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全知全能の最高神の思惑が外れた!

 ちよぉぉぉっと!待った!何故に!こうなるのだ?」


 下界を眺めていた、天界に住んでいる、全知全能のご都合主義万歳の最高神が、素っ頓狂な声を上げた。


「うーん。致し方無いかと、それに文面上は沿っております『マリーゴールド、三歳、詠唱が出来る様になる。守護天使の教えを借り、ソロモンの指輪を行使する。それにより、足りなき御力を手に入れた』と、これには書かれております」


 控えていた天使の独りが『人生の道標』なる書物の頁を、指差しなぞりながら読み上げた。


「ちゃうっ!足りなき力とは、代わりの天使を呼び出す事なのだ!守護天使はヒト独りに、一体が決まりじゃ、だから入れ違いに、アンジェリカが天界に戻るの手筈だったのじゃ!お前が行くようにしていた筈なのだ」


「………、そのような事は書かれておりませぬ、はい?そして私が召喚されるとは、一体?それは、アンジェリカに、お言いつけになられておられたのですか?しかしまさかの悪魔召喚とは、それも旦那を呼び出す事を教えるとは、アンジェリカは光の檻に囚われていても、忘れていなかったのですね、ああ……これぞ真実の愛」


 うっとりと目を閉じ真珠の様な涙を、ハラハラと流す天使ミカヒェル。


「くぬぉぉぉ!光の檻からアレを出した時は、悪魔のあの字も忘れておったのに……そうじゃミカヒェル、そちが降りる事に道を敷いていたのだよ」


「はあ?私は聞いておりませんが……して、(しゅ)はどうして、アンジェリカを天界に戻そうとされたのですか、そもそも彼女は地上に降り立つべく、檻に入っていたのでしょう?力を削ぐために」


 不思議そうに聞くミカヒェル。


「そうじゃ、檻に入れば身食いをするのじゃ、自身の奇跡の力を喰らい生きる、その結果ヒトに近づくと言われておる、しかし……、アレは天界イチの美女だぞ!奇跡の力は失われ、見事だった純白の羽根も小さくなってはいたが、そちと入れ替えに戻ったら口説き落として、今度こそ、愛人の一人に迎え入れようと、しておったのだ!」


 地団駄を踏む様に話す最高神。その会話の途中で、天使はパタンと分厚い本を閉じた。何やら不穏な気配を察知したからだ。


「この本、しまってきまーす」


 そう言うとブツブツ喋っている主を置いて、部屋から出ていった。入れ違いに象牙色の肌をした、美しい女神が、馥郁とした薫香を放ちながら、密やかに入って来る。


「そうじゃ!アレを次こそは、朕の女に加えるのだ!ミカヒェルよ!お前今から………ふぉぉ!」


「次こそは朕の女、ミカヒェル、ふぉぉ?ふーん、貴方……、どういうお話なのか、わたくしとお茶を飲みつつ、話し合いを致しましょう」


 淡々と話す彼女は『貞節と愛、婚姻』を司る女神、最高神と共に世界を統べるひと柱。


「ふぬぉ?なんの事やら、朕は知らぬ、ちょっと我々が敷いた道を、自ら外れようとしている者がいるのじゃ」


「敷いた道とは?少しばかり耳に致しましたが、文面上では逸れてはいないので御座いましょう?」


「んにゃ!ち……あ、悪魔を召喚とは、それは駄目だと思うのじゃ」


「でもアンジェリカの力では、あの命を守りきれませんわ、幸せな老後の為に、今からあらゆる苦難を受けるのですから……、ですから最初から、ミカヒェルをおつけになられてたら良かったのですよ」


 時が満ちれば、わたくしの名のもとに、彼女を夫に引渡そうとしていましたのに……チクチクと話す女神。


「お!お前は!悪魔と天使の婚姻を認めるのか!」


 最高神は妻である彼女に喰ってかかる。それを端然と受け止め、威厳を正して答えた女神。


「真実の愛があれば、異種族間のそれも、性別のそれも、わたくしは祝福を与えます、そして……」


 永久の愛を誓ったのですから、裏切りは許しませんことよ、貴方様。と女神は、優しく笑みを浮かべる、しかし黒玉の様な瞳には、憤怒の焔の光が宿っていた。



 ☆☆☆☆☆


「ふぁあ、ちゅかれたぁ、ねていぃい?」


「おい!ちょっとまて、ここからせめてだしてくれ」


 大きく欠伸をするマリーゴールド。目をこしこしと擦っている。円陣の中には、首に茨の首輪を嵌められた哀れな悪魔の親方の姿がある。


「むり、だってねむらい」


 甘えるような声で返事をする。そんな彼女にアンジェリカが話しかける。


「お力をたくさんお使いになられたからですよ、そのような時はどうするのでしたか?」


「ふうん……、えと、えと、ねてごはんたべて……ちゅかまえたのからもらう」


 そうですよ、いいお答えです。と褒める守護天使。


「ふぁぁぁ、じゃ……えと、ちゅうちぇいを誓え!アクマ、トーマス・ハーバリウム・ルッペンゲルド!」 


 光る円陣の中にうずくまる、親方の近くに寄り、指輪を嵌めた、小さく柔らかな手の甲を差し出した。


「ぐ……、そ、それは出来ぬ」


 従うのならばその手を取り、接吻をするのが決まり。


 それを断る親方。じっと見つめるマリーゴールド。二人の間で無言のやり取りが行われた。手を引っ込めるマリーゴールド。くるりと踵を返すと、背中越しに手を振った。


「はうん?やなの、ん、じゃあ……、ねりゅ、ばいばい」


 そうして彼女は、部屋の一角に設置されている、薄桃色の天蓋の中に入って行った。


「ふおお?お、おい!帰してくれないのか?」


「……ふぁぁぁ、ん?むり、首輪ついたら、らめなの、あとでね、おやしゅみなしゃい」


 はい?首に巻かれた茨は、エメラルドグリーンの輪に形を変えていた。それに指をかけ外そうと頑張る親方。


「うほぉぉ!これ外れぬぞ!ひぃぃ!」 


 慌てる悪魔の声が上がる部屋の中、薄桃色の天蓋の中に、設えてある柔らかな羽根布団の中でマリーゴールドは、守護天使の庇護の元、スウスウと寝息を立てていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱ最高神はとんだ好色野郎ですねww そしてマリーゴールドちゃんスヤスヤでワロタwww
[一言] マリーゴールドちゃん可愛い。
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