人員不足
それまで、帝国と王国以外の国は、古来からの創世教に加え、新たな宗教に傾いていた。
掟と禁欲と封建的側面のある創世教ではなく、自由と平等と、進歩を重視するシスタ教だ。
しかし、空に現れた現象と、噂に聞く帝国が受けた御使い様よりの慈悲は、その心を動揺させていた。
何より、皆が天の異変を見ているのだ。
更には、シスタ教の本拠地と噂されていた、ヌアンベクトが御使い様率いるドラゴンに滅ぼされ、王国に譲渡されたとの話もある。
一連の事件は、まさに古き教えを守る者にとって、追い風となった。
シスタ教の信者が居ると、国が滅びるとまで言われ、古き教えを遵守する者が、目に見えて増えてきた。
帝国や王国へ移住を求める者も増えている。
イフィルが国王と会っていたのは、軍隊の一部を借りようとしていたのだ。
しかし、国土の拡大、帝国への支援、チャンスや移住を求める他国からの移民対応に、フーデルヒース王国も、人手が割ける状態ではなかった。
「しかし、本当なのですか?シスタ教の御使い様が、我が国に潜んでいると言うのは。」
[我が配下の報告では、ほぼ間違いない。]
国王の疑問に、ゼルータが答える。
オーグの報告では、帝国の高位シスタ教信者が、王国入りし、ヌアンベクトに行かずに帝国へ戻っている。
今回は尾行を付けているが、人間は人間が裁くべきであり、御使いが直接裁くのは芳しくない。
ヌアンベクト同様に、魔族でも良いが、殲滅単位になるので、王国の民にも被害が出る。
「御使い様のご要望に御応えしたいのはやまやまですが、何とぞ、御容赦願いたく。」
国王は頭を下げる。
〔この人手不足には、我等も原因ゆえ、あまり強くは言えぬな。〕
[ただ、儂等だけで対処すると、人間に対しては単なる虐殺になるのでな。誰かを付けてくれはしないか?]
「見届けだけで良ければステファンを付けますが?」
〔大丈夫か?あれはヌアンベクトでかなり潰れていたが?〕
[雌を付ければ、奮起するのではないか?]
国王が、『あぁ~。確かに。』と頷く。
「本人達に、相談してみてからで良いでしょうか?他の候補も探してみたいと思いますので。」
〔善きに計らえ。〕
国王が使うセリフ回しを、国王にするイフィルをゼルータが笑っている。
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国王とイフィルは、ワイズ達が待っている待ち合い室へと向かった。
「上手くやれている様ですね。」
扉の前で、中から聞こえてくる笑い声に、頬を弛ます。
ゼルータもイフィルの腕の中で、舌を出している。
中は他者を排しての三人だけなので、国王が廊下の側仕えに合図してノックさせる。
扉が開かれ、両名が入室して行く。
「楽しそうではないか?」
「これは父上。もう終わったのですか?」
「陛下。御機嫌麗しゅう存じます。」
国王の入室に、三人が立ちあがり、ステファン、ラーミァが礼をし、ワイズが片膝をつく。
「イフィルが帰る様だ。」
「殿下、導師様。お付き合い頂き、ありがとうございます。」
ワイズが二人に礼をする。
「陛下。では七日後に再び御伺い致します。」
イフィルが国王に頭を下げ、ワイズに手招きをする。
廊下に出たイフィルとワイズは、国王に礼をすると、踵を返して去っていった。
「ステファンよ。ワイズとは大丈夫か?ヌアンベクトでは酷い目にあった様だが?」
「大丈夫です、父上。確かに彼の言う通り、王族としての覚悟が足りていないと反省しています。」
ステファンは、その後は王命で処刑される所に立ち合ったりして、命令の重さを学んでいると言う。
「イフィルが私兵を連れて、王国内のシスタ教本部を叩くそうなのだが・・ステファンよ、立ち会いとして、同行してくれぬか?出来れば導師殿も一緒に。」
「ワイズの腕前は、凄い様ですから、安全でしょうけど・・・」
ステファンは、少し躊躇う。
「導師殿にも、外敵の正体を知って頂ける、絶好の機会だと思うのだが?」
「陛下。私は同行させて頂きたいと思います。」
交渉団を含め、彼女を狙った賊の半分以上は、帝国の差し金ではなかった。
シスタ教が、イフィルの選んだ後継者達を狙っていたのは想像に難しくない。
御使い様を倒すより、その手足となる者を殺す方が楽だと言う事は、ラーミァが身をもって知っている。
「ラーミァ殿を、一人で行かせる訳にはいかない。父上、私も同行致します。」
ステファンの反応に、国王はゼルータの言葉を思いだして微笑んだ。




