王国の国境
国境と言うものは、一朝一夕で破れるものではない、
それは、国防の要であり、権利の主張であり、密貿易などの犯罪の温床、更には不法移民による治安の悪化原因にも繋がるからだ。
つまり、かなり堅固に作られているか、監視が厳しい。
ここの国境壁は、高さは十メートルも有り、木造の二重構造に成っていて、間には岩石が詰められている。
強風にも耐える様に、壁から垂直に出っ張る、巨大な控え壁が視界を遮るとは言え、密かに穴を開けるのは難しいし、直ぐには出来ない。
しかし、無理ではない。
燐国の軍隊は、巡回警備の時間を調べ、バレない時間に内壁を壊し、岩石を撤去して、相手国側の木造壁一枚のみにする事に成功していた。
国境門を通る行商人には、いつも通りに国境沿いの巡回に向かう兵士を確認させている。
気付いている気配も、情報も無い。
あとは、複数箇所で一気に国境壁を壊し、軍隊を突入させて制圧するだけだ。
相手国の軍事拠点、規模、兵力、補給線などは、商人に同行させた諜報員に調べさせた。
侵入後に、補給線を絶ち、集中物量と兵力で背後から奇襲する。
旧ヌアンベクトの東側の門を二ヶ所押さえれば、この地区の占拠は成功する。
その為の陽動作戦も準備されている。
数ヵ月かけた作業と情報、地の利を調べ尽くした、この計画の成功を、誰も疑わなかった。
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自分側の情報は、秘匿出来なければ害にしかならない。
流出した段階で廃棄しなければならないし、他者の情報は取得した事を知られてはならない。
または、取得していない事を知られてはならない。
御前会議にて、オーグが恐怖を煽り、一部の者達に寄生体を付けたのは、その様な一面もあった。
商業にも通じる、この情報戦の鉄則を、オーグは大臣や家臣達に厳しく教え込む。
全ては、隣人にも気付かれない様に、限定した人員と隔離した環境で準備し、行われなければならない。
「相手は、この様な武器を、何百と用意しているのです。」
オーグは、敵国から密輸入した銃を持ち込み、威力を見せ、従来の正攻法では勝てない事を示した。
「奇襲に対しては、それを上回る奇襲で打ち砕き、物量で押し潰します。」
オーグは、計画の手順を細かく指定する。
「守れない者、脱落者は、容赦なく死んでもらいます。無理な指示は入れてありませんから、死にたくなかったら死ぬ気で遂行して下さい。監視していますよ。」
オーグは、大臣達に寄生している分体の事を露にして、更に脅す。
中には、自分の身体を這いずり回るスライムに失神した者すら居る。
「創造主が御造りになり、私の愛するこの世界の為に、皆で頑張りましょう!」
オーグの歪んだ愛に、押し潰される家臣達に、王と皇太子は、頭を抱えた。
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各国の位置関係を、アナログ時計で説明しよう。
時計の零時から六時迄が王国。
六時から九時までが諸国連合。
九時から十二時が西部地区だ。
最初の攻撃は、六時側の壁から始まった。
合計三ヶ所の壁に、同時に轟音が鳴り響き、木製の壁の一部が叩き壊されていく。
直径五メートル程の穴が空き、馬車が通れる様に、下の方が念入りに取り壊される。
王国内の著名な魔導師を連れ去る為だ。
続いて、武装した兵が連合国から王国側へ雪崩れ込んでくる。
国境壁の前には、壁の巨大な添え壁によって作られる広場に、次々と兵が整列して、防御陣形をつくる。
その手には、見たこともない武器『銃』が握られていた。
日本で言う『種子島銃』と言う先込め単発の物だが、五十名も居れば、驚異となる。
「だ、誰か居るぞ!」
連合軍兵士の警戒を合図に、草むらから、大きな盾が三十ほど飛び出し、整列して近付いてくる。
盾は大きく、高さは二メートル、幅も二メートル近くある。
とても人が持てる大きさではない。
「待ち伏せか?撃て、撃て!」
指揮官らしき男の命令で、十人が発砲するが、盾はびくともしない。
盾の鉄板は厚さ一センチ以上あり、盾の裏には、タイヤ付きの台車がセットされている。
通常は持ち上げる盾を、台車で押す事で、強固な盾を運用していたのだ。
「いつの間に、この様な物を?」
連合軍が驚愕するのも当たり前だ。
王国は、農業をやっている民兵が多い兼業軍隊だ。
それゆえ、魔導師の多い帝国軍隊とは物量で対抗してきた。
西部開拓支援の名目で民兵を集め、準備をしていたのだ。
城で訓練した人員と物資は、巡回路を使わず、行商人馬車を使い、農村経由で国境まで運んでいた。
国境壁に常時見張りを付けて、侵入経路と時期を確定していたのである。
この特殊な盾も、オーグが西部の隔離した村で、旧ムアンベクト国民に作らせた物だ。
勿論、王国が高額で買い上げた。
横隊のまま、壁の様にせまる盾の列は、連合国軍を添え壁の間に封じ込めた。
背面を国境壁、両脇を添え壁、前方を盾の列に押さえられた部隊は、身動きが取れない。
王国側は予備も含めて、この封じ込めに必用な数の盾を用意していた。
連合軍には身を隠す役目を担う筈の、国境壁の添え壁は、迂回路を塞ぐ障壁となっている。
盾の間がら銃口を差し込めば、剣で凪ぎ払われ、逆に剣が隙間から突き出される。
この身動きが取れない状況を、見守る馬車が、有った。
「ご覧の様に連合国は、国境を破り、我が国への侵略を行いました。我が国は国防の為に連合国の武力を一掃致します。」
皇太子のステファンが、馬車に同乗している他の燐国大使に説明をする。
これは、決して王国が望んだ戦いではないと、証明する為だ。
「ワイズ・バーン殿、頼む。」
ステファンは、馬車の窓から顔を出して、警護についていた騎士に声をかけた。
馬車の護衛のうち、奇妙な鎧の二人が馬を降りて、膠着した戦場へと進む。
一人は、灰色のドラゴンに似た兜と革鎧を着込む二刀流の男。
もう一人は、深紅のドレスにも見える革鎧に長剣の女。
女の方は豊満な胸の膨らみ、コルセットで絞めた様なウエスト、後方だけ長いスカートにマントは、ヘルメットを取れば、遠目にはドレスに見えるだろう。
「トッカーナ!頑張ってー」
リリアナが、騎上から声をかける。
「行こうか?」
「はいっ!」
二人の騎士は剣を抜き、共に翼の様な物を広げ、文字通り盾を飛び越えて五十人も居る銃歩兵へと突入した。
銃歩兵は数列に別れ、発砲した者は最後尾に移動して、再装填を始める。
これを繰り返す事で、単発銃による連発を実現化した織田信長は有名である。
しかし、これは、上空側面からの攻撃には難があった。
左右密集編成の為に、左右に銃身を振りにくいのだ。
左右に別れ、ワイズは最前列と二列目の間を、トッカーナは三列目の後ろを飛びながら切りつける。
共に高周波ブレードの甲高い音と共に、死体の山が出来上がった。
盾に連射していたので、残った者は、装填が出来ていない。
指揮官の護衛が、ワイズに向かって発砲したが、弾丸は途中で不自然に落ちた。
トッカーナに放たれた弾丸は、フルアーマーの腹部に命中したが、鱗状になったその部分に弾き返された。
両者の流れる様な、踊る様な剣裁きに、残る者達が地に倒れるのは、すぐだった。
二人が国境壁を越えて、連合国側で無双を始めると、盾の壁は、国境壁の穴を通り越して、連合国側へと進む。
連合国兵士が、馬車用に開けてくれたので、盾の台車も問題なく通れる。
一部は王国側で、穴を塞ぐ様にして、配置された。
兵士の数人は、馬に跨がり、西部の駐屯地へ伝令として走った。




