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行商人

行商人とは、移動販売店や商品流通行により生計をたてる商人の事だ。これには幾つかの種類がある。


一つは、何処にも所属せず、馬車一つで、国や地方を廻り仕入れと販売を繰り返す者。

極めて自由だが、選挙権、市民権、税金が無く、それらによって得られる加護も無い。

ここでは『野良行商人』と呼ばれている。


一つは、特定の国の商業ギルド(組合)に所属する者。

先の自由な行商人との差異は、組合費を払う事で、ある程度の保証を受け、仕事の斡旋や融通を受けられる。

但し、国の組織に加入している関係で、国境を越える際には制限がある。

ここでは『ギルド行商人』と呼ばれている。


一つは、固定した家や店舗を持ち、選挙権等から得られる加護を受けながら移動店舗を行う行商人。

商業ギルドにも参加し権力も財も有るが、国が認めた国としか取引出来ない弱みもある。

ここでは『家持ち行商人』と呼ばれている。


「イフィルはギルド行商人なのですか?」


衣服からは、家持ち行商人のイメージが無い。使用人も居ない。


「私は、野良行商人ですよ。」


またまた意外な返事が帰ってきた。

偉大な祖母の知人が、商人の底辺に居て、国を動かず大事に関わろうと言うのだ。

常軌を逸している。


「そうですか・・」


ラーミァは、一応は納得の表情を見せたが、その内面では受けた教育の掘り起こしが行われていた。

祖母から受けた教育では、野良行商人として自由な行き来をして情報収集をする組織や、国の機関があると言っていた。

ラーミァは、彼が、それに類する者だと推測して、過度な質問を抑えたのだ。


馬車は、街道を通り、更に大きな街道へと至った。

ラーミァは「えっ?」と声をあげた。


「王都は逆では?」


ラーミァは、国内の道には、そこそこ詳しい。

魔導師として、儀式を行う関係で、祖母のラーファと共に、最近では代行として国内の各所へ赴いている。

国内の魔導師は、ラーファ達だけではないが、国王からも認められる最高峰の魔導師ともなれば、高い寄付金を払ってでも呼びたい者も居るのだ。


「自宅の近くでさえ、あの様な者達が準備されていたのです。王都へ向かう道も、安全な訳が無いでしょう。」


言われてみれば、もっともな話だ。

王都の近くならいざ知らず、田舎である現在地付近には、罠を仕掛けたり襲う場所は無数に有る。


イフィルが鞭を振るうと、馬は広い街道を一気に走り出した。


最短でも三日ほどかかる王都への道を、回り道しようと言うのだ。加速出来る所でしておかないと、幾日かかるか知れないし、日にちが掛かるほど、襲撃者も対応してくるだろう。


イフィルの馬車は、主に農道や山道を進んだ。

行商人馬車が通れるギリギリの道幅だ。

ラーミァが覗いた荷台には、商品として食料や農具、生活必需品が多かったので、彼の商売先は農村や僻地が多いのだろう。

地元民しか知らない様な道ばかりだ。

その道をこの馬車は、夜以外は休みなく進む。

普通の多頭立ての馬車でも有り得ない、驚異のスタミナとしか言えない。

夜は馬車の屋根上にある就寝スペースにラーミァを入れて、イフィルは焚き火の番をしている。

仮眠ぐらいはしているのだろう。昼間に疲れた素振りを見せる事は、無かった。



ラーミァでも判る程度に、確実に遠回りしていたのに、王都の近くまで来るのに三日しか掛からなかった。

通常は、王都の南門から入るのだが、遠回りして東門に到着している。

あまり、利用者の居ない山岳側の東門は順番待ちもたいした事は無かった。


「何者か?」


門番の前まで来た馬車の御者台から降りず、ラーミァは懐から書状を出してかざした。


「私は、ラーミァ・ガーランド・ナジェス。この者は、行商人イフィルジータ。陛下の召喚により、ラーファ・ガーランドの代行として王都へ参りました。」


門番は、急いで上級兵士を呼び、上級兵士は一礼をしてから書状に目を通す。

そして、再度、礼をした。


「失礼いたしました。どうぞお通り下さい。」


上級兵士の合図により、門が開かれる。

続いて、奥の門も、次々と開かれている。

馬車が門を抜けた後に、馬に乗った兵士が、王城への先駈けとして、馬車を追い抜いてゆく。

そして、馬車の前後に、馬に乗った兵士が護衛に付く。


召喚状の件は知らされていても、いつもの南門ではなく東門だった事と、前以て東門使用の通達が無かったので人員を裂く門番としては、かなりの負担だろうが、ラーミァ達にとっては仕方の無い事態だ。


高い位置にある馬車の御者台からは、王都の町並みがよく見える。

前回来た時と、違う門。違う街並、違う視界に、ラーミァがキョロキョロしていた。


「まず、一安心ですね。」


イフィルは微笑みを浮かべて、馬車を王城へと向けた。


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