新たなる契約
イフィルは、ラーミァを見下ろし、無事な事を確認すると、その肩をポンポンと軽く叩いた。
更に歩みをすすめ、玉座へと登っゆく。
気配の移動に、頭の向きを変えて平伏を続けるラーミァを、ゼルータが面白そうに眺めている。
イフィルは、玉座の段へと登りつめると、玉座の前で腰を抜かしている皇帝を見下ろす。
「なぜ、この様な事をなさるのですか?」
皇帝が恨めしそうに睨む。
その言葉にゼルータが皇帝の方に振り返る。
[面白いからじゃ。]
やれやれという顔で、イフィルがゼルータの方を見る。
〔お前達の足掻きも、栄えも滅びも、我々には些細な事に過ぎぬ。大地を潤し耕せと言う命が守れぬ様なら、滅べば良い。自らのエゴと過ちで滅ぶのに、なぜ我に救いを求める?〕
確かに、因果応報を他者に頼り、不満を持つのは傲慢だ。
皇帝は唸るしか無かった。
[更には、地を潤す宝珠まで掘り起こすとは、愚かを通り越して死に価する行為じゃ。]
皇帝は、目を泳がせた。
あの宝石は、泉の底から発見されたと聞いている。
巨大な宝石ゆえ、時の皇帝に献上され、杖に飾られて伝承された。
『宝石の泉』と言う記念碑が建っているが、既に泉は枯れていた。
まさか、自分の権威を表す杖が国を衰退させる一因とは考えた事も無かったのだろう。
〔先ほどの雷をもって、この国を滅ぼすのは容易い。さりとて、再び大地を作り直すのも面倒だ。〕
イフィルは、皇帝の前に書状を落とす。
〔これから半年後、そこに書かれた異変が起きる。国民に、それに備えさせよ。〕
「砂の雨と、水の雨が七日間続く?建物に籠れと?」
書状を拾った皇帝は、声を出して読みあげる。
〔七日間の異変の後、大地は蘇るであろう。後は、書かれている通りに鉱山のあり方を改め、王国に援助を受けて、その農業を学べ。〕
皇帝は書状の、その先を見て目を見開いた。
〔これより、エデン側の土地の一部を十年間貸し出す。好きに耕せ。その間、魔族を一人、引き受けてもらう。〕
「なんという、寛大なる御慈悲を・・・」
声を出したのは、ラーミァだった。
人間の愚行で御使い様よりお預かりしている大地を荒廃させ、更には御使い様の定めた法まで破ろうとした帝国に、過剰なまでの手助けをしてくださっているのだ。
「全て、御心のままに致します。」
皇帝は、必死に姿勢を戻し、平伏した。
[境を周知させる為に、大臣と文官と、そこのガキを同行させよ。勿論、小娘もじゃ。]
ゼルータが、尻尾で平伏しているラーミァの頭を叩く。
ラーミァの体がビクッと動く。
「御使い様の御慈悲も知らず、愚かな事を致しました。」
皇帝が頭を下げた瞬間、異音がして、イフィルの手が、あらぬ所で何かを掴んだ。
「グッグァ~ッ!」
兵士の一人が、顔を押さえて叫びながら揉んどり打っている。
[今度は皇太子を狙ったか?懲りない奴らじゃ。]
イフィルの手には短い矢尻が握られている。
見れば矢の軌跡は、気を失った皇太子へと向いていた。
「あれは!」
ラーミァが、見覚えのある矢に、声をあげる。
「これは、どうした事だ?」
皇帝は、困惑を隠せない。
〔別件の間者だ。城の中に、あと五人。ふむ。もう、息絶えた。これ等は、地に堕ちた御使いの使徒だ。〕
「堕天使?そんな者の間者が、側近にまで・・・」
イフィルは、矢尻を投げ捨てた。
騒ぎに、皇太子が目を覚ました。
顔を押さえた兵士の頭には、ゼリー状の物が蠢いている。
やがて倒れた兵士の頭部は溶けてなくなっており、頭から離れたソレは、単独の生き物である様に動いた。
「ひっ!魔物。」
横で腰を抜かしていた兵士達が、飛び退いた。
[これは、我が配下の者じゃ。オーグよ。もう、去れ。]
ゼリー状の塊は、流れる様に、壊れた壁の方に流れて消えてゆく。
「こ、これは、どうなっているのですか?陛下。」
皇太子は、まだ、動転している。
〔間者を始末しただけだ。もう、問題はない。落ち着け。〕
皇帝と皇太子、ラーミァは平伏し、他の兵士と文官は、壁にへばり付いて、怯えている。
王族でない限り、見たことも聞いたことも無い、超常的な存在と、現象を目の前に、その他の者は、どうすべきか判らずに怯えるだけだ。
〔〕がイフィル。
[]がゼルータの御使いモードのセリフです。
耳が尖っているのが猫と覚えて下さい。
契約年数を変更しました。




