手合わせ
騎兵が取り囲む中で、小さな村の住人達は、簡易的に作られた柵の中に、押しやられた。
一部に目隠しされた場所もあり、トイレの場所も用意されている。
駐屯地から、捕縛の兵が来るまでの間、確保しておかねばならないが、時間もかかるだろうから、縛る訳にもいかない。
イフィルの計らいで、簡単な食事が用意された。
「イフィル。御苦労である。」
「あまり、量がありませんので、申し訳なく思います。殿下。」
家臣が多数みているので、ステファンは、会話を交わすのが負担だ。
クイントが、同情しながら無言で、遠巻きに手伝っている。
近寄りたくない。会話したくない。目をつけられたく無いのである。
そんな、重い空気をよそにトッカーナが、イフィルの脇に立つワイズの元に歩み寄って、手を差し出す。
「竜騎士殿。御初にお目にかかります。私は剣の修行をしている、トッカーナ・ビゼルと申します。」
「ワイズ殿。今後、御使い様のお手伝いに関係する者の一人です。」
ステファンが、仲介をする。
「ワイズ・バーンと申します。御助力を感謝します。」
ワイズが握手に応じる。
「先程の動き。拝見致しました。バーン殿に勝る者を見た事がございません。」
「あぁ、ワイズとお呼び下さい。間違えますので。」
「そうそう。お二人、いらっしゃるのでしたね?では、私の事もトッカーナとお呼び下さい。」
二人は笑顔で手を離した。
「トッカーナ殿。私などは、決して強くはないのですよ。兄弟の中では最弱ですし。」
「まだ、お強い方がいらっしゃるのですか?」
ワイズは苦笑いするが、トッカーナは不思議そうにする。
横で、ステファンが『あの、お兄さんには勝てないなぁ』と、かつて見たドラゴンを思い出す。
「ワイズ殿。修行の為に、是非とも手合わせをお願い致します。」
「手合わせとは、模擬戦の事ですか?」
トッカーナは、いきなり本命をブチ込んで来た。
ワイズは、イフィルの顔色を伺い、広い場所へと出ていく。
「どなたか、剣を貸して下さいませんか?」
ワイズは、周りの騎兵に声をかける。
「御自分の剣を使わないのですか?」
トッカーナがワイズの腰の二本の剣をみる。
「この剣は打撃戦・・模擬戦には向かないのです。」
ワイズの剣の刃先に施されている金剛石のコーティングは、摩擦には強いが、衝撃には弱い。
実戦、高周波ブレード専用なのだ。
鞘ごと打撃しても、ヒビが入る可能性がある。
交代で食事をしている騎兵の一人が、剣を差し出してくれた。
ワイズは、軽く振り回し、バランスを確認している。
舞う様に振り回し、バランスを確認し終わると、左手を前に出し、右手を後方に伸ばす、特殊な構えかたをした。
「御待たせしました。」
トッカーナも自分の剣を抜き、ワイズの正面に構える。
手の空いた兵士が、周りに集り、大きな輪が出来ている。
「いざ!」
トッカーナが斜めに剣を降り下ろした。
そんなトッカーナを横目に、リリアナが、ラーミァに連れられて、イフィルの元に、やって来た。
既に二人の挨拶は終わっている様だ。
ラーミァの腕の中には、ゼルータが抱えられている。
「皆の注意が、あちらに向いていますので、今のうちに御紹介しておきますね。」
近くに兵が居ないのを確認して、ラーミァが切り出す。
「イフィルジータ様。ゼルータ様。こちらが、私や殿下と共に、御使い様のお手伝いを致します、リリアナ・サイスフォート様です。」
リリアナは、行商人に紹介されたのだと思い、軽く頷いた。
「リリアナ様。こちらの行商人をなさっている方がイフィルジータ様で、こちらの猫のお姿なのがゼルータ様です。お二方が、御使い様です。」
リリアナは、一瞬、理解が出来なかった。
〔吾が手足としての活躍に期待する。〕
[儂らの辻褄合わせをするだけじゃ。]
猫が喋ったのを見て、リリアナは膠着した。
周りを見れば、皆が頷いていた。
「くれぐれも、他言無用。他の者の前では、平民の行商人として対応する様に。」
ステファンが、念を押す。
慌てて、頭を下げようとしたリリアナだが、頭が動かない。
〔声は聞こえないが、姿は見える。注意せよ!〕
イフィルに言われて、力を抜くと、体が動くようになった。
「申し訳ありませんでした。」
彼女の額に汗がながれる。
「お口に合わないかも知れませんが、御召し上がり下さい。」
流れる様にイフィルから出されたスープを受けとり、そのまま口にしたリリアナだったが、味を感じる事は出来なかった。
ワイズとトッカーナの打ち合いは、ゆっくりとしたテンポから、次第に連打となり、移動しながらの高低差のある打ち合いに変わってゆく。
先にトッカーナが炎などの魔法を交えた剣技となり、遅れてワイズも使いだす。
つまり、トッカーナの方が手詰まりになってきている。
ワイズは、左手のリストバンドを盾として使い、剣と盾に魔法を負荷して、電撃や加重を混ぜた攻撃をしてくる。
トッカーナは、次第に防御一辺倒になり、徐々に後退を始めた。
「ここまでに致しましょう。」
ワイズが剣を止めると、トッカーナは、大きく息を吐いた。
周りを囲んでいた観客の輪が、すぐ後ろに迫っていた。
「ありがとうございました。」
トッカーナが礼をすると、周囲から、拍手喝采された。
タオルを手渡してくれたワイズを見ると、さほど汗をかいていない様に思える。
トッカーナは、身体を拭きながら、自分が腿まで汗だくなのに、ようやく気が付いた。
「動きも、先程のものより遅いし、これで、あの剣を使われたら・・・」
トッカーナは、自分の体の火照りが、手合わせのせいだけでないのに、今は気付かなかった。




