表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/100

深紅のドレス

帝国商人のフィグロ・キーマと名乗る男が持ってきたのは、深紅のドレスだった。

いや、ちょっと違う。美しい鎧だった。


これは、ワイズ様の養母様から贈られたとの事なので、御家族からも認められたと言う事なのだろう。

御家族とは、養子縁組みをしてくれた帝国貴族ではなく、エデンのドラゴンの事だ。


「どうして泣いている?嫌なのか?」

「御家族に認めて頂いたのが嬉しくて。」

『兄者、人間は喜怒哀楽の抑制が限界を越えると、泣くのだ。』


バーン様の方が、人間に詳しいかも知れない。



鎧は、チェインメイルが基本になっている。

本来は細かい鎖で出来た服なのだが、これは、全身タイツに小さな鱗が付いた様な物だ。

別室で下着姿となり、フィグロの説明を聞きながら装着してゆく。


貴族なので、男であっても使用人の前で下着姿でも恥ずかしくはない。

逆に、彼が捕食型魔族である点が恐い。


このチェインメイルは、ウエストが徐々に締まり、コルセットの様になるが、動きに不自由は無い。

むしろ、普通のドレスの時にも着たい位だ。


「この鱗は、マスを付着させたドラゴンの物ですから、剣だろうが、槍だろうが、通しはしませんよ」


彼の話が本当なら、歩く戦車並みの物だ。


続いて、革鎧風のブーツや、腰回りを守るプレート状のスカート、胸当てなどをつけてゆく。

細かく細分化された革鎧は、動きが自由で、闘いやすそうだ。


肩と言うより背中の辺りに、二枚の板を装着するのが、奇異だが、説明があるのだろう。


最後にヘルメットを被るが、異国の花嫁が被る衣裳の様で、興奮する。

フィグロが長剣を差し出して、こう言った。


「鎧のマスを意識して『イニシャライズ』と言って下さい。」


言われるままに、鎧を探ると、全てにマスが含まれている。


「イニシャライズ!」


革鎧が、一回り小さく薄くなり、タイツと装飾品くらいになった。


「こちらが見えますか?」


バイザーの下方には、後ろの映像が見える。


「これでは、不意討ちも出来ませんね。」


バイザーは、板にスリットが入っている物だが、これは薄絹の様な、透明な板だ。

しかし、触ると堅い。

バイザーを下げると、完全に密封状態になるが、呼吸は苦しくはない。むしろ、軽い。


鏡を見ると、ドレス姿にも見える。

バイザーを上げると、髪色に合わせたヘルメットの金色も有って、ティアラを付けている様だ。


金属甲冑よりも、いや、ドレスよりも軽くて動きやすい。

裸同然の可動域に、驚く。


「これでワイズの花嫁らしくなりましたな。」


彼の言葉に鏡を見ながら高揚する。


「ワイズ様に御覧頂いてきます。」


私、トッカーナは、ワイズ様の待つ部屋へと、飛び出して行った。


---------



「ワイズ様、いかがでしょうか?」

「う、美しいな。」


ワイズ様から『美しい』の言葉を、初めて聞きました。

視線は、チェインメイルの部分を見ているので、御家族同様の鱗に感激なさっているのかも知れません。


「ワイズ、バーン。これはパワードスーツの一種だから、多少の訓練が必要になる。」

「パワードスーツ?」


フィグロが発した意味不明な言葉。


「では屋外で、少し動かしましょうか?」


ワイズ様が、私の手を引いて下さるなんて、人前でなんて破廉恥な、いや、なんて興奮する行為を・・・


バイザーを上げて歩く姿に、場内の側仕え達がチラチラ見ている。


城の屋外訓練所まで来る頃には、皇太子殿下は勿論、騎士団の父や部下まで集まってしまった。


「トッカーナ。なんだそのドレス?いや衣裳は?」


父の動揺はもっともだ。


「父上、これはワイズ様の養母様から贈られた甲冑です。」

「いや、その様な薄物ではヤジリさえ受けきれないだろう?


通常の革鎧は、動きを重視してヤジリが急所に当たらない様にしている。

剣士の場合は、剣を打ち込みやすい要所を金属プレートで守る。

歩兵は全身プレートで動きを犠牲にして耐久力をあげる。


基本がチェインメイルで、要所を薄めの革鎧で覆う深紅のドレスは、どう見ても実戦向きには思えないのだろう。


「チェインメイルでは、切れなくとも、骨折や内臓破裂をするぞ。」


父上の心配は、もっともだ。


「失礼致します。この品をお持ちした商人のフィグロ・キーマと申します。本品の品質を証明する為に、剣を御貸し頂けませんか?」


フィグロに面識の無い父上は、困惑したが、皇太子の頷きを見て、彼に自分の剣を手渡した。


「では、御覧下さい。」


フィグロは、剣士にも負けない勢いで剣を振り回し、目にも止まらぬ剣技で腹部のチェインメイルに一発。腕のチェインメイルに一発と、打ち込む。

打ち込まれた本人もだが、周囲の皆が、あまりの展開に息を止めた。


触られた感覚は有るが、痛みどころか衝撃も無い。

勿論、腕も微動だにしない。


皆の驚愕をよそに、ウヤウヤしく剣を返上してくるフィグロに、父上は目を剥いていた。


「研ぎ直しに出される事を、お薦めします。」


見ると、剣は二ヶ所が刃零れしている。


「トッカーナ様。背中のプレートに集中して、水中を泳ぐイメージをして下さい。」


フィグロの言葉に、目を閉じて、池で泳ぐ様を思い出す。

脚の感覚が変だ。


「おぉー!」


周囲の声に目を開けると、視界が上に移動している。


「ここは水中だと思って、次に手足は動かさないで良いので、前に泳ぐイメージを。」


非常事態に、思考は停止寸前だが、言葉通りにイメージすると、身体が前進を始める。

癖で手足が多少動く。


誰かが、私の手を握った。


「ワイズ様。」


翼を広げたワイズ様が、私の手を取って、引っ張って下さる。

不安感が払拭され、お互いを見ながら、踊っている様に感じる。

飛行の恐怖どころか、楽しい興奮をおぼえる。


周りの風景がぐるぐる廻り、上下の感覚すら無い。

夢の中で踊っている様だ。


暫く踊ると、背中に倦怠感を感じた。


「そろそろですね。」


ワイズ様が地上へと導いて下さる。

背中のプレートが、音を立てて空気を吸い込んでいる。


「飛び続ける事は出来ません。時々は休ませてやらないと。」


フィグロが注意点を伝える。


「では、次は剣を抜いて下さい。」


言われた通りに、渡されていた剣を、鞘から抜く。


「この剣は。」


形は使いなれた、両刃の両手剣だが、この刀身の透明な加工には、覚えがある。


「使い方と注意点は、御存知ですね?」


フィグロの言葉に、ワイズ様の方を一瞬見た。

使い方は、横で見ていた。

刀身に触らず、撫でる様に切るのだ。


剣に魔力を通し、訓練所に常備されている、甲冑付きの人形目掛けて、速度重視で振るう。


この手の剣の威力を見たのは、皇太子周りだけだったので、父上や騎士団は、よろけたり、腰をついたりしている。


瞬時に、鎧だけではなく、支柱の鉄まで両断されたのだから。


「私とワイズ様の婚姻に反対する者は、父上でも斬り捨てますから。」


私の冗談に、騎士団の誰も笑えない。

父上は、引き吊ってさえいる。

にこやかに微笑むのは、殿下とフィグロとワイズ様だけだ。


「では、トッカーナ様。もう少し練習は必要でしょうが、南部の守りは、ワイズ様と共にお願いしますね?」


私は、素直に頷く。

ワイズ様と、このドレスならば、一個師団でも倒せるだろう。


----------



この鎧は、素晴らしい。

美しい、軽い、動きやすい。

丈夫で、便利で、快適だ。

火照った身体を適度に冷やし、汗を吸ってくれるので蒸れる事もない。

視界は広いし、蚊の羽音まで聴こえる。

持久力も向上している様に感じる。

ワイズ様と一緒のせいか、戦闘が楽しく思えてくる自分が、少し恐い。


南側国境壁制圧の為に、騎士団を率いてきた祖父が、私達二人の戦い振りを見て、固まってしまった。

バイザーを上げて、顔を見せた私に、祖父は汗を流しながら大声で叫んだ。


「儂は、其方達の婚姻には賛成だからな。本当に賛成だからな!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ