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第二十四幕 凱旋帰宅

「お久しぶりっす先輩。」

「おお、亜岳じゃねーか久しぶりー。」

「聞きましたよ、弟の***君が行方不明になってるらしいじゃないですか。」

「お前のトコまで話がいってるのか・・・、あれ?つーかお前と***って面識あったか?」

「そりゃあ、俺にとっては高校の後輩ですからね。その関係で卒業後も結構遊んでるんすよ。」

「ああ成る程。」

「そして何を隠そうオレの‐彼氏‐っす。」

「マジでかって!?お前男だろっ!?」

「おおっ!!、あーちゃん×弟君かっ!ジュルリ、今晩のオカズ(衆道的な意味で)にしようかの。」

「止めぇぇいっ!って、どっから現れた濡恵ぬえ!?」

「かかっ、愚問じゃの。心は常にお前様と一緒ではないか!」

「うるせーよ!」










■■■










数千、いや、数万はいるんじゃないかという大観衆の中を行進する軍勢。その列の中心を走る一台の馬車。

街中の大通りを埋めつくし、更には家々の屋根に登ってまでいる大観衆が見つめる先のその馬車の上、漆黒のドレスに身を包んだ女性が観衆に向け手を振る。

右を向いて手を振れば

「「「万歳ー!万歳ー!」」」

と、歓声が上がり。

左を向いて手を振れば

「「「ルフトバッフェに栄光をっ!!」」」

と、雄叫びが上がり。

前を向いて手を振れば

「「「「「「魔帝閣下様バンザーイッ!!」」」」」」

と、もはや絶叫と言って差し支えない声が大地を震わせる。


さて、どうしてこんなことになったのか?

考える意味も無いので簡潔に言うと、お家に帰って来ただけ。

勿論自分の元居た世界の実家ではなく、エーリカの実家であるバルケン城、その城下町であるバルケンの街にだ。

反乱を鎮圧する為に出発した時もかなりの盛り上がりぶりだったけれど、今回はあの時の倍以上の大観衆が大通りに溢れているね。

元の世界なら巨人の優勝パレードや大統領の当選パレードといったところかな?。むしろこっちの方が熱狂的かもしれない。

あまりの騒音にだんだん鼓膜が麻痺してきたしね。

『イイッヒ!、し、しっかり掴んでて下さいね。絶対に、絶対に放さないで下さいね!!。』

しかし鼓膜が麻痺しても念話が聞こえるんだなこれが。

『わかってますよエーリカさん。しっかり掴んで放しませんから安心して下さい。』

『絶対ですよ!!絶対!』

さてさて、何故こんな内容の念話をしているのか、しかもリアクション芸人の前フリのようなことをエーリカが言っているのか。

それは今、自分がエーリカの近くにいるから。

もっと突き詰めれば、馬車の上、屋根の上に立っているエーリカのやや後方の位置でしゃがんでいるからだ。

左手で屋根を掴んで、右手で観衆から見えないようにエーリカのドレスの先端を掴んでね。

ちなみに反対側には似たような格好でシュルツのにーちゃんが同じことをしている。

三人で仲良く馬車の上だ。

はてさて、どうしてこんなことになってしまったのか。これもそれも全部エーリカの所為だ。

エーリカが悪い。

馬鹿野郎。

あっ、女郎かな?


戻して。


そもそも、街中に入る時にはエーリカが屋根の上に立つ予定ではなかった。普通に馬車の中に乗っているはずだった。

ところが、


ところがだ、


あと少しで街中に入る、そろという所であろうことかエーリカが自ら馬車の上に乗りやがった。

『バルケンです!バルケンの城です!、やっと帰ってこれたんですっ!』

と、嬉しそうにはしゃぎながらね。

この時すぐにエーリカを降ろすべきだったと後悔したのはその後だ。屋根に登っているエーリカを見たグナイゼナウ大公が

「おおっ、流石は閣下!。やはり出陣と同じようにゆきますか!」

と、エーリカを担ぎ上げ始めて降りるに降りれなくすると、

「しかし、観衆の中に反乱軍の残党が忍んでいるかもしれませんわ。誰か護衛をつけるのは如何でごさいましょう?」

などとドーラ公爵が余計な一言を追加。

では誰を護衛にしよう?、あまり沢山護衛をつけるのは臆病に映るのでは?、ですが腕の立つ者となると、な感じで反り血コンビを中心に話し合ったところで、屋根の上に取り残されたエーリカが

「ィ、イッヒ!!」

と、一言。

しかも念話ではなく普通に叫びやがった。

関係無いやと思いぼーーっとしていた自分が突然のことに反応できないでいると、

「成る程、イッヒ君なら安心ですわ。」

「うむ、付き人殿なら閣下の警護にも馴れておろう。」

そう、反り血コンビが勝手に納得。

他の魔族の方々はこの二人に意見できるわけもなく、唯一の常識であるはずのカイテル伯爵は先行してバルケン城に行っており不在。

気が付けば、あれよあれよと馬車の上、しかも馬車が動き出すと予想以上に揺れる揺れる。

グーラ・グーラ?

ガッタンゴットンガタタタ!


考えてみれば出陣の時に乗っていた豪華な馬車は魔帝専用ということもあり、この世界では珍しいサスペンションっぽい装置が付いていたのに、今回はあの馬車が壊れた(壊された)為、代用の馬車。故にサスペンションっぽい装置は無し。中に乗っている分には椅子のクッションで変わらなかったけど、屋根に登ってみると立っていられないほどの揺れっぷり。とはエーリカの弁。

仕方ないから自分がエーリカを押さえて落ちないようにし、自分も落ちないようにし、ついでにシュルツのにーちゃんを道連れにして今に至る。


ガッタン!

『ひょわわわ!!』

石畳に段差でもあったのか大きく揺れたところで聞こえるエーリカの念悲鳴に意識が現実に戻る。

視線だけエーリカに向ければ、さっきの揺れに転びそうになったのかバタバタと右手を振っている姿が見える。その姿に勘違いした観衆が上げる歓声が自分の酷使された鼓膜に響く。

もし、鼓膜に声を出す機能があったら絶対に悲鳴を出してるだろう歓声の大きさだ。


滅茶苦茶うるさい。


『わわっ!、イイッヒ!、引っ張り過ぎです!。』

『あっ、すいません。』

右手の力を少しゆるめる。

しかし一体自分は異世界に来てまで何をやっているのかね?

こんな舞台裏の黒子のような仕事をする為に魔族だと偽っているんじゃないんだけどなー。

いやはやしかし、護衛の為に屋根に上がっているとはいえ、自分側から攻撃されても何も対処できないよなー。おそらく自分の身を守るだけで精一杯だろうね。いや、自分の命すら守りきる自身は無いや。第六感が別に優れているわけでもなし、反射神経も普通、運動神経も普通。牽制攻撃で死ぬ自信があるや。もうあれだ、願わくばエーリカのみを狙って攻撃してくれることを祈るだけだ。出来れば爆弾みたいに周囲を巻き込むタイプではなく、本人のみをピンポイントで暗殺する狙撃みたいなやつでね。


別にエーリカに死んで欲しいわけではないのでご安心を。


まあそれに、自分が何も出来なくても反対側にはシュルツのにーちゃんがいるわけだから半分は安心していられるしね。

初撃をさえシュルツのにーちゃんが防いでくれればエーリカのデタラメ黒球魔法を乱発することで何とかなるだろうしね。


・・・・


こんな大観衆の中であの黒球を放ったらエライことなるな。


逃げ惑う民衆

逃げ狂う観衆

飛び交う怒号

飛び散る鮮血

舞い踊る黒球

舞い散る手足 


うはー、想像しただけで恐ろしい。

よし、何かあったら真っ先にエーリカを押さえつけよう・・・やっぱ巻き込まれたら嫌だから逃げよ。


『イイッヒ、どうして、手手手を少し緩めて気持ち私より離れるのですか?』


っち、目ざとい奴だ。

は、冗談として。


実際問題な話、襲撃されたら自分は一番に馬車から落下するだろう。エーリカを守るとか黒球から逃げるだとかの前に、屋根から落ちてケガをするだろうね。

現実は残酷だ。

英雄になるには資格が必要だし、

悪役になるにも素質が必要だ。

どちらも無い自分は単純に一般人を演じるしかない。


なーんてね。

通常運行な現実逃避から意識を切り換える。

といっても見える景色は現実離れしているんだけど。


耳が長い男性に角がある女性、異常にデカイ奴も居れば羽根がある奴もいる。狼顔もいれば牛頭もいて、狐のような尻尾があればネコミミもいる。

そんな大小様々多種多様、老若男女識別不能な存在達が建物と道を埋め尽くして歓声を上げる様子は驚愕を通り越して、ただ呆れさせる。

洪水があった町だと殺意すら抱かれていたのに、このバルケンの街だと異様な人気。

つくづくエーリカはもっと自信を持つべきだと感じさせる光景だね。

もっとも、この人気の裏にはエーリカが政治に手を出さないおかげで、ドーラ公爵やらが思う存分善政を行なえたというのがあるのだろうけれど。

そう考えるとエーリカにとってはこの人気は微妙に嬉しくないな。まあ、もう半分は反乱を鎮圧した人気だと思ってもらおうか。

ほら、まだまだ先は長いんだし気長にいこう。

なんて悠長なことを考えている間に無駄に装飾多寡でドデカイ門が見えてきた。

戦争に勝ってからくぐる門だからアレが凱旋門か。いや、街中に入る時もくぐったけどさ。こう、この門をくぐったら城の中だと思うと気が引き締まるよね。

『かか、帰ってきました~~~。』

御免なさいエーリカ。その気持ちはわからない。

帰郷の気持ちを抱く程のこのバルケン城に思い入れはありません。

『ふかふかの毛布で寝れる~~。』

なんだこの小市民?

これがルフトバッフェ魔帝国のトップが戦争に勝って凱旋した時の最初の感想だというのだから泣けてくる。

まあ、もう慣れたけど。

てゆーか、エーリカのやつは行軍中に兵士や自分よりもいい布団で寝ていたはずなんだけど、

このブルジョワめ!

なんてぼけっとしてる間に門を通過する馬車。

後ろの方からはまだ歓声が聞こえる。よくやるよ。

まあでも、結局群集に紛れての暗殺や攻撃は無かったから一安心かな?。これでようやく馬車から降りれる「エーリカ・フォン・バルト魔帝閣下の御帰還であーーーる!!」まだだめかよ。


トンネルの先は雪国的なノリで、門の先は兵士達がズラリと整列してました。

おそらく自分達が討伐に行っている間にバルケン城守備の為に呼び集められた各地の兵士なんだろうけ。

先程までの観衆とは違って全員が静かに、そして粛然と整列してエーリカを出迎える。

そしてその中を馬車が走るわけなのだけれど、せめて一旦止まってほしかった。そしたら自分もエーリカも降りれたのに。

でめまあ、街中とは違って静かだからいいか・・・


ジャァーーー!!バーーン!バラッパッバッバー!!ダンダン!バーーン!!


なんて油断したところにラッパらしき楽器、シンバルらしき楽器、太鼓としか言いようが無い打楽器が鳴り響く。

なんでここで楽隊よ?

うるせーよ。なんだこれ?、そこまでして自分の鼓膜を破りたいのかこいつらは。

『はわわわ、耳がおかしくなりそうですー。』

ほらみろ、歓迎されてるはずのエーリカがダメージくらってるじゃねーか。


「魔帝閣下バンザーイッ」「バンザーイッ」「バンザーイッ!!」「魔帝閣下バンザーイッ!」


しかもさっきまで静かにしていた兵士達まで盛り上がり始めたし。

こいつらに鼓膜は無いのだろうか?

それともやはり人間と魔族は鼓膜すら違ったりするのだろうか?

『イイッヒ、そろそろ限界ですぅ。』

どうやら似たようなものなようだ。

『後少しですエーリカさん。頑張って下さい!』

そして倒れるなよエーリカ。あと100メートルだからさ、多分エーリカが倒れたら服を掴んでいる自分も一緒に倒れて馬車から落ちるから頑張ってくれ。

ほらようやくゴールだ。

城の扉の前にカイテル伯爵や青白顔の・・・名前忘れたけど偉いのが何人か立っているのが見えるから、そこまで行けばようやく馬車から降りれるだろうからさ。


『お父様お母様、今エーリカもそちらに逝きます。』

降りるどころか飛び立ちそうになってるし。






■■■






「つ、疲れましたー。」

同感です。


ようやくたどり着いたエーリカの寝室で溜め息をつく。身体中にひどい疲労感がずしりと重くのしかかり今にも倒れてしまいそうだ。

エーリカはすでにベッドにダイブしているし。


「きひひひ、すげー歓迎ぶりだったな。」

と、笑いながら隣で言うシュルツのにーちゃん。

あなたの体力はすごいと思う。褒めてあげるから少し分けて欲しい。

「よく疲れてないですねシュルツさん。何か秘訣でも?」

だから聞いてみた。

「あん?、何か言ったかいイッヒの旦那ぁ?、よく聞こえねーんだ。」

体力はあっても鼓膜はやられているみたいだった。

まあ、気持ちはよくわかる。自分だって耳がジーーンとしっぱなしだからね。 最後のシンバル連打は辛かった。

とはいえ、ようやく馬車から降りれたと思ったら青白顔のカーン男爵(名前を思い出した)を筆頭とした貴族やら有力者からの長い長い祝辞が始まり、その長い長い拷問が終わったと思ったら、どこからか現れたグナイゼナウ大公が兵士達を労いはじめ、校長先生のお話も真っ青な長い言葉が終わったと安堵しかけたら、再び楽隊がジャンジャカ騒音を撒き散らし出し、その地獄の中をようやく抜けて城の中、脇道もせずエーリカの寝室までやってきたところなのだ。

疲労困憊。精根尽き果てたといったところかね。できればエーリカを押しのけて自分がベットに倒れこみたい気分だ。

流石にそこまではできないけど。

「Zzz・・・Zzz・・・Zzz・・・。」

って、寝るのはえーなエーリカ。

せめて着替えろよ、そしてちゃんと髪を整えろよ、できれば布団を被れよ、てゆーか何でそんな起きた時に絶対身体がゴキゴキ鳴るような言葉では言い表せない不思議な体制で寝てるんだよ。最低限靴は脱いでベットに入れ。

と、心の中で兄貴のように突っ込んでみると

「きひひ、退出するかイッヒの旦那ぁ?」

そう、シュルツのにーちゃんが苦笑ぎみに言ってきた。

なんだかんだでシュルツのにーちゃんもエーリカの本質的な部分の気づき始めているようで、近頃はあまりエーリカに対してへりくだったりしなようになっている。エーリカもあまり気にしていないようでほとんど友達感覚でシュルツのにーちゃんに接している。

それが魔帝として良いことなのか悪いことなのかは、置いといて。

「そうですね。ミケさんにでも後を託すとしましょうか。」

とりあえずはこの部屋から出ることにしよう。

ベットで寝ている美人を男二人が見ているというのは、あまりいいものではないからね。

「んじゃ、今日はこれで失礼するぜイッヒの旦那。また明日来るからよ。」

そう言って天井に身を入れるシュルツのにーちゃん。

シュッタッと軽快にジャンプする姿を見てこの赤目のにーちゃんには疲労という概念が存在しないんじゃないかと思ってしまう。まあ、実際は単純に基礎体力的な問題どろうけど。ついでに思う。どうしてわざわざ天井にいく。

「きひひ、じゃーな。」

そちらの方は聞く間もなく去ってしまったためわからなかった。

癖なんだろうか?

もしくはポリシーか?

なんにせよ不毛だ。

そしてこうやってシュルツのにーちゃんが去った後の天井を眺めているのも不毛だね。

そう思い視線を視線を下げる。

下げた先に見えるのは爆睡するエーリカの姿。

ドラマやらならここで優しく毛布を掛けてあげたりするのだろうけど、残念ながら自分にそんな気は一切ない。それにどうせこの後に祝賀会やら晩餐会やらが待ってるだろうから、疲れを自分が労うのは全部が終わってからでいいだろう。

コンコン、

「失礼いたしますエーリカ様。お着替えをお持ちいたしました。」

それにほら、ちょうど癒すのにうってつけの人材(魔族材?)もやってきた。

餅は餅屋、優しくするのは心の底から大切に思っている人が相応しいだろうからね。

それじゃあ、

『しばしのご休憩を。』

そう念話で告げてベッドに倒れこんでいる愛すべき魔帝に背を向けて扉へと歩く、目の前には静かに入室していたミケさん。

「お疲れ様でしたイッヒ様。」

「ありがとうございます。でも、是非ともその言葉はエーリカさんに言ってあげて下さい。」

「勿論でございます。」


お互いに疲れているのかいつものやり取りもないまますれ違う。

はて、ミケさんに素直な労いの言葉を掛けてもらえる程自分の顔はひどくなっているんだろうか?

まっ、どうでもいいけどね。

自分の死んだような目付きが更に死んだようになろうが、逆に生き返ろうがどうでもいいことだ。


今考えなければいけないのはこれからのことだ。

これからどうやってエーリカの立場を確固たるものにするか、

これからどうやって元の世界に帰る方法を探すか、


でもまあ、


何はともあれゆっくり休むことにしようか。

久しぶりに入る自分の部屋だけど自分の帰る場所じゃない部屋にさ。


なんて考えながら扉を閉める。

隙間から見えるミケさんがエーリカに優しく毛布をそっと掛けてあげる光景に少しだけ嫉妬しながら

帰る場所に帰れたエーリカを羨ましく思いながら、ね。








久しぶりに入った自分の部屋ではツインテールのメイドが仕事をさぼってた。

何やってんだよチェルシーさん。

なんでもいいから謝っておこう。

すいませんでした。


ちょっとした設定の話しなんですが、物語中において人名や地名などの固有名詞以外ではカタカナを使ったセリフを使わないようにしてます。主人公の頭の中では使用してますが、「」内でのセリフでは使ってません。使ってないですよね?。理由としては主人公に言語変換の魔法がかかっている設定なのでそこに違和感がないようにするためです。

必要なのかは別として。


ちなみにどうでもいい話しですが、カーン男爵を主人公が忘れているシーン。実は作者の自分が名前を忘れていたため出来たシーンです。

こんな感じですがまだまだ続きます。一応、『出会い・反乱編』の終わりみたいな形です。次回からの予定は、未定です。


それでは、また。

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