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サブタイトル変更の都合で序章の1話分をまとめました。

内容に変更はないですが、投稿日時がずれているのはそのためです。

.......視線が痛い。

今日は月曜日。数日封鎖されていた教室棟が解放され、授業が再開した。

授業の間の小休憩、グループを作って話すクラスメイトたち。

でも私はその中には入らない。


大学の講義のように、階段状の自由席となっている教室。

前の方で歓談してる平民の女子たちをぼーっと見た後、自分の左隣をちらっと見る。

本来ならいつもシェーラが座っていた席。

この前まで彼女がいたはずの席には---なぜか私と契約した悪魔が座っていた。


「いや、本当にメイリーって友達いなかったんだな。こうも誰も声掛けてこないの逆にすごいっていうか」


.......まあそうだよね。大々的に言われていなくてもシェーラが殺されたことはみんな知っているだろうし、私の隣に彼女がいない時点で気になってしょうがないはず。

なのに聞いてこないあたりなんか私に気を使っているのかと思ってしまう。


〈ならこのなんとも言えない視線もなんとかならないかなぁ〉

「それは無理だろ。むしろ今まで目立たなかったメイリーの存在にようやくみんな気づいたんじゃないか?」


俺もシェーラと契約してた時は気づかなかったし、とバートが付け加える。

それを右から左へ流しながら、ちらっと周りを見る。

不安、好奇、疑問、怒り。

みんなシェーラに何かしらの感情は抱いていたはず。

だからその死に対する感情が親友の私に向くのは当然と言ってしまえば当然で。


〈これじゃあ落ち着いて授業も受けれないよ〉


授業をしている先生たちも私をいろんな感情が混じった目線で見てくるのだ、落ち着かない。

まだ今日の半分も授業を受けていないのに早速ぐったりして机に突っ伏している私にバートは、優しい手で私の頭を撫でてくる。

それがなんとも心地よくて、思わず顔が緩んでしまった。

するとなぜかぴたっとバートが私を撫でる手を止める。


「メイリア嬢」


バートの反応に疑問を感じていると、通路になっている私の右隣から誰かが声をかけた。

顔を上げて後ろを振り返ると、そこには薄い緑色の髪をした男性が立っていた。

私への呼び方と服装からして貴族なんだろうけど、残念ながら私は存じ上げない。

ヘイシリ.......じゃなくてヘイメイリア。こちらの方はどなた?

メイリアの記憶検索をかける。彼は---


「!!お見苦しいところをお見せしました、ニコラス殿下」


ニコラス·チチェスター。

私の住んでいるチチェスター王国の第3王子で、クラスメイト。

原作2巻第4章の悪役で、1章の最後でシェーラに告白して断られたことに逆上して暗殺をしようとしていた人物だ。

メイリアの記憶では話したことはほとんどないみたいなのだが、なぜこのタイミングで声をかけてくるのか。疲れているので正直ほっといてほしい。


「いや、気を使わないでくれ。王家とはいえここではクラスメイトなんだ」


万人受けしそうな笑顔。だが胡散臭さMAXである。


「もしメイリア嬢がよければ、この後の昼食は一緒に食べないか?」


ざわざわと教室が騒がしくなった。

そりゃそうだ。今までほとんど接点がなかった王子が私に声をかけたのだ。


相手は王族。私は辺境伯令嬢。断るという選択肢はない。


「よろこんで。楽しみですわ」


胡散臭い笑顔に対抗してこちらも少しひきつったお嬢様スマイルを向ける。

満足したようにニコラスが頷くと、授業の始まるチャイムが鳴った。


***


「メイリー、明らか不機嫌なのなんとかしろよ」

〈そんなこと言ったって何かある気しかしないんだからハイテンションにはなれないでしょ〉


午前の授業が終わり、ニコラスと共に王族とその関係者だけが使用出来る専用食堂へと向かっているのだが、ほんっとに視線が痛い。

私がシェーラの親友というのはもちろんなのだが、隣で歩いているニコラスは王族。

この国の王族特有の薄緑色の髪を腰のあたりまで伸ばし、歩く度になめらかに揺れる。

それだけですれ違う者みな否応なしに目線で追ってしまうし、シトリンのような澄んだ黄色の目を見てしまった令嬢数人は、美しさのあまり倒れてしまいそうになっていた。

誰もが認める美形王族の中でも特に美しい美貌を持っているニコラスと共に歩いているのが私。

ブスではないにしても、特別美人と言う訳でもない私がなぜ殿下と?と嫉妬の目で見られているのだ。

ひそひそ話に聞き耳を立てると、「不釣り合い」だの「剣潰しのお飾り双剣士のくせに」とか言われている。お飾り双剣士ってなんだ。


〈というか、その物騒なものはなに?〉


いつも通りの口調で私に語りかけているバートだが、その顔は笑っていない。

教室を出る前からずっと、ニコラスの後ろから首筋に刃物のようなものをつきつけている。


「もしこいつがおかしな事をしそうになったら即殺す。お前に何かあってからじゃ遅いからな」


どうせ止めてもやめないだろうし、誰にも見えていないようなので放置しておく。

でも何かあったら、というのは私も十分分かっているため、いつでも腰の剣に手をつけれるように警戒している。


「そんなに警戒しなくても何もしないよ。僕は君と話がしたいだけなんだから」


王族なのだから、私が何を思い、なぜ警戒しているのかくらいはわかっているだろう。

そう言われてやめるわけにもいかないので無視をすると、ニコラスはやれやれと諦めたようである。


専用食堂は大食堂の2階部分にある。

そこへ行くためには大食堂に一旦入って階段を登らなくては行けないのだが、大食堂には平民しかいないため、貴族のご令嬢たち以上にニコラスへの目線が熱かった。

まあそうだよね、王族だもん。みちゃうよね。


「どうぞ、レディ」


ようやく専用食堂につき、控えていたニコラスの使用人に椅子を引かれたのでそこに遠慮なく座る。

テーブルを挟んで反対側に王子が座ると、料理が次々と運ばれてきた。

運び終わると使用人は全員去り、私とニコラスの2人だけがそこにいるようになった。

もちろんバートがいるので正確には3人だが。


「……なにかわたくしにご用でしょうか、ニコラス殿下」


ニコラスは料理に手をつけ始めるが、私はナイフにすら触らない。


「君に用など1つしかないよ、メイリア嬢」


私の方を見もせずに、殿下は食事を続ける。

作法通りに魚がナイフで切られ、フォークで口へと運ばれていく。


「僕の愛しのミシェーラを殺したのは君だろう?」

「……は?」


やばい。思わず声が出てしまった。

慌てて口を手でおさえ、咳払いをして姿勢を正す。


「何をおっしゃられているのかわたくしにはわかりかねます。何を根拠に?」

「とぼけるな!」


ニコラスは次の瞬間、食べていた料理をテーブルからたたき落とした。

それに巻き込まれていくつかの料理も音を立てて床へと落ちる。

……食材に罪はないのに。


「.......」

「貴様が!貴様がミシェーラを殺したことなどみなが知っている!それなのによくものこのこと教室へ戻ってきたものだ。学園のほとんどがお前が殺したと思っているのだぞ!」


.......いやもうほんとなんて言えばいいんだろ。とりあえず根も葉もない噂って怖いっていうことは分かった。

それよりも、王子のはずの彼の明らかな小物っぷりに同情まで覚えてしまう。


「ニコラス殿下はどうして私が犯人だとお思いなのでしょうか。なにか証拠や、調査結果などをご存知なのでしょうか」

「勘に決まっている」

「は??」


もう一度思わず声が出てしまったが、これはもう呆れを隠す隠さないの問題じゃない。

なにをもって勘でそんなにドヤ顔ができるわけ?

この国の王族はバカなのか?いや、目の前のこいつかバカなだけか。


「なあ、こいつもう殺していいか?」


ひっと思わず声が出そうになった。

ずっと見えていたはずなのに、ここにきてバートが殺気を一気に解放したのだ。


〈だ、だめだめ!こんなに残念でもこの国の王子なんだから!〉

「こんだけお前のこと言っておいてか?もう俺は我慢の限界だ」


本当に今にもニコラスを殺しそうなので、私は慌てて会話を続けた。


「図星すぎてなにも言えなくなったか?」

「い、いえ。しかしそれだけのことで疑うのは、一国の王子としてどうなのでしょうか」


どうすればいいんだ。正直解決策が見つからない。

でもどうにかしなければ私はやってもいない罪で捕まるか、バートが殿下を殺すか。少なくとも後者だけは全力で阻止しなければいけない。

頭を全力で回す。


そうだ、今のこの世界は原作に合わせると2巻3章。

そしてニコラス殿下は2巻4章の悪役。

つまり今頃主人公のシェーラに告白しているはずなのだ。

でも当の本人は殺されてしまったため、恐らくシェーラに告白せずに終わっている。この時点で考えることでは無いが、また原作改変されている事実を考えると犯人のことがより憎らしくなる。

とはいえ、ニコラスは自分とシェーラがと両思いだと信じて疑っていなかったので、この怒りようは納得といえば納得だ。

ということは、両思いではないということを伝えればなにか状況が変わるのではないだろうか。


「恐れながらニコラス殿下」

「なんだ」

「シェーラは付き合っていました」


ニコラスの目がこれでもかというくらい開かれる。

シェーラが付き合うのは、正確に言えば今より1年以上あとの話。だが、嘘はついていない。

ニコラスは告白していればシェーラ本人に振られるはずだったのだ、私が彼の恋心を確認しなかっただけむしろ感謝して欲しい。


「先程()()()と申しておられましたが、殿下はもしかしてシェーラを愛しておられたのでしょうか。わたくしはシェーラから恋の相談で、ニコラス、という名前を1度として聞いたことがありません」


恋心を自覚していなかったシェーラがメイリアにバートのことを話した描写が、たった数行ではあったが存在した。

これも今からしたら未来の話だが、過去形で言ってないから嘘ではない。


「それと、わたくしがシェーラを殺したと仰っておりましたが、事実と異なります。わたくしも犯人は存じ上げませんし.......助けられるものなら助けたかった」


最後は本気の声音になった。メイリアの気持ちが言葉にのったのだろう。


「わたくしは魔法を使えません。そのことをあの日ほど悔やんだ日はあるでしょうか」


魔法を少しでも使えるものならば、簡易的な治癒魔法は誰でも使える。

しかし、メイリアは一切魔法を使えない。

助けたくても助けられなかった。その後悔が何よりも強いメイリアの気持ちだった。


「お前が魔法を使えないなど嘘に決まっているだろう!先生方がかけつけたときには強力な魔法を使った魔力の痕跡と、魔法によって切られ、致命傷を負ったミシェーラ、そして魔力切れで倒れたお前がいたそうではないか。これでどうしてお前が犯人ではないと?」

「.......どういうことですか」


初耳情報が多すぎるんだけど!?

魔力の痕跡も、魔法でミシェーラが殺されたことも、私が魔力切れだったことも何も知らない。さっき目の前にいる王子は私が犯人であることを勘だと言っていたけれど、疑うに足る状況だったということじゃないか。

でも、魔法を使えない私がどうして魔力切れなんか.......


「しらばっくれるのもいい加減にしろ。それ以上言い訳を続けるのであれば---」

「いい加減にするのはお前だ、ニコラス」


怒り狂って今にも魔法を使いそうなニコラスだったが、ある人の声によって一気におさまった。

その声だけでぴんっと空気が張り詰める。


「おおおおおお兄様」

「ニコラス、そんなにお前が愚かだとは思わなかったよ。まさか私の婚約者にこんなことをするなんてね」


ん?誰が誰の婚約者だって?

この専用食堂に来るには、先程通ってきた階段しかない。その階段は私の背後にあるため、私からは誰が来たのか分からない。

その声の主をニコラスが見ると顔が青ざめ、バートは姿を消した。

かと思えば私と階段(実際には私とその人物?)の間に立った。

.......殺気がさきほどよりも増した気がする。


瞬時にメイリアの記憶検索をかける。メイリアに婚約者なんていたの!?

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