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第二十六幕 散歩商劇

自分の家族は最高です。







■■■




環境適応能力、つまりは慣れのことなんだけど。改めて人間のそれはすごいと思う。

だって自分もこの異世界に慣れることができたのだから。

三つもある太陽にも違和感を感じないし、人間じゃない羽根がある魔族や角がある方々にネコミミメイドの対応も身についたし、たまに空を飛んでるドラゴンらしきドデカイトカゲも見馴れたから。

胸を張って威張れることではないけれどね。

むしろ肩を落として嘆きたい。

何しろいくらこっちが適応しようが向こう、エーリカ以外の国中全ての存在が自分を人間として認めてはくれないのだから。というか認められたら投獄処刑の運命が待っている。 

必死に黒髪と耳を隠して魔族だと偽る日々だ。抜け毛にすら気をつける毎日。自分はどこぞのスパイか何かか?

とかまあ、ぐだぐだ言っても仕方ないので諦めよう。 

バレたらバレたで全力で逃げるかエーリカに守ってもらおう。そうしよう。

でもやっぱりバレたくない。バレる前に帰りたい。


ということで情報収集

一応エーリカに頼んで調べてもらってはいるものの、現在は反乱の後始末でそれどころじゃないみたいだから自分でもやるしかない。なんだかんだで異世界に来てから一月近く経つけれど手掛かりが一つも無い状況には焦ります。見付からないという反乱軍首謀者、レイモンド伯爵よりも自分の帰る方法を探して下さいとも言えないからね。

まあ、その辺りの裏事情は置いといて。


情報収拾である。

とはいえ、この世界の常識すらよくわかってない自分がただ闇雲に探したところで何か見付かるとは思えない。元の世界ならインターネットや図書館、金は掛かるけど探偵って手もあったわけだけど、この世界じゃあ無理。図書館は城のやつをもう探しました。勿論結果は徒労だったけど。

てなわけで、探偵らしき人物にお願いすることにした。


「それではお願いしますシュルツさん。」

「きひひ、いや、普通に無理だ。」

断られた。


そりゃないぜ。


「だいたいなんだぁイッヒの旦那ぁ、『次元すら超えれる召喚魔法』って、どんなおとぎ話だよ。」

断られた要因はコレ。

召喚魔法自体はあるにはあるらしいのだけど、極一部の魔族しか使えないそうだ。ちなみにエーリカは使えるらしい、喚んだら野菜が現れたらしい。美味しかったそうだ。

話がそれた。

とにかく召喚魔法はある。ただし次元を超えるものは無いとのこと。というか元々この世界には別次元という概念が存在しないみたいで、そんな発想すら今まで皆無だったと。まあ、そのせいで自分がいくら図書館で探そうが手掛かりが見付からなかったわけだが。そう考えるとエーリカの思考は比較的柔軟なのかもしれない。

それはともかく。


次元を超える召喚魔法が無くとも自分がココいる事情は変化しないわけで、いくらシュルツのにーちゃんが知らなくても、もしかして知ってる魔族の方を知ってるかもしれない為、二人(一人と一魔人)でバルケンの城下町に繰り出している現状です。

まあ、建前を除くと、どれだけ探しても帰る方法が見付からないから気晴らしにやっと出来た休日をシュルツのにーちゃんに城下町を案内してもらいつつ楽しもうと考えた結果です。

ミケさんとチェルシーさんには断られました。

シュルツのにーちゃんには仕事ですと嘘ついて呼び出しました。


後でエーリカのポケットマネーから手当を払っておこう(横領)。


まあ、そんなこんなでシュルツのにーちゃんと二人(?)異世界城下町散策と洒落こんでいるところです。

まだ城の門のところだけど。 


「しっかしイッヒの旦那よぉ、その格好しかなかったのか?」

開口一番、いや二・三番目にファッションセンスをダメ出しされた。

「何か問題でも?」

開き直ってみた。

まあ、自分でもおかしいのは解ってるんだけどね。

だって自分の服装いつも通りなんだから。

そう、いつも通り。いつもの城の中の格好

黒の作業服っぽい上下に紺のコート。ゴツめの安全靴にトンガってた帽子兜を着用。自分の死んだ魚のような瞳と相まって暗雲が立ち込めそうな雰囲気。

対してシュルツのにーちゃんは、普段の格好よりも大分ラフな服装である。腰に下げてる剣も若干小ぶりのようだね。

うん、アンバランスだ。

ただ、

「シュルツさんこそ、その包帯はどうかと思いますよ?」

首と左腕にこれでもかと巻かれた白い布が、痛々しい感じを出していなければ普通のあんちゃんだったのに。

「きひ・・・ちゃんと今までの滞納家賃を払ったんだけどな、『遅い!』って大家から・・・な。」

そんな疲れた声で言われても、

「それは、御愁傷様です。」

としか言えません。

「きひひ、俺のことはいいからよー、着替えてきたらどうだいイッヒの旦那?」まるで話をそらすように、まあ話をそらす為なんだろうけど、そう自分に言うシュルツのにーちゃん。

だけどね。

「無意味です。」

無理じゃないところがネック。

だって他の着替えも似たようなもんだもん。あれだね、エーリカの黒色好きが原因だ。


「きひひひひひ、まっ、旦那がいいならいいぜ。」

良くはないけど、仕方ないから仕方ない。

「そういうことです。じゃっ、行きましょうか。」


そう言って歩き出す。

はたから見れば物凄くちぐはぐな二人組だろうね。

ほら、門番の衛兵さん達の熱い視線が疑問符でいっぱいだ。

お勤めご苦労様です。


さて、では、

「まずはどこに観光しに行きましょうか?。」

「いやちょっと待てやイッヒの旦那ぁ!?。あんた俺に城下町の視察がしたいから手伝ってくれって言ってたよな?!。つーのに今、『観光』って言わなかったかオイっ?」

「おっと!。口が滑った。せっかく適応な理由を付けてシュルツのにーちゃんを連れ出したのに本音が漏れてしまったね。」

「おもいっきし喋ってんじゃねーかっ!?。」

しまった。ついつい口に出してしまった!。

特に他意は無いけどね。

なんとなくやってみただけさ。

「状態ですよシュルツさん。流石に観光だけする気はありません。ちゃんと城下の様子を視察しますよ。」

一応自分で自分をフォロー。つっても観光と視察の違いなんて私用か公用かぐらいしかないだろうからあんま変わらないんだけどね。

「きひ・・・きひひひ、イッヒの旦那は表情が変わんねーから冗談がわかんねーんだよ。」

別にポーカーフェイスを気取ってるつもりは無いんだけどなー。


まあ、いいや。


「とりあえずはシュルツさんのお薦めな所に連れていって下さいよ。」

「きひひ、了解いたぜい、と。」


んじゃ、行こうか。




■■■




露店が並ぶ道

喧騒に包まれた酒場

馬車がひっきりなしに行き交う大通り

威勢のいい魚屋

石畳の十字路

歌う吟遊詩人

神秘的な噴水

景気のいい肉屋

薄暗い路地

初めて見る武器屋



シュルツのにーちゃんに案内されて歩くバルケンの城下町。とりあえずの感想は、

「なんでみんな自分を見るんですかね?」

そんなに目立ちますか自分?

しまいにはヒソヒソと自分を眺めながら噂話をする始末。失礼な。

「いや、イッヒの旦那がそんな格好で来ているからだろ?」

ごもっとも。

黒ずくめの服装なんて自分ぐらいです。

まあ、冗談は置いといて。

改めて認識したのは人間がいないってこと。、角やら羽根が生えた存在が人間と同じように生活しているのを見ると、いくら慣れたとはいえ違和感と多少の嫌悪感を感じてしまう。

排他的、というよりかは排他される側的な思考。

元の世界でも都会の雑踏の中では周りに人が溢れているのに孤独を感じてしまうということを味わったことがあるけど、今回は紛れもなく人間と呼ばれる存在は自分たった一人。

呆れる程の孤独っぷりだ。



「お母さーん、変な帽子がいるー。」

「しっ!、見ちゃいけません。ああいうものなの!」


孤独はいいけど不審者扱いは止めて欲しいね。


「いや、何度も言うけどよぉ、イッヒの旦那の格好が変なんだって。」


だからこれしか服が無いんだって。

「だからってもう少し落ち着いた服にしたほうがいいぜ?。せめてその変な帽子を取るとかよぉ」

いや、この帽子を取ったら人間だってバレますから。

「だいたい城下町をそんな高級服で出歩かなねーって。馬車に乗るとかよぉ、沢山護衛を付けるとかしないと周りから浮いちゃうぜ?。現に浮いてるしな。」

「えっ!?。この服って高いんですか?」

「気づいてねーのかよ!?。質感とか装飾でわかるだろ!?。下手な平民の月収以上はするだろそれ。」

「・・・本当かよ・・・。」

売っちまうか。

「今、よこしまなこと考えただろイッヒの旦那。」

バレてーら。

「そんなことありませんよ。折角のエーリ・・魔帝閣下から頂けた物を売るだなんてそんな。」

「むしろ魔帝閣下からの贈り物を普段から着用してるアンタがすげーって、きひひひ。」

あ~~~、たしかにそうかも。普通なら家宝にでもして大事に保管するもんなのかな?なんたって国のトップからの贈り物だし。

まあ、いいや。

考えたところで自分の服にバリエーションが増えるわけでもないし、この服の値段と価値が下がることもないしね。ついでにどこかの服屋で別の服を買う気も無ければ金も無い。

早く給金くれないかなぁー。

と、

適当に思考しつつ、適当に雑談しつつ、適当に歩いていたら



「さっさと歩け家畜どもっ!!」



びっくりするくらいの怒号が路地裏から響いてきた。

「?」

「あん?」

あまりの大声に歩みを止めて路地裏に視線を向ける自分とシュルツのにーちゃん。

考えてみよう。 

今いる場所は街中の一角。富裕層が住む所でも、逆に貧民層が住む所でも無い普通の住宅地だ。商店街程でもないが店や露店が立ち。車一台が通れる幅の道を歩いていたところである。

家畜を飼うのに適した場所じゃないと思う。


「立てと言ってんだっ家畜がぁ!!」


だと言うのに聞こえてくる男のものと思われる大声は‐家畜‐とはっきり言っている。というより叫んでる。しかし自分達のいる表通りからでは声の発生原が見えない。どうやら路地裏の奥から聞こえてきているみたいだね。


「なんですかね?」

「さーなっ。どうするイッヒの旦那ぁ。見に行くか?」


うーーん。

正直に言えば見に行きたくない。何やら面倒なことになりそうな予感がぷんぷんするし、路地裏というのは危険が漂うからね。それにこんなところに元の世界に帰る方法があるとは考えがたい。

いや待てよ。

むしろこんなところだからこそ何かしらのヒントがあるかも、でもリスクが高い。判断基準が声だけというのも危ない。どうする?、とりあえず様子だけ見に行くか?、だけどそれは厄介事に片足を突っ込むことになるよな。場合によっては非常にリスキーだ。


「おらっ!、グズども歩けっ!!」


うん。

声だけで判断してもろくな事になりそうもない。


君子危うきに近寄らず

急がばまわれ


そう先人達も言っているじゃないか。

なら、


「気のせいということにして、先を急ぎましょうかシュルツさん。」


スルーの方向でお願いします。


「きひひ、いいのか?」

「いいでしょう?」


そう言って視線と体を路地裏からずらす。

厄介事から目を背ける。

やや訝しむようにシュルツのにーちゃんも自分に続いた。

そう。

二人共路地から意識を外した。

外しかけた


と、



「!!っ。まてコラぁ!」


いきなり

唐突に

突然に


さっきまで何も見えなかった路地裏から

さっきまで男の叫び声しか聞こえなかった路地裏から


「!!」

「!!っ」


小さな、といっても100センチぐらいはある固まりが、というか生き物が、二つ、てゆーか二人(?)が、勢いよく、つまり全力疾走で、


飛び出してきた。


んでもって正面に立っていた自分とシュルツのにーちゃんに突っ込んできた。

ここでシュルツのにーちゃんはご自慢の反射神経と運動神経を発揮してすぐさま回避コースに移動する、が、残念なことに銀髪赤目のにーちゃん程に運動・反射神経共に優れていない自分が回避なんざできるわけもなく、突っ込んできた二人(?)はそのままの勢いで自分の踏み出しかけた右足に、ご丁寧にも二人(?)そろって引っ掛かり、


見事にこけた。


ズザァーー


とね。


あまりの展開に固まる自分とシュルツのにーちゃん、ついでに道行く人々(魔族々)。


「・・・ああ!、すいません大丈夫ですか!?」

はっとなり、とりあえず謝っておく。

見れば飛び出してきた二人(?・・・もう面倒だから付けない)はボロ布、まさにボロ布としか表現の仕様がない服・・・らしきボロを着て、もういっそ脱いだら?と言いたくなるようなボロい帽子・・・らしき布を頭に被っていた。

うん。魔人の子供のようだね。

両方ともボロ布帽子からはみ出してる髪の毛がやや赤色だし、肌の色は白いし。

でもなんでこんなボロを着て、しかも裸足なんだろ?。

白すぎる肌はあざだらけだし


DV?


と、観察しながら、流石に自分が悪い気もするので助け起こそうとしたところで、


「逃げてんじゃねーぞ家畜ども!!」


これまた路地裏から、しかし今度はデカイ図体の肥太った魔人、てか二本足の豚(あくまで比喩)が飛び出してきた。

しかも右手に鞭を持って


まさかマジでDV?

似てない親子だな。

家庭内暴力反対!

むしろ暴力反対!


と、急展開についていけずに現実逃避を開始し始めたところで、


「っ!」

「ひっ!!」


倒れていた二人が小さな悲鳴を上げて立ち上がろうとして


「オラッ!」


バッチィィィン!!


太った男の鞭に叩かれた


「ぁぁっ!!」

「ぎっ!!」


再び上がる小さな悲鳴


「は?」

対して自分がだしたのは間抜けな声だったりする。

だって目の前の光景に驚いたんだもん。

倒れている推定小学生レベルの子供を太った男が加減もせずに鞭で打ったんだよ。

そりゃあ驚くさ。


「なにこれ?」

「あん?、なにってイッヒの旦那、奴隷だろ?」

思わず口から出た言葉にさも当然のように答えたシュルツのにーちゃんの回答に絶句


奴隷って、

旧世紀の遺物だろ?

そんなのがあんなかよこの世界には。

びっくりだ。 


「それじゃあ、あの太った男は?」

「大方奴隷商人か、奴隷を買った奴だろーぜ。」


奴隷商人って、空想上の職業じゃなかったのか。

びっくりだ?

まあ、それは置いといて。

まさか厄介事から自分に突っ込んでくるとは思ってなかった。しかもなかなかランクの高そうな厄介事じゃないか、勘弁してくれよ。

しかしどうしようか?。

ここで思いつく選択肢としては

1・スルー

2・魔人の子供を助ける

の、二つ。スルーを選んだ場合は厄介事に巻き込まれることは無いだろう・・・けど、後々この目撃者から魔帝の付き人は血も涙も無い奴だと噂されかねない。凱旋した時にエーリカと一緒に馬車上に居たのが仇となる可能性が大。まだまだエーリカの地位と権力が安定してない現状では危険だ。

では、助ける?。それだと厄介事に巻き込まれるのは確実。リスクが高い、高すぎる。第一に助ける方法がわからない。

あ~~、どっちもどっちだね。

「立てや家畜どもっ!!」

あ~~、頭なんか掴んじゃって、痛そうに。良心が痛むよこの光景。だってボロい子二人がデカイ男に乱暴されてるんだよ?。ほら、弱弱しく抵抗している姿が更に可哀想に思えてくる。

「ちっ、見せもんじゃねーそてめーらっ!!」

いや、だったら見せるなよ。

って、ああ、また子供が倒れちゃったじゃないか、被ってた帽子までぬげて・・・・あれ?・・・アレって・・・。

「きひっ。どうしたイッヒの旦那ぁ?」

いや、その子供の頭に乗ってるアレって・・・

「家畜がぁ!、もういっぺん痛い目にあいたいんだなぁ!?。オラッ!」


肥った男の鞭が唸る。

空気を切り裂いて再び倒れた子供達に襲いかかる。

無慈悲に無遠慮に再び痛みを与えようと振り下される。




ドン



「あん?」


「!?」「!」「あっ!」「?」「!!」「っ!」「??」「!??」「?!」「おっ?」


バッチィィィン!!


ただし、子供達にその暴力が振るわれることは無かった。

その、男と子供達の間に現れた一人の存在によって。






自分じゃないよ。

シュルツのにーちゃんです。

「痛っつ~!」

もいっきし背中に鞭を喰らって悶絶するシュルツのにーちゃん。

「!??」「??」「!?」「!!」「???」

困惑する肥った男や野次馬、それに子供達。

どうしてこのようなことに・・・って、犯人は自分なんだけどね。

軽くシュルツのにーちゃんの背中を押しただけさ。ドン、とね。

「手前ぇ、邪魔する気かぁ?!」

肥った男が言う。

いや、シュルツのにーちゃんに邪魔する気は無かったと思いますよ?。邪魔した真犯人は自分です。

だって、だってねえ?

子供達の

帽子が取れた子供の頭上に


ネコミミがあったんだもん。


これは是が非でも助けなきゃ。

まっ、それでも痛いのは嫌なのでシュルツのにーちゃんに文字通り身体を張って頑張ってもらいました。

さてと、それじゃあシュルツのにーちゃんが自分に文句を言う前に、周囲が困惑している間に、エーリカは居ないけれど、たった一人の人形劇、自己満足の駄喜劇を、

いっちょう、かるーく、ゆるーく、くだけて、ふざけて、やりますかっと。



「恥を知れ。」

叫ぶわけでも、怒鳴るわけでもなく。淡々と、でも周囲に響くように心がけて言う。

「?」「?」「!」「?」「?」「!」

視線が自分に集まる。肥った男も、子供達も、野次馬も、赤い瞳も自分を見る。その中を自分は歩く。

一歩、子供達へと近づく。

「誰だ手前!!・・・って、貴族様?」

ここで、ここにきて自分の格好が効果を発揮した。無駄に高級なこの服のお陰で、肥った男は自分を貴族か何かの身分の高い存在だと勘違いしたようだ。

なら、都合がいい。

体よく使わせてもらうさ。

「恥を知れと言ってるんです。だいの大人が小さな子供を鞭打つとは言語道断。今すぐその子供達から離れて頂きたい。」

言いながら更に一歩前進。

「!!。でっ、ですが貴族さまぁ、こいつらは俺が金を出して買ったやつらです。どうこうしようが俺の勝手でしょう?」

先程までとは打って変わり嫌な愛想顔となり自分に言う肥った男。

買った・・・ということはこの男が奴隷商人というわけではないだろうけど、それでも

「それがどうかしましたか?」

許せるわけは、無いよなー。

今日はいつもより、良心に素直になろうか。

「アンタがいくら出して買ってようが奴隷だろうが関係無いんですよ。ただ自分は小さな子供に対して暴力が振るわれることいが許せないだけです。」

と、ここで。ようやく痛みから回復したシュルツのにーちゃんが自分の隣までやってきた。

「おいおいイッヒの「御苦労様ですシュルツさん。流石は魔帝閣下の忠臣です。」

みなまで言わせずに労をねぎらう。

”魔帝閣下の忠臣〝にアクセントをおいて言う。

すると

「なー、あいつらって閣下と一緒にいた奴らじゃないやろか?」

「凱旋した時のか?」

「ほんまやって、おれしっかり見たから憶えているたい。たしかに馬車の上にいたって。」

「そういえば、あの特徴的な帽子に見覚えが・・。」

「とないとすると、閣下様の側近と違うん?」

野次馬達が騒ぎ出した。

どうやら自分とシュルツのにーちゃんがエーリカと、魔帝閣下と関係が深い存在だと気づいたらしい。

そうなると

「・・・ここ、これはしし失礼いたしました・・まさか魔帝閣下様の側近方とは知らずにごごご無礼を・・」

青い顔になる肥った男が誕生だ。

そりゃそうだ、なんたって魔帝の側近に鞭打って、しかも口答えしたんだから。まあ、実際には自分は側近じゃなくてあくまで付き人なんだけどね。

まあ、いいや。


ビビってくれるならなんでもいい。

勘違いして頂けるならどうでもいい。

そのままの自分に恐怖しろ。


「シュルツさんに鞭を打ったことはこの際水に流しましょう。ですが、もしこれ以上この子達にその鞭を振り下ろすというのであれば・・・それなりの覚悟をしてもらうしかないですね。」

脅す。

権力を盾にして恐喝。

勘違いを利用して恫喝。

それもこれも全部ネコミミ2セット・・・じゃなかった子供二人を守るためさ。

不本意ではあるけれど、本意の為だから仕方が無い。

「ちち、違うんですぜ貴族様ー、ここの鞭はあくまで躾けの為にやってるんで、別に痛めつけようとしているわけじゃあありませんって。」

少し脅しすぎたのか、無駄に言い訳を開始する肥った男。

いやあんた、さっきまであんだけ罵声を出しててその言い訳が通用すると思っているのか?

つーか、躾けって、躾けの為って、

なお悪いわっ!!

だったら

「躾けと称して鞭を振るうアンタにこの子達を任せる訳にはいきませんね・・・シュルツさん、子供達をこちらに、しばらくの間は自分が預かりましょう。」

「きひひ、了解だぜイッヒの旦那ぁ。ほらガキ共、立てるか?」

肥った男に渡すわけにはいきません。

「なっ!!、きき貴族様ー?」

なんだよ?

「なんですか?」

「そいつはちょっとないでしょう!!。そいつらは俺が高い金をだして買った、言わば俺の財産です。それをいくら貴族様とはいえ持っていくのは-泥棒-と同じでしょう?。まさか”魔帝閣下様”の”忠臣”がそんな姑息なことをしませんよね?」

・・・こいつ、自分がエーリカに近いことを逆手に取りやがった。


いいや、そっちがその気なら、こっちだって

「わかりました。ではこの子達は自分が”買い“ましょう。

ただし、

お金では支払いません。この魔帝閣下より”賜わりし服“でお支払いします。」

そう言ってコートを脱ぐ


金ではなく威光で買う。

エーリカの威光を使う。


そして渡す。

愕然としている肥った男に有無を言わさずを手渡す。

唖然としている野次馬の前で紺のコートを強引に渡す。


「え?、お!?、ああ?」


勢い受け取ってしまう男。つい流されて受け取ってしまった肥った男。

半ば押し売りに近いけれども、これで取引は成立だ。

「それでは、この子達は自分がお預かりしますね。」

「えっ!?、あ?、ちょっ、ちょっと貴族様!?、いきなりこ」

「もし、その”魔帝閣下より直接賜わった“服でも足りないというのであれば、バルケン城へ催促しに来て下さい。イッヒ、もしくは付き人と門番に言えば案内してくれますから。」


虎の威を借るなんとやら、権力って素晴らしい。

んじゃ、

「そういうことで、・・・ほら、おいで。まずはお医者さんに行こうか。」

シュルツのにーちゃんに助け起こされた子供の一人にしゃがんで手を差し伸べる。

うーーん、裸足だから手を繋いで歩くのは辛いかな?。なら、

「さっ、おいで。」

クルリとしゃがんだまま半回転。子供に背中を向けて両手を差し伸べる。

「?!?!?」

あれ?、困惑しちゃってる。仕方ない。

「シュルツさーん。」

「きひひ、あいよっと。」

ひょいと、子猫を掴むように(あながち間違ってない)子供を掴んで自分の背中に乗せるシュルツさん。それに合わせて両腕で子供の両足を固定して落ちないようにしてから立ち上がる。

「よいしょっと。それでは皆様方、大変お騒がせいたしました。」

とりあえず野次馬達に一礼。

チラリと横を見れば自分と同じように子供をおんぶしたシュルツのにーちゃん。背負われた子供は展開についていけず困惑顔、というか固まってる。何か言おうとして、何を言えばいいのか混乱して、結局何も言えない感じの顔だ。きっと自分が背負った子供も似たような表情だろうね。

まあ、いいや。

さてと、それじゃあ肥った男がまた何か言う前にさっさと撤収しますか。

「ではシュルツさん。行きましょう。」

「きひひひひ、了解だぜと。」


下らない人形劇はこれにて終演。

情けない駄喜劇はこれにて閉幕。

後に残るのは、コートを持って呆然とする肥った男と、自分達を見たまま唖然となる野次馬達。

それらに背を向け一歩踏み出す。

コートの分軽くなった肩にズシリと感じる子供一人分の重さ。

それを背負い一歩踏み出す。

うん、たまには

たまにはこういうのも、


「悪くないね。」








「おいオッサン、やべーんじゃねーのか?。あいつら魔帝閣下の直属の部下って噂だぞ。」

「!」

「そうそう。もし魔帝様が奴隷禁止派だってみー、虐待してたアンタもただでは済まへんやろ。」

「!!、おっ、おっ。」

「この上着にもし追跡魔法が仕掛けられてたら場所だって特定されるんじゃ。」

「ひっ!」

「捕まったら処刑やろか?」

「ひぃ!?」

「良くて牢獄だろぜ。」

「おっ、おっ、俺は悪くない、悪くないぞ!。こ、こんな服だっていらん!。そこのお前、く、暮れてやる!ありがたく思え!。あ、あとは、そ、そうだ、街の外に用事があったのを思い出した!!い、急いでいかんと!!。」

「あっ!、おいオッサン!。」

「いっちまった。どないすんやその服?。」

「怖えーから城に届けにいく。」

「賢明やな。オッサンも逃げちまったしーな。」







なんか後ろが騒がしくなってたな。

まっ、いっか。

更新遅れましたすいません。

近頃なかなかの多忙でして。

まあ、それはともかく新キャラ登場?です。

奴隷で虐待されてる重い不幸のキャラクターを主人公が颯爽と助け・・・てないですね。助けてはいますけど颯爽では決してないですね。外道というか邪道ですね。

今回一番可哀そうなのはシュルツのにーちゃんかもしれないです(笑)。

余談ですが、読み直してみてシュルツのにーちゃんの口調が若干変化してるように感じました。登場した時はもっと悪者っぽいイメージだったのに・・・。

まあ、いいや。

ああ、あとこれも余談というかどうでもいいことなのですが、主人公の本名を明かすか明かさないかチョッと悩んでます。明かすならどのタイミングにすればいいのかとか結構難しいです。これなら最初から本名でいってよかったかも・・・。

もしイッヒの本名に対して意見がありましたらコメントを下さい。

お願いします。


最後になりますが、お気に入り登録件数が450件を超えていました。ありがとうございます。

なんやかんやで続きます。

これまからもよろしくお願いします。

すいませんでした。では。

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