商業特区会議
海岸線沿いの国は、連合国からの渡航者が厳しく調査されたが、一部の民間人を見付けるに止まっていた。
「どこかに紛れているか、隠れているに違いない。」
ステファン皇太子とカナシス皇太子の檄が家臣達に飛ぶ。
周辺国家は、二度三度と立ち入り調査を受け不満が出るが、既にカナンの八割近くを掌握した両国に逆らうのは、部が悪かった。
ベースワ大陸のカナン地方で、再び並ぶ物の無い超大国となった帝国と王国の連合の前に、刃向かう国も、意見する国も無い。
軍備に秀でた帝国と、食糧生産に秀でた王国が手を組んだのだ。
一部には属国申請する国もある。
不況による吸収合併が頻発していたとは言え、大国の一つであるフーデルヒース王国に対抗する為に、複数の国が合弁して出来た連合国でさえ、完全敗退をして占領された。
残された、分散位置にある小国に、勝機が有るとは思えない。
「旧連合国は、このまま商業特区として、管理と運営を行います。帝国からは、行商人に移行する者の推奨をお願い出来ますか?」
「連合国で商人をしていた者を、自由に移動させる訳にもいきませんし、帝国で鉱業をやっていた者の多くは、読み書きも出来ますから、妥当でしょうが、あまり期待しないで頂きたい。」
ステファンとカナシスを含む、事務官レベルの調整は進むが、圧倒的に人員不足であった。
この期に及んでは、西部の開拓を要所のみに限り、無理押ししなかったのが、まだ救いと言える。
まぁ、開拓途中で防備が穴だらけだったからこそ、連合国が魔手を伸ばしたとも言えるのだが。
連合国の行商人や出国者が引き戻されたが、軍人や行政関係者が惨殺された事により、国内が人で溢れる事は無かった。
むしろ、大規模な軍事行動の為に臨時徴兵された事もあり、若干の人手不足気味でもある。
思想や宗教、経済構造は、基本的に支配者階層が決めている。
それらが一掃された連合国では、庶民の従順さは明確であった。
元々が複数の国に別れていた物が、短期間に政治や権力のトップが変わっているので、非権力者には、今さらの話でもある。
むしろ、王国の支配下になる事で、問題視されていた食糧問題に、明るい兆しさえ見える。
庶民に身を落としていた、かつての為政者も名乗り出て、王国に協力し始めたので、特区の運営は、比較的スムーズに進んだ。
流通の要である行商人の不足は、緊急事態と言う事で、旧ヌアンベクトの隔離村の若者が、前倒しで採用されていく。
勿論、オーグの。いや、キーマ商会のお墨付きの者達だ。
連合国の行商人も、状況を見て、順次採用していく事に決り、キーマ商会の隔離村を参考に、連合国の農業希望者を西部に送る計画も組まれている。
結果として、連合国の支配者階層と軍関係者以外は、理想に近い未来を手に入れた事になる。
「世の中は、どう転ぶかわからないな。」
庶民をはじめ、王国と帝国の家臣達は、ここ数年の変動に驚いている。
多くがポジティブに動いている幸運に感謝よりも驚愕している。
そんな世論を心配する二人の皇太子は、人払いをして会議を開いた。
「全てが、御使い様の手によるものだと、皆に伝えるべきでしょうか?」
いまだ年端もいかない彼等だが、事、御使い様に関しては、国王や皇帝よりも経験豊富だ。
そして、次世代のカナンを担う二人でもある。
ここに居るのは、王国からはステファン皇太子とクイント。
帝国からはカナシス皇太子とドナルド・ハッチクスだ。
警護は、ワイズとトッカーナ。
この二人で足りないと言う者は居なかった。
噂だけで、彼等の戦いを見ていない帝国軍人も、その模擬戦と剣の切れ味を見れば、青ざめる。
ドナルド・ハッチクスは、近衛兵だったが、叔父である大臣の推挙とエデン借地の件で活躍した事で、カナシス皇太子付きの文官となった。末は大臣だろう。
二人の皇太子と部下は、再度、御使い様と魔族の関わった件を情報共有して、どの程度まで開示するかを検討する。
下手に多くを開示すると、イフィルジータと言う行商人の情報に繋がってしまう。
どう考えても、それは御使い様が望まないだろう。
「ドラゴン達を使ってヌアンベクトを滅ぼした件と、帝国の豊穣の輪の件だけで、よろしいのではないでしょうか?」
「この二件だけは、国内外の目撃者が多く、隠蔽は出来ません。他の件は物証も無く、一部の口封じだけで済むでしょう。」
「勿論、王室の記録には、全て残すとしますが、イフィルジータ様達の御名前は削除した方が良いと思います。」
畏れと経験から、幾つもの意見が出される。
御使い様の意に沿わずに、更地になった国を見た二人は、慎重に事を運ぶべきだと判断する。
「御使い様の配下だと言う、あの商人に教わった通り、情報は可能な限り隠蔽し、従来の創世教を徹底して守らせる方が安全でしょう。」
「前例を重視し、新しい技術の開発や思想を制限して、ヌアンベクトの二の舞いに成らないようにしなくては。」
特に、ヌアンベクトの滅ぶ様を目の当たりにしたステファン皇太子の顔色が、悪くなる。
「そんなに恐ろしいものだったのですか?」
「数日は怨嗟の声が耳から離れず、目を閉じれば光景が浮かび、眠ってしまえば劫火に焼かれる夢を見る。気が狂わなかったのが奇跡でした。」
他の三人が、眉間を押さえる。
空気が重い。
「だっ、駄目だ!建設的な話しにしましょう。姉上と殿下の婚礼は、いつ頃の予定なのですか?」
話を振って、暗い話しにしてしまったカナシスが、率先して話題を変える。
「安全性を考えれば、連合国の逃亡者が捕まってからとなるのでしょうが」
「では、一刻も早く、見つけなくては。」




