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ヌアンベクト

一泊して国境門に着いた一行を待つ者が居た。

変わった鎧兜に身を包む、一人の武者だ。


「お待ちしておりました。イフィル様。」


彼は、順番待ちの行列に並ぶ馬車の横に、当たり前の様に並んで歩く。


アイゼフトが、荷台から顔を出して、イフィルに尋ねる。


「イフィルさん。こちらの剣士は?」

「あぁ、護衛のワイズバーンですよ。外国は何かと無用心ですから。」


アイゼフトが『例の凄い護衛か』と呟く。


「ワイズバーンさん、はじめまして。道案内のアイゼフトです。よろしくお願いします。」

「ワイズバーンです。こちらこそ、よろしく。」


ワイズの普通の受け答えに、イフィルが微笑み、ワイズが安堵する。

ワイズ達は、ラーミァの護衛として農村に居させたのだが、イフィルのヌアンベクト入りに伴い、合流したのだ。

カナンの一般常識を、少しは覚えろと言う命令を、必死にこなしていたのだろう。


通常は行商人は二人組だ。

しかし、この一行は四人組だった。当然、不信がられる。


「このアイゼフトの荷馬車が修理中で、代行を頼まれたのですが、共和国は初めてなので、彼に道案内を頼むのと、護衛を付けた次第です。」


イフィルが、手頃な理由をでっち上げる。

アイゼフトは、調査の為に通過記録が存在する。


ゼルータは、軒先と言う別ルートでヌアンベクト入りだ。

以前、猫の乗った行商人馬車を、注意深く見ていた暗殺者が居たからだ。



彼等は、さほどの問題も無く、ヌアンベクト入りした。


門前町は、整備されており、帝国のソレを更にレベルアップした感じだ。

業者の荷馬車も、とても多い。

イフィル達の馬車と、すれ違う様に、何台もの富豪用の豪華な馬車が王国入りしている。

まさに、交通渋滞が発生している。



ヌアンベクトは国の中央に十文字の形で大通りがあり、主要な商会が並んで居る。

空いた四隅の東側に、鉱山や工房、工場などが並びぶ。

西側は農場と食品加工場が多い。


東側から入国した形になるイフィル達の目的地は、ちょうど反対側にある首都だ。

途中で商店を見ながら、二日位の道のりとなる。

道が直線で広く、整備されているので、距離の割りに、かなり早く移動が出来る。


やはり、ワイズバーンの姿は目立つのか、休憩などで止まる度に、注目を浴びたり、製作工房を聞かれたりする。


「今は亡きタクミの逸品なので、他には無いし、作れる工房も無い。」


ワイズは、教えられた対応を、ちゃんとこなしている。



首都にある商会に、スパイスを卸し、近くの停車場に馬車を停めて宿を探す。

翌朝は、目的の密偵が住む家へ行くためだ。


ちなみに、ヌアンベクト入りの日は、調整してある。

信仰深い、この地の住民は週に一度、教会へオモムく。

家の前で潜み、教会へ行く密偵の家と顔を、イフィル達に伝えるまでが、アイゼフトの仕事だからだ。




翌朝は、ワイズも鎧兜バーンを脱いで、同行させた。

ポールも含めて三人で見ておけば、間違いないからだ。

密偵は夫婦だった。

二人は家を出て、手を取り合って、町の中心部へと向かっている。


「あの両名が密偵で、ガースと言います。移転していたので、見つけたのは偶然でした。」


アイゼフトは、発見の一部始終を話す。


「訓練所で同期生だったので、よほど声をかけたかったのですが、音信不通で寝返ったと噂の同僚が多かったので、我慢して報告しました。」


アイゼフトは、悔しそうに話す。


「よし、アイゼフト。お前は馬を借りて、即刻帰国しろ。お前まで傀儡にされてはたまらない。」


皇太子の命令に、礼をして踵を返す。

そんなアイゼフトの姿を確認したかの様に、残った三人に近付く影があった。

足音も、気配も無く後方から近付いてくる。


「殿下が驚くだろう。やめておけ。」


イフィルの声に、辺りを見回したポールの直ぐ後ろに、商人らしい男が立っていた。


「なっ、なっ何者だ!?」


驚くポールに、商人は丁寧に頭を下げる。


「御初に御目にかかります。帝国にて商会を営んでおります、フィグロ・キーマと申します。以後、お見知り置きを。」

「儂の部下じゃ。」


商人の前にゼルータが立っている。

ワイズは片膝をついた。


「応援にでも来たのか?」

「いいえ。ヌアンベクトが無くなると聞いたので、貸しの回収と、借り倒しの為に来たのですが・・・あれっ?言っては不味かったですか?」


イフィルの問いに帰ってきた答えに、ポールが放心している。


「なっ、無くなる?」

「そんな事になる前に、食べ納めしておこうか。」


世の中には、知らない方が幸せな事があるらしい。


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