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ワイズとバーン

「わ、ワイズ殿は、どういった魔族なのですか?」

「いや、私は人間らしいのです。」


ステファンとワイズの、こんな会話から始まった。

イフィルが、国王と話している間に、ステファンやラーミァとでも語らう様にと言われたのだ。


「えっ?人間に化けているとか、似ているとかじゃなくて?でもエデンから来られたんですよね?」


ラーミァは、帝国での事を思い出していた。

確かに感じられる魔力は、他の魔族よりは人間に近いレベルだ。

ステファンは、人間に化けていたゼリー状の生物を思い出して気分が悪くなった。


「そう。私も、こちらに来る直前に知ったのですが。ドラゴンには、いろいろな形態があるので、この様な種類のドラゴンだと思っていたのです。」


彼自身にも、寝耳に水だった様だ。

ワイズは、自らの生い立ちを語り始める。

普段は寡黙カモクな彼だが、イフィルからは、人間に馴染めと言われている。

身の上話をするのは、最適だろう。


「恐らくは、エデンに迷いこんだか逃げ込んだ、帝国の夫婦だったのでしょう。ドラゴンである、我が養母ハイフースが見つけた時は、エデンの獣に襲われた二つの死体があったのだそうです。メスの方が守っていた籠に、赤ん坊が生きていたそうなのです。」

「ドラゴンが、人間を育てたのですか?」


ニワカには、信じられない話である。

エデンもカナンも、御使い様の教えで、侵入者を殺して良い事になっている。

確かに『殺さなくてはいけない』にはなっていないが。


「養母は、末の子を失った直後で、弟バーンの卵を早産してしまったらしい。人間とは言え幼い命を見捨てるのは忍びなかったと申されていました。」

「わたくしと似ていますね。わたくしは、敵国の戦争孤児として、祖母に育てられました。」

「そうなのですか?」


ドラゴンも人間も、母の愛は変わらないらしい。

ラーミァは、自らの生い立ちと似ていると感じていた。


「小さい時は、巣穴で暮らし、バーンとは兄弟として育ちました。バーンも私もドラゴンとしては半人前以下で、二人一緒でなら、なんとかエデンでも暮らしていける状態でしたから。」

『そう。兄者が居なければ、二人は巣穴から出るのも無理であったろう。』


ワイズの話に、バーンが加えた。


「両者共に、変わったドラゴンだと思っていただけなので、私がカナンの人間と聞かされた時は、驚愕しました。」


仮に、人間として育ってきた自分達が、実は魔族だと言われても、やはり驚愕するだろうと思うステファンとラーミァだった。


「養母は、いつかは私をカナンへ戻すべきだとは考えていたらしいのでしたが、チャンスが無かった。この度、御使い様が領地借地の話に、こじつけて下ったお陰で、養母の思いが実現したと言う次第です。」


別れが辛くとも、子供の将来を考えるのが親なのだろう。

ステファンは、自分が送られたヌアンベクトを思い出した。

経験は必要だったが、あれほどの試練は要らないと父を恨んだのは嘘ではない。

いや、確かに同意したが。


「でも、ワイズ様は、十年後にはエデンに戻るかも知れないのですよね?」

「はい。借地期間が、滞在期間と言う話になっていますから。」


ステファンも、帝国がエデンから期限付き借地した件は聞いている。その交換条件が、ワイズとバーンの滞在らしい事も。


「後学の為にと、思っていますから、たぶん帰るでしょう。ツガいでも見つければ、別でしょうが。」


ステファンが、チラリとラーミァの方を見る。


「もし、ワイズ様がカナンに残られるとしたら、バーン様は、どうなさるのですか?」

『我は、カナンでの経験を元に、姉の元で知恵袋として役立つ予定だ。』


既にバーンの二択は決まっているらしい。


「では、バーン様が鎧の真似をするのは、あと十年かも知れないのですね?」

『鎧?』


バーンが目を大きく見開いて、疑問に思っている様だ。


「目立たない様に、鎧兜の真似をしているのでしょう?」

『いや、違うぞ。これは人間で言う、肩車だ。』

「肩車?」


『兄者、話しても大丈夫だろうか?』

「この者達なら、問題なかろう。」


ワイズとバーンが小声で何か相談している。


『我は、幼き時よりお腹が弱く・・いや、食べた物をくだしやすいと言う意味ではなく。』


そう言うと、バーンは頭を持ち上げて、顎の裏を見せた。

白い鱗が柔らかく波打つ。


『腹部の鱗が柔らかくて、そこを兄者に守ってもらっているのだ。』


ワイズが横を向くと、確かに偏平な頭をワイズの頭に乗せ、前足でワイズの顔を掴み、後ろ足をワイズの肩に乗せている姿は、肩車以外の何ものでもなかった。


「兄弟で肩車。」


ラーミァのツボに入ったらしく、クスクスと笑いだした。

確かに、そう考えて見ると、可愛い関係だ。


ステファンは、別の感情を持った様だ。


「兄弟かぁ~。我等も兄弟が欲しいですね。ラーミァ様。」

「そ、そうですね。」


名実共に、独りっ子なのは、ステファンだけだ。

ラーミァは話を合わすだけにしておいた。


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