オールディズ
幾つもの街道沿いの宿場街を回り、ラーミァ達は豊穣儀式を行った。
この成果が実るのは、収穫の出来る半年後なのだが、早く回らないと作付け時期を逃してしまい、収穫自体ができなくなってしまう。
その為に、フーデルヒース王国では、豊穣儀式に長けたガーランドの過半数が動員されている。
そして、その動員の中には、帝国からのガーランドに、豊穣儀式を実地で教える者も含まれるので、過半数を動員した街道沿いのみの開拓も、スムーズには進まない。
ラーミァ達の一団は、トップクラスのラーミァに、王族血族に上級騎士が二人も居る。
当初、ラーミァ一人で一日掛かっていた儀式も、練習の為と他者も手伝いだしたので、途中からは半日作業になってしまった。
馬車を農園の十字路に停め、四隅に別れて各々の区画に、豊穣儀式を施していく。
半日作業になったとは言え、次の宿場街に向かうのも忙しないので、宿場街側から儀式を行ない、遠い場所で昼食をとり、確認をしながら、昼過ぎに宿場街へと戻っていくというスケジュールになった。
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そんなある日、豊穣儀式を終えて宿場街から一番遠い農園で、食事をしていると、隣の鉱山街から逃げてくる人々が居た。
「魔物だー!魔物が出たぞー」
叫びながら街から農園側へ逃げ出る人が居る。
「魔物?エデンからこんなに遠いのに?」
「まさか、先の殲滅の時の奴が残っているのか?」
エデンの魔族を知るラーミァが疑問をあげ、ヌアンベクト殲滅に立ち会ったワイズが可能性を考える。
残っているとしたら、創造主の命令に反する大罪だ。
「向かいます!」
ワイズとバーンは剣を抜き、翼を広げて鉱山街の方へと飛んで行く。
「我々も向かいましょう。」
地方領主とは言え、支配階級にあるリリアナも、傍観している訳にはいかない。
かと言って、ラーミァを置いていくわけにもいかないので、皆で馬車に乗り、ワイズ達の後を追って鉱山街へと向かった。
騒ぎは、街の更に奥。鉱山側で起こっている。
鉱山用に試し堀りをしていた場所で、人々が鶴嘴を手に何かと戦っている。
「何なんだ?アレは?」
御者席でトッカーナが叫ぶ。
それは、蜘蛛の様な百足の様な物から奇妙な半身が尖出している生物だった。
地球の伝説では、蜘蛛の怪物アラクネに近い。
それが十匹ほど暴れている。
怪物は、穴から出ては人間を襲い、また穴に戻ると言う動きをしている。
長時間、穴から出られない様にも見える。
鶴嘴での攻撃は、一瞬だけ怪物の動きを止めるが、傷を負わせる事も出来ずに、苦戦している。
「バーン殿!」
黒い影が飛来し、怪物を切り裂いていく。
流石にバーンの剣は、怪物であろうとも、難なく切り裂いてゆく。
しかし、減った分だけ穴から這い出してきて、一向に数が減る気配が無い。
怪物からの安全圏に馬車を停め、リリアナに注意を促してからトッカーナが怪物へと向かう。
トッカーナが自慢の大剣を怪物に降り下ろす。
「クソッ!」
トッカーナの剣でも怪物を傷付ける事は出来なかった。
まるで楯を相手している様だ。
二メートル以上ある巨体は、倒れもしない。
体の特徴は、虫に近い。
「片方の足の関節を狙え!」
バーンの声が届く。
トッカーナは、魔法で炎を放った。
怪物が怯んだ隙に側面に回り込み、剣で足の付け根を狙った。
関節部分は、壊れる様に千切れ、怪物がバランスを崩す。
残った足で穴を目指して逃げ出した。
「逃げるか?」
トッカーナは、残った他の足も切り落とす。
片方の足を切り落とされた怪物は、走行不能となり、その場で暴れたが、やがて痙攣を始めて、動きを止めた。
「やったか!」
成果を確認した彼女は、次の怪物に向かって、歩を進めた。
恐らく五十匹ぐらい倒しただろうか?
流石に怪物も打ち止めの様で、穴の入り口に陣取って、出ては来ない。
様子を見ていたリリアナが、鶴嘴を構えていた者に声をかけた。
「王族の者です。これは、いったいどうしたのですか?」
男達の中から、一人が歩み寄り、膝をつく。
「お助け頂き、ありがとうございます。鉱山の為の試し堀りをしていたところ、変な穴と繋がってしまい、有毒なガスと共に、あの様な怪物が這い出てきまして、応戦していた次第です。」
「アレは『オールディズ』と呼ばれる物達ですね。」
現場の役人と思われる者の説明に、ワイズが答える。
「オールディズ?」
リリアナは聞いた事のない単語に、ワイズの方を振り向く。
「リリアナ様はご存じ無いですか?御使い様が、創造された物ではなく、勝手に涌き出た生き物で、討伐の対象です。」
正確には、金属質でできたこの惑星に、最初から居た生物だが、その様な事を教える必要は無いとワイズとバーンは考えた。
「御使い様が、駆除しきれずに、地中深くに潜っていた者の巣が、坑道と繋がったのでしょう。」
「これは駐屯地の兵に連絡を入れておくべきでしょうね。」
ワイズの説明に、リリアナが王族としての判断を行う。
「鉱山責任者の方は、駐屯地へ伝令を送って下さい。関節が弱い点も忘れずに。」
王族の命令に、現場の役人が指示を出している。
リリアナは、役人の行動を確認した後、功労者であるワイズに視線を向けると、彼は大地に手を当てて、何かをしていた。
「ワイズ様。何をなさっているのですか?」
「マリコス、いや、マスを集めています。あれを根絶しなくてはなりませんから。」
ワイズが手をついてはいるが、実際にマスを集めているのはバーンだ。
ワイズの力はラーミァに劣るが、バーンの力はラーミァに優る。
周囲から、地表を波打つ様に、白い砂がワイズに集まる。
『兄者、こいつらは外骨格だ。生きたサンプルを頼む。』
「判った。」
ワイズは、バーンをその場に残し、怪物の居る穴へ向かう。
「あれは、御使い様の僕だ。安心しなさい!」
竜としての姿を露わにしたバーンに怯えた者達を、リリアナが制する。
ヌアンベクトを、御使い様の命令で滅ぼしたのが、ドラゴンだと聞いていた王国民は、一応は安心したが、近付きたい物ではない。
『ライブラリー検索:優先分解。IDENT:Select_Disassembly。ENVIR:parameter/sensor。DATA:sample/dimension/time。PROCE:search/matching/disassembly/consumption/。EOJ:time。copyJOB_at_group。』
バーンが、呪文の様な言葉を呟く。
ワイズが坑道の入り口に陣取っていた怪物の手足を切断し、バーンの元へ投げ込む。
バーンは、マスの付いた前足で、藻搔く怪物の体を触った。
『parameter。』
触れたマスが、生きた怪物の外骨格の素材を調べる。
生きた怪物を求めたのは、免疫や対抗手段を調べる為だ。
そして、バーンの魔法に従い、マスが怪物の外骨格を分解した。
直後、小山の様に集まったマスが、一気に坑道へと流れ込む。
入り口に這い出てきた怪物の表皮が、一気に剥げ落ちて、内臓が飛び散って、のたうちながら四散した。
それを見ていたリリアナは、目を見張る。
「バーン様!何をなさったのですか?」
『怪物の表皮を優先的に分解する様に、マスに命令したのだ。』
人間だったら、生きながら生皮を剥がれた姿をイメージしたリリアナは、気分が悪くなってよろけ、馬車に片手をついた。
「リリアナ様。御使い様に関わると、こんな事は沢山ありますよ。」
ラーミァが経験から語り、リリアナを慰める。
『人間よ。四・五日後に、換気をしながら潜ると良いぞ。』
バーンに睨まれた、現場の役人が、怯えながら頷いた。




