導師ラーファ
小道をしばらく進むと、道の先に人集りが見える。
良く見ると、手には斧や鎌、鍬などを持って、馬車の方を見つめていた。
ちょっと見には、農民が行商人を襲う為に待ち構えている様にも見える。
彼らの衣服は、決して豊かな者達のソレとは言えない物だった。
行商人は、農民達の前で馬車を止めた。
「農具が御入り用ですか?」
見れば、農民達の持っている刃物は、錆びや刃こぼれが著しい。
農民が、農具を持って集まっているのは、目的をハッキリとさせる為と、古い農具を渡す事による値引き目当てだ。
鍛冶屋は、木材から農具の木材部分を作るより、古い道具の木材部分をリサイクルする方が手早いのだ。
木材部分は燃料にも出来るが、道具の木材は種類も材質も燃料用より高価だからだ。
年輩男性が、一人、行商人に近付く。
「手持ちの現金が少ないのだが、作物で何とかならんかな?」
まだ、大半の作物の収穫時期には早い。手持ちの現金は、出来るだけ残しておきたいのだろう。
「いいですよ。ちょうど、糧食も少なくなったので、葉野菜や果物も頂けると有難い。」
後ろに控える農民達にも笑顔がこぼれる。
行商人は御者台から降りながら、尋ねた。
「農具は、帝国製と共和国製と、どちらが良いですか?」
「共和国製の方が良いんだが、高いから、今回は帝国製にしておくよ。」
金属製品は、ラージァニース帝国とヌアンベクト共和国の二大産直が有名だ。
素材が違うのか、共和国製の方が耐久力がある。当然、値段も張る。
農民達は、出せるだけの農作物を差し出し、優先する農具から順に行商人に差し出し、代わりに新しい農具を受け取る。
農村には珍しく、数人の若者が目立つ。
「この村は若い人が多いですね。」
「近くに、有名な導師様がいらっしゃるから、領主様が優先的に若い入植者を手配して下さるんですよ。」
行商人の質問に、最年長らしい男性が、誇らしげに語った。
「導師様ですか?・・そうだ!ちょうど、相談事が有るのですが、近くですか?」
「あぁ。この先に、綺麗な家が有るから、すぐに判るよ。今なら、若先生もいらっしゃる。」
男性は、気前良く教えてくれた。
「・・・・・気になりますか?」
見れば、数人の若者が、馬車の屋根を見つめている。
「ええ、農村では犬が多いですから。猫は見かけなくて。」
皆無な訳ではない。
穀物倉庫や倉など、害獣の被害から守る為に、名主の屋敷には飼われている。
しかし、小作人には餌代すら負担だ。
若者達は、あわてて視線を反らした。
在庫の関係で、全ての農具を新品にする事は出来なかったが、農民達は、満足して解散して行く。
行商人は、再び御者台に上り、馬車を進めた。
「ラーファ・ガーランド・ナジェス。あまり時間が無いな。」
行商人は呟いた。