助手ポール
王城の停車場には、三人の男が集まっていた。
「殿下。御拝謁を賜り、恐悦至極にございます。アイゼフト・ホレストと申します。」
「我がステファンである。道案内を頼む。それから、・・・・・私の事は、ポールと呼んでくれ。」
平民姿の皇太子にも驚いたが、成りきっている事に、アイゼフト・ホレストは驚愕していた。
「私は、行商人助手としてヌアンベクト入りをする。アイゼフトは道案内。そして、こちらが行商人役の・・・イフィルだ。」
イフィルの名前を呼ぶときに、一瞬、躊躇してしまった。
「しかし、殿下が向かわれるなど、危険では有りませんか?」
「詳細は極秘だが、問題はない。其方・・・いや、君は道案内だけをして、すぐに帰国する様に。これは厳命である。」
切り替えが充分では無いらしい。
三人は、近衛兵が見守る中で、行商人馬車に乗り込む。
イフィルとアイゼフトが御者台。ポールが荷台に乗り込む。
ポールが荷台なのは、街中で顔を見られない様にだ。
御者台は、高い所に有るので、注目を集めやすい。
王都を出れば、国境まではアイゼフトと入れ替わる。
「イフィル・・・さんでしたか?これは立派な馬ですね?」
「アイゼフトさん。よろしくお願いします。自慢の馬でアルデバランと言います。あぁ、人見知りするので、触らないで下さいね。」
見事な赤黒い馬だ。普通の馬より一回り大きく、行商人馬車を一頭で引いている。
「そして、こいつがゼルータです。」
「ミャー。」
猫は馬車を見た時から気付いていた。
アイゼフトは犬派なので、特に撫でたりはしない。
「貴方は、いつもは、どの様なお仕事で?」
「いや、本物の行商人ですよ。殿下の御忍びなどに重宝されているだけです。」
「では、殿下の護衛とかではないのですか?」
「護衛ではないですね。でも、殿下の身は凄い方が守って下さるらしいですよ。」
イフィルは、全くの他人事の様に話す。
----------
商業ギルド発行の通行許可書を見せ、馬車の検閲を終えて、王都の西門は、無事に通過する。
ステファンは、上手くポールを演じている。
荷台での門番とのやり取りは、笑いを堪えるのが困難だった。
通行目的はスパイスの販売だ。
魔導帝国で入手したスパイスを、王都で一部を販売した後に、ヌアンベクト共和国に販売に行く。
スパイスの産地ファンドラとヌアンベクトの間には、小高い山脈が有り、流通はファンドラ、帝国、王国、ヌアンベクトのルートしか無い。
つまり、ヌアンベクトがスパイスを入手する為には、ヌアンベクトのギルドから王国ギルドに注文を出し、王国ギルドから帝国ギルド、帝国ギルドからファンドラギルドと、リレーして注文と、国越えの許可を取らねばならない。
今回は王の力で、その注文に便乗させてもらった。
王都を抜けたので、ポールが、御者台へと移動する。
皇太子を荷台に押し込めておくなど、家臣の胃が痛くなるだけだ。
「ポールは、これから行くヌアンベクトについて、どれだけ知っていますか?」
「一応は、大臣達から聞いていますから、平民以上の知識は有ります。」
そう言って、ポールは話し始めた。
ヌアンベクト共和国。
商業国家。民主主義国家。
機械化、近代化は進むが、食料自給率がやや低く、一部を王国から輸入している。
支配階級の子孫である魔導師は居ない。
この国がシスタ教の総本山であり、国民の殆どがシスタ教徒だ。
しかし、この国にシスタ教は存在せず、シスタ教徒も居ない事になっている。
町に有るのは、王国でも信仰されている『創世教』の教会である。あくまで、表向きは。
創世教とシスタ教の基本的な教えは同じだ。違うのは結末。
戒めを与え世界を真の主に捧げる創世教と、自由を唱い世界を人間に与えるシスタ教。
支配階級の無い、この国では、どちらが受け入れられるかは、明白だ。
また、虐げられた低い地位の者にも天国と言えるだろう。
「大丈夫な様ですね。」
ポールの認識にイフィルは頷く。
「ヌアンベクトに、堕天使が居るのですよね?」
「いや、そうとも限らないでしょう。国ごと潰されたら、終わりですから。」
ポールの予想をイフィルは否定する。
確かに、ラーミァから聞いた御使い様の御力なら、都市や国を滅ぼす事は、雑作もない。
相手側も元御使い様なのだから、それくらいの力と情報は持っているのだろう。
「では、イフィルさんがヌアンベクトに向かう目的は、何なのですか?」
「まぁ、頭は潰せなくとも、利き腕くらいは潰しておこうとおもいましてね。」
イフィルの言う『利き腕』が、何なのかは、ポールには理解出来ない。
御使い様の行いを、必要以上に知る必要は無いし、知りたいとも思わない。
地位を持つ者は『好奇心は身を滅ぼす』と知っている。
正確には『知っている事を知られてはならない』と言うのが、生き残りの鉄則だ。
王都から、ヌアンベクトとの国境までは一日程で到着する。
彼等は、国境門前の宿場で、しばらくは食べられない自国料理を堪能して、宿に泊まった。




