町中
「この辺りは、店が多いですね。」
「食事でもしていこうか?トッカーナ。」
占領された連合国内は、民間施設を見逃されたお陰で、住宅地や商店街、工業地区は無傷だった。
制圧直後の町を、帝国や王国の軍人が通る事は普通だ。
住民は、軍人が通る度に身を潜めたが、その軍人すら身を潜める二人組が居る。
灰色の竜革鎧と、深紅の革鎧を纏う騎士は、他に例を見ない。
巡回の隊列ですら、彼等を見れば、止まって道を開ける。
中でも、彼等の戦いを見た者は、目を伏せて口元を押さえている。
そんな様を見ていれば、住民達にも噂が走り、二人を死に神と呼ぶ者も出ていた。
「この店の料理が、なかなか美味だと聞いています。」
二人は馬を降りて、店の前に繋ぐ。
騎士団長を祖父に持ち、副官を父に持つトッカーナは、以前から騎士団員とは顔馴染みだ。
進軍し、制圧後に調査に赴いた騎士団員に、彼女は料理の旨い店や、景色の良い場所を聞いて回ったのだ。
以前ならトッカーナを、やんちゃな御嬢様扱いしていた騎士団員は、平静な対応を心掛けていたが、心中は必死だった。
王命で婚姻の決まった二人は、実質上は王族直轄となり、実績により騎士団長より上位に讃えられた。
更には、王国南部で彼女の戦いぶりを見た騎士団員は、もはや恐怖しか感じていない。
騎士団員は、情報を精査し、デートスボットに適した場所探しに必死になった。
「あっ、いらっしゃ~・・・・ひいぃ。」
店に入ってきた鎧兜の二人組に、店員の反応は、困惑する。
「なんか、変な対応ですね?」
「我等は敵国の兵士なのだ。心情的に受け入れがたいのだろう?」
ワイズの判断に、トッカーナは首を傾げる。
「あぁ、すみません。まだ心の整理がつかなくて。」
席を薦めるウェイターが、陳謝する。
占領軍の、中でも『死に神』と恐れられる二人組に暴れられたら、ただでは済まない。
「メニューが御決まりになりましたら、お呼び下さい。」
メニューと水を置いて、ウェイターは下がる。しかし、物陰から目を離さない。
他の客も息を潜めて、二人の様子をうかがっている。
隠れた視線の中で、件の二人は椅子に座り、兜を余った椅子に置いていた。
そこから現れたのは、残虐な歪んだ顔ではなく、平坦な表情の黒髪男と、貴族の御嬢様らしい美形の金髪令嬢だった。
「えっ?」
チラ見していた多くの客が、口を開けたまま固まった。
歴戦の兵士でもチビると噂されている、残虐な無敵戦鬼が、若いカップルのデートにしか見えなかったからだ。
「ねぇ、何にしますぅ?」
「この様な店は、自慢料理がメニューのトップに載っている物なのだろう?」
『兄者、裏メニューや本日のお薦めと言う物もあるらしいぞ。』
二人組なのに、三人分の会話を突っ込む、命知らずは居ないだろう。
ワイズが手を挙げようとすると、ウェイターが駆け寄ってきた。
「御決まりですか?」
「はじめてで、よく解らないので、この店の自慢料理を二つと、裏メニューみたいな物があれば一つ頼みたいのだが?」
「合計、三食でよろしいのですね?大至急、ご用意致します。」
ウェイターは、深々と頭を下げて、引き下がる。
「裏メニューが有るらしいぞ。」
『自慢料理も少し食べてみたいな。良いだろう?義姉上?』
「カナン視察だからしょうがないわねぇ。」
別の皿に手を出すのはマナー違反なのだが、貴族の席ではないので、大目に見てくれる様だ。
義姉上と呼ばれて、トッカーナの顔が笑顔で崩れる。
周りの客達は、固まったままだ。
ガチャン!
誰かがフォークを落とした音で、客達は一斉に何事も無かったかの様に食事を再開した。
しばらくして、三つの皿と、フォークなどを乗せた小篭がテーブルに並んだ。
「トマトバジルのパスタと、ピザトーストでございます。ごゆっくり、おくつろぎ下さい。」
商品の説明をして、バックルームに戻ったウェイターは、反省した。『早く食って、出ていってくれー!』
心の声が聞こえる様だ。
二人しか居ないテーブルに、空いた椅子から何かが這い上がってくるようだったが、だれ一人として、直視出来る者は居ない。
視線の端で、三つの動く物が有るのを認知するので精一杯だ。
この場で、料理の味を感じていたのは、三人だけだった。
騎士団詰め所にて
「お前、御嬢様が騎士団長に成りたいと言い出したら、どうする?」
「現騎士団長を後ろから刺してでも、その席を開ける。」
「だよなぁ?逆らうとか有り得ねぇ。」
「何を物騒な話をしている?」
「き、騎士団長?これは、その、騎士団員の総意です。」
「孫娘が欲しがる物を与えない祖父が居るわけがあるまい。」
「おや、父上は、トッカーナには土地付き貴族の夫を迎えると手廻ししていませんでしたか?」
「貴様、父を裏切るか?」
「副官殿。我々が押さえ付けますのでトドメを!」
「お前らー!」




