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候爵家の末っ子はみそっかす

「いいかい、マリーゴールドや、お前の守護天使の御力が弱いのは、神様の思し召し。きっと何かお考えがおありるのでしょう、その代わりに『真鍮と鉄の指輪』を握り締めて産まれたお前、何があっても大丈夫、自分の好きな道を、しっかりと考え、行動を律して歩きなさい


 生前祖母が使っていた離れで独り眠る幼い少女。スウスウと寝息を立てるマリーゴールド、家族、親族一同誰もが、みそっかすと呼んでいる彼女を、ただ独り可愛がっていた、懐かしい祖母の声が夢の中で流れていた。


 ☆☆☆☆☆


 マリーゴールド・ジョゼファ・ブラウニー、彼女が生を受けた世界では、それぞれに持つ、守護天使の羽根の大きさと、美しさで待遇が決められている。


 王族貴族は、見目麗しく、かつ純白で、大きな羽根を持つ天使。

 平民達は、白く中程の羽根を持つ天使。

 下層な存在は、くすんだ色した小さな羽根を持つ天使。


 といつの誰だか知らない存在がそう決めていた。しかし神の思惑に人の決まり事など、関係はない。地上に送り出す魂の歩く道は、神々のお心ひとつで、既に決められている。


 天界にあるという『人生の道標』革表紙、金の箔印で装丁されている大きな本に、極楽鳥の羽根ペンで記されている、産まれてから終末までの一切合切。それに沿うように力を貸す様に、命を受けているのが、守護天使達なのである。


 見目麗しく、穢れなき雪の如く白い羽根を持つ、アンジェリカ。彼女を守護として産まれ落ちたマリーゴールド。残念だと、人は言う。


 大きかったら……よろしかったのに、と。そして、彼女は大きくないと言うだけで、候爵家の三番目のみそっかすと呼ばれていた。


 長女アマリリス、長男コリウスは、侯爵令嬢にも関わらず、小さなそれのアンジェリカを持つ、彼女の事を恥ずかしく思い、外では妹などいないと、言い切っている始末なのである。




「お母様、アレも詠唱も祈りの言葉も唱えられる様に、なって()()()()のは、本当なのですか?」


 マリーゴールドが、守護天使の教えの元、悪魔の親方を呼び出し離れで眠っている頃、館では姉アマリリスが顔をしかめて母親に聞いている。


「ええ、仮にもブラウニー家の娘ですもの、それなりに魔力もありますからね、()()から入園の手紙が届きました、貴方達と一緒ね、良かったこと」


「一緒って……、まさかアレも学園に?」


 母親の言葉に兄コリウスが目を丸くしてそう聞く。


「当たり前でしょう、詠唱が出来る様になれば、貴族の子弟は学園に入るのがしきたり、たとえ守護天使の御力が低くとも、それは決まりですからね」


 母親の言葉に顔を見合わせる、アマリリスとコリウス。


「宿舎に入れますからね、あの子にはしっかりとお勉強をしてもらわなくては!無駄な時間は、マリーゴールドにはありません!守護天使が弱い分、自身を高めなくてはいけません」


「え!宿舎に入るのですか?」


 毅然とした母親の言葉に、アマリリスが食いついた。


「そうですよ、寄宿舎がありますからね、貴方達は通学しておりますが……、通学というその時間を、特別授業に当ててもらう様に計らってるのです」


 母親の言葉に、姉アマリリスと、一つ下の嫡子コリウスは顔を見合わせ、笑みを交わした。


「これでお友達をおうちに呼べますわね、お母様」


 アマリリスの言葉に、黙ったままうなずくマリーゴールドの母親。


「僕も呼んでもいいかな、お母様」


 コリウスは、メイドが運んできた焼き菓子を、菓子皿からつまむと、口に放り込み問いかける。


「ええ、お父さまがお許しになられたお友達ならば、呼べますわね、お付き合いはよく考えて……分かりますねコリウス」


 はい、と硬く答えた嫡子コリウス。さくりと噛んだ焼き菓子が、舌の上でザラリと砂の様に変わる……気がした。


 身分高き生まれの母親は、ローズヒップのお茶を優雅に飲みつつ、見目も持って生まれた天使も、ブラウニー公爵家の名に恥じない、二人の子どもたちに優しく笑みを向けた。


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― 新着の感想 ―
[一言] お母さん、強かばい ですねー。
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