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第三十四幕 焼肉底食

「お〜〜い、ミケ〜〜。」

「なんじゃーお前様ー?」

濡恵ぬえじゃねーよ。ミケだよミケ、三毛猫のミケっ!それとお前様と呼ぶなって何回言ったら解るんだよ!」

「あぁ、あのツンデレ猫か!」

「家で飼ってる猫をツンデレとか呼ぶな!」

「しっかしの〜、あんなふてぶてしい猫のドコが可愛いいというのじゃ?普段は人を小馬鹿にしとる癖に甘える時はベッタリと甘えてくる猫なんぞ。」

「いや、***が言うにはそこが可愛いいんだと。自由気ままに生きる姿が好きなんだとよ。」

「ふむ。まあ好み趣向は人それぞれじゃからの。ところで、さっきからなにゆえにミケを探しておるのじゃ?」

「ん、ああ、餌の時間になっただけだって。もうこの猫缶の蓋を開けちまったからさっさと食べさせたいんだよ。」

「ほほう、どうりで旨そうな匂いがするわけじゃ。」

「・・・食うなよ。」

「馬鹿にするでない!もう二度と食わんわ!」

「・・・やっぱ一度は食べたのか。」








■■■ 








薄暗い室内

豪華な装飾が施されてはいるが殺風景なその部屋の中央には、両腕で腹部を押えてうずくまっているヘンテコな帽子兜を被った男

その目の前には右の拳を握りしめて立つ、氷塊のような視線の無表情なミーキャット族のメイド


「・・・な、なんで殴るんですかミケさん?」

「申し訳ございませんイッヒ様。なにやら失礼なことを言われた気がしましたので・・・つい。」



えぇぇー!?




■■■




さて、痛みを誤魔化す為に現実逃避《回想》でもしますか。


あの後、襲撃され、殺されかけ、死にかけた後。うろ覚えの原稿を思い出しながら、ほとんど適当にやり通した奴隷禁止宣言

所詮、自分の記憶力と素人の文章能力じゃあ完璧な宣言なんて出来るわけもなく、グダグダ・・・とまではいかないまでも、穴だらけ隙だらけの演説になってしまった。

まあ、襲撃を受けた直後に無理を通してやった、ということでその辺は大目に見てもらおうか。

それに、集まっていた群衆達は演説の内容よりも、ボロボロになりミケさんの肩を借りつつも気丈に振る舞うエーリカさんの姿に感銘というか、感動っぽいものを受けていたようだしね。今思い出すだけでも鼓膜が痛くなる。それだけの歓声を最後にされたら細かいことなんか気にしなくなるさ。

そう。終わった事は気にしない。

最後までやり通したんだからーーまあ、いいや。

大成功だったつーことでひとつ。


とかのんびりしてはいられなかったみたい。

そりゃそうだ、いくら群衆ーというか城下町全体が奴隷禁止宣言に盛り上がってお祭り騒ぎになっていても、いくらエーリカさんが最後まで責務を全うしても、いくら魔帝閣下が無事だったとしても、


エーリカさんが襲撃された事実は消えて無くならない。


むしろドーラ公爵達にとってはそっちの方が重要だったみたい。

演説を終えて大歓声と魔帝閣下万歳を背にヨタヨタと矢倉から降りた自分達を待っていたのは、エーリカを称える拍手でもなく、ましてや労をねぎらう言葉でもなかった。

「「「お怪我は、お怪我はごさいませぬか!?」」」

という心配の声と

「「「申し訳ございませんでした!」」」

という謝罪の声

前者はドーラ公爵やメイド達といった女性陣

後者はカイテル伯爵や警護を担当した男性陣

グナイゼナウ大公にいたっては

「必ずや襲撃した男に黒幕がおる筈です!ワシの命に代えましても探しだして閣下の前に連れてきまする!」

と叫び、屈強な兵士達と駆け出していく始末。

その暑苦しい背中を見送っているうちに、腕やら顔についた擦り傷を見て悲鳴を上げる彼女(チェルシーさんを含む)達によって城の医務室まで強制連行されていくエーリカ。

突撃ぃーとでも幻聴が聞こえてきそうな勢いで、土ぼこりを巻き上げながら城に向かっていく集団はある種の恐怖だね


それに、やっぱりミケさんにお姫様抱っこされてた。


そりゃねーって・・・




ともかく、ドーラ公爵達は医務室へ、グナイゼナウ大公達は街へ、カイテル伯爵達は襲撃者の死体の検分・・・ウォェ・・・内臓・・・グロ・・血溜まりの中に・・・


と、とにかく。

トラウマ映像はひとまず置いといて、一応襲撃された当事者なのに空気のようにされるという高度な放置プレイに寂しくなりながらも、エーリカの後を追って城内に戻りましたっと。


泣いてなんかないさ。


まあ、そんなこんなで演説会場から離れ、城の廊下をシュルツのにーちゃんに肩を借してもらいながら歩いていたら、ふと。

ふと気付いた


『あれ?、医務室に行ったら人間だってバレるんじゃないか?』


忘れそうになっていたけど、ここは魔人やら魔族のテリトリー。人間だってバレたら断頭台まっしぐら、浪花のことも夢のまた夢、露と落ちて消えてしまう。

そうなったらマズイので、マズイどころの話じゃないので

「ありがとうございますシュルツさん。自分はもう大丈夫ですのでエーリ・・魔帝閣下のもとに行ってもらえますか?」

銀髪赤目のにーちゃんを追い払う。

一人にならないと怪我の確認すらできないからね。

「どこからどー見ても大丈夫じゃねーだろ旦那ぁ。つーか伯爵連中も冷てーよなぁ、閣下の命を救ったってーのにねぎらいの言葉ひとつイッヒの旦那に言わねーとかよぉ。」

うん。自分もそう思う。

でもさー、自分から褒めて褒めて、と言うのもアレだから言わないけどね。

ついでにシュルツのにーちゃんだってねぎらいの言葉を言ってないでしょうが。

仕方ない、自分で自分を褒めようか。良くやった自分!頑張ったね!エライエライ!やっぱお前が一番だ!よっ大統領!

うん。むなしい。


まあ、いいや。


「別にだれかに褒められたくてやった訳じゃないですからねぎらいなんていいですよ。」

これは本音、あれはただの偶然だからね。

「きひひ、流石はイッヒの旦那ぁ。俺と違って欲がねーや。」


欲が無い・・ね。無いというよりかは欲を持っても意味が無いだけなんだけどねー。金やら名誉があっても使い道が無いし。

まあ、労いうんぬんともかく

「とにかく自分は大丈夫ですからシュルツさんは仕事に戻っていいですよ。」

そう言って肩にまわしていた腕を外す。まだ身体中いたるところがズキズキ痛むけれど、それを表情に出さないようにして“では”と、密着していた状態のシュルツのにーちゃんから身体を離す。

っと、おっとっとっと。

「オイオイ・・・本当に大丈夫かよ?軽い怪我でも放っておくと後々恐いぜ?」

「大丈夫ですって。それにほら、自分には医務室より行きたい場所があるんで。」

「あぁ?ドコだよそこは?」

「自分の部屋。」

「は?」

「痛いのは痛いですが、とにかく疲れました。今は横になって寝たい気分なんですよ。」

これ本音

精神・肉体共にいろいろあって疲れました。

「きひ、きひひ、きひひひひひ。相変わらず読めねー奴だな旦那は。強がってんだか億劫屋なのかわけわかんねーよ。まー旦那が良いなら良いんだろうさ。」

そう笑いながら肩をすくめるシュルツのにーちゃん。

基本的にいつも笑っているけど、今は多分呆れて笑っているんだろう。

「うしっと!んじゃ俺は閣下の所に行ってくるぜ。一番おいしいトコはイッヒの旦那に持ってかれちまったからな、少しでも好印象になるようにちょっくら点数稼いでくらぁー。」

グルリと首をまわしてそう言った銀髪赤目のにーちゃんは、そのまま自分に背を向けると、シュタタタと音を立てながら廊下を駆け抜けて消えてった。

流石に場内の移動には天井裏を使わないみたいだね。

でもこれだけは言わせてくれ。

「廊下は走るな!」


異世界でもこれ常識




■■■




そんなこんなでやってきました自室前

魔帝閣下暗殺される(未遂)の影響なのか、いつもの五割増しの喧騒に包まれた廊下を歩いて辿り着いた自室の扉前だ。

まあだからどうしたって感じだけどね。

別に何かあるわけでもないのでノックもせずに扉を開けて中に入る。

中に入ったら


  ズドム 


鈍い打撃音が聞こえきた


自分の腹部から


「ぐぇ!」


汚い呼吸音が漏れた


自分の口から




■■■




そして冒頭に戻る

そして現在に至る


「・・・な、なんで殴るんですかミケさん?」

「申し訳ございませんイッヒ様。なにやら失礼なことを言われた気がしましたので・・・つい。」


というわけである。

いや、どういうわけだよ!?

わけわからん。

とかまあ考えても仕方が無いので、腹を押えてうずくまった姿勢から目の前の襲撃者ミケさんを見上げてみる。

視界に写るのは握り締められた拳と冷たい眼差しの両目・・・と、僅かに輝く気高きネコミミにほのかに煌めく美しき尻尾。

神の創りし至極の宝石がそこにはあった。


うん許す。


ということで、鈍痛を訴える腹部を無視して立ち上がり、襲撃者ーーミケさんと向かい合う。

“つい”なんていう恐ろしい理由でボディブローをかましてきたネコミミメイドさんと相対してみる。

うん、今日も素晴らしいネコミミだ。

ではなく、

「え〜〜っと、この過激な愛情表現のことはとりあえず置いておきまして・・・どうしたんですかミケさん、たしかエーリ魔帝閣下の側についていたはずじゃぁーなかったんですか?」

「シュレディンガーです。先ほどの失礼を愛情表現と言われましたことは置いておきますとして、この場に居る理由といたしましては、エーリカ様にお願いされたからでございます。」

「?、いったい何をお願いされたんですか三毛さん?」

「シュレディンガーです。はい、イッヒ様の怪我の様子を見て来るようにお願いされました。」

「・・・怪我の様子を見にきたのに殴ったんですか魅家さん?」

「シュレディンガーです。いいえ、親愛表現でございます。」

「なるほど、でしたら納得です。ところで見気さん、もう一つ質問があるんですけど。」

「シュレディンガーです。なんでございますでしょうか?」

「どうしてこの部屋に居たのですか観袈さん?しかも自分より早く。」

「シュレディンガーです。イッヒ様を探しておりましたところ偶然シュルツ様とお会いしまして、イッヒ様がお部屋に向かっていると聞いたため、全速力で先回りいたしました次第でございます。」

「なるほど、でしたら納得で・・・・・いや、なんで先回りしたんですかMIKEさん?」

「シュレディンガーです。・・・・つい。」

「なるほど。」


つい・・・か、




えぇぇー?


いやいや

いやいやいや

“つい”で先回りして

“つい”で殴るなんて

どゆこと?

意味不明で理不尽過ぎる!つーか、そんなキャラでしたっけかミケさん?しまいにゃ自分だって怒るぞ。

まあ、ネコミミに免じて許すけど。


まあ、いいや。


いい加減に本題を話そうか。

「ではミケさん。愛情表現と先回りの件は無かったことにするとして、とりあえず魔帝か・・エーリカさん(アレ?)には大丈夫ですと伝えてもらえますかね。怪我という怪我もないですし一応は健康ですと。まあ、身体中に痛みはありますけど一晩眠れば治るでしょうと。」

「かしこまりましたイッヒ様。それとシュレディンガーです。」


そう言って

自分は声を出さずに笑い、ミケさんは声も出さずに無表情を貫いた。

うん、なんか久しぶりの感覚だ。

胃が少し痛むのは殴られたせいだと思いたい。


まあ、いいさ。


「確かにイッヒ様からエーリカ様への言伝をお預かりいたしました。それでは失礼いたします。」

と、華麗に清楚にお辞儀をしたミケさん。そのまま自分の横を通りすぎて扉まで歩きドアノブを掴んで開け・・・

「そういえば、」

ない。

開けずに、ドアノブから一旦手を放して自分に振り向き

「これは個人的なことなのですが、」

真っ直ぐ自分を見つめ、自分と相対するように、自分と向かい合って


「エーリカ様を助けていただき、


ありがとうございます。」


深々と、深々とお辞儀を、礼を、御礼をしてくれた。

初めて真正面から御礼を言われた。

初めて労われた。

ああ、なんだろう、なんというか、なんつーか、なんかむずかゆい。

こう嬉しいというか、恥ずかしいというか、落ち着かないというか

けどまあ、

いいね。

少なくとも自分で自分を労うよりかはいい。

全然いい。 

ちょっと嬉しい。



てーかアレか、デレ期か!デレ期到来か!?ツンツンが遂にツンデレになったのか!?ミケさんルートに突入なのか!?そうなのか?フラグはどこだ!選択肢は何だ!?分岐点はどこだった?どうする?ここはどう反応する?大したことじゃないですよと爽やかに強がるか!?男を見せるか?いやいやいや、逆に怖かったですと本音を暴露するか?母性本能をくすぐってみるか?いやいやいや、あえて冷たく


バタン


・・

・・・・・

・・・・・・・


あ、

テンパってる間にミケさん出ていっちゃった。

馬鹿なこと考えてる間に帰っていっちゃった。

仕方ない


「どういたしまして。」


言ってみる。

無機質に無駄に立派な扉に言葉を投げ掛けてみる

反応も期待せず、 

届くことすら期待せずに




まあ、いいや。


さて、思いがけないアクシデント(暴行傷害)とサプライズ(蟻蛾党)に驚いたけどいい加減この部屋に来た目的を果たそう。

そう!

「寝よ。」

睡眠だぁー!


というわけで、クルリと振り向いて扉を背に部屋の窓際まで歩く

まずはカーテンを閉めてサンサンと降り注ぐ太陽(×3)の日光を遮り部屋を暗くしようかって・・・もう閉じてあるし。

一体だれがっ・・・て、ミケさんだろうなぁー、殴った瞬間を見られないように閉めたんだろう。

アレ?もしかして計画的犯行だったのか?“つい”じゃなかったの!?

・・・考えないようにしよう。

んじゃ、カーテンはいいからこの着ているコートを脱いでっと、トンガってた帽子兜も取っ〈コンコン!〉たらアウトォー!

危ない危ない人間だとバレるとこでした。まあ、兜の下にはバンダナを巻いてるんだけどねって

ノック音?


ガチャリ

「失礼いたします。」

振り返った先にいたのは銀色のカートを押して部屋に入ってくるツインテールのメイド

つーかチェルシーさんじゃん!何用よ?

いやその前に自分、部屋に入っていいとは一言も言ってないからね。

「お食事をお持ちいたしました。」

ああそう。貴方は最低限のマナーを持った方がいいと思うけど。

「・・・・・」

とりあえず抗議の意味を込めて黙ってみる。

「・・・・・」

「・・・・・?」

「・・・・・」

「いかがいたしましたでしょうか?」

「・・・・・」

「・・・・・!」

「・・・・・」

「・・・失礼してよろしいでしょうか?。うん、入っていいよー。」


自分で言いやがったこのメイド!!

ビックリだ! 

「お食事をお持ちいたしました。」

そして繰り返しやがった。


もう、いいや。

「あ〜〜、お勤めご苦労様ですチェルシーさん。とりあえず献立はなんですか?」

正直あんな襲撃者の死体を見たばかりだから食欲なんてないんだけどね。

「子タブの丸焼きです。」

アウトォォォー!!

待て!待て待て待て待て、ちょっと待て!

よりにもよって丸焼き!?

うわ〜、なんかちっこい猪みたいのが丸ごと皿にのってるし・・・しかしよく焼けてるね。まるで反乱の時に見た焼死体みたいだ








ウォェ




「!!、どうしましたイッヒ!?大丈夫ですか!」

突然慌てるチェルシーさん。

そりゃそうだ、なんって自分が口に手をあてていきなりしゃがみこんだんだもの。

だって眼球に写りこんだ光景が気持ち悪くて、気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪くて気持ち悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い悪い。

トラウマがフラッシュバックして

過去の映像が内臓と脳髄をシェイクする

嘔吐感に脂汗がギチギチ音を立てる。

グチャグチャとガリガリとバラバラとザクザクと心が記憶に磨り潰される。

「ハハ、ハハハ、ゲェ、ハッ・・・」

苦しいとも辛いとも違う

恐ろしいや怖いでも無い

ひたすら何かが何かを自分の中で何か掻き乱す

「だ、大丈夫!?今医者をー」

「大丈夫で・・・す。」

それを耐えて我慢する。

駆け寄ってきたチェルシーさんを手で制する。

無理して無茶して強がる。

だってこのまま医者なんか呼ばれたら人間だとバレる。そしたら今までの苦労が水の泡だからね。

「ハッ・・・ハハ、もう大丈夫です。いやちょっと昨日の夜遅くまで奴隷解放宣言の打ち合わせをしてましてね、疲れが溜まってたみたいなんですよ。ハハハ。」

立ち上がりながら言う。

でも足が震えるから仕方なくベットに腰掛けて座る。

ゼーハーゼーハー荒い呼吸だ。

多分どっからどう見ても大丈夫には思えないだろうね。

「・・・・・・」

ほら、チェルシーさんが訝しげに見てる。

「・・・お食事の方は如何いたしますか?」

あれ?以外と冷静だこのツインテールメイド。

「食欲が無いんでいらないです。」

まあ、だからといって食べれる状況じゃないけど。ましてや丸焼きなんて、どんな拷問だよ。

「では私が食べていいですか?」




「・・・は?」


なんつったこのメイド?

自由にも程があるだろ。

「お昼まだなんですよ私。」

だからどうした?

あり得ないだろ普通、少なくとも食欲が無い本人に聞くか?

あまりのアグレッシブさにちょっとだけ気分が良くなったよ。

ザ・ショック療法

「いですか〜?駄目ですか〜?」

「・・・どうぞお好きなように。」

「では有り難く頂戴いたします。私好きなんですよこの子タブの丸焼き!」


自分は嫌いになったよ。

はぁ、なんか落ち着いてきたけどー釈然としない。


見れば既にパクパクと食べ始めているチェルシーさん。メイドなのにエーリカみたく無駄に上品に食べているのにちょっと驚き。

しかしこのチェルシーさん。たしか初めて会った時はセミロングだった気が・・・まあ女性のお洒落ってそんなもんか。

「パクパクパクパク」

しかしよく食うね。

自分がいるのに気にならないんだろうか?

ならないんだろうなー。

「パクパクパクパク」

メイドがちっこい猪(っぽい動物)の丸焼きを食べる。

シュールだ。

元の世界じゃ絶対に見れない光景だな。別に見たくはないけどさ。

元の世界か・・・とっとと帰りてーなー。帰る方法どころか、来た方法も理由もわからないとかどうすりゃいいんだよ。まだ魔王を倒せとかの方がマシな気がするぞ。エーリカだったら楽に倒せそうだし。

まあ冗談だけど。

「ふぅ・・・美味美味微妙。」

考え事してる内に食べ終えてるし、滅茶苦茶に速ぇーな食べるの、つーか最後は微妙かよ。謝れ、コックに謝れ。そして無駄に上品に口元を拭うのが軽くムカつく。

「ありがとうございますイッヒ様。お陰様で飢えから救われました。」

飢えとか言ってる割にはミケさんと比べて随分と軽い“ありがとうございます”だなー。

まあ、いいけどね。

「どういたしまして。お役に立てて何よりです。ああそうだチェルシーさん。」

「はい?なんでございますでゲプッしょうか?。」

彼女も女性だ、途中のはスルーしてあげて

「一応自分が食べなかったことはエー魔帝閣下には内緒にしてもらえますか?心配をかけたくないので。」

「かしこまりました。」

うん、声だけ聞くと安心できるけど、左手でお腹をさすりながら満腹満腹って呟いてるので台無しだ。

大丈夫か?

「ご安心を。このチェルシー・トルバンフォの名にかけましても秘密は厳守いたします。」

別にそこまでしなくても、しかも知りたくもなかったフルネームまで教えてくれたし。

「何よりイッヒ様が食べなかったと分かれば、必然的に私が食べたことが発覚してしまいますから。」

納得。

「なら安心です。そこまで考えているなら大丈夫ですね。」

「お任せ下さい。私とて四六時中破廉恥なことを考えているわけではございません。」

わーいい笑顔。

すっげー不安になるね。そういえば変態だったかこのメイド。

「・・・頼みましたよ?」

とりあえずはもう一度言っとく。あんま意味が無さそうだけど。

「はい。では私はこれで。」


と、いつの間にか食べ終えた食器類をカートに戻して退出しようとするチェルシーさん。

「あっ、すいませんイッヒ様、扉を開けてもらえますか?」

「・・・!?」

なんでこのメイドはクビにならないんだろうか?

大胆不敵というか自由奔放過ぎるだろ。

でもまあ、

「どうぞ。」

ガチャ

「ありがとうございます。」

開けてしまうんだけどね。


んで、トタトタとカートを押して部屋から出ていくツインテールの後ろ髪を眺めながら考えてみる。

アレはアレで優秀なんじゃないかと

なんだかんだで気分も落ち着かせてくれたし。いや、元凶を持ってきたのもあのメイドだけど・・・まあ、いいや。

悪い存在じゃーないだろう。少なくともエーリカの前ならおとなしく・・・いや、ドーラ公爵がけしかけてきた時もこんなだったな。いやいや、逆にアレみたいに自由奔放な方がいいんじゃないか?

右に冷静沈着、完全無欠ミケ・シュレディンガー

左に自由奔放、大胆不敵チェルシー・トルバンフォ

みたいな?


冗談はこれまでにして

「さてと。」

ガチャリと扉を閉める。

薄暗い部屋の中、ようやく一人っきりになれた。

でも

「一体どうすればいいのかね?」

答えは見つからない。

一人になってしまうといつも思う。いつも考える。いつも苦悩する。帰る方法を、自分の存在理由を、理不尽な環境を、理解不能な全てを

楽しいかもしれないし、順応できたかもしれないけど、所詮住む世界が違う。文字どおり世界が違う。

いつかきっと破綻する。

だから、

その前に帰らなきゃ。

でもどうやって?

一体全体ドコで誰と何をすれば帰れるんだろうか?


まっ、ともかくそれは置いとこう

そんなことは後回しにしよう

今はとにかく



「寝よう。」



























「ん?、あれ?、これは。・・・」

絨毯の上に見つけたのは一本の茶色くて極細の長めの紐 

つまりは髪の毛

おそらくツインテールメイド、チェルシーさんの髪の毛


しかしなんで先端・・・いや根元か、根元が金色なんだ?

もしかして地毛は金髪だけどわざわざ茶髪に染めてるのか。

なんで?

「ホント、女性のお洒落は摩訶不思議だ。」


むしろチェルシーさんが理解不能なのか。

まあ、いいや。

寝よ。

後面菜差胃

ごめんなさい

ということで、久しぶりの更新でした。全然ストーリーが進みませんね。

さて、後半に登場したメイドのチェルシーさんですが、結構最初から登場してる古参だったりします。シュルツのにーちゃんよりも初登場は早いです。で、読み返したらなんとセミロングって書いてありビックリ!、ヤバイと思い髪型を変えたと書いたという次第です。なんでツインテールにしたんだろう?

どうでもいいか。

はてさて、冒頭での兄と彼女の馬鹿会話ですが、これが主人公がミケさんをシュレディンガーと呼ばない理由だったりします。まあ理由になってませんが。

実家で飼ってる猫がミケだからネコミミメイドもミケ。安直だなぁ。

追伸

猫缶を食べてはいけません。あくまでペットフードはペット用です。


てなわけで、三十四幕まできながら未だに帰りたがっている物語はまだ続きます。

なんだかんだで女性との絡みが多いのにまったく色気が無い物語はまだ続きます。

これからもよろしくお願いします。

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