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ワイズの失態

カナシスは駐屯地の一室に、御使い様関係の場を設けた。

勿論、お茶を出した後で人払いをしている。


「ステファン殿下達は視察で、姉上は豊穣の儀式でしょうが、イフィル様は、何故、この地に?」


カナシスの問いに、皆がイフィルに振り向く。


「諸国を巡っていたのだが、この馬鹿が住民を切り殺そうとばかりするので、仕方無く戻って来たのだ。」


イフィルの横で、ワイズが頭を下げた。

多少なりとも話した事のあるステファンは、疑問に思う。


「ワイズ殿は、特に戦闘狂とか、血に飢えていると言うタイプではないと思いましたが?」

「違うのです、ステファン様。愚民共が、あまりにも不敬で、不信心で。我慢ならないと思いませんか?」


ワイズの返答に、ラーミァ、カナシス、ステファンの三人が、エデンの魔族に会った時の事を思い出して、


「「「あ~。そうですよねぇ」」」


と声を揃える。

彼等は、とても御使い様を信奉している。

ドラゴン達を使役するのは勿論だが、ラージァニースの輪と呼ばれる大規模神事を見れば、人間でも同じになるだろう。


幸い、フーデルヒース王国には帝国から告知があり、国境周辺などの場所によっては、目撃出来たりしたのだから。


しかし、何の予告もなく、変な現象の一部を見ただけの諸外国人は、御使い様との関係を否定したり、悪く妄想したりと、しているのだろう。

ドラゴンの到来を『イニシエの契約は破られた』と吹聴する者も居ると聞く。


「だからワイズ達を、王国と帝国限定で預かってもらえないかと思ってな。」


ゼルータが、本題を話した。


「帝国側としては、元から、その様なお話になっていましたから、ヤブサかではありませんが。」

「王国側でも問題ないのでは?ラーミァ様の護衛として居られている時も、特に問題は起きていないと記憶しております。」

「わたくしも、特に問題は無かったと思います。普通の暴漢には、剣すら使わない方ですから。」


諸外国と違い、御使い様信奉者に対しては、好評価のワイズ達である。


「イフィル様には、各地の視察と言う重要なお仕事が有りますので、お仕えしたいのはやまやまですが、ご迷惑を御掛けする訳にもいかず。」


ワイズが、神妙になっている。

人間クラスでは最強だろうに、力が抜けて項垂れている。


「それぞれの皇太子の護衛に加えれば、余計なトラブルにも巻き込まれずに済むのでは?」


かつて、帝国領の街なかで貴族とのトラブルがあった事を聞いた事のあるカナシスが提案する。


「わたくしの護衛ならば、立場も確保出来て、平民の生活面も学べますよ。」


シスタ教の残党を気にするラーミァは、それとなく持ち出す。


「では、場所柄も有りますから、まずは私の護衛としてはいかがでしょう?」


ラーミァに男を近付けたくはないステファンが、妥当と思える案を出す。

ちょっと見には、人気者にも感じる流れである。


ここで、傍観していたトッカーナ達が口を挟む。


「やはり、この様な危険な地域で、お仕事をなさるラーミァ導師にお付けするのが、妥当だと思いませんか?ワイズ様なら一軍に匹敵するでしょう。」

「そうですわね。わたくしリリアナもトッカーナと共に、導師様に同行すれば、女同士で楽しい旅が出来るのではないでしょうか?」


ワイズと修行がしたいトッカーナと、皇太子に張り付いて城に籠りたくないリリアナが、同じ方向性に動く。

ましてや、御使い様と同行していたラーミァを見れば、彼女と居た方が神事に関われそうに思える。


「確かに、姉上の身が心配だ。凄腕の剣士ならば、心強い。」


ワイズの腕前は知らないが、凄いらしいとの話を聞いて、カナシスが同意する。


確かに、ラーミァの安全が第一と妥協するステファン。



「ではワイズ。ラーミァの護衛を勤めよ。」

「御意。」


イフィルの勅命を受け、ワイズが承諾する。


「ちょうど良い。あの牝馬に乗れ。あれならば、乗れるだろう。」


実は、竜族であるバーンが居るために、普通の馬は暴れて逃げてしまうのだ。

エデンの馬ならば、魔族には従順であろう。


「なかなかの御転婆みたいだが、儂が命じてやろう。」


ゼルータの『御転婆』の言葉に、ステファンはリリアナの方を見て笑った。

リリアナは口を尖らせ、他の者は首を傾げる。


〔これで、本来の仕事が出来る。〕


久しぶりに、イフィルが御使い様モードで安堵していた。


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