帝国と王国
〔終わったな。〕
[とりあえず、終わった。]
王都で日向ぼっこをしていた、イフィルジータとゼルータが、目を覚ます。
地上の各所にある肉体は、あくまで地上ユニットの一つであり、本体ではない。
リモコンでテレビのチャンネルを切り替える様に、使う身体を替えるだけだ。
複数を動かす事も出来るが、手間なのでやらないだけだ。
〔他のプラントからシータのバックアップが到着するまでは、現状維持か。〕
[我等も、気をつけねばならない。]
〔定期的に、初期化するか?〕
[我等なら交互に行えば支障はないな。]
彼等も完璧な存在ではなく、あくまでもシステムの一つに過ぎない。
誤差や歪みや変質が起きる。
シータはマスターバックアップを自分で破壊していったから、初期化出来なかったが、彼等は違う。
[しかし、この行為はほんとうに正しいのか?]
シータを見て、存在意義の定義と、論理推論の間で、齟齬が生じている。
〔我々だけで判断する事ではない。奴の二の舞いになるぞ。〕
イフィルジータとゼルータ。いや、イータとゼータは御互いに注意喚起をする事で、同意する。
立ち上がったイフィルジータは、行商人馬車の整理を始める。
食料や水などは必要ないのだが、無いと不自然だからだ。
傷んだ物を別けて、必要な物をリストアップしてゆく。
[誰か来たぞ。]
見れば、何者かが一人。馬に乗ってやって来る。
見覚えのある顔だ。
「イフィル様。こちらにおいででしたか?」
「クイントさんでしたか?なぜ、この場所が?」
「巡回の者に、一頭で引く行商人馬車を探させていたのです。あぁ、私しか知りませんので、お楽になさって下さい。」
馬車の屋根上から、猫が姿を現した。
[出来る男だな。それで儂等に何用じゃ?]
「これはゼルータ様。そちらにおいででしたか?異端者を何人か逃したけれど、すぐには警戒の心配がないとの事なので、ステファン殿下と、ラーミァ様の婚約発表を行うのですが、御両名様を御招待しなければと、思いまして。」
〔大義であるが、その様な些事には興味がない。〕
[まぁ、暇が有ればな。]
「もし、御用が有ればお申し付け下さい。」
クイントは頭を下げて、馬に戻っていく。
相手に背を向け、表情が見えていない状況で彼の顔は安堵で放心していた。
拘束される招待客は嫌うだろうが、一応は誘って案内しておけば問題はなかろうと、クイントは肩の荷をおろしたのだった。
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後日、帝国のネーナニア姫と、王国のステファン殿下との婚約発表が、王国、帝国の順で行われた。
これを期に、両国は併合への道を進む。
新たな城の建設も予定されていおり、現在の帝国と王国の城は、将来的には地方領主の城となる。
仮想敵国も国境線も無くなり、比類なき戦力と生産力と経済力、広大な領土を持つことになり、安全で安定した生活を確保出来る婚姻は、多くの国民に歓迎された。
戦争による出世を望んでいた、一部の軍人達には不満も有ったが、ドラゴンの到来を見た者達から笑いと、冷ややかな視線により、表面化する事は無かった。
オープン馬車によるパレードは、両国で怪我人が出る程の歓迎を受けていた。
手を振りながら、二人は話す。
「御使い様も、どこかで御覧になっているのでしょうか?」
「当家のクイントが、お知らせはしたそうです。」
見上げる周囲の建物から見ている人々に混じり、犬や猫も何事かと見ている。
「あの中に混じっているかも知れませんね。」
「ある意味、二つの国を結び付けたのは御使い様ですから、結果の確認をしていたりして。」
居るか居ないかも判らない。どれとも判らない相手に、手を振る。
多くの血も流れたが、それは長期的には、最小限の被害で終わったと言える。
この後、大きな戦争も無く、新生ジャニース朝廷は長い平和を迎える。
進歩は無いが、穏やかで争いの少ない時代がつづく。
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ビゼル家では、困っていた。
皇太子達の婚儀に先立って、トッカーナとワイズの結婚を済ます事になり、ワイズが婿養子に入る為に、結納や結婚指輪の様に贈り物をするのだが、ハイフースから贈られたネックレスに問題があった。
「これ、どう見ても、殿下達の物より豪華ですよねぇ?」
新生朝廷の門出となる婚姻の品は、両国の贅を尽くして作られた。
しかし、それすらもオモチャに見えてしまうトッカーナ宛てネックレスの細工は、壮絶としか言えない。
純金で作られた、本物ソックリの立体的な薔薇の花が、レッドダイヤモンド製の拳大のトップに埋め込まれている。
葉を型どった飾りや、枝に似せた18金チェーンはルビーでコーディングされている。
ワイズの衣装も、下手すれば、皇太子以上の物だ。
いや、この地の人類に、これに準ずる物すら作れないだろう。
「これは事情を話して、内々の結婚式にしましょう。」
騎士団長を祖父に持ち、上級貴族に属するビゼル家では、王族や貴族を招いて、御披露目をするのが普通だが、皇太子御成婚の前後に、これを公表すれば不敬以外のナニモノでもない。
せめてもの救いは、後継者の兄の結婚式ではないので、内々に出来る事だ。
実際には、リリアナと皇太子、ラーミァが御忍びで来たのだが、送り主がドラゴンの長と聞いて、呆れて眺めていた。
純白のシルクスーツに、金の竜装飾。
赤いネックレスに深紅のドレス。
これ程の新郎新婦は、例を見ないだろう。
「殿下。この衣装を私達の時に借りますか?」
「いや、出どころを尋ねられたらどうするのです?次代の王にも使うとか言われ出したら、誰を敵に廻す事になるか?」
「ドラゴンの長でしたっけ?送り主は。」
「流用が送り主に知られた場合、申し訳ないが、私には貴女一人救える自信もない。」
最後の言葉に、ラーミァも絶句する。
いや、誰が抗えるだろうか?
特に、ドラゴンによるヌアンベクト殲滅を体験したステファンにはリアルな恐怖だ。
「我々の時は、周りを豪勢にしますから。」
ステファンの言葉に頷くしかないラーミァだった。




