待ち合わせ
それぞれの場を離れたサイスフォート家の二人は、汗だくで顔を見合わせた。
「汗だくなのね?」
「汗だくですね?」
一人は冷や汗で、一人は熱い汗だった。
御互いに、深く聞く元気は無い。
以後、二人に言葉なく力もなく、亡霊の様に歩きだした。
並んで馬車へ向かい、座席に腰を下ろして、長い溜め息をつく。
目は虚ろで、しばらくは何も考えずに、放心していた。
いつの間にか、ウトウトした二人は、周囲の物音に意識を取り戻す。
どうやら、駐屯地から兵が、到着したらしい。
百名近い騎馬隊と馬車の行列が見える。
豪華な馬車から、一番豪華な服を着た、十代前半の少年が降りてくる。
「ラージァニース魔導帝国のカナシス・マー・ラージァニースである。ステファン殿下は何処?」
幼いながらも、立派な発言だ。
カナシスの呼び掛けに、兵士達を押し退けて、ステファンが進み出る。
「御初にお目にかかります。ステファン・マー・フーデルヒースです。皇太子が自ら御出座しとは、驚きました。」
「いやいや、ステファン殿がいらっしゃると言うのに、出向かぬ訳にはまいりません。」
二人は、笑顔で握手をする。
共に友好国の皇太子だ。年齢は違えども、立場は同じだ。
カナシスの行動は、決して引けを取るものでは無かった。
カナシスは、活躍を見せた王国兵士達を見回し、視線を止める。
兵士達に紛れて、ラーミァの姿が有るのを見付けるや否や、笑顔で歩み寄って片膝をついた。
「姉上には、ご機嫌麗しく。」
ラーミァは、ステファンの表情をチラ見した。
「カナシスも元気そうで何よりです。陛下の名代まで任されて、立派なものですね。」
ステファンが、目を見開いて、硬直している。
「あっあ、姉上?帝国の?」
「ええ。実は、両親の素性が判明致しまして。」
ラーミァは対応に困ってオドオドしている。
カナシスは『シマッタ』と言う顔をしているが、後の祭である。
目のやり場に困っていると、視界にイフィルの姿が有ったので、遠くから軽く頭を下げた。
余りに周りに家臣が多すぎる。
今回、連れているのは、以前にエデンに同行させた近衛ではないのだ。
ラーミァがリリアナとクイントを呼ぶ。
「ステファン様。カナシス。御使い様の事を知る者がふえましたので、紹介しておきますね。帝国のカナシスに、王国のステファン様、その従姉のリリアナ・サイスフォート様、ステファン様の側仕えのクイント・バーナッシュ。わたくしを含めた五人が御使い様に面会しております。」
「なんと?この様な場所で、巡り合うとは偶然ですか?御使い様の所行でしょうか?」
カナシスの驚きに、皆がイフィルの方を見て、頷き合う。
皇族のドタバタとはお構いなしに、部下達による不法入国者達の引き渡しは行われていた。
村人は、囚人用馬車に詰め込まれ、村の様子や資材は、事細かに調べられ、書面にされていく。
帝国兵がカナシスに頭を下げて、先行して村人を駐屯地へと運んでいった。
皇太子達が、いろいろと体験談を歓談していると、地平に砂けむりが見えてきた。
「皆さん。何かが近付いています。ご注意下さい。」
クイントが注意を促し、残った兵が、一斉に剣を抜く。
砂けむりは、三百メートルくらいの位置で、いきなり消えた。
いや、そこには、馬が居た。
「あれは、例の暴れ馬では?」
兵の一人が叫ぶ。
馬は、ゆっくりと歩み寄り、剣を構える兵士達の間を通り抜けると、行商人馬車の横に来て、嘶きをあげた。
馬車のアルデバランが、嘶きを返す。
「どうやって来たのか判りませんが、アルデバランの妹です。」
イフィルの言葉に、一同の力が抜けた。
「ここで、立ち話も何ですから、駐屯地へ向かいましょう。」
一同は、駐屯地へと馬車で移動した。




