第十八幕 赤目猫眼
レッドアイ・キャットアイ
「あ"あ"ぁ〜〜頭痛ぃ。」
「大丈夫チコ?二日酔い?」
「ありがとうぇ。これは二日酔いの可能性が八割五分九厘ぅ。カケラッチは二日酔いじゃないのを"?」
「あたしは下戸だからジュースしか飲んでないの。」
「う"〜〜裏切り者ぉ〜〜。」
「なんで!?」
「う"〜〜***が三途の川の向こうで手を振ってるぅ。」
「***死んでないから。」
「あ"ぁ〜〜、この苦しみが***に届きますようにぃ。」
「馬鹿なこと言ってると一限目に遅れるよ?あの教授遅刻にはうるさいんだから。」
「あ"あ"ぁ〜〜〜。」
■■■
「イッヒ。とりあえず、殴っていいですか?」
「土下座するんで許して下さい。」
ガラガラと進む馬車の中
復讐に燃えるみすぼらしい方々とのドタバタ流血寸前騒動がエーリカの暴走断髪式によって集結した後。そのまま行軍再開となるわけもなく。これまたドタバタと、復讐が萎えたみすぼらしい方々に食料を分け与えたり、武器を回収したり、街道の泥を取り除いて行軍可能にしたりなんだりだんだり色々やり、陽も暮れたからそのまま夜営。
エーリカの周囲に将軍達やら地元の名士やらが集まり口々に褒め称える晩餐から陽が明けて、ようやくエーリカと二人っきりになった馬車の中。
温和かつ臆病な性格のため、誰かに怒りをぶつけることが滅多に無いはずのエーリカの殺気を一身に受けている稀有な青年が一人
というか自分だった。
怒りの原因は、復讐に燃える爺さん達の集団と相対した時に自分が逃げようとしたこと。
うん。100パーセント自分が悪い。
弁解にしようがないね、むしろ怒るだけで済ませるエーリカは優しすぎるね。
「二度とあんなことを言わないで下さい!」
「善処します。」
適当にはぐらかす。
それが自分クオリティ。
「はぐらかさずに誓って下さい!!」
はぐらかし失敗
なんかいつもより強気のエーリカさん。怒っているのだから当たり前と言えば当たり前。
ギャーギャーと、体ごと勢いよく怒鳴ってきたため、自然とビビリな自分は後ろに下がる。
ゴンッ
まあ、狭い馬車の中のため背中が扉にくっつきすぐに退路は絶たれた。
「だいたい反省の色がイッヒにはみえません!!!」
自分がこれ以上後退出来ないのに怒りながらせまってくるエーリカ。
「いや、まあ、その、マジすいませんでした。反省してます。」
座席からも転げ落ちた自分にはもう謝る選択肢しか残っていない。
ヘルプミー。
「誠意の欠片も感じられませっ!!!!」
更なる追撃をかけようとしたエーリカの言葉が唐突に止まる。
「?」
疑問
そして
不思議な浮遊感
というか無重力感
現状を冷静に確認するのであれば、自分は馬車から落下していると言える。
おそらく服が馬車のドアノブに引っ掛かっていたんだろう、偶然開いたドアに体重をかけていた体は吸い込まれるように外界へ、みるみるエーリカが小さくなっていく視界には、いつの間にか空が映り込み馬車の中では感じられない風が肌を掠める。助けを求めるよう伸ばされた自分の両手は、ドアの枠を掴むこともできず、エーリカが握ってくることもなく、無力に無意味に味気なく虚空をさ迷う。
嗚呼、青すぎる空がまぶしい。。
あれ?
てか場外じゃん!
なに冷静に考えてるんだよ自・・・
ドシャ。
さて、自分が乗っていた馬車はガラガラと進んでいる最中。例えゆっくりとした速度であれ、例え1メートルしかない高さとはいえ、この二つが組み合わさると尋常じゃない衝撃になる。
ゴロゴロバタ。
それを体で体感しました。
全身が痛い。
「「「「・・・・・・・・・・」」」」
馬車の周りの兵士達唖然。
視線が痛い。
色んな意味でマジ痛い。
「・・・大丈夫ですかイッヒ殿?」
心配してくれてありがとう兵士さん。
「まあ、大丈夫です。」
とりあえずそう答える。いつの間にか行軍は止まり、ザワザワと兵士さん達が仰向けになっている自分を取り囲み、キイキイと寂しく開いた馬車のドアからエーリカが恐る恐る顔を出している。
何ともいえない居たたまれない空気の中、三つの太陽が自分の体をジリジリと焼き付ける。
視界に広がるのは見事な青空
あっ、ドラゴン。
あっ、ミケさん。
「何をしてらっしゃるのですかイッヒ様?」
仰向けの体制から見上げるミケさんの顔は、逆光のせいで表情が見えない。ネコミミと尻尾もこのアングルからだと僅かにしか伺うことができない。
だがそれがいい。
チラリズム、まさにチラリズム。普段の30パーセントしか見えないネコミミは、微かにしか見えないからこそその美しさと可憐さが際立つ。
尻尾もまたしかり、視界に見えては背中に消え、見えては消えるその姿は、季節限定のような、ご当地限定のような希少価値を漂わせ、いつもとは違う感動を自分に与える。
素晴らしい。
落ちてよかった。
生きてて良かった。
世界よありがとう。
「なにやらイッヒ様の視線に邪悪な波動を感じますが、もう一度問いましょう。何故こんなところで地面とお友達になっているのですか?」
若干質問の内容が変化してる気がするけど、まあいいや。
「馬車の中という密閉空間に脆弱な精神が耐え切れず、本能的に自然を求めて飛び出してしまった結果ですミケさん。」
よいしょと立ち上がりながら答える。
「シュレディンガーです。そうですか、それならばそのような所に寝転がっているよりそこの崖の下の方が自然を堪能できるかと思われます。」
「それは素晴らしい発想ですね二ケさん。見る限り助からない高さの崖ですから落ちたら骨になるまで森林浴ができそうですね。」
斜めになったトンガリ帽子兜を直しながら答える。
「シュレディンガーです。はい、イッヒ様が自然を堪能できるばかりか自然の一部となることができます。」
「自分の遺体が木々の栄養となるわけですねケミさん?。まさに一石二鳥。」
ぐるぐると肩、手首、足首、首をまわして痛めていないか確認しながら答える。
「シュレディンガーです。では思う存分飛び降りて下さいませ。」
「いえいえ、もう自然の空気は十分に堪能させて頂きましたからまた今度にしますよミゲさん。」
パンパンと服に付いた泥やら草をはたきながら答える。
「シュレディンガーです。そうですか、それは実に残念です。」
「ご期待に添えず申し訳ありませんねミーケさん。」
ごしごしと、顔に付いた汚れを取りながら答える。
「シュレディンガーです。謝って頂かなくても結構です。このような人生の汚点としかならない会話を記憶するつもりはございませんので。ところでイッヒ様。お客様が御見えになられております。」
「・・・客?」
おかしい、異世界人である自分を訪ねてくる客なんていないはずだ。
おかしい、なんでミケさんとの楽しい会話の後には胃が痛くなるんだろう?
まあ、いいや。
どうすればいいのか困惑している兵士さん達をなるべく無視して、ミケさんの後ろにいる人物?魔物?、なんでもいいや、その存在に視線を向けてみる。
見えたのは白、真っ白な包帯が額と首にまかれた銀髪赤目の男性。不気味に笑顔を向けて片手を上げている。
「きひひひひ。」
てか、シュルツのにーちゃんじゃん。
初めてまともに登場したよ。驚きだよ!。驚愕だよ!。感動だみょ!?。噛んだよ!。
「きひひ・・・あ〜〜ちょっといいかいイッヒの旦那?」
「どうしましたシュルツさん?若干引きつった笑いになってますけど、なにか心臓に悪いものでも見ましたか?というかその包帯はどうしたんですか?、山賊にでも襲われましたか?」
異世界ファンタジー的な質問。
「きひ、いや、あんたらの会話が、いやなんでもない。このケガは・・・まあ気にしないでくれ。」
「?」
「?」
「きひひひ、まっ、まあともかくイッヒの旦那ぁ、あんたに少し話があるんだが、いいかい?」
「ええまあ、別にいいですよ。それじゃあ立ち話もなんなんで馬車の中で話ましょうか。」
そう言って自分は歩きだす。少しでもこの居たたまれない空気から逃げたいから。少しでもこの痛い視線を浴びせる兵士達から逃げたいから。
「きひひひひ。馬車には魔帝閣下様も乗っていられるんじゃないのか?」
「構わないでしょう?」
落下する瞬間、伸ばした手を握ってくれなかったエーリカに構う必要なんてない。
「・・・きひひひひ。」
シュルツさんの笑い声がいつもより引きつっていたのは気にしない。
無表情でミケさんが付いてきたのも気にしない。
キイキイと哀しい音をたてていたドアから自分、シュルツのにーちゃん、ミケさんと並んで馬車の中に侵入。
困惑しながら馬車の奥に追い込まれるように座ったエーリカも気にしない。
バタン
「・・・行軍開始?」
困惑した兵士達の声も気にしない。
■■■
ガラガラと馬車が再び進む。
自分、ミケさん、シュルツのにーちゃん、ついでにエーリカ。初めて四人乗りになった馬車の中、ちょっと窮屈を感じながらもエーリカさんの煎れたお茶を仲良く飲む。なにげに馬車の中でお茶を煎れるとかすごいことだと思います。
まあ、いいや。
本題です。
マジ日本に帰りてぇ。
間違いました、これは本音です。
「ネロガイウル男爵とレイモンド伯爵の反乱軍だが、どうやらバルケン城の奪取を諦めて討伐軍、つまり俺達を戦いで破ることに的を絞ったみたいだぜ、きひひひ。」
これが本命。
シュルツのにーちゃんの話しによると、バルケンの街に家賃を支払いに戻った際、大家さんから滞納分の利子という名目で受けた拳と蹴りの嵐と一緒に、バルケン城に続々と援軍が集結し、カーン男爵指示の下完璧な防備を固めたという情報を手に入れたらしい。そのことを確かるため、大家さんによって外された関節を治療しつつ情報収集をしたところ、メイドのチェルシー(滅茶久しぶり)と名乗る人物から゛ロッソ伯爵が負けたことにより、レイモンド伯爵達の反乱軍はロッソ伯爵との挟み撃ちによるバルケン城の攻撃を断念。野戦にて魔帝閣下を破ろうと進路を急遽変更したらしい。゛との情報を湿布と包帯と一緒に入手。多少家賃が足りないことに気が付いた大家さんから逃げるように急いで自分達に合流したそうだ。
いろいろと言いたいことがあるけど、ここは我慢。
大家さんとかチェルシーさんが気になるけど我慢。
「まっ、元々反乱軍を目指して行軍してるんだろ?。あんま意味の無い情報だったな、きひひひ。」
たしかにそうだけど。
ちょっとマズイかも。
『?。どうしましたイッヒ?。難しい顔をして、目が死んでますよ?』
目が死んでいるのは気にしないで。
『いや、ちょっと思うことがありまして。』
『?』
思うこと。
懸案事項。
エーリカとの念話から切り替えてシュルツのにーちゃんに視線を移す。
赤い紅いその両目を見据えて質問してみる。
「シュルツさん。その情報が手に入ったのはいつのことですか?」
情報トハ時間ニヨッテ価値ガ変化スル。
はて、誰の言葉だったか?
「きひ?、ああ、二日前だったか?」
四日前
ロッソ伯爵との戦い
三日前
早朝、シュルツさん就職
二日前
情報入手
一日前
復讐目的流血寸前騒動
今日
現在
電話もメールも自動車もバイクも電車も飛行機も無線も有線もラジオもテレビも無いこの異世界において、どうしてこうも速く情報を入手することが出来るのかは疑問に思うけれど、まあ、魔法やらその辺りの不思議便利機能があって解決してるとして。
ちょっと思う。
自分達がバルケン城に居た時はまだレイモンド伯爵達は離れた場所にいた。
けれど、自分達がロッソ伯爵を目指して進んでいた時、
レイモンド伯爵達反乱軍はどこを目指して進んでいたんだ?
本当にバルケン城を目指して進んでいたのか?
もし、
ifの話しになるけど、
反乱軍がバルケン城ではなく最初から自分達討伐軍を目指していたら。
急遽進路変更したのではなく、自分達討伐軍の居場所がわかったから進路変更したのでは?
そうなら少しだけ、
少しだけタイムラグが、
少しだけ余裕が無くなる。
ましてや此処はレイモンド伯爵領、向こうのフィールドだ。
もしかして、
もしかしたら主導権を握られているんじゃないか?
「イッヒ?」
「きひひひ、どうしたいイッヒの旦那ぁ。難しい顔なんてして、おっ!、もしや反乱軍が何か仕掛けてくるんじゃないかと心配してんのか?」
子首を傾げるエーリカと赤い目を自分に向けるシュルツさん。エーリカさんは無言。
ふむ、
「いや、なんでも無いですよ、なんでも。」
適当に誤魔化す。
考えてみればドーラ公爵やらグナイゼナウ大公だって偵察部隊とか斥候を出して周囲を警戒してるはずなんだよな。
別に自分が奇襲とかされるんじゃないかと心配する必要はないか。
意味も無いしね。
「きひひひ、ならいいんだけどよ。」
この中で一番身長があるが何気に一番安っぽい服装のシュルツさんの呑気な笑い声が響く。
「ミケ、おかわり。」
反乱軍が近づいているのに呑気なエーリカの声が流れる。
「かしこまりました。」
呑気も暢気も関係無く凛々しいミケさんの声が漂う。
やべ、なんか真剣に考えるのが馬鹿らしく思えてきた。
と、
「で、俺は何をすればいいんだ?」
唐突に、笑みが貼りついた表情のまま笑い声だけを消しさってシュルツのにーちゃんが自分に向けて言ってきた。
若干前屈みに、自分の瞳を覗き込むように言ってきた。
「はい?」
エーリカではないが子首を傾げる自分。
「とぼけねーでくれよイッヒの旦那ぁ。あんたのことだ、次の策だって考えてあるんだろ?。ロッソ伯爵との戦い時のように俺にやって欲しいことがあるんじゃねーのか?。なんでもやるぜ、今度は出来るだけ派手な任務を期待してーな。まあ、俺の希望は置いといて、何をすればいい?」
きひひひと、声を出さずに笑うシュルツさん。
あ〜〜〜、なんも考えてねーや。
つーか期待されても困るんだが。
基本的に自分は行き当たりばったりな作戦で行動している訳でして、
逝き当たりばっさりな人生でして、
何をすればいいかと問われても、むしろこっちが聞きたいぐらいでして。
まあ、
「今はまだ待ってくださいシュルツさん。時がきたらお願いしますよ。」
むしろ思いついたらなんだけどね。
「きひひひ。楽しみにしてるぜ。」
どうぞご勝手に。
でもあれですよ?。過度な期待はしないで下さいね。
勝手に期待して、勝手に落胆して、勝手に恨むのだけはやめて下さいね。
マジで。
なーーんて、思考しつつ、エーリカに遠慮かつ礼儀に心がけながら、自分に対して大胆にかつ親しげに振舞うなんて器用なことをするシュルツさんからエーリカに視線を移してみる。
『何か策があるんですかイッヒ?』
『ありません。』
念話でのエーリカの問いかけに即答しつつミケさんが煎れてくれた紅茶を飲む。
『まあ、一応シュルツさんから聞いた情報をグナイゼナウ大公さん達にも話した方がいいでしょうね。下手をしたらすぐ近くに反乱軍がいるかも知れませんし、もしかしたらこの情報を手に入れたことを上手く利用すればエーリカさんの情報収集能力が高いと誤解させることができるかもしれません。』
『誤解って・・・・はあ、わかりましたイッヒ。とりあえず次の休憩の時に話てみましょう。』
そうしましょうと念話で相槌を打つ。
本来ならここでエーリカかシュルツさんに何か小細工を教えるべきところなんだろうけど、いかんせん情報が少なすぎるし、何も思い浮かばないため断念。
実際問題な話、戦争に関しては素人が自分が口を挟んでいいことがあるとは思えない。
ロッソ伯爵の時はまあ、例外です。
そういうことにしておきましょう。
そうしましょう。
「そういえばシュルツさん。」
「あん?、なんだイッヒの旦那ぁ?」
「シュルツさんって強いんですか?」
まあ、弱かったらバルケン城に忍び込んだりしないだろうけどね。
「あ~~、グナイゼナウ大公やドーラ公爵達みたいな化物連中に比べたら弱いけどよ、そんじょそこらの兵士よりかは強い自信はあるぜ。」
きひひと、少し自慢げに語るシュルツさん。
そんじょそこらの兵士に瞬殺される自信がある自分とは大違いだ。
「もっとも、魔法に関してはかっらきしだけどな。」
今度は、きひひひと自嘲気味に語るシュルツさん。
小枝に火を付けるのが精一杯だと両手をひらひらとさせる。
そうなんですかと適当に相槌を打ちつつ、今度はミケさんに聞いてみると、
「イッヒ様を全身氷付けにするのが限界です。」
と、目をマジにさせながら微笑んで教えてくれた。
物理的と精神的の両方で寒気を感じた。
きゃー恐い。
「きひひひ。」
笑い事じゃないよシュルツさん。
ん?
そういえば
「エーリカさ・・・魔帝閣下はどれ程の実力を持っているんですか?」
ちょっと疑問
まあ、紅茶を飲みながら春うららな表情でぼ~~っとしている限りは期待できないけどね。
「えっ?・・・強さですか?・・・え~~と、え~~~。」
『あっ、もういいですエーリカさん。その反応で大体想像できました。それ以上やるとシュルツさんに情けない姿を見せることになりそうなんで止めといて下さい。』
念話でストップ。
ミケさんはいいけどシュルツさんの前では一応魔帝として振舞ってほしいからね。
『ひどいですねイッヒ。』
『事実でしょう?』
『うっ。』
と、
「オイオイ、イッヒの旦那よぉ。それは聞くまでもねーんじゃねーか?」
念話に割り込むように、呆れ交じりにシュルツさんが言う。
「魔帝閣下様であらせられるんだぜ?。この世で一番強ーに決まっているじゃねーか。」
つまらねー冗談は止めてくれよと笑うシュルツさん。
いやいや。シュルツさんこそ冗談は止めて下さいよ。こんな慌てると噛みまくるエーリカが強い訳ないでしょう?。仔犬と同列の強さですよきっと。
とは流石に言えないので、
というか初めてエーリカと会ったときに右手に氷、左手に炎、逆だったっけ?まあ、いいや。とにかくそれなりに魔法が使えることを見せ付けられた記憶がある。
まあ、強さの程度は知らないが。
だから聞いたんだけどね。
『私だって伊達に魔帝としているわけじゃないんです!。魔法の腕は少しだけ自信があるんです。』
少しだけというのがまたエーリカらしい。
『そんな意固地にならないで下さいよ。強いとか弱いとかどうでもいいじゃないですか。あれですよ?。この中で最弱なのは自分ですけど、全然気にしてませんからね。』
ハッハッハッと念話でエーリカに笑う。
『能天気なのか卑屈なのか判断に困りますね。』
と、呆れ交じりに呟くテレパシーを聞き流しながら意識を引き戻す。
何気にシュルツさんとミケさんが仲良く会話している光景に若干嫉妬。それでよーきひひと話すシュルツさんに耳ん傾けつつエーリカを見てみる。
若干不満そうに、でも楽しそうに微笑む愛すべき馬鹿帝エーリカ。
気が付けばシュルツさんの報告会からただのお茶会、というか雑談会にマジカル変化した馬車の中。
グナイゼナウ大公が見たら驚愕しそうな和やかさ。
ドーラ公爵が見たら呆れそうな賑やかさ。
カイテル伯爵が見たら嘆きそうな楽しさ。
ああ、この空気がいつまでも続けばいいのにと、
ああ、この時間がいつまでも続けばいいのにと、
そう、思ってしまった。
そう、願ってしまった。
願いが叶うことなんて有りはしないというのに。
そう、
自分の運の悪さは自分が良く知っているというのに。
「「「「!!!!」」」」
ミケさんのキレのあるジョークにみんなで笑おうとした瞬間。
馬車が
ひっくり返った。
馬鹿な?
この物語は基本的に、冒頭・日本での会話もしくは主人公の一言っぽいもの→本文→■■■場面転換→本文→オチもしくは主人公の一言。で、構成されています。だからといってどうにかなるわけじゃないんですけど、まあ、今更の話しでした。
次回はバトルシーンがあるかも。
無いかも。