参拝
商会の主である、私は困っていた。
ヌアンベクト崩壊の知らせは、帝国のサマサ商会にも届いた。
商会の繁栄を支えてきた、有数の仕入れ先の崩壊は、末端の店員にまで不安にさせる。
幸いにも、商品は輸入品だけではなく、輸入した機械を使った工房で作られている物もあるので、店頭から商品が無くなる事はないが、種類が圧倒的に減ってしまう。
ヌアンベクトから仕入れていた商品は、逆に言えば帝国内の技術力では作れない物だ。
工作機械などは、一部は仕入れさせてもらえたが、全てと言うわけにはいかない。
そんな事を許したら、ヌアンベクトから商品を仕入れる必要性が無くなり、ヌアンベクトの利益にならないからだ。
消耗品などを安く、早く作る機械や技術は、長期的継続的に利益になるので、特に提供されない。
その手の商品が輸入出来なければ、商会の利点が無くなり、他の商会との差別化が出来ない。
特に邪魔が目立つのは、例のキーマ商会で、店主が四・五人居るのではないかと思えるくらいだ。
こちらの商談や取引内容を知っている様子がある。
「どこから、情報を得ているのかしら?」
密偵や裏切り者を懸念して、一人で商談に行っても、情報が漏れている場合もあった。
商談相手すら疑ったくらいだ。
「商売が上がったりだわ。」
シスタ教のコネを使っているが、改宗しているかも知れない者が増えて、経済的理由で取引を控える者があとを絶たない。
皇帝から告知のあった、農地復興の神事が、実際にあった事は大きい。
いや、天に浮かぶ巨大な輪と、降りてくる雲を見たら、誰だって驚く。腰を抜かす。
シスタ教だからと、ヌアンベクトが滅ぼされたと言う噂も、改宗に拍車をかけているのだろう。
帝国には、シスタ教粛清の動きは無いが、時間の問題かも知れない。
こうなると、下手に枢機卿などという地区代表者の肩書きを持っている事が重荷になり、改宗も出来ない。
「ジャシャーカ様。代々お世話になっておりましたが、息子が農業をやると申しておりますので、手伝いたいと思います。」
「お前もなのですか?」
古株の店員まで、辞めたいと言いはじめた。
なまじっか、一代で大きく成り過ぎたので、古株ほど高給取りになっていた。
商品が減る。売上が減る。給料が減る。人員が減る。商品の質や量が落ちる。商品が減る。
この悪循環は、高給取りに転機を考えさせる。
国政で、鉱業や商業から農業への転職が推奨されている今、店が火の車だからと、他の商会に鞍替えする恩知らずより、業種転換の方が、人聞きも良い。
国が農業研修もさせてくれていたので、未経験者でも大丈夫らしい。
とても不味い。
そんな折りに、シスタ教の使いがやって来た。
大司祭様が健在で、御本尊様の所で挽回策を練っているそうだ。
「大司祭様に御会いして、ご相談があるのですが、拝謁は可能ですか?」
「承知しました。御伺いしてみましょう。」
後日、使いは拝謁の手配をしてくれて、御本尊様のいらっしゃる奥宮へ向かう事が決まった。




