グランドマザー
「河を目指しましょう。」
ラーミァが地図を手にして、道を指し示す。
この地の水源は河と雨水と、地下水だ。
しかし、馬車の貯えはまだ有る。
「マスの補充ですね?」
「そうです。」
ワイズがラーミァに確認をとった。
「貯め池では駄目なのですか?」
「河と、雨水を貯めた池では、マスの保有量が極端に違うのです。」
リリアナの疑問は、自分でマスの採取をした事が無い、上級貴族だからだ。
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トッカーナは、河辺に馬車を停め、馬達を離して、新鮮な水を飲ましたり、水浴びさせたりする。
リリアナは、河辺でマスの量を感知してみた。
「本当に、多いですね。貯め池の十倍以上かしら?」
ラーミァの回答が、正しかった事を確認していた。
水と共に流れてくるマスが、河辺の地中を、水分と共に地面の中を移動している様を感知する事が出来る。
そして、それは地下水となって広く潤し、マスを世界中に広げているのだ。
空気中にもマスは存在し、雨水と共に地中に広がるが、濃度が圧倒的に違うのが、感じ取れる。
豊穣の儀式を手伝った為に、彼女達の感覚も、鋭敏になっている。
「それが、マスの補充なんですか?」
儀式で使う度に、貯えていたマスは、減っていく。
マスは地面にも有るが、手元に高濃度に持っていると、効率が上がるからだ。
ラーミァは河に入って、白い布を広げていた。
「布に付着する様に、祈りをする事で、採取出来るのです。」
裾を捲り、足首上まで水に浸かって、布を水に泳がせている。
ワイズは、鎧を着たまま、更に深い所で、河に寝転んでいた。
バーンは隣で水浴びをしている様にしか見えない。
「ワイズ様達も、マスの補充なのですか?」
視覚的には、ふざけている様にしか見えないが、感覚では彼等の上流と下流では、感知出来るマスの量が違う。
鎧を着たままなのは、個別に河に浸けると、流れてしまうからなのだろう。
革鎧に見えるソレは、硬いが軽い様に見える。
「その鎧が、マスを含んでいるのは感じていましたが・・・」
一見、酔っぱらいの水浴びにしか見えない行為を、トッカーナが、羨望の目で見ている。
胸当てをはじめ、籠手やリストバンドにすらマスを感じていた。
「あの様な鎧が有れば、私も大きな魔法攻撃が出来るのでしょうが・・・」
トッカーナは、秘かに国元で作らせる事を考えていた。
「エデンでは、服を着る習慣が無いので、楽に出来ましたが、こちらでは後で、衣服を乾かさなくてはならないのが、手間ですね。」
ワイズの言葉に、トッカーナが背を向けてしまった。
耳が赤くなっているのを見ると、裸で鎧を着ている様を想像したのだろう。
「なぜ、河の方がマスが多いのでしょうか?」
河の水も、元は雨水であると認識していたリリアナが、ラーミァに疑問を投げ掛ける。
「私も存じません。祖母の記録にも無くて。ワイズ様は御存知ですか?」
『グランドマザー』
答えたのは、バーンだった。
しばらく考え、ラーミァは頷く。
「グランドマザーとは何なの事ですの?」
『其方は知らぬ方が、国の為だ。』
バーンの言葉に、リリアナがラーミァを見ると、彼女も同意しているので、それ以上は問わないでいた。
ラーミァの記憶では、帝国で御使い様がグランドマザーと呼んでいた巨大な宝石は、地中で水を産んでいた。
つまり、水と一緒にマスを産み出していたのだろうと、ラーミァは理解したのだった。
そして、それに興味を持って掘り返すと、水とマスが枯渇して、国が衰える原因となる。
「これは、言えません。伝えてはいけない事です。知らない方が世界の為です。」
ラーミァの顔が強張る。
下手をすれば、戦争を起こす情報なのだ。
大きな河の源流には、あの宝石が埋められているのだろうと、ラーミァは推測した。
祖母も知っていたかも知れないが、誰かに見られるかも知れない書物にも書けないし、知らなくても問題は無い。
知っていて、口を滑らすよりも、何倍も良い。
今では、御使い様の行ないを邪魔するのが、一番恐い。
戦争など生温い。国が滅ぶと知っている。
何より、今、歩いているのは、御使い様に逆らって、人も町も消された、ヌアンベクトなのだ。
水の冷たさでない悪寒が、ラーミァの背中を走った。




