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放課後教室に忘れ物を取りに戻ったら同じクラスのクール系毒舌美少女が僕の椅子に顔をこすりつけて愛の言葉を囁いていた。

作者: ユキオ。

 深夜のテンションで執筆しました。


宮戸(みやと)くん、今日も相変わらず冴えない顔ね」

「あはは……まあそれも僕の個性だから」


 僕、宮戸 京(みやと けい)は今日も朝から同じクラスで隣の席の黒木 紅(くろき こう)さんから毒を吐かれる。


「あなたにはその平凡な顔を個性と呼ぶくらい、取り柄がないものね」

「そりゃ黒木さんから見れば、誰だって平凡な顔に見えるよ」


 黒木さんはこの高校で一番の美少女だと評判だ。

 でもクールで近寄りがたい雰囲気を漂わせているため、いつも一人でいて誰かと話しているところはほとんど見たことがなかった。

 そんな黒木さんを心配して隣の席になったのをきっかけに話しかけてみたら、意外と彼女は口数が多いことが判明した。

 まあその内容のほとんどが僕への罵倒なんだけど。


「確かにあなたの顔からすれば、私は女神に見えるかもね」

「あはは、でもホント不思議だよね。僕みたいなモブが黒木さんみたいなかわいい女の子と毎日会話できるなんて」

「……当然よ。私と会話できるありがたさを毎日噛みしめながら生きなさい」

「うん、いつもありがとうね黒木さん」

 

 でも実際黒木さんと話すのは好きだな。

 ひょっとして僕はMなのかな。


 その後の休み時間も黒木さんから罵倒されて過ごし、放課後になった。


「じゃ、また明日ね黒木さん」

「今日も私のことを思い浮かべながら、悶々とした夜を過ごしなさい宮戸くん」

「あはは、今日も黒木さんは教室に残って勉強?」

「ええ、ここのが集中できるのよ。邪魔だから早く帰ってくれる?」

「あ、ごめんね。黒木さんのそういう頑張り屋なところって好きだよ。じゃ、頑張ってね」

「……」


 黒木さんを一人残して僕は教室を後にした。


 さてと、帰ってさっさと今日の宿題でも終わらせるか。

 ってそういえば今日の宿題って教科書見ないとできないんだったっけ。

 教科書は教室の机に入れたままだ。


「んー……面倒だけど取りに戻るか」


 僕は校門を出たところで、教科書を取りに再び教室へと戻った。


「ふう……黒木さんは勉強してるだろうから、邪魔しないようにしなきゃね」


 僕のクラスである二年B組の教室前まで戻ってきて、扉を開けようとしたとき中から声が聞こえた。


「宮戸くん……宮戸くん……」

「え?」


 誰かが僕の名前を囁いているけど……。

 僕はこのまま扉を開けるのになぜか恐怖を感じて、中にいる人物に気づかれないようにそっと隙間を開けて中の様子を確認した。

 そして僕はとんでもない光景を目の当たりにした。


 スリスリスリスリスリスリスリスリ


 黒木さんが僕の椅子に顔をこすりつけていた。


「…………」


 え!?!?!!?


 僕は驚きで声を上げそうになるが、口を手で押さえてなんとか我慢した。

 待ってこれどういう状況? 

 黒木さんは一体何をしてるんだ?

 普通に怖いんだけど。

 僕はなおも隙間から彼女の様子をうかがう。

 何だろう……怖いけどなぜか目が離せない……


「……宮戸くんが私のこと……かわいいって……もぅいきなり反則だよぉ……!」


 スリスリスリスリ


「それに……私のこと好きって……私の方が何倍も大好きだよおぉ宮戸くんぅ……!」


 スリスリスリスリ


 …………。


 黒木さんはその後も僕への愛の言葉を囁きながら何度も、一番後ろの窓際にある僕の椅子に顔をこすりつける。

 照れなのか、こすりつけているせいなのか、彼女の顔はだんだんと赤くなっていく。

 それに口からよだれがたれている。

 その表情は、いつもクールで無表情の黒木さんとはまるでかけ離れた、もの凄く色気が漂う表情だった。


 帰ろう……。


 僕は見てはいけないものを見てしまった罪悪感からその場にいられなくなり、教科書を諦め、いや半ばそんなことはもう忘れていて教室を後にした。


 帰宅後、自分の部屋で冷静になる。

 何を取り乱しているんだ僕は。

 黒木さんがよだれをたらしながら僕の椅子に顔をこすりつけて愛の言葉を囁いていた、ただそれだけのことじゃないか。

 何もおかしくはない。

 そもそも僕が知らないだけで、皆にとっては普通のことなんじゃないか?

 うん、普通普通。

 さてと寝るか。


 「……って絶対普通じゃないよ!!!!」


 僕はホントに黒木さんのことを思い浮かべながら、悶々とした夜を過ごすこととなった。


 そして次の日……

 

「宮戸くん、今日はまた一段と冴えない顔ね」

「アハハ……ちょっと寝不足で……」


 今日も朝から何事もなかったかのように黒木さんは僕に毒を吐く。


「どうせずっと私のことを考えてたんでしょう? 宮戸くんって本当に変態ね」

「ハハ……まあね……」


 どっちかと言えば黒木さんのが変態なんじゃ……

 なんて口が裂けても言えないよ。


「……で、なんで突っ立ったままなの? さっさと座ったら?」

「そ、そうだね……そうするよ」


 僕は椅子を引き、その椅子をジッと見つめる。

 この椅子……昨日黒木さんが顔をこすりつけてたんだよね……。

 昨日の光景がまたフラッシュバックする。

 この椅子に座るってことは、間接的に黒木さんの顔にお尻をこすりつけることになるんじゃ……。

 うう、そう考えると座りづらいよ……。


「なんなの? さっきから椅子を見つめて……もしかして宮戸くんって椅子に興奮したりするの? さすがにそれは理解できないわ」

「ご、ごめんそうじゃなくて……なんか椅子が綺麗だなって思って……」


 嘘じゃなくてホントに椅子が綺麗になっていた気がした。


「そ……そうかしら? べ、別にき、昨日と変わらないけど……?」


 彼女はもじもじしてあからさまに動揺する。

 黒木さん、さては証拠隠滅のために雑巾で拭いたな。

 それにしても動揺する黒木さんなんてめったに見れないぞ。

 ……せっかくだしもうちょっとからかってみよう。


「……なんで黒木さんが昨日の僕の椅子の汚さを知ってるの? そんなのじっくり見ない限りわからないよね?」

「そ……! それは……! たまたまよ! 昨日たまたま宮戸くんの椅子が目に入っただけよ!」

「そうなんだ。あれなんか椅子の上に長い黒髪が落ちてる。なんでだろ」

「嘘!? 最後にチェックしたはずよ……!」

「え? チェック?」

「はっ! ……何でもないわ。こっちの話よ」

「そう。あ、ごめん僕の見間違いだったよ。髪の毛なんて落ちてなかった」

「やっぱりね! そんなもの見逃すはずは……いや! なんでもないわ!」


 彼女は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

 黒木さんってもしかして……

 もの凄くわかりやすい?


「……危なかったわ……危うく墓穴を掘るところだった……」

「え? 何か言った?」

 ばっちり聞こえてるけど。

「い、いいえ! 宮戸くんの幻聴じゃないかな!?」

「あはは、そうかもね」


 そして放課後。

 僕は宿題を居残りでやらされることになり、教室に残っていた。


「教科書を教室に忘れて帰るなんて、本当に情けないわね宮戸くん」

「そうだね。帰ってる途中に気づいたんだけど、教室に取りに戻ればよかったよ」

「それはダメよ!」

「え、なんで?」

「あ……! わ、わたしが……べ、勉強してるから……邪魔してほしくないの」

「あ、そっか。でも今日は居残りだから僕もいるけど邪魔しないようにするよ」

「二人きりだからって、変なことはしないでね?」

「うん。黒木さんもね」

「わ、私が変なことなんてす、するとおみょう!?」

 

 思い切り噛んでる……。


「ごめんごめん。冗談だよ」

「まったく……さあ始めるわよ」


 そして僕たちは勉強と宿題を始める。

  

 ……数分後。


「……うぅ……」


 黒木さんが僕を、いや僕の椅子をチラチラと見ながら足をくねくねさせる。


「どうしたの黒木さん、具合でも悪い?」

「へ、平気よ! み、宮戸くんこそ宿題じゃなくて私の方ばっか見て、私のこと好きなんじゃないの!?」

「まあ好きだけど」

「え!? 嘘!?!?」

「あはは、どうかな」

「ま、まあ……私は宮戸くんのことなんて、ぜ、全然好きじゃないけど……?」

「あ、そうなんだ……ショックだよ……」

「あ……いや今のは、そうじゃなくて……あうぅ……」


 それからまた数分。

 さてと、そろそろ頃合いか。


「ふう、トイレ行ってくるよ」


 僕は黒木さんにそう告げて立ち上がる。


「あら、私と二人きりで悶々としてきちゃったのかしら。ゆっくりで大丈夫よ」

 

 彼女は嬉しそうな笑みを浮かべて、僕を見送る。


「そうだね、これは時間がかかりそうだ」


 そう言い残して僕は教室を出てトイレに向かう


 はずもなく昨日と同じ要領で扉を少しだけ開けて中の様子を見る。


「宮戸くん……大好きだよぉ……」


 スリスリスリスリスリスリスリスリ!


 僕が教室を出た瞬間から彼女はもうやっていた。

 だいぶ手馴れてるな、これは昨日今日やり始めた話じゃないぞ。

 それに僕がいたせいで中々できなかったのもあり、溜まってたのか昨日よりも勢いが強いぞ。

 

「うわああぁぁぁん……好きじゃないとか言ってごめんね……! 本当は二人きりで残れて凄い嬉しいよぉ……!」


 あ、急に泣き出した。


 その後も数分間、黒木さんは僕の椅子に顔をこすりつける。

 涙とよだれで、彼女の顔と僕の椅子はぐっちゃぐちゃだ。


 さてと、そろそろかな。


 僕はいったん教室の扉の前から離れて、足音をわざと大きく響かせながら教室へと近づいていく。


 ガタッ ゴシゴシ ガタン あっやばい!?


 すると教室から何か騒がしい物音と慌てる声が聞こえてきた。

 

 気にせずに僕は教室の扉を開ける。


「ただいまー」

「……ハァあらお、おかえり……ハァハァ早かったわね……フハァ」

「あれ? 何か黒木さん息あがってない?」

「そ、そう? ちょっとつ、疲れたからハァ……運動してたの……それで、ハァハ汗もかいちゃったわ……」

「そうなんだ。あれ、僕の椅子が倒れてる」

「あ、えっと……ちょっと運動するのに使わせてもらったわ……」

「ずいぶん激しい運動してたんだね」

「そ、そうね……まああなたの椅子なんてそれくらいしか役に立ちそうにないし、私に使われただけありがたく思いなさい」

「うん、ありがとうね黒木さん」


 そして再び机に向かう僕たち。

 しばらくして、僕は宿題を終えた。


「やっと終わったよ。じゃあ提出してくるからさ、戻ってきたら一緒に帰らない?」

「え!? 一緒に帰る!? ……ええ、宮戸くんがどうしてもっていうなら帰ってあげてもいいわ」

「あはは、ありがと。じゃあ急いで出しに行ってくるよ」

「走ると危ないわ。ゆっくり行きなさい」

「あ、そうだね。ゆっくり行くよ」

 

 僕は廊下へと出ると全速力で職員室へと向かった。

 そして宿題を提出すると、再び全速力で教室へと向かい、教室に近づくとゆっくりと忍び足で進む。

 そして教室の扉の前で例によって中の様子をうかがう。


「宮戸くんぅ……一緒に帰れるなんて夢みたいだよぉ……」


 スリスリスリスリ!


 黒木さんも例によって、椅子と同化するんじゃないかという勢いでいつものをやる。


 そして先ほどと同じ方法で教室の扉を開けた。


「やあお待たせ」

「ハァ……べ、別にま、待ってないけど……?」

「また運動してたんだ。じゃあ帰ろうか?」

「そ、そうね」


 僕は黒木さんと共に教室を後にした。

 その際に彼女は一瞬僕の椅子を名残惜しそうな顔で見たが、すぐに僕に向き直った。


「あなたみたいなのが私と二人で帰れるなんて、まるで夢みたいとか思ってるんじゃない?」

「うん。ホントに夢みたいだよ」


 彼女の表情はほとんど変わらないが、どこか嬉しそうに見えた。


「あれ、なんだろ? 僕のズボンに長い黒髪がついてるぞ」


 今度はホントについてた。

 おそらく黒木さんは焦っていたため拭きが甘かったのだろう、椅子に残った彼女の髪が僕のズボンにくっついてしまったようだ。


「あ……! えっと……そう! 運動してあなたの椅子を使ったとき、つ、ついちゃったのかしら……!」

「どんな運動それ」


 おそらくこれから先も、黒木さんは僕の椅子に顔をこすり続けていくんだろう。

 そして、僕はそれをずっと陰ながら見守っていくのだろう。

 なぜなら僕はそんな黒木さんの姿を……


 とても愛おしいと感じているのだから。




 お読みいただきありがとうございました!

 

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― 新着の感想 ―
[一言] なんだ純愛じゃん(遠い目)
[一言] ええやん...
[一言] どっちもどっち
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