ジャシャーカ
私はジャシャーカ・サマサ。
魔導帝国で、商会を営んでいる35歳独身。
自分で言うのも何だけど、帝国一の商会だと思っている。
支店は百を越えている。
ほぼ、私の一世代でトップに登り詰めたから、商売仲間内では『女帝』なんて、呼ばれている。
私の快進撃の影には、シスタ教が関係している。
シスタ教は異端視されているから、表立っては名乗れない。
商業工業が発達しているヌワンベクト共和国に教会が有り、御本尊のシータ様は、隣国の山中にある洞窟にいらっしゃる。
ヌワンベクトに御本尊が無いのは、狙われない為で、場所は司祭様と数人しか知らない。
五年に一度の御拝謁は、目隠しをして参拝する。
教徒のが捕まっても、御本尊の場所を喋る事は無い。
そういった教会のコネで入手した道具で作った商品や、輸入した商品で、帝国の市場を独占した。
必要な物や人材は、いくらでも用意してくれた。
帝国内の教徒でも、実績が認められ、枢機卿と言う地方責任者の役を、仰せつかった。
光栄な事だ。
そんなトップ商会だが、最近は邪魔な存在が現れた。
キーマ商会と言う新参者だ。
徐々にだが、こちらの商圏を奪っている。
主は、中々のナイスミドルで、年令も手頃だったので誘ってみたが、全くの無反応だった。
媚薬も効かぬ。まさか、男色?
子供をもうけて、乗っ取ってやろうとしたが、徒労におわった。
過去に、この手で、五つの商会を乗っ取り傘下にした。
私は、独身だが、子供は六人居る。
あとは、刺客を送るか?火災を起こさせるか?
まぁ、今の仕事が終わってから考えよう。
あぁ、痒い。キーマ商会の事と、教会からの指令で、ストレスが溜まっているのか、首筋にデキモノが出来た。
痒くてたまらない。薬を手配しなければ。
教会の指令は、難しい。
古くからある創世教の要である、帝国と王国、とある魔導師の後継者を暗殺する事だ。
帝国では、十年の歳月と、コネと大金を注ぎ込んで、城に信者を五人、潜入させた。
近衛兵と料理人。文官とメイド二名。しかし、その五人から定時連絡が来ない。
城の塔で崩落があったそうなので、巻き込まれたか?五人が全員?
そう言えば、帝都の外壁でも、爆発で大勢死んだとか?
何かが起きている?解らない。情報が無い。
皇太子と導師の後継者が会うと言うので、絶好の機会だったのだが、失敗したらしい。
出入り業者として城入りしている店員によると、噂のあった魔物狩りに出掛けた姿が確認されている。
不味い。私の功績に傷がつく。
帝国に、暗殺の事がばれているかも知れない。
なぜ、そんな危ない事をするかって?
そりゃあ、確かに商会を大きくする手助けをしてくれたけど、それだけじゃない。
他の信者同様に、信仰があるからだ。
既存の宗教。創世教の聖典や歴史は、貴族は勿論、商会の後継者も勉強させられる。
昔は小さかったサマサ商会も、貴族との付き合いを目指して、娘である私に勉強させた。
御使い様は、真なる主の為に豊かな世界を創り、主の降臨と共に捧げる。
でも、ふざけてない?
私達が汗水垂らして耕した畑も、必死に勉強して商売して貯めたお金や手にいれた土地や屋敷も、全部が取り上げられるって事?
何の為に頑張ってきたのか?頑張るのか?全てが無駄になるじゃない!
ふざけている!
王や貴族も横暴だけど、全てを奪う事はしない。
そんな不満を叫んでいたら、周囲からは、オカシイとか不敬だとか言われた。
何が間違っているかと聞けば、その為に人間が居ると言われた。
私は、私の為に居る。
若い者には有りがちと、捨て置かれ、孤独な日を送っていたら、世の中には同士がいるものだ。
ある男が、話を聞いてくれて、いろいろ教えてくれた。
世界を創った御使い様にも、同じ思いをしている方が居るそうだ。
天にも地にも、現実を見ない、頭の固い奴等は多いそうで、その御使い様は異端視されたそうだ。
教えてもらった話では、昔の朝廷時代に、大地は充分に潤い、満たされた筈なのに、真なる主とやらは、降臨されなかった。
歴史でも、この大陸の最盛期だし、帝国の場所も豊かだったらしい。
この様に御使い様が送られた世界は他にも有り、この世界は見捨てられたと考えるのが正しいのだと言われた。
合点がいく。いまだに真なる主とやらは姿をみせない。
帝国は衰退の一途を辿っている。
だから、真なる主とやらに捧げる為の倹約的で制約の多い古い教えは、捨てるべきなのだ。
子供は二人まで?家族が多い方が働き手が増えて、家が潤うじゃないか!
城以外は木造で家を作れ?百年も耐えられない建物は、造り直しが大変だろう。
法律を守れ?誰の為の法律なのか解らない。
倹約的で、禁欲的な生活?一度しかない自分だけの人生を楽しまなくて、どうするの?
シスタ教に入信するのは当たり前だろう。
禁忌品と言われた麻薬や媚薬、高度な医療、美容技術と得られる物は数知れない。
対価は教団に対する支援だが、利益の方が膨大だ。
御本尊であるシータ様に敵対する者の排除は義務ではなく、皆が望んで行っている。
今の生活を失っても、教団が新しい生活を用意してくれる。
自分が死んでも、家族には明るい未来が待っている。
何も怖くはない。
なぜ、皆が入信しないのか、理解できない。
敵は必ずしも悪ではありません。
大半が、別の正義です。




