月の裏側
SF回です。
ここは、月の裏側。
自転と公転の周期を合わせている為に、惑星側からは見る事が出来ない。
何が存在し、何が起きても、惑星に住む者には気づかれない。
この月。いや、宇宙船の表層部の基本素材は、マグネシウム合金、アルミニウム合金、鉄などの多重装甲になっており、表面には主にケイ素系の砂が散布されている。
表面の凸凹した岩は、過去に衝突した小惑星や浮遊岩石の成れの果てだ。
岩と砂だけにしか見えない、その場所の広大な砂漠部分に、変化が起きる。
地面から発生する靄。
空気もなく、もちろん風もない地表に、砂の粒が舞い上がっている。
厳密には、地表の砂が浮いていると言ってよい。
自然天体にも、重力異常と呼ばれる、重力の濃淡は存在するが、容易に変化する物ではない。
ましてや、ゼロになるなど有り得ない。
次に、同じ場所に部分的な振動が発生し、砂煙は更に大きくなる。
空気があれば、地鳴りの様な物も聞こえたのかもしれない。
砂漠の一部が盛り上がり、その場所に、地中から迫り上がってくる巨大な人工物が有った。
四角い柱の様なソレは、表面が滑らかな平面であるにも関わらず、あまり光を反射しない。
迫り上がるのを終えると、上部の平坦な部分の中央に、黒い点が発生した。
黒い点は、みるみる大きくなり、四角い柱の断面いっぱいの、四角い穴となった。
その穴から、百を越える正立方体の物体が飛び立ってゆく。
恐らくは電磁誘導による射出なのか、噴射や誘導光線による光は見えない。
射出される正立方体の表面は、小さな陰影が無数に有り、沢山の何かが集合している物の様にも見える。
射出が終わると、同じ正立方体が幾つも連なる物が、同じ穴へと次々に入って行く。
先頭の立方体は、出た物と同じに見えるが、連なる物は、岩石を無理矢理にその形に切り出したか、圧し込めた様な物だ。
反射光も質感も、全くの異質だった。
およそ百に近いソレ等を飲み込むと、四角い柱は、再び地面へと姿を消して行く。
沈み終わっても、しばらく続く振動で、すり鉢状になった場所は平坦に均されていく。
後には、以前と、さほど変わらない砂漠が残るだけだった。
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飛び立った正立方体は、太陽を横目に見ながら、漆黒の宇宙空間を飛んで行く。
微妙に向きを変え、向かった先に有ったのは宇宙を浮遊する小惑星だ。
小惑星は立方体より大きい。
この正立方体をユニットと呼ぼう。
ユニットは小惑星に取り付くと、側面からパラソルの骨の様な放射状の触手を伸ばし、その先端を小惑星に付け、光を帯びた。
すると、小惑星はみるみる小さくなり、ユニットと同じ大きさ、同じ形に圧縮されて行く。
触手は、圧縮された小惑星の表面を包み込む様に伸びて、反対側の面に至って止まった。
ユニットは、再び動きだす。
普通は、遥か離れた場所に有るのだが、今回は比較的近くに、もう一つ、小惑星が飛行していた。
ユニットは、移動方向と相対速度を微調整して、隣の小惑星に圧縮した小惑星を接触させた。
先程の触手が、再度パラソルの様に広がり、新たな小惑星に接触する。
輝きと共に圧縮が始まり、この小惑星も、ユニットと同じ形に圧縮されていく。
縦横比1対3の立方体となって、更に触手が伸びる。
再度、移動が始まり、物体は次なる獲物を求めて、漆黒の宇宙へと消えて行く。
そうして、月へ新たな物資を運ぶ個体もあれば、別の動きをする個体も有る。
ユニットより遥かに大きい小惑星に触手を伸ばし、牽引する物があった。
大きいと言っても、一つ当たり十メートル以下の物だ。
一つのユニットで、五、六個を牽引する個体もある。
この様な個体は、月へは戻らず、このまま惑星の大気圏に突入して行く。
惑星では、元素変換の関係で、物質が徐々に欠乏するので、その補充が必要なのだ。
補充を小型小惑星を粉砕する事で行う。
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毎日の様に行われる、物資の搬入と散布風景だったが、この時は違った。
先行して恒星系外縁部へ向かっていたユニット達は、幾つもの氷小惑星を牽引していた。
小惑星には、岩石鉱物系の物と、氷が主成分の物が存在する。
月の裏側からは、直径十キロメートル程のリングが多数飛来してきている。
リングは、ゆっくりと大気圏に突入し、地表の大陸の、ある地域の上空に停滞した。
リングは幾つかの組となり、高さを変えて整列している。
地上から見れば、複数のリングから成るトンネルが、空に向かって延びている様に見えるだろう。
リングの降下を始めて一ヶ月。
最下層のリングがフォログラムで表示していたカウントダウンがゼロになる。
まずは、氷小惑星を牽引していた一部のユニットが、リングに向かって突入して行く。
上層リングの振動波により、氷はユニットごと粉砕され、以下のリングにより、拡散する事無く、地上へと誘導されて行く。
地上からは、リングの中を下ってくる白い雲に見えるだろう。
それらは、やがて雨となり、地上に豪雨をもたらす。
次に、岩石系小惑星を牽引したユニットが、リングに向かって突入して行く。
こちらも、同様に粉砕され、黒い雲として、リング内を降下して行く。
天上から吹き付ける砂嵐は、地表で横向きへと変わり、地表を暴れ回る。
再度、氷小惑星を牽引してユニットが、リングに突入して、地上に豪雨をもたらす。
水、砂、水の散布により、物資は地上に定着する。
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およそ、四時間に及ぶ集中散布の後に、残り日程と次回散布までの時間を表示する。
一日に一回の散布が完了した。
これを一週間続ける。
リングは位置の微調整を行ない、宇宙では次回の散布物資が順次準備され到着している。
一週間の散布が終われば、リングはマリコスに再構成され、散布物質の構成改良を行う。
衛星軌道まで戻らせるエネルギーは無駄だ。
これで疲弊した大地は、豊かになるだろう。




