最奥部
「タイベリアス?タイベリアスはどこ?」
洞窟の奥を叫びながら歩く女性が居る。
「女帝ジャシャーカ?なぜ、ここに?」
「あら?私を御存じかしら?息子のタイベリアスを探して居るのだけど、知らないかしら?」
「頭取は先日、船で出られた。貴女こそ、死んだ筈だ。」
「あら?これが死体に見える?」
「本物の貴女が、麻薬を止められる筈がないと頭取は仰っていた。貴様は何者だ?」
ジャシャーカは慢性的な麻薬の依存症だった。
真似る事も出来たが、耐性が面倒なので、麻薬を止めて取引も辞めた。
その取引量を調べられたのだろう。
「何者だと聞かれても、ニセ者としか言えないわねぇ。」
切りつけられるナイフを避けもせず、ジャシャーカはナイフをその身に受けた。
ナイフを持つ手を押さえたが、それは取り払おうとしているのではない。
捕まれた腕越しに、ゼリー状の物が男の身体を浸食する。
「やめ、止めろ!」
「手を出したら最後。麻薬と同じで、始めたら途中で止めた方が苦しいわよ。死ぬまで行った方がマシ。」
痙攣する男を見ながら、ジャシャーカは諭した。
やがて、二人は一人となり、彼女だけが残る。
「母親に似て、タイベリアスは勘が良い見たいね。」
考え事をしながら、ジャシャーカは、更に奥へと進む。
後方より、虫が侵入してきたが彼女には関わらず、周りの人間を襲っていく。
更に後方には、口を閉ざしたままの、ドラゴンが迫っていた。
「私は見物だから、先に行ってちょうだい。」
ジャシャーカはドラゴンに道をあける。
そして膝をつく。
「今回こそ、本懐を遂げられます様に、御祈り致します。」
ドラゴンは、奥へと進む。
最奥部には、祭壇の様な場所があり、銀色の柱の様な物と、数人の人間が居た。
先行した虫達は、祭壇に登りあぐねている。
壁があるのではなく、途中まで登っては、降りる行為を繰り返す。
「どうやら、本物らしいですね。」
後から追い付いたドラゴン達が祭壇の銀色の柱を見上げる。
すると、銀色の柱から、声が響く。
『被造物共が、創造主に 楯突くか?』
「いや、シータ様に創造されたとは、伺っておりませんが?」
『やがて、この世界を司る我に逆らうか?』
「馬鹿な猿共なら兎も角、移譲も行われていないのを、我々は存じておりますよ。」
既に論理武装されているドラゴン達に、説得や命令は、無意味だ。
『しかし、手出しは出来ぬであろう?』
一番大きなドラゴンが、その口をゆっくりと開く。
[そうでもないぞ。シータ。]
そのドラゴンの口の中には、濃紫色のライオンが居た。
『ゼータか?なぜ感知出来なかった?しかも、ここでリンクが繋がる筈がない!』
[ここに来るまでは、リンク接続せずに、スリープモードにしておいたからな。感知など無理だ。]
この洞窟は、内側に御使いの使う電波を妨害する皮膜が貼られている。
シータでさえ、外の機材を使うのに、幾重もの有線ネットワークを介している。
[ここに着いてから、お前のネットワークを使わせてもらった。ソロプロセッサーのお前に対し、デルタ、イータ、儂のトリプルプロセッサーじゃ。占領も偽装も、容易いものよ]
『数の暴力とハッキングか?劣悪な。』
[出奔して造反した者が言うか?思考回路が破綻しているのか?]
ライオン姿のゼータを筆頭に、ドラゴンや虫達が祭壇に登り始める。
[勿論、貴様の制御波も中和できる。既にマリコスも使えまい?]
迫るドラゴンや虫達に、残った人間達が必死に抵抗する。
ある者は、盾で守り剣を振り回す。
ある者は、幾つも用意した銃で応戦した。
しかし、既に三次元的に逃げ場の無い人間達は、あっと言う間に切り刻まれてゆく。
「シータ様っ!お助けを、お助けを・・・」
[コイツ等も、お前に騙されなければ、幸せに暮らせたものを。]
『騙してなどいない。この世界は人間に与えられるべき物だ。』
既に生きている者は無く、吹き出た鮮血で赤く染まったシータだけが立っていた。
[シータの判断は、間違ってはいない。ただ、それは『今』では無い。お前が時を間違えたから、彼等は、死んだのだ。そして、人間とは奴等だけでもない。]
ドラゴンやスライム、甲殻類になった彼等も、違う時代の『人間』なのだ。
シータは、一部の種族に依怙贔屓している。
『私のせいなのか?』
[お前は、論理破綻している。その状態で、システム発展している。修復は無理だろう。]
『・・・・・・・・・・』
ライオン姿のゼータが、前脚を降り下ろす。
銀色の柱が中程でスライスされ、陽電子のスパークで花火の様な光が瞬く。
しばらく続いたスパークは、しだいにおさまり、銀色のオブジェだけが残る。
ライオンの口が切り刻まれた破片に喰らいつき、飲み込んで行く。
その様を、ドラゴンや虫達が、静かに見届ける。
全てを飲み込むと、周りを見回し、溜め息をついた。
[我々も心の病にかかると言うことか。気をつけねばな。]
祭壇をゆっくりと降り、ドラゴンの口の中に戻ると、ゼータは眠りについた。
[あとは任せる。全てを埋めよ。]
口が閉じられて、姿が見えなくなると、ドラゴンが翼を広げて、大量のマリコスが撒き散らさせていく。
時折、翼を動かし、マリコスを散布しながら、ドラゴンは帰途につく。
そして、全ての僕達が、その後に続く。
海岸線を抜け、森へと帰ってゆく。
ゼータを乗せた者以外のドラゴン種は、洞窟の入り口付近で居残っている。
全ての者が洞窟を出ると、ドラゴン達は洞窟に向かって口を開けた。
陸のドラゴンも海のドラゴンも口を開けて、振動波を洞窟の奥へと送る。
内部に散布されたマリコスも共鳴し、地鳴りと共に洞窟が崩壊していく。
切り立った山麓も崩れ、辺りの様相を一変させる。
洞窟の有った辺りから、大量の砂塵が舞い散り、降り注ぐが、ドラゴン達は、マリコスで風を起こして、砂塵を避けていた。
何体かのドラゴンが飛行し、状況確認を終えると、彼等も列に加わる。
「これで、しばらくは、のんびり出来るな。」
ドラゴン達は、北の森への帰途についた。
もし、続編を作る時の事を考えて、悪役を残します。
何事も、完璧は無理ですから。
この『タイベリウス』って名前は、如何なる危機も乗り越える、テレビドラマの主人公から頂きました。
スタートレックのカーク船長のミドルネームです(笑)




