エデンの南
エデンでは、特殊な移動が行われていた。
陸では、数体の巨大なドラゴンを筆頭に、多数の虫達が南へと移動をしている。
エデンに接した海でも、多くの何かが海流に逆らって、大陸の近くを南下していた。
それらは、何かを破壊するでもなく、列を乱さず、川の流れの様に、しかし、別れる事無く進んでいた。
「しかし、命知らずなのか?知恵が無いのか?精神異常なのか?」
「一応は知能のある種族なのだろう?」
「もしかして、シータ様の指示か?だとすると、何か兵器を備えているかも知れぬな。」
「とは言え、縄張りを侵されて黙っているのも、舐められるだけだからな。」
「物質文明で、生体文明に勝てる様に思っているなら、歴史を証明してやらねばならないな。」
先頭のドラゴンが睨むが、進む者達の雑談までは止められない。
一番巨体の彼は、口を開く素振りを見せないで、寡黙に前進を続ける。
彼等は、なぜ自分達が、その様な姿をしているか熟知している。
人間を祖先に持つ彼等は、より長寿に、より強靭に、より俊敏に、より高知能に、より高感覚に、より免疫力を強くを目的に、当時の生物の遺伝子を取り込み、更に改良された者達の更に調整体だ。
人間など、数世代前の猿に過ぎない。
「化石猿と侮って、失敗が許されると思っていないだろうな?情報収集と作戦の立案、二重三重のバックアップ、代替案の立案準備と、抜かり無く行え。」
虫型の者が、刃物状になっている腕をかざして、周りを見る。
「御使い様の御命令だ。失敗した者や、足を引っ張った者は、同族からも殺されるだろう。」
「名乗り出て、仲間を倒して選抜されたのだ。しくじったら、嬲り殺しだな。」
乾いた笑いが響く。
彼等の目的地は、大陸の南端。中央山脈が大陸を二分している最南端だ。
切り立った山脈は、生物の居住に適さない為に、放置され見落とされていた。
そんな断崖絶壁に地下水と波で出来た洞窟が有るらしい。
「既に先行部隊が、包囲しているのだろう?」
「甲殻類の奴等と、シードラゴンが、出入りを監視しているはずだ。」
「海でなければ、スライム系だけで片付いたのだろう?」
「我等の手柄のチャンスを否定する発言は、ヨセ!」
各自に思うところは、ある様だ。
行列は、中央山脈に沿って南下し、途中で参加者は次々と増えてきた。
潮の香りが、彼等の鼻孔をくすぐり始める。
視界の彼方より、一体の虫型生物が飛来して来るのを見て、先頭集団のドラゴンが、特殊な音波を発する。
行列は一斉に止まり、後方より、一部の者が先頭集団に急ぎ集まる。
「状況報告します。猿共の総数は二百弱。出入りをしているのは二日に一度の船のみ。穴の裏口も確認済み。」
「陸地で洞窟から出入りをしている者は?」
「現状確認の者は、日に二回、出入り口まで顔を出していますが、穴を出る事は有りません。」
「陸路から洞窟に出入り出来るルートは?」
「二メートルクラス迄なら、裏口と海の方に通れるルート岩場が有ります。」
「よし。現場は、そんなところか?分担を決めるぞ。」
伝令に飛んできた者は報告が終わると、口から吐き出す糸で、立体的な洞窟のミニチュア模型を作り出す。
集まったリーダーらしき者達は、それを指差しながら、話しはじめた。
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洞窟の中では、一日おきに来る船舶からの荷降ろしをしていた。
「ここ十日程は、魚がサッパリ釣れない。小舟で出るのは危ないってから、この荷物が来て助かったよ。」
警備の人間も総出で荷降ろしを手伝っている。
過剰な食料は腐るし、魚を洞窟でも釣れていたので、食料は制限していたのだが、ここ十日近くは釣れる量が減っていたので、備蓄が目減りしていたのだ。
「食料を増やす様に手配しておきます。」
荷物をチェックしていた男が、答えた。
「季節で潮の流れが変わったのかも知れません。この辺りは、年末に雪が降ったりしますから、防寒具も用意しましょう。」
甲板の男がリストに、何やら書き込んでいる。
奥の船室から出てきた男が、リストを受けとり、笑って作業員に返した。
「今回、部門長じゃなくて、商会長がお出でになっているのは、何故なんですか?」
「彼は、流行り病で寝込んでいるらしいので、ここ数回は私が代わりに来ました。ほほう?この様な場所に納品していたのですね?」
いつもは船室から出ない商会長が、今回は甲板の上から、洞窟の内部と建てられた建物、人々を見回した。
「責任者として、御挨拶したいのですが、どちらに向かえば良いのやら?」
「カント商会長。あの一番高い場所に、偉い方がいらっしゃるそうなので、あちらではないですか?」
甲板で作業していた男が指差す。
「あぁ、あそこですね?ありがとう。」
商会長は渡り板を注意しながら、ゆっくりと降りて、指し示された。建物へと向かった。
「あの号令からすると、今回で間違いなさそうですね。でも、あまりでしゃばらない様にしなくては。」
カント商会長の姿は、途中の物陰で、突然見えなくなった。




