併合
国境に着いたのは、来た時と同じで、やはり二日後だった。
門番は居ない。
代わりにドラゴンが仁王立ちしており、巨大な虫が飛び交っている。
ワイズによって、ステファンも馬車の上から引き摺り下ろされ、扉をあけた荷台に放り投げられた。
馬車の周りには、虫も寄ってこない。
[状況は、どうなっておる?]
「はい、御使い様。ドラゴン七体、使役竜25体、ガルーダ百体、食肉虫多数によって、国境側から内側に向かって、殲滅中に御座います。御命令通りに、七日以内には完遂出来ます。」
ゼルータの問いに、ドラゴンが答える。
[では、王国側に伝えよ。]
「御意。」
ドラゴンは、国境の壁を身長と首でまたぎ、王国に向かって叫んだ。
『フーデルヒース王国に告げる。国王に伝えよ!七日後には災厄は去る。この大地を治め、耕せ。これは、創造主の命である。』
ドラゴンは、二度繰り返して叫んだ。
[宜しい。後は任すぞ。]
「御心のままに。」
ゼルータの言葉に、門番をしていたドラゴンと、道を開いていたドラゴンが、平伏する。
共和国側の検閲室は、破壊されて跡形もない。
残っていたのは国境に面した扉一枚。
フィグロが、共和国側の扉を開けて、イフィルが馬車を進める。
王国側の扉まで十メートルくらいある。
王国側の門番が、開いた門越しに共和国を覗いていたが、ワイズによって、閉じられた。
王国側の門番に、イフィルとフィグロが、許可証を見せて、王国側の検閲室に入る。
検閲室には、ニールファン・マスト・フーデルヒースが待っていた。
皇太子が向かった国が、ドラゴンに襲われたのだ。向かわずには居られない。
「いやーっ!フーデルヒースの王子様と一緒に居たから、ドラゴンに目溢ししてもらえましたよ。」
フィグロが、幸運そうに叫んでいる。
「ステファン!ステファンは、どこだ?おぉっ。無事か?良かった。心配したのだぞ。どうしたのだ?こんなに窶れて?」
荷台に息子を見つけたニールファンは、抱きかかえて顔を見た。
怪我もなく、生きては居るが、生気は無い。
頬は痩せ、目は充血してクマが出来ている。
彼は、この二日ほど、何も食べられず、眠れずに居たのだ。
口にする物は嘔吐し、睡魔に気を失っては悪夢に目覚めていた。
昼夜続く地獄絵図の中で、気が狂わなかっただけは、流石だ。
しかし、しばらくは鬱になるだろう。
そんな事は知らない王国の者達は、ステファンを急いで王族馬車に乗せ替えた。
「あと、これが内通者のリストです。」
「御苦労。」
イフィルが、国王に手渡す。
国王は、紙切れを受取り、馬車に乗るときに、一瞬、頭を下げた。
周りには、家臣達の目が有ったのだ。
走り去る王族馬車を見送り、フィグロの礼を横目に見ながら、行商人馬車は、ゆっくりと走り出す。
農村に向かって。
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ヌアンベクト厄災の知らせに、皇太子の安否を気にしてラーミァが城入りしていた。
祖母の死後の不安な状況に、足繁く通って話し相手になってくれたステファンの身が心配だったのだ。
帰国した皇太子は、怯え、疲労困憊していた。
あのイフィルと同行したのだ。自分と同様の体験をしたのだろう。
「特に頭部を触られるのを嫌いますから、御注意下さい。」
側仕えのクイント・バーナッシュが、ステファンの枕元に来たラーミァに注意する。
「殿下。いったい、何が有ったのです?」
「ドラゴンや魔物が、人々を焼き、喰い千切り、切り裂き、みんな殺されて・・・うっ、うあぁぁぁ・・・」
ラーミァの姿を見て安心していたステファンだったが、ヌアンベクトの様子を話して思い出したのか、毛布に頭を埋めて震えだした。
「余程、恐ろしい物をみたのでしょう。今は、ゆっくりさせてあげて下さい。」
ラーミァも、溶ける頭や、魔物の大群を見て、実は少し失禁していた。
皇太子の気持ちは、解る。
フーデルヒースの平和な暮らしと、世界の真実は大きく違うのだ。
これは、体験した者にしか解らない。
「殿下。解ります、解りますよ。恐いですよね、理解出来ないですよね。私たちは、非力ですよね。」
ラーミァは、毛布越しに皇太子の身体をポンポンと軽く叩いた。
国王は、そんな皇太子を気にしながらも、忙しかった。
ステファンの、取り乱しながらの言葉によると、国民は皆殺しらしいが、生存者が居るかも知れない。
第一に、捜索と救助の準備と編成をしなければならない。
第二に、閉鎖状態になっている他国との国境門の管理に、役人と兵士が必要だ。
第三に、農地開拓の準備として測量技師や作業員が必要だ。
これが、一国単位を対象に、七日以内に準備しなければならない。
国境では、初日程では無いが、未だに黒煙が登り、夜空が赤く染まる様子が、壁越しに観測されている。
門の職員や駐屯地の兵士達は、どうにか落ち着いてきたが、狂乱状態から抜け出ない者もいる。
駐屯地は増設され、準備の為の資材や人員が、大量に運び込まれ続けている。
まさに、猫の手も借りたい状況である。
何しろ、相手は国を滅ぼす御使い様なのだ。
不手際が有れば、後が恐い。
皇太子の様に寝込みたいと、国王は思っていた。
一週間 → 七日
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