アルデバラン
馬:やっと名前を出してもらえたよ~
その馬の名前は、アルデバランと言うらしい。
昨日までは、色を塗られ、重い行商人馬車を引いていたが、今日は油で塗料を洗い流され、皇族用の馬車に繋がれている。
馬車は高級な造りだが、戦時仕様で、畦道でも走る様にしっかり作られている。
とは言え、行商人馬車よりも遥かに軽い。
私、ラーミァは、御使い様に命じられて、魔物の地『エデン』を目指している。
この馬車は、イフィル様が操り、カナシス皇太子と、大臣と、私が乗る。
アルデバランが引く馬車が、先頭を走り、その左右を18人の護衛が馬で走る。
後ろに一人。
更に後ろを三台の馬車と50人の兵士が続く。
この様な編成になったのは、あの方々が先頭にいないと、魔物に襲われるからだ。
「御使い様に御者をさせるなど、不敬極まりないのでは?」
「いえいえ。あの馬は御使い様達でなければ、動きませんし、下手に触ろうとすれば、首を喰い千切られかねません。」
大臣の疑問に、私は経験則を語る。
横でカナシス皇太子が、ビクッとしていた。
外観は素晴らしい馬なので、「こんな馬が欲しい」と触ろうとして、牙を剥かれたのだ。
調教された馬ではない。
むしろ、御使い様達の力に怯えているのを知っている。
怯えていると言えば、馬車を
囲む19人も、視線を馬車から離さない。時おり胃を押さえて辛そうにしている。
寝ていないのか、目の下にはクマが見える。
確実に怯えている。
馬車に居る三人も、怯えていない訳ではないが、御者台と屋根の上の御使い様が視界にないだけで、かなり楽と言える。
周りの19人は、何も知らない後続組が、うらやましいだろう。勿論、口止めはされている。
百人近い武装集団は、出陣と言っても過言ではないが、皇太子が居れば、仕方のない事らしい。
馬車は、先頭の三台が同じ仕様で、最後の一台が荷馬車だ。
二台目に皇太子が乗っていると、普通は思うだろう。
予告も無しに、城を出た一団に、帝都の住民が驚いている。
だが、魔物狩りの噂も流れていた為か、それほど慌てた様子もない。
エデンとの境界までは、二日位の見込だ。
荷馬車には、野営の準備がされている。
「ネーナニア姉上。」
「あの、皇太子様。わたくし、まだその名に慣れていなくて・・・」
「でも、『姉上』とは呼ばせて下さい。私は姉弟に憧れていて、死んだ姉が居たと聞かされては、寂しい思いをしていたのです。」
ラーミァもひとりっ子の様に育てられていたから、兄弟で一緒に遊ぶ姿を、憧れで見ていた。
更には、絶望視していた父親まで居た。
「姉上。これが終わったら、帝国へ戻られませんか?」
確かに、本来は私が居る場所なのだろう。
「いいえ。わたくしには、養母ラーファの後を継いで、王国に奉仕する仕事があります。ここまで、わたくしを育て、教育してくれたのは、王国なのです。」
頭では理解出来る皇太子は、寂しそうな顔をする。
「帝国には、農業指南として、度々遊びに来ますから、その時に帝国の事をいろいろ教えて下さい。」
縁が切れる訳ではない。むしろ、国賓以上に扱おうと、皇太子は心に決めた。
「ところで、これから向かう『エデン』とは、どの様な場所なのですか?王国では情報が少なくて・・・」
「私は、話しか知らなくて。確かアーネスト大臣は、魔物狩りをしたことがあると申していたな?」
ラーミァの話を皇太子は大臣に振った。
「死骸を見たことのある殿下は兎も角、姫様に何処まで伝わるか不安ですが・・・・」
大臣は前置きをする。
「まず、エデンは巨大な草木が生い茂る、大変に豊かな大地です。耕せば、カナンのどこより作物が実るでしょう。そこに生息するのが、狂暴な大型四足獣の『魔物』です。魔物は、鋭い牙と爪を持つ肉食獣が多く、大きさは2メートル前後です。」
「確か、アルデバランも魔物の血を引いているそうなので、エデンの生き物は、殆どが巨大なのでしょう。」
ラーミァから聞いたアルデバランの情報に、二人が頷く。
巨大な身体と牙を思い出す。
「ウルベルト・フォン・アーネスト大臣は、その様な魔物を狩ったのですか?」
「姫様。アーネストで結構です。時折、こちらに溢れ出る物を、多数で倒すだけでございます。殆どが単独で現れますが、夜行性で素早く、匂いに敏感に反応します。しかし、所詮は知恵なき獣でございますから、数で囲めば倒せない相手ではありません。」
大臣は、大したこと無いと返す。
そんな豊かな土地を、御使い様な御慈悲で、魔物に襲われる心配もなく入手出来るのだ。
更には国土全体も潤していただけるそうだ。
帝都では準備の為に、各所へ連絡と指示が行われている筈だ。
王国からの交渉団の一部も、御使い様の指示を連絡する為に、先駆けとして帰国した。
見ていない為に、御使い様の命令を疑問視していたが、「国王に伝えれば判る。」とイフィル様が仰られたので、兎に角行かせた。
途中の一泊では、私とカナシス皇太子が、お互いの魔法技術を見せ合い、親睦を深めた。
お互いに得意の偏りが有るので「二人が揃えば最高」と大臣に言われた。




