表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/100

甦る大地、甦らない権利

豊かな大地は、風や鳥達が運ぶ種子により、数日で芽吹き始める。

数ヵ月後には、雑木林までが視界を塞ぎはじめる。

七日間の業火に、表面は焼け焦げても生き残り、新たな青葉をつける木々も有った。

その大地は、甦ろうとしていた。


他の土地から来訪してきた人間が、持ち込んできた種や苗も、その大地で健やかに成長して行く。


しかし、その様な中で、己の判断の誤りから、大地の祝福を正しく受けられない者達も居た。


---------


「命が惜しければ、食糧を置いて行け。」


一台の行商人馬車が、見透しの悪い雑木林で、十数人の武装した男達に、取り囲まれている。

水を求めて、街道から脇道へ入り込む者は少なくない。


馬車は、護衛を付けてはいるが、たった一人。

声を上げても、助けは来ない場面だ。


護衛が剣を抜き、身構える。

賊は、出来れば戦いたくは無い。勝っても被害が出れば、次回の襲撃で人手が足りなくなるからだ。


しばらく、睨み合いが続くが、そのバランスは遠方から駆け寄る、数騎の騎兵によって、崩される。


「お前達!何をしている?」


同型の鎧に身を固めた、騎馬兵達が、人集りを見つけて走り寄ってくる。


ピーッ


一人が指笛を吹くと、賊はチリジリになって逃げて行く。

賊を騎兵が追って行く。

一人だけ残った騎兵が、荷馬車の主に声をかけた。


「商人。無事か?」

「ありがとうございます。大丈夫です。なんと運の良い事でしょう。」


商人は、御者台で頭を下げた。

騎兵の来た方から、高級馬車を伴った部隊が見えてきた。

馬車に乗っていた者が、外の様子を覗き見して、ゆっくりと降りてくる。


「まさか?イフィルジータ・・・・イフィルジータか?」

「これは、ステファン殿下。お助けいただき、ありがとうございました。」


イフィルは、御者台から降りて、片膝をつく。


「殿下。お知り合いですか?」

「雑用に重宝している行商人だ。陛下もラーミァ殿とも知己チキの者だ。」


意外な出会いに、騎兵は驚いた。


「あれは、農民なのでしょうか?」

「いや、イフィルよ。恐らくは、不法入国で入ってきた、元ヌアンベクト国民であろう。」


ステファンとイフィルの会話に、ワイズが辺りを見回した。


「なんと、罰当たりな!そうと知っていれば、切り殺してやったものを。」

「イフィルよ。ワイズ殿は、何か、怒りっぽくなってはおらぬか?」

「諸国を回っている間に、色々とございまして。」


ワイズの短気な言動を、ステファンは気になった。

彼が怒るとすれば、御使い様関係かも知れない。

御使い様に不敬な人間を見てきたのだろうか?

トバっちりは御免被りたい。


やがて、賊を追った騎兵が一騎、帰ってきた。


「報告致します。不審な集落を発見しました。どうやら密航者の物と思われます。」

「わかった。まず、近くの駐屯地に伝令を送れ。馬車は残り・・・」

「殿下。分散しては危険です。」

「そうか?では部隊ごと参るか。イフィルも一緒にどうか?」


イフィルは、少し考えて、


「ラーミァ様もいらっしゃるので、御一緒させていたたければ、安心でございます。」


再び頭を垂れた。

見れば、行商人馬車の荷台から、ラーミァが顔を出している。

思わぬ場所で、再会だ。


ステファンにすれば、イフィルを同行させたいのは、王国がヌアンベクトに厳しく対応して、御使い様に従順だと示したいのだ。


騎兵の案内に従い、しばらく進むと、垂木と布地で作られたテントの様な物が幾つかある場所に出た。

雑木林で巧く隠されており、容易には発見出来なかっただろう。


護衛隊長の指図により、雑木林を取り囲み、徐々に狭めてゆく。

雑木林に隠れていた女子供が、テントの方に追い立てられる。

走って、武器を構えた男達の後ろに逃げ込んだ。


「我々は、フーデルヒース王国の者だ。国民証を提示せよ。」


護衛隊長が、武器を構えた者達に、声をかける。


「ここは、俺達の国だ。侵略者は出ていけ!」


長らしい男が、武器を手に叫ぶ。


「ヌアンベクトの国民か?」

「そうだ。ここは、ヌアンベクト共和国。俺達の国だ。」


護衛隊長とのやり取りに、ステファンが馬車を降りて、男の前に立つ。


「ヌアンベクトは、もう無い。創造主に逆らい、邪教を広め、堕落した故に、滅ぼされた。見ての通りだ。」

「シスタ教か?俺達は違う。あいつらと一緒にするな!」


ステファンは、フンと鼻で笑った。


「私は、見てきたぞ。国会とか言う国の行政機関の奥に、シスタ教の教会が有るのを。ヌアンベクトはシスタ教会が動かしていた国だ。」

「知らん。政治家が、勝手にやっていた事だろうが!俺達には関係無い。」


ステファンは、周りの騎兵達にも聞こえる様に、声量を増す。人前に出る皇太子には、日常茶飯事の行為だが。


「こう見えても、ヌアンベクトの民主主義については、多少は知っている。主権は王ではなく、国民ひとりひとりが持ち、国民が選んだ議員の多数決により、物事が決定するのだったな?」

「そうだ。正しい政治だ。」


「では、行政の行いの責任は、主権者たる国民が取るべきではないのか?」

「俺は賛成していない。」


どこまでも逃げに入る男に、ステファンは止めを打ち込む。


「反対していたなら、お前の選択は、三つあった筈だ。力不足の自分を哀れんで多数に従うか?力を蓄えて多数を倒すか?国を捨てて外国に移住するか?さて、お前が選んだのは、どれだった?」

「・・・・・・」


男は、何も言えない。この若僧の言う通りに、国に従ったのだ。


「諸君、見たまえ!これが他力本願で無責任のくせに、自己の権利を主張する民主主義の国民だ。」


ステファンは、更に続ける。


「そもそも、この大地は人間の物ではなく、御使い様の物であるにも関わらず、御使い様の行いを否定して、我が物顔で主張している。これは、傲慢不遜以外の、何だろうか?」


その言葉に、ワイズが剣を抜き去り、前進してきた。


「ヌアンベクトの国民だと言うのであれば、他のヌアンベクト国民と同じ場所に送ってやるのが道理だろう?」


ワイズの引き摺る刃が、地面の石を撫でる様に切り裂く。

ステファンは、そんなワイズを手で制する。

ワイズはイフィルを振り返り、剣を納めた。


黙りこんだ男に、ステファンは宣言する。


「これから、お前達に選べる選択肢四つ。自害するか?我等に殺されるか?他者を襲った罪人として投獄されるか?逃げてみるか?」


男達は、子供の顔を見て、ブツブツ話している。


「御自慢の多数決でも、個人の責任で動いても構わないぞ。」


一人の青年が、いきなり走り出す!

五メートルほど走った辺りで、身体が二つに別れて跳んだ。


ステファンの横に居たワイズが、死体の脇に、剣を振り切った形で立っている。

口元に、笑みを浮かべて。


「きゃぁぁぁ~」


女達から悲鳴が漏れる。

男達は武器を捨てて、地面にうつ伏せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ