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red 13の熱狂的なファンとしてあまり作品の批評とかはしたくないのだが、他の人に指摘されている通りストーリーはワンパターンで定型化されている。

何かひとつ事件があれば実はその裏で別の事件が起きていて、そっちの方が重要な事件が起きているなんてことは日常茶飯事。

むしろそんなことをして事件を毎回解決されている悪役のアホたるや。


「教室棟は立ち入り禁止、大聖堂はアルバートがいたからなし。ならまずは図書館?」


王立魔道学園は主に教室棟、教師棟、寮、大食堂、植物園、大聖堂、図書館で構成されている。

大聖堂は天の恵みと精霊の加護に感謝し、またそれを称えるためにある。前世の礼拝のようなものはないようなのだが、なぜ祈るための場所をこんなに大きくしたのかは謎。


植物園は普通の植物から食人植物、毒草など多種多様な植物が育てられている。

授業でも利用されるが、原作では最初の授業の時、繊維だけ溶かす溶液をかけられたミシェーラの服が溶けるというハプニングがあった。


教室棟はその名の通り勉強のための教室がある棟。中には魔法実習用に強化された教室もあるが、ミシェーラの殺害現場も教室棟のため今は封鎖されている。


教師棟、寮は割とその名の通りなので割愛する。


そして図書館は、王国中のありとあらゆる本が収められていると言われており、出入口は学園の門外にもあるため平民でも閲覧が可能。

学園内にある図書館への出入口は学園在籍の者しか使えないため、そこから誰かが侵入する恐れはない。


「といいつつ事件が起こる度に犯人に使われてるのがその図書館なんだよなぁ」


red 13は1巻分の中でも4章に分かれ、1章で1ヶ月分の時が進む。

事件は1-3ヶ月に1度で、毎巻1度は犯人の逃走経路として使われるのが図書館なのだ。

学園に出入りできるところは厳重な警備がしかれており、容易にはいることは出来ない。

そのわりには図書館の学園内の出入口は生徒であれば誰でも使えるし、学園外の出入口は誰でも自由に使えるため使いやすい。

王国の叡智が詰まっていると言っても過言ではない図書館の中を荒らす訳にはいけないし、図書館内で変装でもされたら出てきた時に犯人を捕まえられない。なんともガバガバな設定である。

寮の自室の隣にある使用人部屋のシュヴィに声をかけ、あるものを貰ってから中庭へ出る。

殺人が起きて時間が経っていないのに、仮にも令嬢の私に警護の1人もつけないって大丈夫なのか?


「図書館って唯一悪魔の俺が入れないところだな」

「そうだね。1番何かありそうな所だけど、リスクが大きすぎる」


図書館は魔法を使うことが出来ない。なぜなら、誰であっても図書館に入っているときは魔力を失うから。

図書館が大きな魔道具と言っても過言ではなく、利用者の魔力は本の保存や建物の維持に使われていると言われている。

図書館から出ると魔力はほぼ戻るので、どうして戻される魔力を利用して図書館を維持できているのか謎である。

魔力そのものであるともいえる悪魔なども例外ではなく、入ったが最後吸収されて出る方法がないため一種の除霊場ともなっている。

明確な描写はないが、恐らく何も知らない悪魔や精霊たちの魔力が図書館維持に使われているのだろう。


「腰に着けてるそれ使えばなんとかなるだろ?」

「あのね、メイリアが剣使えたなんてそんな描写一切されてなかったし、中にいるのが転生者の私だから使おうにも使えないんだわ」


そう。腰につけているのはシュヴィから受け取った剣。

メイリアは魔法が使えない分剣技を磨いたらしく、王主催の大会でもかなりの成績を残した記憶が残っている。

だが、今の私は女子高生。剣なんてついさっきまで触ったことも見たこともなかったのだ。

確かにアルバートに最初襲われた時剣の存在を探していたが、あれはメイリアの癖が私に残ったようなものである。


「ならまずは植物園行くか?」

「.......そうだね。そうしよう」


***


「あらメイリー。御機嫌よう」


中庭から植物園へ向かっている途中、見るからに貴族であろうきらびやかな刺繍が施されたドレスに身を包み、赤くぐるんぐるんに巻かれた髪をしたご令嬢にすれ違いざま声をかけられた。

だ、誰だ。

悲しいことにred 13には登場人物の容姿に対する描写が全くと言っていいほどない。

読者の想像に任せているのだろうが、この時ばかりはそのことを恨んだ。


「ご、御機嫌よう」

「メイリーも散歩ですの?こう何日も部屋にいると気が変になりそうですものね」

「え、ええ」


ひくついた笑みを浮かべながら返事をする。


〈アルバート、この子誰!?〉

「多分、5巻で悪役のカサ.......カサなんとかじゃないか?」


5巻で悪役のカサなんとか。あ、


「カサンドラ·トルメニス!」

「び、びっくりしましたわ。いきなり名前を仰るなんて失礼でなくって?」


カサンドラは扇子を広げ、口元を隠す。

目が不愉快さを隠しきれていない。


「し、失礼いたしましたカサンドラ様。.......実はわたくし、倒れた時の後遺症で記憶が少し欠落しておりまして」

「あら、そうでしたのね。存じ上げなかったとはいえ失礼いたしました」


洗練された動作で扇子をたたみ、謝罪の言葉を発する彼女の名前はカサンドラ·トルストイ伯爵令嬢。

トルメニス家とは親戚筋であるが、メイリアについてほとんど語られることのない原作ではそんな描写はもちろんない。


「カサンドラ様なんて堅苦しい言い方をなさらないで、昔のようにキャシーと呼んでくださいな」


手塩にかけて育てられた薔薇そのもののような上品な彼女の笑顔に、思わず目を逸らしそうになった。

ま、まぶしすぎる.......。


「カサンドラ様、そろそろ職務のお時間が」

「もうそんな時間なのね。.......そうだ、トマスが近々クラギン帝国へ行くのです。その際にそちらの領でお世話になると思いますのでよろしくお願いしますね。それではメイリー。何かありましたら微力ながらお力添えをしますわ。ごきげんよう」


カサンドラの従者のトマス·チェンダーソンに声をかけられ、そのまま2人は去っていった。

横をすれ違ったすぐ後、鋭い視線を感じて振り返ったが、いるのは寮へと向かう2人の後ろ姿だけだった。

つ、


「疲れた.......」

「記憶が欠落、ね。いい言い訳だな」

「超緊張したんだからね!メイリアの記憶とあなたの助けがなかったらどうなってたか」


5巻はミシェーラ達が2年生の春の話であるが、カサンドラは第4章に現れてミシェーラの魔力をなくそうとした悪役だ。

今の時期だとまだ話に一切出ていないが、転校生ではないためいるのは当然といえば当然だろう。


「お互いを愛称で呼ぶぐらいに仲は良かったのか」

「みたいだね。原作で愛称が出てくるのってミシェーラとアルバートくらいだし」


前世のあだ名とこの世界の愛称はかなり意味合いが違うようで、本当に信頼していたり愛しているものでないとお互いを愛称では呼ばない。

実はミシェーラとメイリアが愛称で呼びあってるのも転生して初めて知った事実だったりする。


「さ、嵐も去ったしさっさと植物園に向かいますか!」

「りょーかい」


***


学園は正方位で作られていて、入口は北、寮と大食堂は西、図書館は東、植物園は南に位置している。

中心に大聖堂があり、大聖堂を挟んで西側に教室棟、東側に教師棟がある。


時刻はまだ正午になっていない。

寮と教室棟の間の道を進んでしばらくすると、太陽がよくあたる開けた場所に出る。

植物園へ続く階段を数段登り、扉を開けて中に入る。

どの季節でも様々な植物が生えているが、3月の暖かくなってきたこの時期は前世でも見覚えのある色とりどりの花が咲いていた。


「平民のやつはだいたい食堂にいて戻されてるからここにはいない。貴族も殺人があったあとだから気晴らしだとしてもここに来るやつは少ないだろうな」

「誰もいなそうだね。はずれかぁ」


前世で通っていた高校の体育館の4倍はあるであろう植物園の敷地内をぐるっと回ったが特に何もなかった。

次の場所に向かおうと出入口の扉を開けようとするが、その手は虚空を掴んだ。

反対側の手をアルバートが掴み、私を後ろに引っ張ったからだ。


「な、に」

「黙ってろ」


そのままアルバートに抱え込まれたかと思うと、闇を思わせる漆黒の翼が盾のように私を包み込んだ。

抱え込まれたため、自然とお互いの顔が近くなる。

ち、近い近い!!


「まったく。急に宮廷魔法使いを送り込んできたかと思えば有無を言わさず生徒たちを連れていくなんて、王は何をお考えなのだ」

「仕方がありませんよマイーニ先生。我々も王の命とあれば逆らえませんし、下手なことをして殺されたくありませんからね」


誰の声だ?

視界がアルバートの羽で何も見えないため、音しか頼りになるものがない。


「もう処刑は終わったと聞く。いくらなんでもことが急すぎると思わないか、ルチアーノ先生。」


マイーニ。ルチアーノ。2人とも植物学を教える教師であるが、3巻第2章から第4章で悪役となる2人である。


「まさか例の実験を勘づかれたのかと思いましたが、現王にそんなことは分かるはずがない。分かっていてもひやひやしましたよ」

「全くその通りだな」

「さて、やっと王の尋問も終わった事ですし、続きにとりかかりましょう?」

「ああ」


足音が遠ざかっていく。


「.......行ったか」

「み、耳元で喋らないで!」


腕と羽の拘束から逃れた私は、耳を押えながらアルバートを睨む。

アルバートの羽は伸縮自在なようで、先程まで私を覆い隠すほどの大きさだった羽は既に手のひらサイズになっていた。


「さっきのご令嬢たちからはほとんど話を聞けなかっただろ?怪しまれるのも嫌だから隠れた」

「いやいやいや、あなためちゃくちゃ顔も声もいいんだからそういうこと軽率にしないで!?」

「それ褒めてるのか?」

「褒めてない!!」


近くに先生たちがいないことを確認し、物音を立てないように植物園から出る。

心臓がばくばくして止まらない。

これは緊張から?それとも.......


「おいおい仮にも貴族なのにそんなに全力疾走していいのか?」

「よ、よくないわついてこないで!」


恥ずかしさからだと気づいた私はあのクソ悪魔から離れようと全速力で走りだす。

しかしまあチートなことを無視しても彼は悪魔。人間のメイリアの走りについてこれないなんてことは一切ない。


「お嬢さん、もうお昼時だ」


私と併走しながら空を飛んでいたアルバートがパチンと指を鳴らすと、次の1歩が地面に着いた時にはもう自分の部屋であった。

そんな瞬間的に場所が変わって、人間の私が反応できるはずもない。そして今私は全力で走っている。


「ちょ、うわっぷ!!!」


止まるのが間に合わず、勢い余って壁に衝突する---寸前にまた景色が変わり、次の瞬間には目の前にはベッドのマットレスがあった。

思い切りベッドにダイブする形になったが、流石は貴族様の部屋のベッドである。

ギシリとも言わずに優しく衝撃を吸収した。


「.......笑いこらえないでよこの悪魔!」


気配的に天蓋の内側にいてぷくくくと笑いをこらえながら笑っているアルバートに、布団を握りしめ顔をうずめながら抗議する。


「こんの」

「.......お嬢様?靴も脱がず、剣も置かずになぜベッドにいらっしゃるのです?」


背筋が凍った。

部屋の出入口からするその声はシュヴィのものだが、怒りが隠しきれていない。声が怖い。


「しゅ、シュヴィ。これには深ーいわけがあってですね」


ささっとベッドから降り、シュヴィの顔を見る。

笑ってるのに目が笑ってないよ怖いよこのお姉さん。


「言い訳は後でにしてください。罰として今日のアフタヌーンティーはなしです」

「えええ嘘.......」


シュヴィは持ってきた昼食をテキパキとローテーブルに並べていく。


〈こうなったのは全部アルバートのせいなんだから、しばらくデザートあげません!〉

「は?」


あからさまに機嫌が悪くなったアルバートを放置し、私はお昼を食べ始めた。

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