、なんで笑うんですか?」
だから聞いてみた。
答えは
「ふふ。なんかイッヒらしなーって思ってね。」
らしい・らしく・イッヒらしなー・・・ね。
納得できるようなできないような。
まっ、いいけどね。それに
「ふふふ、それじゃあ私のお礼はただの自己満足だと思って。私の我が儘でするお礼です。」
こんなこと言われたら、ねぇ?
「・・・はぁ。別にいいですけど。」
こう言うしかないじゃん。
しかし、我が儘でするお礼・・・ねぇー。あのエーリカがこんなこと言うようになるなんて、成長したのか、生意気になったのか、元に戻ったのか。殺されそうになってから1日も経ってないのに平気そうにしている姿からは判断がつかないけど、
まあ、いいや。
「ふふふ。」
自分の解答に納得したのか、それすらも“らしい”と思ったのか定かじゃなが、やっぱり微笑み笑いながらベットから出るエーリカ。そのまま自分の2メートル前までスタスタと歩き、
ピタリ
と、立ち止まる。
必然的に向かい合い自分とエーリカ。エーリカの碧眼に自分の姿が写り、自分の沈んだ瞳にはエーリカの金髪が写った。
そして
「ありがとう。」
と、頭を下げた。
あっ、寝癖発見・・・は気にせずに
「偶然でもたまたまでもいいです。イッヒが私を助けてくれた、そう私は思った。だから言います。
助けてくれてありがとう。
イッヒは私の命の恩人です。だから 」
だから、
だからと
エーリカさんは頭を上げ、真っ直ぐに自分をその綺麗な碧眼で見つめ
「イッヒは私が必ず元の世界に帰します。
もらった恩は、絶対に返します。
今度はイッヒが幸せになる番です。」
そう微笑んだ。
さて、
いったい自分はどう反応したらいいのだろうか?感動して泣けばいいのか、冗談が上手いなぁーと笑い飛ばせばいいのか、ちょ!誰か聞いていたらどうするんですかと、慌てればいいのか。どれが自分“らしい”かな?
「・・・・イッヒ?」
まあ、そんなのを考えてもせんなきことなので、うしっと、
じゃあこう言っとこうか
「期待しないで待ってますよ。」
ってね。
■■■
てなわけで、
あんまり自分らしくない会話と、エーリカらしくない行動をした後
適当にダラダラ今後の予定についてや、日本の国家のしくみや、ミケさんにはショートとロングのどっちが似合うかなどを二人で話し、気が付けは食事の時間で、ダラダラと夕飯を食べ、またダラダラと話し会話し、そして笑って
「それでじゃ、自分はもう寝ますね。」
と、部屋を後にして自室に戻り
バタリと服も帽子兜も脱がずに倒れこんだ。
演説から始まり、死にかけ、オッサンに威圧され、エーリカに感謝された、
長い長い1日を終えることにした。
でもこれだけは言っておこうかな
「帰りて〜〜。」
陳謝
というわけで三十五幕でした。
すいません物語が進まなくて。
さて、一応この物語のコンセプトとして成長しない主人公というのがあります。なのでこの三十五幕まで至っても一切成長せずに、武器も持たずに、魔法なんてもってのほか、いつまでも帰りたいと愚痴をこぼす主人公です。その代わりにヒロインが成長していきます。今回のお礼は小心者だったエーリカが気が付けば主人公を追い越して立派になっていた的な感じに書きました。まあ、まだまだダメダメなんですけど。
ちなみに前半のオッサンはなんか寂しかったので書きました。ふはははは。
とりあえず終わりが見えてきた気がしますので、どうか最後まで楽しんでいただけたらうれしいです。
蛇足なのですが・・・何故かヒロインであるはずのエーリカに対するコメントが無いのですが・・・何故でしょうか?もしかしてヒロイン失格でしょうか?
名ばかりヒロイン?
そんな不安におそわれていますが、次回もよろしくお願いします。