魔竜騎士
善行をしても、噂と言うのは良く伝わるとは限らない。
更に、一つの噂が二つの異なる噂と成り、相剋する事もある。
「『魔を退ける双剣の騎士と、情け無用の魔竜騎士が、戦った』と言う噂が、西部地区に広がっていますが、これは、ワイズ様とバーン様が、戦ったと言う事ですか?」
駐屯地で、久々に姉に会ったカナシス皇太子が、人払いをした個室で、問いただしていた。
ワイズとバーンが、坑道に現れたオールディズを倒したと言う報告を受けてから半月後。
どこを、どの様に伝わったのか、そんな噂が広まっていた。
「そんな事は、起きていないし、たぶんコレは、オールディズ退治の話の事だと思うのだけど?」
ラーミァが答え、リリアナとトッカーナが同意する。
兄弟仲を疑われた、ワイズとバーンは、憤慨気味だ。
豊穣の儀式を予定以上に早く終えて、駐屯地の弟に会いに行ったラーミァの会話は、こんな事から始まった。
「私も、そうだと思ったのですが、世の中には兄弟喧嘩と言う物もありますし。」
「兄妹喧嘩ねぇ。」
姉弟喧嘩が出来なかったカナシスとラーミァが妄想し、兄妹喧嘩をした事のあるリリアナが回想する。
「第三の可能性として、別の竜騎士が登場したと言うのも考えられましたので。万が一、ワイズ様達が手に余る相手だと、物量戦も必要になるでしょうし。」
下手すると、旅団単位の軍隊が予想された。
「『なぜ、兄弟で喧嘩をするのだ?」』
ワイズとバーンが、声を揃える。
リリアナが、変に考え込む。
「ワイズ様、バーン様。御手数ですが、兵達の前で証明してみせては頂けないでしょうか?」
人前に出るのは、好きではないが、変な噂が蔓延するのも気分が良くない。
二人は仕方なく、承諾する。
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駐屯地の広場に、高い台が用意され、カナシスと共に竜騎士姿のワイズ・バーンが登っていった。
上から見ると、千人近い兵が綺麗に並んで見ている。
「確認が取れた。噂の真相は、『魔物と戦い、容赦なく退治した、魔導帝国公認の双剣竜騎士』の話が、バラバラに広まったものと、判明した。」
カナシスが宣言して台の上の物を指し示した。
そこには、手足を折られて窒息した、オールディズの死体が持ち出されている。
「ワイズ・バーン殿!お願いします。」
しぶしぶ、ワイズは二刀を抜き、死体を三分割する。
「「「「おおぉぉー」」」」
千人から歓声があがる。
誰もが、剣で試したのだろう、擦り傷の多い、その死体を瞬時に切り裂いたのだ。
続いて、バーンが魔法を展開する。
表皮が弾け飛び、組織が飛び散る。
「「「「ぐぅおおおおおーーー」」」」
歓声が騒音になってく。
全ての兵士が、拳を天に振り上げ、踊りまくる兵士すら見える。
列など跡形も無く、入り乱れている。
カナシスは、満足げに肩を揺らし、ワイズとバーンは、頭を抱えた。
台の近くでは、握手を求める手が無数に差し出され、イソギンチャクに捕まった獲物の様な状況だ。
流石に恐くなったワイズ達は、翼を広げて空へと逃げて、ラーミァ達の元へ急いだ。
後でカナシスに聞いたところ、空飛ぶワイズ達を見て、興奮で失神した兵士が、多数出たそうだ。
「弟子入りの話が百件以上有りますが、どうしますか?」
「冗談でしょ?カナシス殿。」
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ワイズは困っていた。
駐屯地に部屋を宛がわれたが、扉の外には非番の兵士が外出時を待ち構え、夜になると裸のメイドを筆頭に、女兵士が合鍵を手に入れて、多数が寝床に潜り込んでくる。
手洗い場や浴室にすら潜んでいる。
カナシス皇太子に頼んでみたが、罰則覚悟でやってくる様だ。
部屋の隅で、兜のふりをしているバーンも、どうしたものか悩んでいた。
数日で我慢の限界が来たワイズは、ラーミァの元へバーンを向かわせ、駐屯地を脱け出す手筈をするように頼んだ。
ワイズが囮として部屋を出ていたので、夜陰に紛れて窓から窓に飛び移るバーンに気付く兵士は居ない。
勿論、カナシス皇太子にも連絡をした。
翌日の昼過ぎに、馬車で駐屯地の外に脱け出したラーミァ達の馬車を追いかける様に、ワイズとバーンが、部屋の窓から飛び立った。
「心が死ぬかと思いました。」
ワイズが安堵の声をあげる。
「あら、ワイズ様。まだまだ安心は出来ませんよ。ねぇ?トッカーナ。」
リリアナの言葉に、トッカーナが顔を伏せる。
「わたくしが止めなければ、トッカーナもワイズ様の寝床に・・・」
「リリアナ様。お止め下さい。」
トッカーナの顔が真っ赤だ。
「いや、ワイズ殿の子種を、他の者が狙っていると聴いて、阻止しようと思ったのです。」
「まぁ、そう言う事にしておきましょう。」
コイバナを咲かせたいが、この一団の関係が壊れるのも都合が悪いと判断したリリアナが、即座に鉾を収めた。
騒ぎの後から、明確にトッカーナの行動が変わった。
他者に触発されると言う事もあるのだろう。
時折、剣の修行を見てもらう事も増えたので、率先してワイズの事に関わり始めた。
「剣の師匠ですから、身の回りのお世話をするのは当然です。」
理由が先なのか?行為が先なのか?答えは明確だが、一応は筋を通している。
しかも、ラーミァに頼んで料理を覚え始めたりしている。
「王国か帝国に戻りませんか?」
ワイズは、バーンを馬車の屋根に移動させ、竜の兜が無い状態で、移動せざるを得なかった。
街には、警備の為の兵士が常駐しており、巡回や交代があるので、既に噂が広がっている。
皆が竜の兜を目安に探しており、本人の顔を知らないのが、救いだ。
しかし、助け合っていた兄弟が離れなくてはいけないのが、心もとない。
噂が広がっていない場所に行きたい。




