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洞窟

自然の洞窟は、主に地下水の流れによって出来る。

水流による崩落などで、枝分かれが増えるが、殆どが行きどまりで洞窟外に抜ける穴は、一つか二つだ。


良く言えば、守りに強固なのだが、悪く言えば、逃げ場が無い。


「さて、始めるか?」

「グゥオオオオォォォー!」


洞窟の裏口に当たる所で、光学湾曲と擬態まで使って隠れていたドラゴンが、洞窟の裏口に向かって、雄叫びをあげる。


「何だ?何が出た?ドラゴン?まさか、冗談だろ!」


出入り口を守っていた者は、小さな魔物がうろつくのなら、見掛けたが、まさかこんな奴がやって来るとは、夢にも思わなかった。

人間を丸のみしそうな口を広げるソレは、二メートル程の高さだが、全長は六メートル以上有るだろう。


「撃て、撃て、撃て!」


一斉に撃った銃弾は、幻影の様に揺らぐ姿を素通りして抜ける。


「遅すぎる。」


ドラゴンは、凄まじき速さの反復横飛びで銃弾をカワしていた。

そして、洞窟の奥で次の銃に持ち替える間に、突進してきた。

一人の男が間に合い、頭に放ったが、銃弾は弾かれ、狭い出入り口の壁に食い込む。


「弱すぎる。」


ドラゴンの呟きが、防備にあたっていた男達に絶望感を与える。

彼等は、軍隊のエリートを金で引き抜いた猛者達だが、最新兵器でも歯が立たない、身体能力でも及ばない者を相手には、新兵と代わり無い。

彼等は、非常用の防護扉を閉めて、通路を塞ごうとした。


「ゴオォォォ・・・・」


ドラゴンの口から発せられる振動波で、鉄製の扉がつなぎ目から外れてバラバラになる。


「無能過ぎる。」


どんどんと奥に追いやられている人間の悲壮さに比べ、ドラゴンの方は物足りなさそうに、進んでくる。


逃げる男達は、狭い非常用の通路の壁に、異変を感じた。

奥の方が部分的にモコモコと膨れてきている。


「魔物だぁ!早く逃げろ!」


洞窟奥の壁の、いたる所から虫の頭が出てくる。

非常口をドラゴンで塞ぎ、別に穴を作って侵入してきたのだ。いや、非常口と脇道の両面で侵入してきている。


穴を掘っている虫は一メートル強の蟻の様な形状だ。

蟻が土砂を運び出して穴を掘っているのに比べ、彼等は振動波で土砂を圧縮して掘り進む。

発泡スチロールにハンダごてを当てる様に穴があく。

出てきた虫は、鎌の様な腕と羽を広げて、洞窟内へと飛んでいった。

残った穴からは、様々な種類の虫達が、這い出てくる。




騒ぎを聞き付けた船乗り達は、状況を確認する前に、さっさと逃げに走る。


モヤい綱を解け!オールを漕げ!」

「待て!商会長が戻ってない。」

「馬鹿野郎!命と金と、どちらが大事だ?」


洞窟の中では、奥に逃げるか、船に走るか、海路ぞいに洞窟の入り口を目指す者に別れた。


洞窟内の港には七隻の船が有ったが、いち早く出港した船が、洞窟の出口へ向かって進みだした。


水面から船体を這い上がる、緑色のトガゲの様な物が多数いる。

船は構わず進むが、もう少しで出口という所で、海面が大きく盛り上がる。


「チクショウ!」


海面からは、大きな魚の口の様な物が現れ、船を半分に喰い千切った。

海に落ちた者はトガゲの様なものに殺され、落ちなかった者は空飛ぶ蟻に切り刻まれた。

海面が真っ赤に染まる。


狭くなっている洞窟の出入り口に座礁した船が邪魔で、他の船が出れない。

全ての船で乗員が、這い上がってくる緑色のトガゲと、空飛ぶ蟻によって、次々と切り刻まれる。


洞窟の奥に逃げた者達にも、似た結末が待っていた。

虫達は、振動、熱、炭酸ガス、匂いを追尾して追っていく。

魔導師ならば、マスを使って隠蔽出来たかも知れないが、彼等の国に、魔導師は皆無だった。


灯りで照らされた洞窟内に、黒い雲の様な虫の飛行は、洞窟中から見え、全員がパニックになっていた。

飛び交う虫から逃げ、隠れ、見付かっては逃げ、倒れる。


船の出入り口沿いに逃げようとした者は、半身を海に浸けながら向かってくる五メートル程のドラゴンに行方を阻まれていた。

その後ろにも多数のドラゴンや虫が見える。

横の海に目をやれば、海面からはワニの様な瞳が、多数睨んでいる。

彼等が意識を手離し、呆然としている上を、巨大な脚と胴体が、押し潰していった。



少し、奥まった所に、奮戦している者が居た。

彼等は、大砲の様な魔道具を構え、飛んでくる虫達を追い払っていた。


「クソッ!何故、当たらない?」

「試作品なんだ。よく狙え!」


ソレは、帝国の『城の雷』を真似て作った物だ。

威力は遥かに落ちるが、銅線を張り巡らしてマスの力を集め、連射を可能にしている。


「試し撃ちじゃあ百発百中だったのに。」

「お前、本番に弱いタイプか?」


彼のせいではない。

虫達は、砲身の方向で狙いを察知し、強力な磁場の発生で砲撃を曲げていた。

羽や手足の先端を焼く事はあっても、再生の許容範囲だ。

従来の昆虫とは異なり、脊髄系をやられなければ、手足など再生が可能なほど、彼等の身体能力は強化されている。

しかし、近寄り過ぎれば、磁気誘導も効果が落ちるので、近寄りにくかった。


「厄介者か?」


そう言いながら、ドラゴンが近付いてきた。


「羽の無いトガゲなら外さない!」


砲撃手は、ドラゴンの俊敏性を知らなかった。

ドラゴンは砲台を見ると、自分の鱗を一枚剥いだ。

鱗がみるみる大きくなり、盾の様になる。


「トガゲが道具を?」


男達は、常識を逸脱した物に驚愕しながらも、ドラゴンに狙いを定める。


「クソッ!卑怯だろう?」


傲慢な人間は、自分達の優越性は棚にあげて、他者の優越性を罵倒する。

連射した砲は、ことごとく、盾に阻まれてドラゴンは前進を続ける。


「優位な武器に頼りきって、戦術も無く勝てると思っている無能が!」


ドラゴンの囁きと共に、砲撃していた彼等の背後の壁が、モコモコと盛り上がる。

気が付いた時には、複数の蟻型の姿が、背後に有った。


「茶番は終わりだ。」


その一言と同時に、砲の出力が落ちる。

マスの占有権は、機械よりも虫達の方が上位で、砲撃などいつでも止められたのだ。

彼等は、攻めあぐねていたのではなく、楽しんでいただけだった。


人間達の断末魔が洞窟にコダマする。


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