表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/100

再会と別れ

本当にSFですよ~

馬車は、迷う事なく道を進んでいた。

来た事があるのではない。『解る』のだ。

行商人は手綱を操り、馬に道を指示する。


やがて見えてきたのは、農村には不釣り合いな綺麗な外壁と、それに囲まれた立派な別荘の様な家だ。

門は開かれ、メイドが一人、立っている。


「お待ちしておりました。」


メイドが挨拶をして、馬車を招く。

よく見ると、メイドの顔は良くできた作り物だ。


敷地内に入ると、幾人かの下男が駆け寄り、馬車を停める場所へと案内した。

下男達は、普通の人間。いや、農民だろう。

彼等は、馬を見て目を見開く。怯えている感すらある。


建物の窓からの視線を感じるが、行商人はメイドに導かれるままに、建物へと入る。


エントランスを経て、ノックの後に通された部屋の中では、白い服の少女が、ソファに座っていた。

入室と共に立ち上がった少女は、スカートの端をつまみ、御辞儀をする。


「ラーファ様の養女で、導師のラーミァ様です。」


メイドが、少女を紹介する。


「こちらは、ラーファ様の古いお知り合いの行商人で・・・・」

「イフィルジータと申します。『イフィル』と御呼び下さい。そして、それが相棒のゼルータです。」

「ニャァ!」


少女の後で、いきなり猫が鳴き、少女は不意を打たれて、よろける。


「イフィル様は、ラーファ様に御用でいらっしゃいました。このまま、御案内致します。」


メイドの説明を聞きながら、ラーミァは乱れた装いを直していた。


「イフィル様は、エリスに驚きませんのね?」


ラーミァは、メイドに視線を送る。


「『エリス』と言う名前なのですね?はい。この手の魔道具は、魔導帝国には幾つかございますので。」


ラーミァは、このフーデルヒース王国から出た事が無いのだろう。

もっとも、魔導帝国においても、この手の魔道具は一部の上級者しか使えない代物だが。


「では、御嬢様。ラーファ様がお待ちですから。」


メイドのエリスは、イフィルとゼルータを、更に奥の部屋へと案内していく。


残されたラーミァは、聞こえない様に小さく囁く。


「男なのに『イフィルジータ』って、変な名前。それに20代でお婆様の古くからの知人って、おかしいでしょ!』


ラーミァは15歳だが、彼に会った事も聞いた事も無い。

少なくとも10年以上昔の知人という事になるが、現在の彼の見た目から、出逢ったのは十代と言う事になる。

祖母は、半世紀以上前から、上級貴族並みの権威を持っているらしい。

現在の行商人が、十代の時に祖母と知り合いとは、普通は考えにくい。


「何か有るわね。」


ラーミァは、ソファに座り、奥にある祖母の部屋の方を見つめた。

来客がある事は、結界で感知していたし、同じく感知していたであろう祖母のメイドが、伝えに来た。

しかし、まさか行商人だとは思わなかった。





ラーファの部屋に、その客は居た。

おそらく、二人なのだろう。

姿は、影の様にしか見えない。

ラーファは、ベッドから身を起こして、腰掛けていた。


「御尊顔を拝する事ができ、恐悦至極でございます。こんな格好で申し訳ありません。」

〔そんな身体になっているのだ。よく頑張っている。〕

[お前は、ちゃんと役目を果たした。我々の評価は、その点以外に興味はない。]


二人の言葉に、ラーファは安堵の顔を見せる。

時折、その身体に、光の線が走る。


〔で、あの者を向かわせるのか?〕

[能力は大丈夫なのだろうな?]

「ご安心下さい。潜在能力は、わたくし以上かも知れませんし、経験も、ある程度は積ませております。今回のお役目には充分な教育を済ませてあります。」


[しかし、時間がかかったな。]

「わたくしの後継者に相応しい能力を持つ者は、なかなか居ませんでした。かのカナスト様やニールファン様の血族なら見込みが有るのですが、さすがに・・・」


それらは、王族の名前だ。


〔お前の事は、話すのか?〕

「いいえ。それを話せば、あの娘は、お役目を果たせないでしょう。」

〔終わって、帰ってからと言う話しか!〕


ラーファは悲しそうな顔をしていた。




ノックの音がする。

瞬間、先程までの影は姿を消していた。


「ラーファ様。イフィルジータ様がみえました。」

「どうぞ。入っていたたいて。あと、ラーミァを呼んで下さい。」


エリスの声に、ラーファは入室を許可した。


「お久しぶりです。イフィルジータ様、ゼルータ様。どうぞ、お掛け下さい。」


促され、彼等は窓際にある椅子に腰をかけた。


しばらくして、ラーミァが入室してくる。


「御呼びですか?お婆様。」


ラーミァは、祖母のベッドの脇に膝をついた。

エリスが、扉を閉めて、その内側に立つ。

孫娘の顔を見て、笑顔を浮かべながら、ラーファはベッド脇の書棚から、一枚の書状を取り出した。


「ニールファン・マスト・フーデルヒース国王からの勅命です。魔導帝国が、エデンへの侵攻を計画している様なので、フーデルヒース国の勅使として、確認と、説得に行けという命です。」

「エデンに侵攻なんて、なんて無謀で罰当たりな!」


ラーファの話しに、ラーミァが驚く。

エデンとは、魔族と魔物の住む領域で、そこへの侵入は、世界を創造した御使いにより禁じられている。


「わたくしは、この様に長旅が出来る身体では有りませんから、わたくしの代行として、ラーミァに、この仕事を命じます。」

「私に、出来るでしょうか?」


ラーミァの不安に、ラーファの視線は、イフィルに向かった。


「そこで、案内と手助けを、イフィルジータにお願いしたい。」

「行商人に?」


ラーミァの不安は、当然だろう。


「イフィルジータは、誰よりも信頼出来る者です。彼に従って行動すれば、間違い有りません。」

「せめて、国の貴族に同行を頼むべきでは有りませんか?」


「ラーファ様は、魔導帝国内での妨害を懸念しておられるのでしょう。貴族同行では目立つので、帝都に着く前に、賊に襲わせるなどというのは常套手段です。」


ラーミァの提案に、イフィルが口を挟む。


「無事に成し遂げたならば、私の持つ、全ての魔導書をラーミァに授けましょう。私の代わりに頑張って下さい。」


ラーファは、孫娘の髪をなでて、微笑む。


「お婆様の命ならば。・・・ただ、心配です。」


ラーミァは、床に膝をついたまま、祖母の膝に顔を埋めた。


「大丈夫。わたくしにはエリスも村人もついて居ますから。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ