王の勅命
城の一画にある屋外テラスで、寛ぐ姿がある。
この城の主であり、国王であるニールファン・マスト・フーデルヒースである。
昼食を終え、風通しの良さそうな椅子に腰掛けて、風と陽光を堪能していた。
要するに日向ぼこである。
「おや?どこから紛れ込んだのやら?」
側仕えが国王の足元に、黒っぽい猫を見つけた。
国王も、視線を足元に向ける。
「ニャー」
猫がひと鳴きすると、国王の膝の上に飛び乗った。
側仕えが、取り除こうとするが、国王が手で制する。
「良いのだ。たまには猫と戯れるのも、癒しとなる。」
国王は、猫の体を撫ではじめ、側仕えは、乗り出しかけた身を引いた。
[ニールファンよ。]
近くで、小さく呼ぶ声がする。
国王の視線が泳ぐ。
[ニールファンよ。人払いをせよ。]
その声は、手の内の猫からしていた。
国王は、驚いたが声には出さず、猫の金色の瞳を見つめた。
「少し、猫と語らう。場を外せ。」
国王の意外な好みに驚いた側仕えだったが、頭を下げて視界から消えた。
遠目に、猫と語らう国王を見た側仕えが、男性用の猫グッズをリストアップしたのは、また、後日の話である。
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その日の夕刻。皇太子は国王に呼び出された。
ラーミァの見舞いや王都巡回の時に、たびたび抜け出したのがバレたのかと、怯えるステファンだった。
どうしても、護衛の一部を巻き込まなくてはならなかったし、特定の護衛と側仕えを指名する機会が増えてしまうから、時間の問題かと思っていたのだ。
「ステファンよ。シスタ教について知っておるな?」
「はい、陛下。真なる主と、御使い様に対立的な団体と聞いております。」
国王は、頷く。
「其方には、近隣国の視察と、シスタ教の動向調査に赴いて欲しい。」
「私にですか?」
他国には、それなりに密偵を送っている。
皇太子が直々に調べる必要は無いはずだ。
「あぁ、送り込んだ密偵の殆どが、連絡を絶っておる。追加で送った者によると、殺されたわけではない様で、都市部で見掛けたとの報告も有る。」
「陛下。それは、まさか寝返ったと?」
「うむ。その可能性はある。あの集団は、地位の低い者を懐柔する事に長けている。追加の者には、接触も長居もせずに、居場所だけを突き止める様に言ってある。その者に場所を聞き、真偽を確かめて参れ。」
『何も、わざわざ殿下が赴かなくても』とか『なぜ、危険な敵地に殿下を』などの声が、大臣達から上がる。
ステファンは、少し考えた。
「しかし、地位の高い者が行っても、拉致されたり捕まったりするのではないのですか?ましてや、元国民ならば、私などは明確に知られているでしょう。」
「その通りだ。だから其方は、囮で、例の行商人が調べを行う。」
疑問に、府が落ちた。つまりは、あの御方を手伝えと言う訳だ。
御力を振るうとしても、王族であれば見ても問題が無い。いや、王族でなけれは変に騒ぎ立てるだろう。
同行がステファンならば、御使い様の御力や、魔物すら使役している事を聞いているのだから。
それに、御使い様と一緒なら、万の軍勢より心強い。
「勅命、承りました。陛下。」
『陛下、殿下。お考え直しを』と言う声が上がる。
だが、ステファンに改める気はない。
これは、王族にしか出来ない仕事であり、御使い様と同行して経験値を高める、絶好のチャンスなのだから。




