恋バナ
馬車から、一人の青年が降りてきて、彼女に声をかける。
「おやおや、ラーミァ殿。この様な所で奇遇ですね。」
「これはステファン殿下。御機嫌麗しく。」
国内の農村を豊穣の儀式を行う為に、回っていたラーミァは、儀式後の休憩を取っていたが、彼方より豪華な馬車が来たのを見付けて、装いを改めた。
馬車から出てきたのは、この国の皇太子であるステファン殿下だった。
「西部への派遣に引き続き、国内まで回られていて、お疲れではありませんか?」
「御心配をありがとうございます。西部も大切ですが、国内も大切でございますから。」
皇太子の労いに、礼を返す。
そんな会話の間にも、皇太子の側仕えが、簡易テーブルセットと御茶を用意して、頭を下げている。
「御茶の用意が出来た様なので、いかがですか?」
「ありがとうございます。」
ラーミァは、せっかくなので、皇太子の誘いを受けた。
見ると、皇太子の馬車から、ドレス姿の女性が降りてくる。
「あれは?トッカーナ様では?」
騎士姿のトッカーナしか見たことがなかったが、その容姿に間違いは無い。
「彼女も、普段はドレス姿の様ですよ。国内の視察に回ると言ったら、ワイズ殿に会えるかもと、同乗を頼まれまして。」
トッカーナがではない。実はステファンがラーミァに会う為に、彼女のスケジュールを調べさせ、視察巡回コースを変更させていたのだ。
それを耳にしたトッカーナが、便乗したに過ぎない。
「お時間があれば、西部でのお話を伺えませんか?報告に登城された時は、席を外していたもので、お時間を取れませんでした。」
「えぇ、殿下とお話をするのも、久々の様に思えます。」
御使い様に関して、似た境遇である二人は、気兼ねなく話せる少ない関係であった。
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『兄者。用を足して来る。』
そう言って、ワイズの元を離れたバーンは、近くの草むらに身を隠す。
ドラゴンと言えども、トイレには行くのだ。
しかし、本当は人間以上の視覚の広さで、ワイズには見えていない者を見付けたに過ぎない。
ワイズ達は、ラーミァの護衛の為に、豊穣の儀式に同行していた。
儀式を終えて休憩を取っているラーミァを、馬車の近くの見晴らしの良い所で立哨していたのだ。
「ワイズ様。」
後方よりかけられた声に、ワイズが振り返る。
「えっと?トッカーナ殿か?」
見慣れぬ姿に、ワイズが戸惑う。
しかし、声も顔の特徴も、トッカーナに違いない。
「まるで、歩く花園の様だな?」
「ありがとうございます。」
華やかで各所に花をあしらったドレスを、ワイズなりの評価だった。悪意は無い。
トッカーナも、武道一辺倒だったので天然に近いし、ワイズの武骨な点は承知しているので、悪くは受け取らない。
近寄るトッカーナに、ワイズが鼻をヒクヒクさせた。
「この匂いは?」
「香水です。お気に召しませんか?」
「いや、不慣れなので驚いただけだ。こちらの文化なのだったな?」
武骨だが、雄や雌が求愛の為に外観を派手にしたり、踊ったり、特別な臭いを発したりする事を知らぬワイズでも無かった。
「このカナンでは、トッカーナ殿が一番、相棒に相応しいと思うのだが、どうだろうか?」
魔力量も大差ない。剣技も雌にしては優れている。御使い様の件にも係わえる。
一方的に守らなくてはいけないラーミァより、メリットとなる点は幾つかある。勿論、デメリットも有るが。
「ありがとうございます。私も御側に居たいと思います。」
そう答えたトッカーナの肩に、ワイズが手を回して乗せる。
言い回しが特殊だが、これが彼なりの表現なのだと理解して、トッカーナは頬を染め、ワイズの胸元に頭を寄せた。
草むらで、強制的に用を済ませたバーンは、皇太子の乗って来た馬車へ向かって、飛び立った。
小さいとは言え、ドラゴンの飛来に逃げ惑う側仕え達。
一人だけ逃げずに、顔を強張らせるだけの男の近くへとバーンは着地する。
「確か、クイントだったな?そちらの手筈は大丈夫なのか?」
「流石はドラゴンのバーン様。いろいろとお見通しの様ですね?御心配無用です。」
小声だが、ドラゴンと平気に話す側仕え長のクイントに、配下達が、羨望の目を向けている。
「ワイズ殿が、そんな活躍をなさったのですね。それは凄い。ワイズ殿が側に居れば、ラーミァ殿も御安心でしょう?」
ステファンとラーミァの会話は、西部での魔物退治に至っていた。
「確かに、心強いとは思いますが、わたくしは、あの方が少し恐ろしくて。」
「確かに手加減とか、人の情と言う事が抜けている気がしますが。」
「殿下も、そうお思いになりますか?」
ラーミァがステファンに同意をする。
「ラーミァ殿は、民達に多大なる貢献をなさり、国の事業や御使い様の仕事までなさる、とても偉大な方です。とても尊敬しています。ワイズ殿には至らないと思いますが、私もラーミァ殿をお守りしたいと思います。」
「殿下。」
ステファンは、ひと息つく。
「もし、よろしければ、ラーミァ殿の近くで、貴女を守っていきたいと思っています。」
ステファンの言葉の意味を、ラーミァは考えた。
皇太子が護衛についてくれる訳がない。
「それは、どういう意味でしょう?」
「ラーミァ殿。私の妃になってはくれまいか?」
一瞬、ラーミァの思考が止まる。
「でも、わたくしには、ガーランドとしての勤めが。」
「続けて構いません。近衛が警備に増えるだけです。将来の王妃が国土を潤すのであれば、国民と王家の関係も、良好となるでしょう。」
「す、少し、考えさせては、いただけませんか?」
ラーミァは急な話に、対応しきれていないが、ステファンは落ち着いている。
クイントは、バーンに話す。
「ラーミァ様が帝国に問い合わせるのも考慮して、皇帝には一報を入れてあります。様々な点で協力体制にある二国では、関係強化をする為に、婚姻を結ぶのは珍しくは無いのです。贔屓目に見ても、皇帝はラーミァ様が拒まなければ賛成するでしょう。」
クイントの話に、バーンが頷く。
「調べた結果、ラーミァの近くに男性はワイズ様だけですし、感触では彼に恐怖心を抱いています。」
彼等に考えうる手を回し、いろいろやっている様だ。
『止めに、兄者にはトッカーナを連れて来たのだな?』
「トッカーナ様の希望でしたから。断るのも勿体無いですからね。」
遠くから二組のカップルを眺める二人は、悪人の笑顔にしか見えない。
王国編が終了です。
次は不定期で『乱世編』になります。




