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第十一幕 心乃準備

アパートの一室

清潔感溢れるわけでも、ゴミが散らかっているわけでもないありふれた部屋。

1DK。

だれかが住んでいたんだろう生活感が漂う空間

だれかが住なくなったんだろう空気が止まった空間

カッチ

時計の針の音がする。

カッチ

秒針が時を刻む。

カッチ

分針が時を進める。


時計の歯車が止まる。

誰かが電池を取り換えなければ

でも、部屋の主はやって来ない。

部屋のドアは開かない。

部屋の主は帰ってこない。










■■■









「はわわわわ、どどどどうしましょしょう。!」

さあ、どうしましょう?

会議の後にエーリカの私室に戻ってきた途端コレである。

つい30分前に”誰かの影に隠れるのはもう嫌なんです。”と、自分に対して啖呵を切った人物とは思えない程の狼狽っぷり。部屋の中を右往左往。椅子に座ってまた立って。机の周りをぐーるぐる。もはや見ていて笑えるレベルだ。

あっ、こけた。

「あぅぅぅぅ。」

黒のドレス姿でうつ伏せになって涙目になってるエーリカ。

自分の国のトップがこんなんだと知った日にはおそらく亡命するね。

と言っても自分に亡命する先さんて無いんだけどね。むしろ日本から逃亡してるようなもんだし、なにしろ異世界だし。

嗚呼、日本、日本かぁー。懐かしいなー。平和だったもんなー。戦争やら反乱なんてまったくこれっぽちも露にも関係ないことだったからなー。あー。味噌汁飲みてー、ラーメン食いてー。カラオケでストレス発散したいなー。新しいTシャツも欲しかったんだよなー。

っと、

いかんいかん。また現実逃避するとこだった。

ん?いや。そのまま現実逃避してた方が気持ち的に楽だったかな?

流石にそりゃあマズイか。

少なくとも命が危険になるわな。

流石に自分も命は惜しい。

では考えたくもない現実を考えますか。

あ〜嫌だ。

「どうしたんですかイッヒ?ぼーっとして。」

「えっ!?ああ、ちょっと考え事をしてまして。」

「?、そうですか。」

エーリカに心配されるほど放心状態だったのかな自分?

しかも考え事する前の状態だったし。

まあ、いいや。

「エーリカさんエーリカさん。」

「っは、はいなんですかイイッヒ!?。」

いや、何で自分に対してもそんなに慌てるの?

「そんなに悩まなくても大丈夫ですよ。」

「えっ?でも・・・戦争なんですよ!?私は戦争の経験も喧嘩の経験だって無いんですよ!?。」

自分もです。

「それにロッソ伯爵は右将軍として軍の指揮官だったんです。私なんかより戦争が一枚も二枚も上手なんです。レイモンド伯爵やネロガイウル男爵も魔帝国の重臣として私達の弱点をすべて知ってるんですよ!?。勢いで討伐軍を率いることになってしまったとはいえ勝てる気がしないんです。・・・あっ、でも別にグナイゼナウ大公やドーラ公爵が弱いっていう意味ではないんですよ?ただ私が戦争の指揮をする自信が無いだけで、その、あの、恐いというかなんといいますか・・・何をすればいいかわからないというか・・・私はいったいどうすればいいんでしょう?。」


知りません。


どっちにしろ戦わないといけないんですからその辺は腹を括って下さい。

むしろ諦めてください。

っと、ダイレクトに言ったら可哀そうなので少しオブラートに包んで言うことにする。

「安心してください。エーリカさんが何かしなくても大抵の事はグナイゼナウさんやドーラさんがやってくれますよ。それにいくらレイモンド伯爵達がこちらの弱点を知ってるといってもこちらだって向こうの事は知っている訳ですから条件は対等ですよ。それにエーリカさんが前に言ってたじゃないですか”この魔帝国は先代の頃からずっと平和だ”って。ならロッソ伯爵だって戦争の経験が無いでしょう?ほら、条件ならみんな同じです。むしろ正規軍のこちらが有利なくらいです。ね?考えてみれば全然勝てそうでしょう?。」

ん?言いたいことが伝わらないような気がしてきた。

まあ、いいや。

少しは安心しただろう。

「・・・そうでしょうか?」

なんでもいいから安心しろや。

「そうですよ。悩んだってなにも始まらないんですから。戦争の準備は他の方達に任せてゆっくり英気を養いましょう。自分だっていますから、”きっと”大丈夫です。”たぶん”負けませんから”少しだけ”大船に乗ったつもりで”軽く”安心してください。」

「・・・なんか安心しきれない気がするんですけど。」

えっ?そんなまさか。

「気のせいです。」

「はあ・・・。」

納得しきれない様子のエーリカ。でもまあ多少は落ち着いてくれたようなのでよしとしようか。

しかしこうやって二人とも黙ってみると城の中が騒がしいのがわかるな。走り回る足音や荷物の積み下ろしの掛け声、兵士達の号令や怒鳴り声が廊下の奥から響くように、部屋の窓の外から轟くように聞こえてくる。 

城中がお祭り騒ぎに包まれているようだ。

「深呼吸深呼吸。すーはーすーはー。」

で、元凶は目の前で深呼吸なんかしてやがります。 あっ、なんか喉乾いてきた。

「すーはー、!?、どこ行くんですかイッヒ?」 

「ちょっと喉が乾いたので何か飲み物もらってきます。エーリカさんの分ももらってきましょうか?」

「あっ、はい、お願いします。」

「わかりました。」

と、胸に手を当てて呼吸運動しているエーリカさんを残して部屋から出ることにした。


ガチャリ。


バタン。


「・・・・」

んで、扉を閉めた瞬間に目の前に紅茶セットを乗せたワゴンを押したネコミミさんがいた。


失礼、紅茶セットを乗せたワゴンを押したミケさんがいた。


「・・・」

あれ、これは今まさにミケさんがエーリカさんに紅茶を届けようとしていますよね?

自分部屋出た意味無くないですか?

まあ、いいや。

「・・・どうもミケさん。エーリカさんに紅茶を届けるところですか?」

「シュレディンガーです。はい。会議が終わりお疲れかと思いましたので紅茶と薬茶をお持ちいたしました。エーリカ様はお部屋にいらっしゃいますでしょうか?。」

「いますよ。ちょうど喉が乾いたので何か飲みたがっていたところです。ところでしゅれでぃんがぁぁさん、その薬茶ってなんですか?」

「シュレディンガーです。この薬茶はナルティといいまして心を落ち着かせる効果がございます。ただ非常に苦いのであまりエーリカ様は好んでお飲みになりません。」

「そうですか。ならチェレディンガーさん、是非ともエーリカさんに飲ませてあげて下さい。どうやら明日の出陣に緊張して落ち着かなくなっているようですので。」

「かしこまりました。それとシュレディンガーです。ではイッヒ様からの指示という形でエーリカ様に薬茶を飲んでいただくことにいたします。」

「それではまるで自分がエーリカさんに苦い薬茶を飲ませているように感じますねシュレレレガーさん。」

「それはイッヒ様の思い違いでしょう。それと何度も言いますがシュレディンガーです。」

「そうでしょうか?」

「そうです。」

「そうですか。」

「はい、そうです。」

「そうなんですかチュレディンラーさん。」

「いいえ、シュレディンガーです。」

「わかりましたミケさん。それでは早くエーリカさんに薬茶を飲ませてあげてください。」

「かしこまりました。それでは失礼いたします。」

そう言ってミケさんは自分の脇をすり抜けてエーリカがいる部屋に入っていった。

あっ。紅茶を一杯もらえばよかったなー。

んーでも今更紅茶をもらいに部屋に引き返すのもあれだし苦いっていう薬茶は飲みたくないしな。

いいや、我慢しよ。

する事も無いし自分の部屋で暇を潰そうか。

そう思い廊下を歩いて自分の部屋を目指す。その最中もひっきりなしに衛兵や荷物を抱えたメイドさんとすれ違う。普段はみんな静かに歩いているんだけど今日は小走りだったり全力疾走だったりドタドタと足音がうるさいくらいだ。

おや、チェルシーさんも走ってる。大変そうだね。

なんて間に自室に到着。


ガチャリ。 


バタン。


ドアを閉めると廊下の喧騒も大分静かになる。

相変わらず調度品も家具も必要最低限しかない質素な部屋だけど、異世界において一番自分が落ち着ける場所だったりします。

「・・・ふぅ。」

溜め息。

つーか慣れてて忘れそうになるけど自分って頭なトンガリ帽子兜をかぶったままなんだよなー。これが長時間かぶったままだと疲れるんだ。

誰もいないから取ってもいいかな?

ちょっと頭掻きたいし、むずかゆいんだよね。


「よぉーーうイッヒの旦那。溜め息なんかついてどうしたんだ?」

!!?!  


あーー、来ましたか? 

来てしまいましたか天井裏の通行人さん。

てか銀髪にーちゃん。

「どうかしましたかシュルツさん?。」

はずしかけた帽子兜をまた被り直して振り向くと、


そこには誰もいなかった。




あれ?




「きひひ、こっちさイッヒの旦那ぁ。」


上? 


あっ、いた。

銀髪赤目のあんちゃんが天井から逆さまにぶら下がってる。


「何んで逆さまにぶら下がってるんですか?」

聞いてみる。

「んや、特に意味はねーよ。」

そうですか。

「きひひひひ。」

もう聞き慣れた笑い方をしながらシュルツにーちゃんは、どういう理屈になっているのかわからないが天井に引っ付いた両足をパッと外すと落下しながらその場でクルリと一回転し、シュタッっとかっこよく床に降り立った。

拍手パチパチパチ。

「お見事ですね。」

「あーーん?こんなん大したことじゃねーよ。」

いえいえ、自分にはマネ出来ない芸当ですよ。

「それで、どういった用件ですか?」

「ああ、とりあえずは報告だな。ちゃんと例の手紙を二人に渡してきたぜ。」

ポケットに手を入れてニヤリと笑うシュルツさん。

すげー。ギザギザしたサメみたいな歯をしてる。人間じゃねー。

あっ、もともと人間じゃねーのか。

「それともう一つ。」

「はい?」

自分の視線を気にせずに話を進めるシュルツさん。

「この三つ目の手紙に書かれた仕事だけどよぉ。」

そう言いながらポケットから出した右手で自分が渡した手紙をヒラヒラさせる。

たしかあれは自分が書いた”小細工”の手紙

「マジでコレを俺にさせる気かよ。」

ああ、そういえば結構無茶なことを書いてたっけか。

「つーかあの金額じゃ割に合わねーよ。」

だから自分はこの世界のお金の価値がわからないんだって。

「・・・なら、いくらでしたら請け負ってもらえるんですか?。」

しょうがないから聞いてみる。これでもし法外な金額を吹っかけられても断れないよなー。まあイザとなったらエーリカにたかればいいか。

「きひひひ、そこで相談だ。ん?いや、取引かな。」

なんか嫌な予感。

シュルツさんは少し考えるそぶりを見せた後に要求を言う。きひひと笑いながら言う。

「今回の報酬は今のままでいい。その代わり。」

その代わり?

「この仕事が終わったら俺を雇ってくれ。」



雇ってるじゃん。

「つまり?」


「月給くれ。」


日雇いじゃなくて定職希望か。

「いやな、結構安定した給料がないとこれがまた辛いんだぜ。いつ家賃が払えずに追い出されるかビクビクする生活にはもう飽き飽きしてんだよ。」

切実だな。

「それに毎日働いてないと大家とご近所の視線が痛いしな。」

生々しいな。

「地獄だぜー水だけの生活つーのは。」

痛々しいな。


「わかりました。なら、この反乱鎮圧がうまくいったらエーリカさんにシュルツさんを専属の隠密?情報屋?暗殺者?・・・なんでもいいや、とにかく雇ってくれるように言っときますよ。」

「あん?イッヒの旦那が雇ってくれるんじゃねーのか?。」

「自分はただのエーリカさんの付き人ですよ?シュルツさんを雇うとしたら上司のエーリカさんが直接に契約しなければならないでしょう?」

「だから、ただの付き人なら魔帝閣下のことをさん付けなんかで呼ばねーだろーが。しかし魔帝閣下の直接の部下か・・・きひひひ、面白そうじゃねーか。いいぜ。それで取引は成立だ。きひひひひ。」

どうやら納得してくれたようなので一安心。

「なんでしたら契約書でも書きましょうか?」

「ん?、いやいらねー。もし約束を破ったらイッヒの旦那を殺すだけだからよ。きひひひ。」

恐えーー。何が何でもエーリカを説得してシュルツさんを雇わせないと。

「ところでイッヒの旦那よー。」

「はい。なんですか?」

「今俺に依頼している仕事は魔帝閣下からの指示なのか?」

「・・・いいえ、ほぼ自分の独断ですね。」

「仕事を依頼するのは良くて俺を雇うのは駄目なのか付き人っつーのはよー。」

えーっと、まあ、

「・・・それはそれ、これはこれで。」

一瞬の間。自分の返答を聞いたシュルツさんは一瞬の沈黙の後。

「きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひ。」

笑った。

それはもう腹を抱えて笑った。

爆笑とも言っていい。

「面白れーよ。ひひ、やっぱアンタは最高だぜイッヒの旦那、きひひひ。」

「はあ、どうも。」

きょとんとしてしまう自分。

なるほど、いきなり人が爆笑するとこういう気持ちになるのか。ドーラ公爵達もこんな気持ちだったんだな。つまり

どう反応していいかわからん。

「ひひひひひ、やべーやべー。こりゃあ楽しみで仕方ねーや。きひひひ。」

まあ、普段会議で笑わないエーリカといつも笑っているシュルツさんとじゃ与える印象は大分違うんだろうけどね。

「ひっひっひ。あー笑った笑った。こりゃあ是非ともこの仕事を成功させて雇ってもらわないとな。きひひ。」

っと、ようやく笑い終えたシュルツさんは赤い瞳で自分を愉快そうに眺めた後、

「んじゃ、報酬と俺の居場所を用意してまってろや。」

シュタッと、いつ見ても呆れる運動神経を披露しながら天井裏に消えていった。

「大家さんとご近所さんによろしく言っといて下さい。」

「大きなお世話だよ。きひひ。」

笑いながら。


いやホント、このバルケン城に忍び込めるスキルを持ったシュルツさんをビクビクさせる大家さんに一度会ってみたいような会いたくないような。

・・・かなりどうでもいいな。

さてと、なんかこのトンガリ帽子兜を取るタイミングを逃がした気がするし、エーリカの部屋に戻るのもちょっと恐いし、暇だし。

ん〜〜。

ああ、喉が渇いてたんだった。

確か備え付けの水があったはず・・・・。

で、瓶を見てみると、空ですか。そうですか。

仕方ない。エーリカの部屋に戻るか、今ならまだミケさんが居るだろう。

そう思い自室を後にする。


ガチャリ。


バタン。


廊下に出ると再び怒声と物がぶつかり合う音がこだましていた。

すいません通ります、と布の束を持って走るメイドさんに、前空けて下さいと、木箱を抱えた衛兵が駆ける。

あっ、チェルシーさんがまだ走り回っている。ご苦労様です。

まあ、そんな人(?)ゴミの中を四苦八苦しながら歩いてエーリカさんの部屋に到着。

ぶつかった肩や踏まれた足先が痛い。


ガチャリ。


バッタン!!!。


あれ?

なんでこんなに勢いよく扉が閉まるの?

後ろを振り向くとミケさんが無表情で扉の取っ手を持っていた。てか扉を塞いでいた。

どうやらミケさんが一瞬で閉めたらしい。

「ふふふ、お帰りなさいイッヒ。ちょうど”お茶”がはいったところなの、おいしいから飲まない?。」

そして目の前には疑問系つーか質問口調だが有無を言わせない雰囲気のエーリカが立っていた。

しかも今エーリカ、”紅茶”と言わずに”お茶”と言ったよな。

これはアレか?

ミケさんの奴やりやがったのか?てかやっただろ。自分が薦めたと言ってエーリカに滅茶苦茶苦い薬茶を飲ませたろ。んでもってエーリカの奴自分にも苦い薬茶を飲ませようとしてるだろ。ご丁寧にミケさんは出口塞いでるし。

「はい、どうぞ。」

っと、エーリカがカップを手渡してきた。

思わず受け取ってしまったよ。

中身を見るといつもの透き通った赤っぽい液体ではなく、濁った緑色の液体が入っている。

「どうぞ。」

笑顔で促すエーリカ。絶対に怒ってる。なんで言うことを聞かない家臣には怒らないで自分には怒るんだよ。

「どうぞ。」

しかもよく顔をると涙の跡があるし。そんなに苦かったんですか。

「どうぞ。」

まあ、いいや。

もう面倒くさいから飲もう。


グイッと、腹をくくってというか半ば投げやりに飲んだ結論は。


これ抹茶だ。


うん、普通においしい。

しかしなにゆえ抹茶? 

まあ、確かに飲み慣れてない人には不思議な味かもしれないけど涙を流す程苦くはなかったぞ。

エーリカ、つーかこの世界の住人の味覚は謎だ。

てか紅茶セットでどうやって抹茶を煎れたんだミケさんは、てか抹茶の原材料をどうやって入手したんだ?うーーん。謎は深まるばかりだ。

まあ、いいや。とりあえず

「ご馳走様でした。」

結構なお手前で。

「イッ、イッヒ。苦くないんですか?」

驚愕の表情を浮かべるエーリカ。

「ええ、とても美味しかったです。」

貴方がいれた紅茶に比べれば何倍も美味しかったです。

「そっ、そんなはずは。ミッミケ、私にももう一杯下さい。」

「かしこまりました。」

いや、明日に出陣を控えてるのに何してんだよエーリカ。

「どうぞエーリカ様。」

そして異常なほど準備するのが早いねミケさん。

「・・・えいっ。」

んでもって勢いよく抹茶を飲むエーリカ。

なんだこの展開。

「・・・苦ぃ。」

んでもって涙目になるエーリカ。

なんだこの茶番。

「・・・よくこんなに苦いのに美味しく飲めますねイッヒ。」

「さあ、なんででしょうね?」

エーリカの質問を適当にはぐらかしつつミケさんを見る。

そこには普段通りの素晴らしいネコミミと尻尾。

いいね。

じゃなくて。

もし、もしもこの茶番劇がエーリカを落ち着かせるためのものだとしたら。

いや、もともとミケさんはエーリカに落ち着いてもらうためにこの抹茶を用意していたはず。

ならここで自分が苦さに苦しもうが、今のように平然としてようが目的は達成できたわけだ。

なんていう忠臣

なんという策士

なんたる心配り

やっぱ幼なじみなだけはある。

自分がエーリカの笑い所を知ってるように、

ミケさんはエーリカの癒し所を知ってるわけだ。


「?、ミケ、イッヒ、二人共見つめ合ったりなんかしてどうしたんですか?」


「なんでもございませんエーリカ様。」

「なんでもないですよエーリカさん。」

「?」

「まあ、」

「理由を一つあげるといたしましては。」


「「エーリカさんの為で《すね。》ございます。」」


ミケさんと声をハモらせて言う。

「???」

頭上に疑問符を沢山浮かべるエーリカ。カップに残った抹茶をグイッと飲み干してから、苦いと何度も呟く。

その姿がどこか美しい。

きっとあれがエーリカの自然体。


それでいい。

今は刹那の安穏を享受すればいい。

自分もミケさんも見返りなんてもとめていない。

思う存分楽しんで欲しいだけ。


明日の出陣から、いや、今日の会議から始まった新たな魔帝としての道。

おそらく辛く険しい曲がり道。

だけど、今みたくありのままな時があったっていいじゃないか。 

ちょっと気を抜いたっていいじゃないか。

なんて思う。



ミケさんはね。



でも自分は違う。

自分はただミケさんに乗せられただけだけ。

けどさ。

まあ、いいさ。

こういうのも、

たまには悪くない。


テンポが早くて戸惑ったけどよしとしようか。

いやー、エーリカのキャラクターが壊れたかと焦ったけど気のせいだったし。

抹茶も飲めたし。

エーリカは十分に落ち着いたようだしね。

さて、

無意味な会話に意味を、

無機質な異常に賛美を、

無邪気な彼女に歓声を、

いいね、悪くない。

この弱弱しくも温かい優しさを、

いつかくる、明日には必ずやってくる決断の時まで、

演じるとしますか。

ねえ?ミケさん。

ねえ?シュレディンガーさん。









「ああ、そうそうエーリカさん。」

「?、なんですかイッヒ?」

「今度雇ってほしい奴がいるんですけど。」

「?、どなたですか。」

「天井裏の通行人です。」

「???」

とりあえず謝ります。  

すいませんでした。

本当は出陣前のドタバタ感を書きたかったんですけどよくわからない話になってしまいました。ただ単に主人公とミケさんの会話を書きたかっただけなんですけどね。

まあ、いいや。

次回はようやく物語が進行します。てかさせたいです。

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