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美女に憑りつかれたばかりに彼女が全然できない俺  作者: アマヨニ
第2章 教会関係者は盲点だった……
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第24話 昔話はクッキーと共に

 緩やかな山道をガラガラと馬車が進む先には、山頂が尖った2つの山が聳え、そんな山と山の間に砦の様な物が築かれているのが見える。

 あの砦を越えると、四方を山で囲まれる巨大な城塞都市国家である「フランティア聖王国」となる。


「王都ではさほど気にしなかったけど、こうやって近づくとやっぱり高いんだね、あの山」


 俺が荷台から御者台へと目を向け、そこから見える巨大な2つの山を見てそう感想を告げると、ポーラが微笑みを浮かべて頷いてくる。


「聖王国では『ロム・レムの双子山』という名で呼ばれていますわ」

「ロム・レム?」

「ええ。建国の父である初代ロム王と、その息子で第2代国王であるレム王を祀った山という言い伝えがあるんです。なので今でも崇められているんですよ?」


 そう言ってポーラが御者台の方へと身を乗り出す。


「順調そうね」

「ええポーラ様。今日はロム・レム砦まで向かいます」

「わかりました。問題なさそうでよかったわ、アルク」

「はい! 今のところ特に問題はございません」

「その調子でよろしく頼みましたよ?」

「承知しました。お任せください、ポーラ様」


 笑顔で応じるアルクに、ポーラは微笑みで返す。

 そんな二人のやり取りを見ながら、俺は視線を砦があると言われる道の先へと視線を向ける。

 まだ小さな構造物にしか見えないが、規模的にはかなり大きい事が見てわかる。


「あれが砦。結構大きそうだね」

「ええ。とっても大きいですよ? ちなみに、ノルドラント王国と国境を接しているあの砦は『ロム・レム砦』と呼ばれています」

「へぇー。凄そうだねぇ」


 俺は感心して頷く。


「あの砦を越えると聖王国の統治下になるので、気を付けてください」

「……ん? 気を付けるって、どういうこと?」


 ポーラは少し苦笑いを浮かべる。


「ノルドラント王国では騎士団が定期的に巡回しているので、街道の安全は保障されているに等しいのですけど、聖王国統治下の街道はあまり治安がいいとは言えないんです」

「教会の総本山がある場所なのにかい?」

「総本山があるが故です」

「うーん。意味が解らん」


 俺が首を傾げると、ポーラが真剣な表情で見つめてくる。


「えっとですね……数多くの巡礼者がフランティア聖王国を訪れるので、必然的に人の流れが多くなります。すると、その集団を狙ってくる賊徒も後を絶たないのです。教会も街道警備巡回数を増やして警戒をしていますけど、それでも賊徒による襲撃事件が後を絶ちません。嘆かわしい事ですが……」


 少し寂しそうに説明するポーラ。

 なるほどね。人を狙って襲撃する盗賊が多いという訳か。


「まあ、国境を越えたら気を付けるしかないよね」

「ええ。ですがまあ、私たちは問題ないと思います」


 そう言って荷台の方へ視線を向けるポーラ。

 ああ……そうだよね。


『……ん? 何?』


 視線を感じてエリーがキョトンとする。


「ま、そうだね」

「ですよね」


 互いに視線を合わせて苦笑いを浮かべると、荷台に戻って席に座る。


『……なんだろう。物凄くムカツクわね』


 エリーは一人ジト目で俺たちを見つめる。


「気にしないでくれ」

「ええ。問題ないですから」

『そう言われると物凄く気になるわ』


 そう言いながら笑顔を見せたポーラは、居住まいを正し、俺の方に視線を合わせてくる。


「ささっ。昨日の続きをお願いしますっ」

「続きねぇ……」


 俺は苦笑いする。


「それよりも、俺はポーラの事を知りたいかな?」

「え? 私の事?」


 ポーラがきょとんとして目を丸くする。

 可愛い。 


「まぁ! ついに私に興味を持ってくださったのね!!」

「え? ああ、まあ、そう言う事かな?」

「うふふっ。これはもう、私と結婚するということね!」

『そんな訳あるかっ、色ボケエルフ!』


 エリーの突っ込みに動じることなく、ポーラが笑顔を浮かべながら小さい麻袋を手元に出して開く。

 昨日買っていたクッキーだった。

 一つ摘まんで口の中に入れると、嬉しそうに目を細めて咀嚼する。

 次いで水筒を取り出し、準備万端といった感で俺に微笑んでくる。

 俺はそんな様子を見て、思わず吹き出す。


「用意周到だねぇ」

「ええ。長旅の必需品ですもの」


 笑顔のポーラに、俺は少し苦笑いを浮かべる。

 すると、綺麗な細い指を頬にあて、若干目を細めながら俺に尋ねてくる。


「ところで、何をお知りになりたいのかしら?」

「うーん。気になっていたんだけど、ポーラって、魔法を使う時に呪文を詠唱しないでしょ? とても高度な技術をもっているのか、はたまた何か別の要因があるのか、気になってね」

「……気になります?」


 ずいと顔を俺へと寄せる美人エルフ。

 エメラルドグリーンの瞳に吸い込まれそう……。


「き、気になる」

「ふふっ……わかりました」


 そう言って座席に座り直すポーラ。


「私は、森の守護者であるエルフの巫女です。ダリルの言う通り、私は魔法を行使するのに詠唱は必要ありません。その理由をお見せしましょう。それに……」


 ポーラはとびきりの笑顔を見せる。


「ダリルとは旅を共にするんですもの。だったら、少しでも私を知って欲しいわ。……さあおいで、セフュロス」


 笑顔のまま指をパチンと鳴らしたポーラの隣に微風がつむじ風の様に舞い、浅葱色の長い髪をポニーテールにまとめ、同じ浅葱色のドレスを身に纏う美しい女性が姿を現し、見事なカーテシーを披露する。


『お初にお目にかかります。私はセフュロス。風を司る精霊です』


 うっすらと微笑みを浮かべるセフュロスを目にし、呆然とする俺とエリー。

 そんな俺たちを見てポーラはくすりと笑う。


「驚かれました? 彼女はセフュロス。私のお友達です」

『お友達だなんて……嬉しいわ』


 言葉通りに嬉しそうに微笑むセフュロス。


「ということで、私と彼女はお友達同士。まあ、契約を結んでいるので、魔法という概念ではなく、彼女に直接語り掛けることで、事象を発生させているんです」


 なるほど。精霊による魔力の行使という訳か。

 あれだけ素早く魔法を展開できるのは相当な腕だと思っていたけど、精霊を使役してさらに同調させてあそこまで展開させるという事は、相当な実力者だという事もわかる。


「そうでした」

「ん?」

「セフュロスは私のお友達ですから、()()()しちゃダメよ?」

「何でそうなる……」


 俺ってば、精霊にもちょっかいだすと思っているのですか、ポーラさんや……。


「……ところで」


 急に表情を変えるポーラ。


「早速昨日の続きをお願いしますっ」


 目を爛々と輝かせながら詰め寄るポーラに、すかさずエリーが間に割って入ってくる。


『近いわよ』

「これくらい普通です。それよりも、続きを教えてくださるのですよね? もう気になって気になって、そのせいで昨日はよく眠れなかったのですから」


 頬に手を当てて目を細めるポーラに、エリーはじと目をむけて冷ややかに呟く。


『ぐっすりと眠っていたじゃない。変な寝言まで言いながら』

「あら嫌だ、乙女の寝言を聞くなんて、趣味が悪いですねぇ」

『趣味云々じゃなくて、聞こえたのだからしょうがないじゃない』


 ふいとそっぽ向くエリーに、ポーラはふぅとため息をついて笑顔を見せる。


「まあ、いいです。そう言えば、昨日教えてくださったリティさんのこと、もしかしたら教皇ティリエス様に聞けばわかるかもしれないですよ?」

「そうなのかな?」

「ええ。まあ、確信は持てませんけど」


 笑顔でそう言ってきたポーラに、俺は少しばかり安堵を覚える。知らない事が多すぎるから、少しでも知っておきたいと言うのが本音だからね。

 だが、すぐ傍で話を聞いていたエリーが、若干表情を暗くして目を細めていた。


『……ティリエス……』

「あら? もしかしてご存じかしら?」


 微笑みを浮かべるポーラだったが、よく見れば若干目元が細められている。

 何だか少しばかり怖い。


『……知らないわ。そもそも、教会は悪霊退治の尖兵だもの。そんな教会の支配者の名前など知りたくもないわ』 


 そう言いながらエリーがふいとそっぽ向くが、視線だけは俺に向けられる。

 こんな仕草をする時は大抵何かを知っている。

 まあ、いちいち言う必要はないか。


「まあ、エリーが街中で現れるもんだから、よく教会の人たちやギルドに迷惑をかけては逃げ出していたからなぁ……俺も名前はよく知らないし」


 さりげなく援護しておこう。

 まあ、いつも世話になっているしね。


「そうですか……。まあいいですわ」


 ポーラはじっとエリーに視線を向けるが、当のエリーはそっぽ向きながらもふわりと俺の傍に座るような恰好をする。


『それよりも、セフュロスって精霊なのにほぼ顕在化してるよね。凄いわ』

「だね。精霊として紹介されなかったら、普通の人だと思ってしまうよ」

『そんなことありません。全てはポーラのお陰です』


 柔らかい微笑みを浮かべるセフュロス。

 そんな表情を一瞥したポーラがため息をつく。


「顕在化している彼女は、私も納得の美人さんだもの。だからダリルの前に出すのは正直気が引けたのよね。私より彼女に目を向けたら嫉妬してしまいそうだもの」

『普段は見えなくしてますから問題ないのでは? むしろ私はあなたの方が心配です』


 若干不安そうな表情を浮かべるセフュロスに、ポーラはこてんと小さく首を傾げる。


「心配? どうして?」

『あなたの話が急すぎるからです』

「え? そんなことないと思うけど?」

『出会って間もない殿方に対して、あなたの方から結婚を申し入れるなんて驚きですよ。こんな調子では、変な男に捕まってしまうのではないかと気が気でなりません』


 セフュロスさん。あなたはこのメンバー唯一の良識だよ、ホント。

 とはいえ、こんなにも美人から結婚しようなんて言われたら、俺だって二つ返事で了承しちゃうよ。

 ま、エリーが阻止してくると思うけど……くぅ……。


 いろいろな事を考えているのを知ってか、ポーラは背筋を伸ばして小さくため息を吐くと、表情を一変させて微笑みを浮かべて俺に目をむける。


「セフュロスの話しはまたの機会にじっくり話しましょ! ささっ、それよりも昨日の続きを聞きたいですわっ」


 微笑むポーラに、俺は苦笑いで返す。


「クッキーも準備万端です。さぁ、どんと話しちゃってください!」


 小さな麻袋の口を広げると、中から溢れる様にクッキーが顔を出す。


「じゃあ、リティと会った後の話をするね」

「ええっ」


 嬉しそうに頷くポーラに苦笑いを向け、俺は馬車の背もたれに体重を預けると、当時を思い出しやすいように目を閉じた。


「じゃあ、続きだね」


 一呼吸おいて息を小さく吐き出すと、決して声を荒げることなく口を開く。


「……リティと繋がりを持った俺は、彼女に言われるがままに台座に手を乗せたんだ」


 俺は、あの時を思い出しながら静かに話し始めた。


お読みいただきありがとうございます。


「面白かった」「ニヤっとした」「続きが読みたい」

そう思っていただけましたら、是非とも☆を★へと輝かせていただけると励みになります。


次話もどうぞよろしくお願いします。



〇お知らせ〇

 書き溜めていたストックが尽きましたので、以降不定期更新となります。

 現在、ストーリーの流れを整えておりますので、しばらくお待ちいただければ幸いです。


 今後とも、『美女に憑りつかれたばかりに彼女が全然できない俺』をよろしくお願いします。



2021年7月13日 土田 勝弘

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