挑戦者
何処にでも、新しい武器や技を手に入れたら、直ぐに最強に成れると思い込む幼児性の抜けない者は居る。
どんな道具も、技も、実地で何度も多様な条件下で繰り返さないと、実際には使えない。
兵士が、訓練で単純な行動を何度も繰り返すのは、身体で覚えなければ使いこなせないからだ。
ワイズ達は、初めての蹄鉄にタウリが慣れる為に、ドラゴンズゲート滞在を伸ばしていた。
タウリの蹄に合った蹄鉄を作っていた関係も有る。
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門前街ドラゴンズゲートでのワイズの目撃話は、駐屯地に居た者達にも伝わった。
何せ、王族発行の名前入り通行証と、その通過記録が有る。
休暇の者や非番の者が、馬を走らせたと聞いても、あの大歓声を見た者なら納得するだろう。
ワイズ達の滞在延長は、ある男にとって、ラッキーだったのか?アンラッキーだったのか?
その男の名は、ビクター・ハマウス。
王国兵士で、皇太子の護衛の一人として西部入りをし、駐屯地の兵士と入れ替りで、西部の警護任務に就いていた。
皇太子は、とうに帰国している。
皇太子と同行した兵士と、同数の駐屯地兵士が王国へ帰国し、単身赴任扱いで西部に居る者は数十人に及ぶ。
彼等は、ワイズとトッカーナの模擬戦を観戦し、広場で高周波ブレードを見た者達ではあるが、ビクターは、そんな男の一人だ。
「あの剣さえ有れば、俺は王国最強に成れる。」
体格が大きく、筋力と持久力にも自信があり、剣技もトップクラスを自負していた彼は、速度でトッカーナやワイズには劣る事を自覚はしていた。
だが、あの剣が手に入れば話は変わる。
「帝国人とは言え、王国の賓客扱いだ。闇討ちしか無いだろう。」
剣を譲ってくれるわけもなく、盗む技術も無い。
奪えても、権力で取り返されるだろう。
彼は、ワイズを目撃した門番に、金を渡して特徴を聞き、門番の全員に根回しをしていた。
また、旧国境門側の兵士に、ワイズが国側へ出ていない確認も、取っていた。
「ここ数日、馬で遠乗りをしていると言うのは、本当なのだろうな?」
ビクターは、門番の男に確認をとった。
幸いな事に竜騎士は、特定の時間に一人で西部側へと街を離れるらしい。
街から離れた場所には、街道の脇に雑木林が有り、隠れるのに絶好な場所が有った。
近くに民家も、まだ出来てはいない。
息を殺して潜み、街道を見張る。
遠方に馬の姿が見えた。
「ちと、速くはないか?」
その馬の速度は、彼が知る馬の倍近くある様にも思える。
彼は、目算より早めに街道へ走り出て、両手を広げ仁王立ちをした。
「竜騎士のワイズ・バーン殿とお見受け致します。」
体格に似合う、大きな野太い声が、馬足を止めた。
竜の兜は無いが、門番から聞いた顔の特徴は同じだし、何より見覚えのある革鎧と双剣は、間違いない。
「トッカーナ殿との模擬戦。魔物を切り裂く剣技。共にお見事でした。」
馬上で身構えるワイズに、握手の手を差し出す。
ワイズは、皇太子の護衛だった男だと判断して、待ち伏せていた一人を邪険にするのも面倒に思い、馬上から握手に応じようとした。
ビクターの手は、ワイズの腰の辺りにある。
そう。剣の柄の辺りにある。
「しかし、この剣には相応しくはない!」
ビクターは、馬上のワイズから、剣を抜き去って、大きく一歩退いた。
剣は、もう一本有る。馬上から降り下ろされたら、不利だ。
「何をする?剣を返して頂こう。」
ワイズが馬を降りて、返却を求めて歩み寄る。
「剣は、それに見合う主が持つべきだ。貴公より、我が相応しい。」
ビクターは、完全に自分の優位を確信していた。
どのみち、彼はワイズを殺さねばならない。
問答は、本来は意味がないのだが、騎士としての教育が無言を嫌がった。
「確かに、それは言えている。挑戦を受けよう。」
ワイズの言葉を同意と受け止め、ビクターは気合いと共に、強烈な突きを放った。
剣が変に逸れる。
ワイズも、剣筋から弾ける様に、避けている。
「なんだ?今のは?」
動きに疑問を感じたビクターの前で、ワイズがゆっくりと剣を抜き放った。
ビクターは奪った剣で、左手の指先を少し切り、切れ味を確かめる。
「貴公の剣技は拝見しておる。切れ味が互角なら、貴公に勝機は無い。」
ビクターは、ワイズが剣によって戦いかたを変える事を知らない。
確かに、不慣れな普通の剣での戦闘なら、ビクターに勝機が有ったのだろう。しかし。
ビクターは、巨体と全筋肉を活かした、必殺の剣技を降り下ろす。
ワイズは、脚を踏ん張り、左手のリストバンドで体の側面へと受け流した。
剣は、リストバンドの表面を撫でる様に、剣筋を曲げられ、地に突き刺さる。
「クソッ!」
かつてトッカーナが試した通り、ビクターでは高周波は作動せず、刃先の鋭さのみでしか切れない。
ビクターは、この剣の本当の切れ味を理解してはいなかった。
更に、高周波ブレードの刀身は、電磁誘導による振動発生の為に、平素より強力に磁化されている。
そして、磁化されている刀身は、リストバンドなどに発生した強力な磁場により剣筋を曲げられていたのだ。
ワイズの革鎧にはマスが仕込まれており、馬を降りる時間くらいで、簡単に起動出来る。
ワイズが革鎧を着ているのには、この剣と引き合わない考慮もある。
「不様だな。」
ワイズは、そう言うと、右手の指先で剣をユックリ回して、ビクターの降り下ろされた両腕に軽く触れる。
ビクターの耳に、耳鳴りの様な音が響いた。
一瞬の熱さの後に激痛を感じ、ビクターは後ろに倒れる。
目の前に赤い雨が降っている。
いや、これは彼の腕から吹き出した鮮血だ。
「ぐぅあぁぁぁーっ!」
肘から先が無かった。
何が起きたのか、何が悪かったのか、理解できず、痛みで思考は混濁しはじめた。
ワイズは、剣を回収し、マスで血糊を分解しはじめていた。
「残念な事に、この剣には相応しくなかった様だな?」
竜以外を殺す事に、何の躊躇も無いワイズにとって、人間を殺す事など、蚊を殺すのと大差は無かった。
ワイズは、少し寄り道した程度の認識で、再びタウリに股がり、街道を駆けはじめた。
「あぁ、駄目か?門番に、街道で襲われて、両腕を切り落とした位は言わなくてはならないのか?」
カナンは、面倒だと首を振るワイズだった。




